転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア

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75.転売屋は職人の手助けをする

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懇親会の後、ミラの仕事ぶりが一気に変わった。

それはそうだろう。

鑑定スキルを身に着けた事で自信と安心も身についたのだから。

今までは本当にこれでいいのかとか恐る恐るしていた仕事も、確信を持って取り掛かることが出来る。

俺としても店を全部任せることが出来るので、安心して別の作業に没頭できる。

それこそ、涙石の出荷などだ。

「どうしましょう!このままじゃパンクしちゃいます!」

「良かったじゃないか、これで一流職人の仲間入りだ。」

「でもまさかこんなにお客さんが来るなんて・・・。」

「材料はあるんだし問題ないだろ?」

「問題ありませんけど作る時間がありません。あぁ、次はアレを作ってそれから・・・。」

なるほどな。

いきなり注文が増えてしまったものだから処理が追い付いていないのか。

なんでもかんでも受注するわけにもいかず、かといってお客さんを放置するわけにもいかない。

誰かが窓口にならないと本当にパンクしてしまうだろう。

この責任は俺にあるわけだし、ここは落ち着くまで手を出してやる方がいいだろう。

「とりあえず今の注文書はどこだ?」

「あそこ!」

「順番はこのままだな?」

「うん、古いのが上で新しいのが下!」

「前金か?」

「ううん、全部渡したらだけど・・・。」

それはまずい。

注文するだけ注文して金を払わないとか、仕上がりが悪いとか言い出しかねない。

いい仕事にはいい金額を。

半分ぐらい出してもらえば逃げることも出来ないし、文句も言いにくいだろう。

「今度から前金でもらえ、せめて半分は貰う方がいい。」

「でも、いいのかな。」

「いいんだよ。その代わりお前は最高の仕事をすればいい。」

「そうだよね!いい仕事をすれば喜んでもらえるもんね!」

「当分俺が入るからお前は自分の仕事をしてろ。」

「でも、シロウさんもお店が・・・。」

「ミラがやる気十分だからな、任せて問題ない。」

むしろ俺が居たら邪魔だろう。

せっかくやる気満々なんだ、しばらく任せても問題ない。

大丈夫、夜は帰るって。

というか帰らないと怒られる。

「すまないちょっといいか?」

「っと、早速客か。」

「あ、行きます!」

「いいって、俺が出る。お前は上の注文から片づけとけ。」

「・・・わかった。」

今までと勝手が違うから戸惑うかもしれないが、それも少しの辛抱だ。

とりあえず今は流れだけを作ってやって、後は自分なりにアレンジしていけばいい。

お人好しどころか横暴かもしれないが、文句は後で聞いてやる。

「いらっしゃい。」

「アクセサリーの注文をしたいんだ。」

「素材は?」

「今噂の涙貝を使ったやつだ、ここの職人が作ったんだろう?」

「まぁな。」

「職人は女だと聞いていたんだが、お前は誰だ?」

「俺か?その職人のマネージャーみたいなものだ、注文は俺を通してもらう事になっている。」

この上から目線な感じ、それと着ている服。

どう見ても貴族だな。

奥様の身に着けていたやつを見たか、はたまた噂を聞いたか。

さて、どう出てくる?

「お前では話にならん、職人と話をつけたい。」

「それは無理だ。見てくれよ、これ全部が注文書なんだぜ?寝る暇もない位忙しいんだ。」

「ならば注文を先に通せ、それぐらいは出来るだろ。」

「たとえ誰が相手でも順番は守ってらわないと困るぞ。」

「いい加減にしろ、誰に物を言っているかわかってるのか?」

「あぁわかっているさ。それが例えアナスタシア様でも同じことを言うけどな。」

「なっ・・・。」

まさかこんな裏通りの職人の所から副長の奥様の名前が出てくるとは思わなかったんだろう。

驚いた顔で俺を見てくる。

「どうした?依頼ならこの注文書にどういう感じか書いてくれ、後ろがつっかえているんだ。」

「わ、わかった。」

なんだこれで終わりかよ、面白く無いなぁ。

それから続けざまに三つほど注文を受け付け、午前の注文を終了した。

恐らく懇親会の翌日からこの調子なんだろう。

これだけの量、いったいどれぐらいかかるのやら。

「おい、飯だぞ。」

「え!もうそんな時間!?」

「昼飯だ。ほら、水ものんでおけ。」

「うぅ、何から何まですみません。」

「気にするな。それで、これだけの量捌くのにどれだけかかる?」

「あまり難しいのは受けてないので三カ月ぐらいあればなんとか。」

「なら四カ月でこれを終わらせろ。印付けておくからな。」

ざっと勘定しておよそ100件。

それを三カ月って、つまりは一日一個だろ?

