転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア

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74.転売屋は奴隷の覚悟を知る

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この日一番のざわめきが会場中から湧き上がる。

まさか副長の奥様が偽物を持ってくるとは思わなかったからだ。

もちろんそれは先入観で、こういう余興の為に普段から持っているなんて可能性も否定できないが・・・。

「それは現物が消えた事にも関係しているんだよな?」

「その通り。先程見せたのは私が模造作成(イミテーションクリエイト)で作り出した偽物よ、一度でも見たことのある品の超精巧な偽物を作り出せるの。ただし時間は五分だけ、鑑定スキルにも引っかからないのに、これを見破られたのは人生で二回目だわ。」

つまり俺の鑑定に引っかかったのは相場スキルのほうだったのか。

俺で三人目になるわけだが、話がややこしくなるので黙っておこう。

「こ、こんな答え認められるか!鑑定で認められないのにどうやって偽物だと見極めるんだよ!」

「そ、そうですわ。鑑定スキルで見極められない以上、それは本物として扱うというのが決まりのはず・・・。」

「おだまりなさい!言い分はどうであれ、彼女は偽物を暴き出し貴方達は答えを間違った。つまり自分で自分の妻が奴隷以下だということを証明したのよ。それを恥と思わずよくもまぁ好き勝手しゃべれるわね。」

ギャーギャー騒ぎ出すバカ夫婦を奥様がピシャっとしかりつける。

ミラと俺をとことんバカにしておいて結果がこれだ。

もう彼らの言い分を聞くような奴はここにはいないだろう。

何が新進気鋭だ。

結局は金と勢いでやってきただけのバカじゃないか。

そんな奴が二番手だなんて、そのほうが恥ずかしいんじゃないか、この街としては。

その証拠に会場中の人間がバカ夫婦を冷めた目で見つめている。

「アンタらが何を言おうが俺達の勝ちだ。敗者はとっととどいてくれるかな?」

「くっ、くそ!覚えてろよ!」

苦虫をかみつぶしたような顔をしてバカ夫婦が壇上から去っていく。

そのまま帰るのかと思いきや図々しくも隅のほうでまだこちらを睨みつけていた。

今後何かしてくる可能性は否定できないな。

その辺も含めて色々と考えておく必要があるだろう。

あー、めんどくさ。

やっぱりこんな会に参加するんじゃなかった・・・。

ってそうじゃねぇ。

俺は慌ててミラの手を取り例の指輪のはまった右手薬指を見た。

見た感じは特に問題はない。

まがまがしい気配も本人が苦しそうにしている様子もない。

ないが・・・。

「とりあえず問題ないんだな?」

「はい。お話ししました通り問題ありません。」

「いったいどういうカラクリなんだ?こいつには使用者を殺すほどの強い呪詛がかけられいたはず、だがお前にその様子はない。」

「もうこの指輪は呪われていません、その証拠に・・・ほら。」

呪わた装備は簡単には取り外せないはず。

だが、ミラの指にはめられたそれはいとも簡単に指から抜けてしまった。

「呪われていないのか?いや、そんなはずが・・・。」

「この間お話したではありませんか、この指輪の持ち主もきっとお役に立ちたかったんだって。」

「つまり全てを調べた上で着けたんだな?」

「もちろん呪い殺される事も覚悟していました。でも、そうならないという自信もあったんです。勝手な事をして申し訳ありませんでした。」

「次からは一度相談してからにしてくれ、上手くいったはいいが心臓に悪い。」

「もう二度と勝手は致しません。」

恐らくミラの事だこの指輪の存在を知り、いろいろと調べまわったんだろう。

この街の歴史自体はさほど古くない。

恐らく外に出たついでにホルトが住んでいた以前の住人を探し出し、結果として檻の住人についても調べたんだ。。

だからあの日あんなことを言ったんだな。

役に立てるのであれば檻の中でも構わない。

必要としてくれるなら・・・か。

だが、たったそれだけの情報で死ぬかもしれない選択が普通出来るか?

