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39.転売屋は教会を見つける

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「お、あったあった。」

随分と探し回ることになったが、無事に教会を発見した。

まさかこんな所にあると思わなかったな。

教会ってもっと大きくて、威厳のある建物とばかり思っていたんだけど・・・。

俺の予想を大きく裏切る見た目だ。

「っていうか小さくね?」

俺の目の前にあるのは二階建ての建物。

おなじみの十字架は無く、見た目だけ言えば普通の民家だ。

一つ違うのはお店と同じくエンブレムが飾られている事。

水面に水落ちるような紋章が描かれている。

うーむ、何でこれが教会の紋章なんだろうか。

わからん。

とりあえず中に入って話を聞こう。

そう思って一歩踏み出した、その時だ。

「いてぇ!」

突然現れた何かを見事に蹴飛ばしてしまった。

そんなに強く一歩を踏み出したわけではないんだが、慌てて下を見ると少年が倒れている。

「兄ちゃん!」

「いてて、どこ見てんだよ!」

「すまん突然出てくるもんだから小さくて気づかなかった。」

「誰が小さいって!?」

蹴飛ばされた少年にもっと小さい少年が駆け寄る。

兄ちゃんって事は兄弟だろうか。

でも顔は似てないなぁ。

「兄ちゃん行こうよ、お腹すいちゃった。」

「早くどっか行けよオッサン。」

「怪我はないみたいだな、すまなかった。」

「・・・別に、飛び出したの俺だし。」

お、案外いい子じゃないか。

ちゃんと謝れるなんて偉いぞ。

世の中には自分に非があるのに絶対に謝らない大人が多いからなぁ・・・。

なんて考えていると少年達は教会の戸を開けて中に入っていった。

まさかの目的地は同じ。

うーむ、入りづらい。

入りづらいが、そんなこと気にするのもあれだな。

少し間を開けてから俺も教会の中へと入る。

中はがらんとしており、誰もいない。

唯一教会だと認識できるのは奥に祭壇があるからだ。

俺、場所間違えてないよな?

「すみませ~ん。」

誰も出てこないので声をかけてみる。

が、反応なし。

「すみませ~ん、誰かいませんか。」

二度目の問いかけでも返事はない。

「ちょっと待ってください!すぐに行きます!」

と思ったら奥の方から返事が返ってきた。

ドタドタという音がして、祭壇横の扉から一人の女性が飛び出てきて・・・。

「きゃ~!」

いや、転がり出てきたが正しいだろうか。

扉から出てきてすぐ、何かにつんのめって勢いよく倒れる。

バタンといい感じの音が教会中に響き渡った。

「いたたたた・・・。」

「大丈夫か?」

「すみません、私おっちょこちょいで。」

「怪我が無ければいいんだ。一つ聞きたいんだけど、ここは教会でいいんだよな?」

倒れた少女に手を伸ばし勢いよく引っ張って立たせる。

これで修道服でも着ていれば教会だなと納得できたのだが、そばかすの似合う彼女が着ているのは白いワイシャツに紺のスカート。

学生服と言われれば納得してしまうような服装だ。

年も結構若そうだ。

それが余計に学生っぽく見せているんだろう。

「はい!教会で間違いないですよ。といっても、最近は孤児院みたいなものですけど。」

「あぁ、だからさっき子供が入って行ったのか。教会の仕事もしているんだよな?」

「はい!それが本業ですから、今日は何をご要望ですか?」

「解呪を頼みたいんだが・・・まさか、アンタがやるのか?」

「そうですけど、おかしいですか?」

人を見た目で判断してはいけないってのはリング氏の一件で身に染みたはずなのだが・・・。

うーむ、大丈夫かな。

「いや、気に触ったんなら許してくれ。これを頼みたい。」

最初から心配しても始まらない。

本人が出来るというんだから見てもらえばいいだけの話だ。

俺はポケットから例の指輪を取り出し、ゆっくりと手渡す。

両手でそれを受け取り彼女は目を見開いた。

「なんていう強力な呪詛なんでしょう。これを一体どこで?」

「古びた隠し部屋の中で見つけたんだ。真実の指輪というらしいが、呪われていて使えなくてね、どうだ出来るか?」

「少し待ってください。」

両手を重ねて大事そうに祭壇へと運び、金属製の盃に指輪を入れて横に置いてあった水差しで何かを注ぎ始めた。

そしてそれを頭上高く掲げ、祝詞のようなものを唱え始める。

おぉ、見た目とは裏腹に結構本格的だ。

って、よく考えればいくらかかるとか聞かずにお願いしてしまったな。

高い金を吹っ掛けられたらどうする・・・?

