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21.転売屋は需要と供給を探る
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クリムゾンティアを探している。
そう言われた時思わずドキッとしてしまったが、別にやましい事をしているわけではないのでその時は言い出さなかった。
勇者とかいう連中が買い求めるぐらいの逸品だ、別にこの人に売らなければいけないというわけではない。
その後は特に御咎めもなく解散したわけだが・・・。
「どうも気になるんだよなぁ。」
「何が気になるの?」
「いや、こっちの話だ。」
「なによ、私にも言えない事なの?」
「別にお前に全部言う必要はないはずだが?いつ俺の女ってことになったんだ?この間自分で否定していたじゃないか。」
いつもの宿でいつものようにいつもの人間と飯を食う。
ただそれだけのはずなのに、あの一件で何かが動き出したように感じている。
いや、勝手にそう感じているだけで何のフラグも立てていないはずだ。
サラダ皿のトマト(っぽい野菜)にフォークを突き立てたはずが、標的がずれ皿の外に転がっていく。
エリザはそれをヒョイと拾ったかと思うと、何故か自分の口に放りこんでしまった。
まぁそっちに転がしてしまったのは俺のせいだ。
仕方なくトマトの代わりにエリザの皿から肉を拝借する。
「あーー!それ最後の楽しみにしてたやつ!」
「お前が勝手に人の物を食うからだろ?」
「でもでも、最後のお肉だったのに・・・。」
騒いだかと思うと今度は泣きまねをして机に突っ伏してしまった。
食事中は静かにしろと教えられなかったんだろうか、まったく。
「あー、シロウさんがエリザさんを泣かしてる!」
「泣かしてねぇよ。」
「嘘だ!だって涙流してるじゃない。」
肉を食われたぐらいで泣く冒険者がいるかよ。
ってか、こいつはそんな女じゃない。
肉を取られたらその三倍は食い返すぐらいの図太い女だ。
「おいエリザ、もし泣いてなかったらリンカが肉を奢ってくれるってよ。もし泣いてたら俺が肉をおごってやる。どうする?」
「ちょっと、何勝手に!?」
「俺を嘘吐き呼ばわりしたんだ当然だろ。」
「別に嘘吐きっていったわけじゃ・・・。」
「どっちにしろエリザからしたら肉が戻って来るわけだし関係ないよな?さぁどうなんだ?」
うつぶせになったままエリザは動かない。
おそらくどうするのが良いか考えているんだろう。
本当に泣いているのならすぐにでも顔を上げるはずだ。
だが、そうでないという事は顔を上げられない事情がある。
おそらく今必死になって泣こうとしているんじゃないだろうか。
「おい、肉が逃げていくぞ。5,4,3,2,1・・・。」
「リンカちゃんごめん!」
ファイブカウントを待たずエリザが顔を上げる、その顔は満面の笑みを浮かべていた。
「あー、嘘泣きだぁ!」
「だから言っただろうが、こいつがこんな事で泣くはずないだろ?」
「うー、お給料がぁぁぁ。」
「今のはリンカが悪い、だがなもっと悪いのはこの男だ。」
「おいおいマスター俺のどこが悪いんだよ。」
まさかマスターまで敵に回るとは思わなかった。
この人だけはこっち側の人間だと思っていたのだが、俺の読み違えだったか。
「うわの空で俺の飯を食う奴が悪い、違うか?」
「・・・確かに。」
「飯を食う時はしっかり食え、それとな大事な物を最後まで置いておくとこうなるんだ、イヤならさっさと食っちまえ。肉は新しいのを焼いてやるから、少し待ってろ。」
「やったー!」
エリザが両手を上げて大喜びしている。
子供かよ。
でもまぁ、俺も確かに悪い。
飯を食べる時は集中して食べる、それが作ってくれた人への礼儀ってものだ。
あぁお酒の時は別だぞ。
あれは酒がメインだ、飲んで飲んで飲みまくって売り上げに貢献する。
そういう物だと俺は思っている。
とはいえ、そんな酒豪でもないので貢献できるのはエリザぐらいだ。
「何か心配事でもあるのか?」
新しく肉を焼いてきたマスターがエリザの前に皿を置く。
目を輝かせてそれにかぶりつくエリザをみて、笑っているとマスターが何かを察したようだ。
「いや、そうじゃないんだが・・・。なぁマスター、探し物がある時どうするんだ?」
「探し物?」