俺にはできそうにないなぁ。

「ちょっと、いつまで自分の奴隷と乳繰りあってるの?」

と、ミラの手を持って話し込んでいたら横にいた奥様がため息をつきながら突っ込んできた。

ミラが慌てて腕を引っ込める。

「も、申し訳ありません。」

「ちょっと情報共有していただけだ。乳繰り合うのは戻ってからにするよ。」

「はいはいご馳走様。でもまぁ楽しい余興だったわ、せっかくだしご褒美を上げようかしら。」

お、そう来ますか。

これは願ってもない流れだな。

「では一つお願いがあるんだが、かまわないか?」

「言ってごらんなさい。」

「先ほどから何度も興味を持ってもらっているこのネックレスだが、これは無名ながら実力のあるこの街の職人に作らせた世界に一つしかない逸品だ。これを是非、アナスタシア様に身に着けて頂きたいと考えているんだが・・・、通常金貨20枚の所をずばり金貨10枚で買ってもらえるだろうか。」

はぁ?

そんな声が聞こえた気がする。

いや、聞こえた。

本人は言ったつもりないかもしれないが、顔がそう言っている。

へぇ、この人もこんな顔するんだな。

「それは私に買えってことかしら?」

「もちろん、それがなにか?」

「これまで幾度となく同じように身に着けてくれと言われてきたことはあったけれど、お金を要求されたのは初めてだわ。」

「ではこう聞きましょう。仮にこの場で差し上げたとして、いわゆる貢献度が上がることはあるのか?」

「この街への貢献度ですもの、上がるはずがないわ。」

「では買ってもらう事で俺には売り上げが残り、結果として税金を支払うことができる。これは貢献度になるのか?」

「そういう考えをする男は嫌いじゃないわよ。」

「光栄だね。俺は貢献度を上げることができ、貴女は世界に一つしかない逸品を格安で手に入れることができる。まぁ、結果として無名の作家は有名になり俺はより稼ぐことができるわけだが、別に何も悪いことはしていないし寧ろより貢献できる。決して悪い話じゃないと思うぞ。」