そんな俺の不安をよそに少女は厳かな儀式を続けてる。

何かの呪文を唱えながら盃を掲げ、下ろし、また掲げる。

その繰り返しかと思ったら、再び水差しから何かの液体を溢れるまで注ぎ、こぼしながら円を描くように動かし始める。

五分ほどたっただろうか。

少女は大きく息を吐き、盃を祭壇に置いた。

「終わったのか?」

「申し訳ありません、あまりにも呪詛が強力で私の力では解呪できませんでした。」

「マジか。」

「ダンジョン内で見つかる程度の呪いでしたらこの聖水で清めるだけで解呪できます。ですがこれは祝詞を合わせても全く解ける気配が無いんです。まるで誰かを呪い殺すまで消えない、そんな強い呪詛を感じます。」

誰かを呪い殺すまで消えない・・・か。

こりゃどうにもならなさそうだな。

解呪できればかなり助かるなぁと思っていたが・・・。

世の中上手くいかないようだ。

「そうか・・・。済まない手間を掛けさせたな、いくらだ?」

「解呪に失敗したのでお代は結構です。」

「聖水とやらを使ったんだろ?その代金ぐらいは払わせてくれ。」

金を要求されると身構えていただけに無料と言われると逆に困る。

材料費ぐらいは要求してもらわないと今後利用しづらいじゃないか。

「じゃあ・・・寄付をお願い出来ますか?」

「寄付?」

「ここは孤児院を兼ねているんです。まだ小さい身寄りのない子供を育てるにはお金がかかります。その手助けだと思って頂ければ。」

「ふむ。金は貰わないが寄付は貰うと。」

「お気持ちだけで十分ですので。」

それが一番困るんだよなぁ。

高過ぎず安過ぎずのいい感じの値段か・・・。

ぶっちゃけ、さっきの雰囲気で本物の解呪だと認識したが嘘をついている可能性だってある。

事実解呪は出来なかったし、お涙頂戴で金をせしめる気なのかもしれない。

・・・とか何とか考えだしたらきりがないよな。

「わかった、これを納めてくれ。」

「お気持ちに感謝いたします。」

ポケットから出したのは銀貨3枚。

何か買い物をするだろうと適当に突っ込んでおいたやつだ。

彼女はそれを確かめることも無く受け取ると祭壇上の賽銭箱のようなものに入れてしまった。

チャリンという音が三回響く。

中に何枚か入っているようだ。

「この度はお力に成れず申し訳ありませんでした。」

「いや、気にしないでくれ。また手に入れた時にはお願いに来るかもしれない。参考までに教会では他に何をしてくれるんだ?」

「解呪の他には、聖水の譲渡や祝福などを授けています。といっても、最近来る方は少なくなってしまいましたけど。」

「何故だ?」

「皆様ご自身の神様に祈る事にお忙しいですから。」

なるほど。

専門の神様に押され気味、というわけか。


「無学で済まないが、教会にも神様はいるんだろ?」

「おります。」

「何の神様なんだ?」

「すべての神様です。この世界を最初にお創りになり、そして育ててくださいました。」

「つまり神様の中の神様なんだろ?にもかかわらずに追いやられる意味が解らないんだが。」

「創られた事よりも生活に即した物の方がありがたみを感じる。そういう物なのです。」

わからなくはない。

創ってくれた人に感謝をしたとしても、それで食べていけるわけではない。

それならば食べていける神様に祈る方がよっぽど現実的、という事なのだろう。

そういう物なのだろうか。

この世界には宗教的な信仰というのはないのか?

「それはこの街だけか?」

「おそらく他の街でもそうでしょう。」

「このままではいずれ潰えてしまうのでは?」

「いえ、解呪や聖水は我々でなければ作れません。需要がある限り潰えることはないでしょう。」

「自分の信仰する神が虐げられて寂しくないか?」

「神様は必ず私達を見て下さっています。それがわかっていれば、寂しいことなどありませんよ。」

そういう物なのだろうか。

俺にはわからない世界だ。

「変な事を聞いたな。」

「いえ、ご理解してくださる方が増えるだけでも神様はお喜びになられます。次回こそお力になれれば幸いです。」

「邪魔したな。」

見た目は学生だが、中身は本物の修道女のようだ。

もしかするとこれからもお世話になるかもしれないな。

お礼を言って教会を出ようとしたその時だった。

「モニカさん、すげぇよ!金貨が三枚も入ってる!」

先程彼女が出てきたのとは反対側の扉から子供が二人飛び出してきた。

あれ、あいつらは確かさっき俺がぶつかった・・・。

興奮した様子の少年たちが誇らしげに掲げているもの。

何処かで見たことのあるそのフォルムに思わず自分のポケットを触ってみた。

だが、そこにあるはずの感触はなく、自分のケツを叩くのみ。

ってことは・・・!

「それ、俺の財布じゃねぇか!」

「ゲゲ!さっきのオッサン!」

やっと俺の存在に気づいた少年が戸惑いの声を上げる。

犯人確定だ。

まさかあの時スられていたとは思わなかった・・・が、ここであったが百年目。

大切なソレ、返して貰おうじゃないか!
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