「例えば珍しい食材を手に入れたいとする、でもそれはこの街じゃ手に入りにくい。そういう時はどうするんだ?」
「そんなときは依頼を出すな。そうすれば持っている奴から連絡が来るし、誰も持っていなかったら他所の街に行く奴がそれを持ってきてくれる。」
「へぇ、そんなのがあるのか。」
ゲームで言うクエストボード的な奴だろうか。
依頼を受けてそれを探しに行き、手に入れたら報酬を貰う。
最近じゃおなじみになった金稼ぎだ。
そうだよな、そうでもしないといつまでも手に入らないもんな。
「なんだ依頼を出すのか?」
「いいや、逆だよ。」
「逆?」
「ちょいと面白い商売を思いついてね。」
「今でも十分儲けてるのにまだ手を広げるのか?」
「あぁ、今のままじゃ金貨200枚なんて夢のまた夢だからな。」
最初こそ好調だったせどりも、俺が品を買い漁った事により目ぼしい物はほぼ回収しつくしてしまった。
もちろん流れで来た商人が新規で立てた露店なんかは継続して出ているのでそこから探すことも出来るが、新規の露店全てにそういった品があるわけじゃない。
結局今のままじゃジリ貧だ。
誰しも慣れたやり方でそこそこ稼げるのならそれを続けたがるが、終わりが見えている商売に固執するのはよくない。
転売をやってる時なんかは特にそうだ。
時代を先取りして獲物を見つけ、ある程度の利益を取ったら次の獲物を探す。
後発組の方が儲かる場合もあるが、在庫を抱えるリスクも高くなる。
トイレットペーパーにティッシュ、マスクなんかがそうだったな。
有名になったころには品薄で、手に入れたころには規制がかかる。
結果在庫だけを抱えて家を圧迫したなんて笑い話があるぐらいだ。
もちろん俺はそんなへまはしないけどな。
「え、アンタそんなに稼ぐつもりなの?」
「そんなにっていうけどな、この街で店を出すと毎年これだけ持っていかれるらしいぞ。」
「うそでしょ。そんなに吸い上げてぼろ儲けじゃない。」
「ぼろ儲けかどうかはわからないが、お前達みたいなのが街を荒らした後処理なんかにも金がかかるんだ。それに、怪我をした冒険者を食わせていくにも金がかかる。結局回収した金は流れ出て後には残らない・・・という事になっているな。表向きは。」
表向きねぇ。
マスターも意味深な言い方をするじゃないか。
「その言い方じゃ裏の顔を知ってるってことになるけど、まさかそっちの仕事もしているのか?」
「俺は真っ当な仕事しかしないようにしているんだ、誤解を言うような言い方はやめてもらえるか?」
「そりゃ失礼。」
「依頼板の場所ならエリザが知ってるだろ、肉を食わせてやったんだ案内してやれ。」
「は~い。」
ったく、奢ってもらった時だけいい返事しやがって。
少しイラっとしたので軽く頭を叩いてみたが、当の本人は満足そうな顔で肉を喰らい続けた。
エリザに案内されたのは市場にほど近い場所に有った古びた建物だった。
商業ギルドが管理しているらしく、なんでもこの街が出来てすぐの頃からあるらしい。
まだ市場がそんなに栄えてない頃に探し物をするために作られたんだろう。
何度も紙が貼られては剥がされて来たのか、随分とくたびれた感じはあるがそれがまたいい味を出している。
ネットだとこういう雰囲気も味わえないし、俺は嫌いじゃない。
「これが依頼板、奥の受付で手続をして問題なければ職員さんが張り出してくれるの。」
「金がかかるのか?」
「成功報酬制だから一週間見つからなければ剥がされて終わり。探し物を持っている人がいたら張り紙をはがして受付に行けばお金を貰えるってわけ。」
「なるほど、探し主は依頼料と使用料を支払って初めて手に入れられるのか理にかなってる。」
最悪取りに来なくてもそれを売りに出せば損はしない、そういう感じなんだろうな。
最初に審査するのもその辺を見定める為なんだろう。
あと、ご禁制の品を裏で売買させないってのもあるだろうな。
隠語を使って取引して、別の品を渡すって事もあり得る話だ。
依頼主と会わせないのもそのためだろう。
いやーよくできているシステムだな。
「で、ここで何するの?」
「何が今求められているのかを調べるんだ。」
「え、それだけ?」
「あぁそれだけだ。」
「いつもみたいに高く売れるものを探してもらうとかじゃないの?」
「そんな品があれば持ってくるよりも自分で売るだろ?」
「あ、そっか。」
依頼を出すって事はその品の価値がわかっているってことだ。
