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3.転売屋は街に行く

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翌朝。

「そんじゃま、街までは送ってやるよ。でも本当にいいのか?」

「あぁ、冒険者に仕事を頼むのには金が要るんだろ?」

「こういう時はお互い様っていうもんだが、貰えるものは貰うのが冒険者だ。」

「じゃあ、交渉成立だな。」

出発の前に俺はポケットから銀色に輝く硬貨を取り出し2枚ともダンに手渡した。

昨夜は非常に有意義な時間を過ごさせてもらった。

そして俺の疑問は確信に変わった。

どうやらここは異世界で間違いないようだ。

しかも昔遊び倒したオンラインゲームのような剣と魔法が息づく世界。

ダンはその世界で冒険者として生計を立てているそうだ。

年は25。

俺よりも17も若い子に助けてもらうっていうのはむず痒い話だが、どうやら今の俺は昔の俺と違うらしい。

見た目は20台前半、見た目だけじゃなく体力や体つきもその当時に近い状況にある。

ようは若返ったってやつだ。

漫画なんかではよくある話だが、まさか自分がそうなるとは思いもしなかった。

昔に戻りたい、そう考えたことは何度もある。

だがまさか肉体が若返る日が来るとは。

まぁ、異世界だし何でもありだよな。

「街はこの道をまっすぐ半日行けば着く。それで銀貨2枚も貰えたら大儲けだ。もちろん何もなければの話だがな。」

「おいおい、そんな不吉なこと言うなよ。」

「冗談だって、この大草原じゃ魔力溜りも出来やしないさ。」

「そうなることを祈るよ。」

昨日聞いたあの声の主に襲われても困る。

まぁ、今は優秀?な護衛もいるわけだし大丈夫だと思うけどな。

一応ダンには田舎から出てきた時に魔物に襲われて命からがら逃げてきたという設定にして話をしてある。

元の年齢だと違和感がすごいが、この見た目なのと年齢が近いことも有りかなり同情されたものだ。

若干心苦しい感じはあるが、異世界なんてよくわからないところに来ているんだ出来るだけ慎重に行くべきだろう。

もしかしたらダン自身も冒険者と言っておきながら実は犯罪者なんて可能性だってある。

人を見る目はあるつもりだが・・・、世の中に絶対はないからな。

「・・・こんなことも知らないなんて本当に田舎から出てきたんだな。」

「農家の次男坊なんて奴隷みたいなもんだよ。嫁に来てくれる人なんていないし、出て行こうにも金は無い。今回だって街に行く商人に無理言って乗せてもらったんだ。」

「それで魔物に襲われたら世話ないけどな。」

「生きてるだけで十分だよ。」

それから街に着くまでの間この世界の事をいろいろと教えてもらったわけだが・・・。

この地域の事、魔物の事、冒険者の事と奇想天外な事ばかりだ。

ゲームや漫画でよく聞く設定とまんま一緒だ。

何物にも縛られず自分の夢を追いかける自由人、なんて言い方をすればカッコいいがようはフリーターみたいなものだな。

魔物と戦う危険な事もするし、それが嫌なら無難な仕事を選べばいい。

体一つで生きていくという意味では昔の俺もそうだったけどな。

「それで、街に出てどうするんだ?」

「そうだなぁ、とりあえず少し腰を落ち着けてから考えるよ。」

「気ままなもんだな。」

「ダンはどうするんだ?」

「報酬ももらったし二日はゆっくりできるけど・・・、それまでに次の仕事を見つけるさ。」

つまり1日生活するのに銀貨1枚いると。

「金貨の方が良かったか?」

「金貨!?それがあったら100日は食ってけるが・・・そんな金あんのか?」

「田舎から出てきた俺にあるわけないだろ、その金も最後の最後だよ。」

「じゃあどうやって腰を落ち着けるんだよ。」

「稼ぐのさ。」

「稼ぐ?」

「これでも目利きは出来る方なんだ。」

街についてからどうするか、それについても昨日考えていた。

金はある。

と言っても残りは金貨1枚だけど、さっきの話じゃ100日は持つらしい。

それを食いつぶす前に、今まで培ってきた経験を生かして稼いでいくつもりだ。

具体的にどうするかって?

だからそれは食いつぶす前に考えるよ。





それから半日。

ダンの言った通りまだ陽の高いうちに街に到着することが出来た。

「ここがこの辺で一番大きな街だ。」

「思ったより大きいな。」

正直草原のど真ん中にこんなに大きな街があるとは思わなかった。

どれぐらいの広さかは見た目にはわからないが、野球を見に行ったドームぐらいの大きさはあるぞ。

到着する前から前方に建物が見えるなと思っていたのだが、近づくとその正体がわかった。

一体どこから調達したのか草原のど真ん中に巨大な城壁が現れた。

と言っても有名な巨人が出てくるような漫画みたいに大きくは無いが、高さ2m程の立派な岩の城壁がぐるりと街を覆っているらしい。

魔物がいるんだからそれぐらいは当たり前かもしれないが、どこから材料を調達したんだろうか。

「そうだな、貿易の中継地点として大きくなったのもあるが、やはり一番の理由はダンジョンだろう。」

「ダンジョンってあのダンジョンか?」

「むしろどのダンジョンがあるんだよ」

ハクスラ系でよくお世話になったあのダンジョンがここにあるのか?