今までのふざけた感じと違い、ものすごく真剣な顔で俺を見てくる。

この時に初めてこの人が副長の奥さんと聞いて納得できた。

今までも大勢の人間がこうやって言い寄ってきて、その都度自分ではなく街の利益になる選択をし続けてきたんだろう。

まぁ少しは私利私欲があるかもしれないが、それは今いる立場から生まれる特権みたいなものだ。

「・・・私を相手にそこまで堂々と話をする男は初めてよ。旦那でさえ私の顔色を窺ってくるのに・・・。貴族相手に怯まないっていう話は本当だったのね。」

「何の話だか。」

「もう有名な話よ、あのリング様にため口でケンカを売ったってね。」

「それは相手の素性を知らなかっただけの話だ。」

「じゃあ素性を知っている私に対してその口調なのはどういう事?」

「改めたほうがいいのか?」

「いいえ、貴方はそのままのほうがいいわ。」

またしゃべり方で大変な事になる所だったか。

気をつけようと思えばいくらでも気を付けられるが、この世界に来てへりくだるのもなぁ。

元々それが嫌で会社勤めをしなかったんだ、それで殺されたらそれはそれだ。

「いいわ、そのネックレス買ってあげる。もちろんイヤリングもセットよね?」

「あぁ。」

「持ち合わせが無いから後で家の者にもっていかせるわ、かまわなくて?」

「もちろんだ。ミラ、外してくれ。」

「かしこまりました。」

目の前でイヤリングを外し、ネックレスは俺が外してやる。

それをいつの間にか登場した司会者が持ってきたトレイの上に乗せた。

他人が使った中古品という考えはこの世界にはない。

いや、ないわけではないがあまり気にしないという感覚だ。

金貨100枚出したあのクリムゾンレッドでさえ、俺が使ってたやつだしな。

「綺麗ね。」

「涙貝のしずくが真球でなければならないというのはこれで過去のものになるだろう。」

「私もいくつか持っているけれど、面白くなかったのはそういう事なのね。」

「誰もが持っている物よりも、誰も持っていない物にこそ魅力がある。これからどんどん新作が出るだろうから、その欲が尽きることはない。」

「そしてそれに貴方が噛んでいると。この為にいったいいくらつぎ込んだのかしら。」

「あまり考えたくはないな。」

金貨20枚はくだらない。

俺のほぼ全財産をつぎ込んだこの大勝負は、見事俺の勝ちで収まるようだ。

いや、きっかけを作ってくれたのはミラだから俺達のだな。

そういう意味ではあのバカ夫婦にも感謝しなければならない。

おかげで最高の勝利を得ることができた。

あれが無かったら最悪話を聞いてもらう事もできなかったかもしれないからなぁ。

かなりめんどくさそうだったし。

「今日はとても楽しませてもらったわ、有難う。貴方名前は何と言ったかしら。」

「シロウだ。」

「貴女は?」

「ミラでございます、アナスタシア様。」

「私に名前を憶えてもらうことを光栄に思いなさい。それじゃあ行くわ。」

ミラが頭を下げたので俺もつられて頭を下げてしまった。

それがうれしかったのか満足そうな顔をして奥様が壇上を降りる。

「アナスタシア様に大きな拍手をお願い致します!」

大勢の拍手に見送られ、アクセサリーを持った司会者と共に去っていった。

ふぅ、くたびれた。

バカ夫婦はというとまだ俺を恨めしそうに見てはいるが、突如として群がってきた商人によってその姿は見えなくなった。

「君!さっきの品はいったい何なんだ!?」

「涙貝と言っていたが、本当なのか?」

「それよりも職人だ!あれだけの品を作れる職人がこの街にいたなんて信じられない。いったい誰なんだ、紹介してくれ!」

「それよりも今後の話をしようじゃないか。あれは君の独占なんだろう?いくら出せば取り扱いできるんだね?」

まるで飢えたハイエナのようだ。

皆、あのやり取りに新しい商売の臭いを感じ取ったんだろう。

さすが新進気鋭の商人達、金の臭いには敏感だねぇ。

そんな彼らをのらりくらりとかわしつつ、ミラにちょっかいを出す男たちを追い払っていると、見知った顔が近づいてくるのが見えた。

「お忙しそうですね。」

「そっちもな。」

「どうなる事かと冷や冷やしましたが、お楽しみいただけましたか?」

「あぁ、思った以上に楽しい懇親会になったよ。」

「それはよかった、私としてもお誘いした甲斐があったというものです。」

若干疲れた顔をしている羊男の肩をポンポンと叩いてやると大きなため息をつかれてしまった。

あの後気付けばバカ夫婦の姿が見えなくなっていたが、その処理なんかに追われていたんだろうな。

心中お察しするよ。

「だが、さすがに疲れた。そろそろお暇したいんだが、まだ終わらないのか?」

「この状況を放置して帰るおつもりですか?」

「目的は達した。」

「そうですか・・・。」

「念の為に聞いておくが、例の男が何か言ってきた場合は?」

「それに関してはご安心を。何か怪しい動きを見せればこの街に居られなくなる事は伝えてあります。」

さすが、仕事が早い。


「それを聞いて安心したよ。帰ったら店がなかったなんてのは御免だからな。」

「元々やり方に反感の多い方でしたから、いい薬になったかと。」

「それも見越して俺を呼んだとしたら恐れ入るよ。」

「あはは、それはどうでしょうか。」

この男ならそれをやりそうだが、どちらにせよ問題がないのであればそれで十分だ。

「ミラ、疲れたか?」

「初めての場で、少し疲れました。」

「だ、そうだ。俺はこいつを連れて帰る、あとは任せた。」

「馬車は表に用意してございます。これからの件についてはまた人を出しますので。」

「これからのこと?」

「アナスタシア様にあのような品を渡しておいて、無事で済むとお思いですか?」

「その為にあの時お前を呼んだんじゃないか。」

「それとこれとは話が別、彼女の安全も含めて話し合う必要があると言っているのです。」

そういう言い方をされると仕方がない。

俺はともかくルティエに迷惑がかかるのはごめんだからな。

群がってくる商人達を抑えながら俺はミラの肩を抱き馬車へと向かった。

「ミラ。」

「どうされました?」

「今日は助かった、ありがとう。」

「そのようなお言葉をいただけただけで十分です。」

ミラの覚悟が無ければこのような結末にはならなかっただろう。

かわいらしく肩に頭を乗せてくるミラの重みを感じながら、馬車に乗り込んだ。

さぁ、帰ろう。
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