その上で手に入らないから仕方なく依頼を出して手に入れようとしている。
つまり、多少高くても買う可能性が有るってことだな。
それを安く買い、高く売る。
もちろん最初はここの依頼を処理するから市場には出回らないが、依頼がなくなればその品は行き場を失う。
それを仕入れて、また依頼が出た時に放出すれば利益を稼げる。
加えて、どのような品がこの街で求められているかの集計が取れる。
今後どういう品を扱って行けばいいかを見定めるためにも、良い勉強材料になるだろう。
「私そういうのパス。」
「別にお前の力を借りるつもりはないさ、有難うな。」
「私はダンジョンに行ってくるから。」
「ほいよ。」
ヒラヒラと手を振ってエリザが取引所を出ていく。
どれ、情報収集としゃれこみましょうかね。
取引板の依頼内容を一先ず全て書き出し、それが終わったら今度は別の紙に分類わけしていく。
今日出ているだけじゃ需要を全て調べることは出来ないので何度も来る必要があるな、そんなことを考えていると、不審に思った職員に職務質問されてしまった。
事情を説明すると納得してもらえたが、有難い事に過去の取引をまとめた冊子があるらしい。
皆相場がわからないので、これを見て依頼を出すそうだ。
なるほどなぁ。
そんな過去のデータも引っ張り出しながら今何が求められているのかを確かめていく。
その最中にも依頼が張り出され、また剥がされていくわけだが・・・。
「やっぱりあるよなぁ。」
掲示板の一番目立つ場所に張り出された依頼。
『求)クリムゾンティア 出)金貨120枚』
要約するとこんな感じか。
何とまぁ簡潔だ事。
値段が値段だけに皆がみるんだろうな、何度も触られる端のほうはボロボロになっているがそれがはがされた様子はない。
この間の取引額から金貨20枚も上乗せされているみたいだな。
俺以外に持っている人がいれば得をするだろうし、もしいなければ・・・。
うん、これに関しては一旦保留だ。
それよりも今は需要の確認が最優先。
さーて、部屋に戻ってもうひと頑張りしますかね。
大量の紙を抱え、職員さんに挨拶をして取引所を出る。
それから一週間ほど取引所に通い詰めることになるのだが、例の依頼だけは剥がされる様子はなかった。
そう言われた時思わずドキッとしてしまったが、別にやましい事をしているわけではないのでその時は言い出さなかった。
勇者とかいう連中が買い求めるぐらいの逸品だ、別にこの人に売らなければいけないというわけではない。
その後は特に御咎めもなく解散したわけだが・・・。
「どうも気になるんだよなぁ。」
「何が気になるの?」
「いや、こっちの話だ。」
「なによ、私にも言えない事なの?」
「別にお前に全部言う必要はないはずだが?いつ俺の女ってことになったんだ?この間自分で否定していたじゃないか。」
いつもの宿でいつものようにいつもの人間と飯を食う。
ただそれだけのはずなのに、あの一件で何かが動き出したように感じている。
いや、勝手にそう感じているだけで何のフラグも立てていないはずだ。
サラダ皿のトマト(っぽい野菜)にフォークを突き立てたはずが、標的がずれ皿の外に転がっていく。
エリザはそれをヒョイと拾ったかと思うと、何故か自分の口に放りこんでしまった。
まぁそっちに転がしてしまったのは俺のせいだ。
仕方なくトマトの代わりにエリザの皿から肉を拝借する。
「あーー!それ最後の楽しみにしてたやつ!」
「お前が勝手に人の物を食うからだろ?」
「でもでも、最後のお肉だったのに・・・。」
騒いだかと思うと今度は泣きまねをして机に突っ伏してしまった。
食事中は静かにしろと教えられなかったんだろうか、まったく。
「あー、シロウさんがエリザさんを泣かしてる!」
「泣かしてねぇよ。」
「嘘だ!だって涙流してるじゃない。」
肉を食われたぐらいで泣く冒険者がいるかよ。
ってか、こいつはそんな女じゃない。
肉を取られたらその三倍は食い返すぐらいの図太い女だ。
「おいエリザ、もし泣いてなかったらリンカが肉を奢ってくれるってよ。もし泣いてたら俺が肉をおごってやる。どうする?」
「ちょっと、何勝手に!?」
「俺を嘘吐き呼ばわりしたんだ当然だろ。」
「別に嘘吐きっていったわけじゃ・・・。」
「どっちにしろエリザからしたら肉が戻って来るわけだし関係ないよな?さぁどうなんだ?」