流石に無理があるのでそれを一月25件に減らしてやる。

人間休憩は必要だ。

いい仕事は根を詰めてやるもんじゃないからな。

「わかりました。」

「それと注文を受け付けるのは午前中だけだ。一週間ぐらいは俺がはいるがそれ以降は自分でやれよ。」

「午前だけ?」

「時間が来たら問答無用で窓を閉めろ。そして飯を食ったら作業だ。待てない奴を相手にする必要はない、待てる奴だけ相手にしても食っていける。」

「全部受けなくてもいい。」

「お前はもう一流の職人なんだ、自信をもって仕事を選べ、そして受けろ。その権利がお前にはある。」

「権利がある。」

今までは食べていくためにどんな仕事でも受けてきた。

だがそれは過去の話だ。

もちろん、人気に胡坐をかいて適当な仕事をしていればすぐに仕事は無くなり、昔と同じに戻ってしまうだろう。

だが今までと同じ丁寧な仕事をしていれば大丈夫なはずだ。

ルティエはそういう雑な事をするタイプの人間じゃないと俺は思っている。

だが馬鹿真面目に何でも受ければ仕事量に圧迫され、逆に仕事が雑になる可能性は十分にある。

そうならない為の仕事選びは大変重要だ。

決してさぼる為めんどくさいがための仕事選びじゃない。

正しい仕事をする為の仕事選びというわけだな。

「わかったか?」

「うん、わかった。」

「よし、なら仕事だ。俺は帳簿の整理をする。見られて困るか?」

「シロウさんなら全然困らないよ。」

「ぶっちゃけ苦手だろ。」

「あはは・・・。」

「今後の為にもしっかり覚えておけ。」

店の財務状況なんて他人に見せる物じゃない。

悪意のあるやつが見たら好き放題されてしまうからな。

もちろんそんな事をするつもりは無いが、いや、仕入れを牛耳っている時点でそれに近い事はやっているか・・・。

俺の所からしか仕入れをしない、なんて契約結んでるしなぁ。

もちろん法外な値段はつけていないぞ?

俺も儲かるしルティエも儲かる。

そういう値段にしているつもりだ。

だが今後契約内容を見直したいと言ってきた場合、それはそれとして考えるつもりはある。

俺だって鬼じゃない。

良い職人にはいい仕事をしてもらいたいからね。

「ふぅ、ごちそうさまでした。」

「食器はそこにおいとけ。」

「ねぇ、シロウさん。」

「なんだ?」

「どうしてここまでしてくれるの?」

「どうして?そりゃ金の為だ。」

「お金なら私が仕入れ続けたら儲かるでしょ?それならここまでしなくていいのに。」

なんだか真面目な顔をして俺の答えを待っているようだが、答えは一緒だ。

金の為。

そう、これは全て俺の利益の為の作業だ。

それ以上でもそれ以下でもない。

「このまま適当な仕事をするのと、メリハリをつけて仕事するのどっちが儲かると思う?」

「そりゃメリハリをつけた方が儲かると思う。」

「ここが儲かれば儲かるほど俺が儲かるんだ。そのレールを敷いているんだよ、俺は。」

「自分が儲かる為?」

「そうさ。だからしっかり働いて俺に金を落としてくれ。」

「そっか・・・。」

寂しそうな顔しやがって。

心のどこかで自分の為みたいに言ってほしいんだろうが、俺はそんなに甘い男じゃない。

「お前の為だなんていうわけないだろ。もう少しいい女になってから言うんだな。」

「それひどくない!?」

「事実さ、ミラみたいに胸があるか?エリザみたいな尻があるか?」

「うぅ、どっちもない。」

「なら中身で勝負すればいい。いい女だと俺に感じさせてみろ、そしたら考えてやらないことも無い。」

「ホント!?」

「俺が嘘言うかよ。」

「私、頑張るから!」

「それならまず仕事を頑張ってくれ、これからどんどん注文が増えるぞ。それこそ一年休みが取れないぐらいにな。」

これは世辞でも何でもない。

たった数日で四か月分の注文を受けたんだ。

今月中には一年分の注文を受けることになる。

つまり一年分の仕入れを確保したも同じだ。

俺も本腰を入れて仕入れをしないといけないな。

いいねぇ、金が金を呼ぶ最高の流れだ。

女としてはまだまだだが、その辺は本人の努力次第だな。

「まっててね、絶対いい女になって見せるから!」

「ハイハイ頑張れ。んじゃ帳簿つけるから仕事しろよ。」

「うん!」

入り口からは誰かの戸を叩く音が聞こえるが、今日はもう閉店だ。

そうか、閉店の札が無いんだな。

明日ここに来るときまでに準備しておこう。

「集中だ集中、外の音は気にするな。」

「うん、集中!」

「頑張れよ、ルティエ。」

「うん、頑張る!」

よし、集中モードに入ったな。

こうなったら夕飯に呼ぶまで外の音は入って来ない。

こういう所が凄いよなぁ。

俺には真似できないわ。

頑張れよ、ルティエ。

自分とそして俺の為にな。
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