「それが街の中に?危なくないのか?」

「別に中から魔物が出てくることも無いしな」

「でも何でダンジョンがあると街が大きくなるんだ?」

「そりゃダンジョンがあれば冒険者が来るからだろ。中で見つかる素材や財宝はかなりの価値だからな、俺みたいな冒険者からしてみれば夢と希望の場所ってわけだ」

「なるほどなぁ。一攫千金ってやつか」

「まぁそんな感じだよ」

一発デカいのを夢見る冒険者が集まってきて、それを相手にする商売が栄えるわけか。

物販、飲食、サービス。

それを支えるには人がいる。

そしてその支える人を食わすためにもまた物が集まる。

日用品、食料品、娯楽品。

運搬業も栄えその他も栄え一石何鳥かわからないなぁ。

ダンジョン一つでそれだけの利益が出るんだ、管理者はぼろもうけだろう。

ん?管理者?

「なぁ、ここの一番偉い人は誰なんだ?」

「そりゃ街長だろ。」

「じゃあダンジョンの管理者は?」

「もちろん街長だな。」

「ぼろ儲けじゃないか。」

「入るのに金をとられているわけじゃないから儲かるかどうかは知らないが、儲かるのか?」

いや、儲かるだろどう考えても。

ダンの話じゃ入場料的なものはとっていないみたいだが、そこから生まれる副産物からせしめれば十分に利は出る。

「これだけ大きな街を維持するには金もかかるだろうけど、それを満たす以上に税金を集めれば余裕じゃないか?」

「税金か、働かずに金がもらえるなんて羨ましいねぇ」

「ちゃんと収めてるんだよな?」

「冒険者が?まさか、俺達が税金なんて納めねぇよ」

「嘘だろ?」

「いや、嘘言ってどうするよ。そんな面倒なことしてるのは商人とか貴族だけじゃないのか?」

一番の金づるから金をとらないなんて、まるでどこかの第六天魔王みたいだ。

楽市楽座だっけ?

税を取らない事で商売をやりやすくしたみたいな感じだろうか。

ダンジョンしか資源が無いのであればそれを動かす冒険者から金をとるのは難しいかもなぁ。

「とりあえず俺はギルドまで行くけど、シロウはどうするんだ?」

「んー、俺みたいなやつが行っても意味ないだろうし、宿まで連れて行ってくれれば助かる」

「宿か。確かに先に押さえておく方がいいかもな」

「じゃあそこまで連れて行ってくれたら護衛は終わり、でどうだ?」

「わかった、宿までだな」

幸い言葉は通じるようだがよくわからない文字を見せられても困る。

せめて文字が読めるかわかってから解散したい所だ。

城壁の何か所に門が作られているが、どこもフリーパスのようで自由に人が出入りしている。

ダンジョンとやらがあるだけに物騒な武器やゴテゴテした防具を身に着けた冒険者らしき人が多いな。

「門を抜ければすぐに宿屋だ、一応この街についても説明しておくか?」

「いや、その辺は宿で聞くよ」

「別に遠慮しなくていいんだぞ?」

「人と話すのは嫌いじゃなくてね、話題作りに使わせてもらうさ」

「なるほど、その顔を生かして女を口説くわけか。いいねぇ顔のいい奴は得で」

「ダンもそんなに変わらないだろ?」

「ここの女は冒険者を顔で見ないんだよ。実力があれば顔なんてどうでもいいんだとよ」

へぇ、世の中顔じゃないのか。

でも俺は冒険者じゃないし結局は顔、って事になるのか?

若返ったっていっても元が元だからな、所詮は知れてるさ。

「ちなみにダンの実力はどうなんだ?」

「俺か?聞いて驚け、この間中級に上がった所だ」

「すまん、中級がどれだけすごいかもわからない」

「けっ、自慢しがいがねぇなあ」

そんなこと言われたってわからないもんはわからないままだ。

とりあえず中級がすごいってことはこれでわかったわけだけども。

そうこうしているうちに街で比較的大きな建物の前についた。

入り口の扉の上に大きな三日月の看板がぶら下がっている。

「ここがこの街で一番の宿、『三日月亭』だ」

「まんまだな」

「あぁ、わかりやすいだろ?」

「でも一番って事は高いのか?」

「そうだな、そこそこの値段だが安い所は治安が悪い。お前みたいな田舎者はここぐらいがちょうどいいだろ」

「でも高いんだろ?」

「俺もココを利用してるんだ、いっただろ一日銀貨1枚だよ。」

それならまぁいいか。

出入り口に近いしわかりやすい。

ダンが言うようにそれなりの安全は確保したいしな。

「これで護衛はおしまいだ、有難うダン本当に助かった。」

「なに、困ったときはお互い様だ。もし俺が困っていたらはその時は頼むよ。」

「助けられるぐらいになっていればな。」

固く握手を交わすとダンは通りの向こうへと消えて行った。

その背中を見送りもう一度頭を下げる。

お前が居なかったらあそこで死んでた、本当に有難う。

なんてことを一瞬考えたが、頭を上げたらそこで終わりだ。

まずは宿をとってそれから身の振り方を考えよう。

大きな木の扉をグッと押して中に入る。

「いらっしゃいませ、ようこそ三日月亭へ!」

幸いまだ陽は高い、ダン曰く顔はいいらしいからそれを利用して情報収集としゃれこむとするかな。
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