うつぶせになったままエリザは動かない。
おそらくどうするのが良いか考えているんだろう。
本当に泣いているのならすぐにでも顔を上げるはずだ。
だが、そうでないという事は顔を上げられない事情がある。
おそらく今必死になって泣こうとしているんじゃないだろうか。
「おい、肉が逃げていくぞ。5,4,3,2,1・・・。」
「リンカちゃんごめん!」
ファイブカウントを待たずエリザが顔を上げる、その顔は満面の笑みを浮かべていた。
「あー、嘘泣きだぁ!」
「だから言っただろうが、こいつがこんな事で泣くはずないだろ?」
「うー、お給料がぁぁぁ。」
「今のはリンカが悪い、だがなもっと悪いのはこの男だ。」
「おいおいマスター俺のどこが悪いんだよ。」
まさかマスターまで敵に回るとは思わなかった。
この人だけはこっち側の人間だと思っていたのだが、俺の読み違えだったか。
「うわの空で俺の飯を食う奴が悪い、違うか?」
「・・・確かに。」
「飯を食う時はしっかり食え、それとな大事な物を最後まで置いておくとこうなるんだ、イヤならさっさと食っちまえ。肉は新しいのを焼いてやるから、少し待ってろ。」
「やったー!」
エリザが両手を上げて大喜びしている。
子供かよ。
でもまぁ、俺も確かに悪い。
飯を食べる時は集中して食べる、それが作ってくれた人への礼儀ってものだ。
あぁお酒の時は別だぞ。
あれは酒がメインだ、飲んで飲んで飲みまくって売り上げに貢献する。
そういう物だと俺は思っている。
とはいえ、そんな酒豪でもないので貢献できるのはエリザぐらいだ。
「何か心配事でもあるのか?」
新しく肉を焼いてきたマスターがエリザの前に皿を置く。
目を輝かせてそれにかぶりつくエリザをみて、笑っているとマスターが何かを察したようだ。
「いや、そうじゃないんだが・・・。なぁマスター、探し物がある時どうするんだ?」
「探し物?」
「例えば珍しい食材を手に入れたいとする、でもそれはこの街じゃ手に入りにくい。そういう時はどうするんだ?」
「そんなときは依頼を出すな。そうすれば持っている奴から連絡が来るし、誰も持っていなかったら他所の街に行く奴がそれを持ってきてくれる。」
「へぇ、そんなのがあるのか。」
ゲームで言うクエストボード的な奴だろうか。
依頼を受けてそれを探しに行き、手に入れたら報酬を貰う。
最近じゃおなじみになった金稼ぎだ。
そうだよな、そうでもしないといつまでも手に入らないもんな。
「なんだ依頼を出すのか?」
「いいや、逆だよ。」
「逆?」
「ちょいと面白い商売を思いついてね。」
「今でも十分儲けてるのにまだ手を広げるのか?」
「あぁ、今のままじゃ金貨200枚なんて夢のまた夢だからな。」
最初こそ好調だったせどりも、俺が品を買い漁った事により目ぼしい物はほぼ回収しつくしてしまった。
もちろん流れで来た商人が新規で立てた露店なんかは継続して出ているのでそこから探すことも出来るが、新規の露店全てにそういった品があるわけじゃない。
結局今のままじゃジリ貧だ。
誰しも慣れたやり方でそこそこ稼げるのならそれを続けたがるが、終わりが見えている商売に固執するのはよくない。
転売をやってる時なんかは特にそうだ。
時代を先取りして獲物を見つけ、ある程度の利益を取ったら次の獲物を探す。
後発組の方が儲かる場合もあるが、在庫を抱えるリスクも高くなる。
トイレットペーパーにティッシュ、マスクなんかがそうだったな。
有名になったころには品薄で、手に入れたころには規制がかかる。
結果在庫だけを抱えて家を圧迫したなんて笑い話があるぐらいだ。
もちろん俺はそんなへまはしないけどな。
「え、アンタそんなに稼ぐつもりなの?」
「そんなにっていうけどな、この街で店を出すと毎年これだけ持っていかれるらしいぞ。」
「うそでしょ。そんなに吸い上げてぼろ儲けじゃない。」
「ぼろ儲けかどうかはわからないが、お前達みたいなのが街を荒らした後処理なんかにも金がかかるんだ。それに、怪我をした冒険者を食わせていくにも金がかかる。結局回収した金は流れ出て後には残らない・・・という事になっているな。表向きは。」
表向きねぇ。
マスターも意味深な言い方をするじゃないか。
「その言い方じゃ裏の顔を知ってるってことになるけど、まさかそっちの仕事もしているのか?」
「俺は真っ当な仕事しかしないようにしているんだ、誤解を言うような言い方はやめてもらえるか?」
「そりゃ失礼。」
「依頼板の場所ならエリザが知ってるだろ、肉を食わせてやったんだ案内してやれ。」
「は~い。」
ったく、奢ってもらった時だけいい返事しやがって。
少しイラっとしたので軽く頭を叩いてみたが、当の本人は満足そうな顔で肉を喰らい続けた。
エリザに案内されたのは市場にほど近い場所に有った古びた建物だった。
商業ギルドが管理しているらしく、なんでもこの街が出来てすぐの頃からあるらしい。
まだ市場がそんなに栄えてない頃に探し物をするために作られたんだろう。
何度も紙が貼られては剥がされて来たのか、随分とくたびれた感じはあるがそれがまたいい味を出している。
ネットだとこういう雰囲気も味わえないし、俺は嫌いじゃない。
「これが依頼板、奥の受付で手続をして問題なければ職員さんが張り出してくれるの。」
「金がかかるのか?」
「成功報酬制だから一週間見つからなければ剥がされて終わり。探し物を持っている人がいたら張り紙をはがして受付に行けばお金を貰えるってわけ。」
「なるほど、探し主は依頼料と使用料を支払って初めて手に入れられるのか理にかなってる。」
最悪取りに来なくてもそれを売りに出せば損はしない、そういう感じなんだろうな。
最初に審査するのもその辺を見定める為なんだろう。
あと、ご禁制の品を裏で売買させないってのもあるだろうな。
隠語を使って取引して、別の品を渡すって事もあり得る話だ。
依頼主と会わせないのもそのためだろう。
いやーよくできているシステムだな。
「で、ここで何するの?」
「何が今求められているのかを調べるんだ。」
「え、それだけ?」
「あぁそれだけだ。」
「いつもみたいに高く売れるものを探してもらうとかじゃないの?」
「そんな品があれば持ってくるよりも自分で売るだろ?」
「あ、そっか。」
依頼を出すって事はその品の価値がわかっているってことだ。
その上で手に入らないから仕方なく依頼を出して手に入れようとしている。
つまり、多少高くても買う可能性が有るってことだな。
それを安く買い、高く売る。
もちろん最初はここの依頼を処理するから市場には出回らないが、依頼がなくなればその品は行き場を失う。
それを仕入れて、また依頼が出た時に放出すれば利益を稼げる。
加えて、どのような品がこの街で求められているかの集計が取れる。
今後どういう品を扱って行けばいいかを見定めるためにも、良い勉強材料になるだろう。
「私そういうのパス。」
「別にお前の力を借りるつもりはないさ、有難うな。」
「私はダンジョンに行ってくるから。」
「ほいよ。」
ヒラヒラと手を振ってエリザが取引所を出ていく。
どれ、情報収集としゃれこみましょうかね。
取引板の依頼内容を一先ず全て書き出し、それが終わったら今度は別の紙に分類わけしていく。
今日出ているだけじゃ需要を全て調べることは出来ないので何度も来る必要があるな、そんなことを考えていると、不審に思った職員に職務質問されてしまった。
事情を説明すると納得してもらえたが、有難い事に過去の取引をまとめた冊子があるらしい。
皆相場がわからないので、これを見て依頼を出すそうだ。
なるほどなぁ。
そんな過去のデータも引っ張り出しながら今何が求められているのかを確かめていく。
その最中にも依頼が張り出され、また剥がされていくわけだが・・・。
「やっぱりあるよなぁ。」
掲示板の一番目立つ場所に張り出された依頼。
『求)クリムゾンティア 出)金貨120枚』
要約するとこんな感じか。
何とまぁ簡潔だ事。
値段が値段だけに皆がみるんだろうな、何度も触られる端のほうはボロボロになっているがそれがはがされた様子はない。
この間の取引額から金貨20枚も上乗せされているみたいだな。
俺以外に持っている人がいれば得をするだろうし、もしいなければ・・・。
うん、これに関しては一旦保留だ。
それよりも今は需要の確認が最優先。
さーて、部屋に戻ってもうひと頑張りしますかね。
大量の紙を抱え、職員さんに挨拶をして取引所を出る。
それから一週間ほど取引所に通い詰めることになるのだが、例の依頼だけは剥がされる様子はなかった。
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