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83.転売屋は強盗の理由を知る

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夜も更け月明かりが静かに降り注いでいる裏庭のど真ん中で、そいつは何も言わず座り込んでいた。

手は強力な紐で縛られており、エリザがその紐を握っている。

動けば命はない。

そんな雰囲気を醸し出していた。

っていうかそうするつもりだろう。

さぁて、尋問開始と行きましょうか。

「お前には黙秘権はない。正直に言わなければ死ぬ、正直に言っても警備に突き出す。ココでつかまったことを後悔するといい。」

「それならさっさと警備に突き出せよ。」

「それじゃ俺の気が収まらないんでね。いや、エリザのかな。」

「いったでしょ、タダですまないってね。」

「けっ金持ちが偉そうに言いやがって。」

別に金持ちだと言いふらしているつもりはないんだがなぁ。

世間的にはそういう目で見られているということか。

これからは今まで以上に気をつけたほうがいいのかもしれない。

「どうとでも言え。まずは名前からだ。」

「・・・フール。」

「馬鹿にはいい名前だな。」

「ふざけんな!」

「ふざけてなんてないさ。最近の窃盗はお前が犯人なんだろ?」

「・・・何の話だ。」

「貴族が襲われた話さ。アレのせいで随分と面倒なことになったんだ。まさか犯人がノコノコやってくるとは思わなかったがな。」

返事はなかった。

タダ無言で横を向くだけだ。

だがそんなことを許すはずがない。

エリザが強く紐を引っ張ると同時に馬鹿男の縄が締まっていく。

苦悶の声を漏らし再び顔をこちらに向けた。

「黙秘権はないって言っただろ。それともなにか?そのまま絞め殺されたいのか?エリザにかかれば一瞬で体は真っ二つだぞ。」

「ちょっとシロウ言い過ぎよ。」

「じゃあどのぐらいかかる?」

「そうね、三秒ぐらいかしら。」

「変わらないだろそれ。」

エリザのことだ俺がやれといったら本当にやりかねない。

いくらなんでもさすがにそれはやりすぎだ。

人の命を俺が奪うだって?

冗談じゃない。

そんな事したらうなされて当分眠れなくなるじゃないか。

「で、質問の答えは?」

「あぁ俺がやったのさ。」

「金目当てか?」

「それ以外に何がある。オークションの時期が近付くとお前らは無駄に金を溜め込むからな、それを狙ったのさ。」

「それで逆に命を狙われ、逃げる金欲しさに簡単そうな俺の店に目をつけたと。」

「それで捕まったんじゃ意味ないわね。」

エリザの言うとおりだ。

もっとも、エリザがいなかったらこんな余裕はなかっただろうけども・・・。

今後を考えて例のブツは別の場所に保管したほうが良いかもしれない。

「どうせ俺は間抜けさ。ほらさっさと警備に突き出せよ。」

「いや、未だ終わってない。なんで金が必要なんだ?」

「お前にいう必要ないだろ。」

「命を狙われたんだぞ、どうしてそんな事したのか知りたいだろうが。」

「どうせ遊ぶ金欲しさでしょ。」

「いやいや、それで貴族を襲うなんて馬鹿な事は考えないだろう。なぁ、何か理由があるんだろ?」

ぶっちゃけ完全な興味だ。

さっさと突き出せばいいというのはもっともだしそうするべきなんだろう。

だがどうも気になるんだよなぁ。

遊ぶ金欲しさに貴族なんて襲うか?

この切捨てごめんの世の中でだぞ?

俺じゃないんだから。

「言ってどうなる。どうせ俺は警備に突き出され殺されるんだ。」

「そうだとしても事実を言わないまま死ぬのは本意じゃないだろう。」

「ねぇどうでも良いじゃない、さっさと突き出そうよ。」

「エリザはちょっと黙ってろ。」

「ブーブー。」

「エリザ様、シロウ様には何か考えがあるんだと思います。」

いや、考えはないんだが・・・。

まぁいいか。

「・・・妹を助けるためだ。」

「何だって?」

「言っただろ、妹を助けるためだよ!」

「病気なのか?」

「病気なら医者を攫うさ、そうじゃないオークションに売られるんだ。だから金が必要なんだよ。」

おっと、まさかの展開だ。

てっきり目当ての宝石でも買って女に貢とか、その貴族に恨みがあって的な流れかと思ったんだが。

人ですか。

しかも妹て。

重すぎるだろ。

「じゃあアンタは妹を助けるために盗みに入ったのか?」

「あぁそうさ!金さえあれば妹を取り返せるんだ、その為ならなんでもする!って言っても捕まったんじゃそれもかなわないけどな。すまないアネット、お前を助けられなかった・・・。」

何とも言えない空気が裏庭を支配する。

まさかの展開に全員の思考が止まってしまった。

殺す気満々だったエリザでさえどうすればいいかわからず俺と馬鹿男を交互に見続けている。

俺だってどうすればいいかわからねぇよ。

ここで匿えば俺が犯罪者になってしまう。

かといって今の話を聞いて放っておくことなどできるはずがない。

なんでだ?

どうしてこうなった?

俺が興味本位でこいつの話を聞いたからか?

だよなぁ、それしかないよな。

「一つお伺いします。その方はどうしてオークションに?」

「アネットは俺を助ける為に自分を売ったんだ。俺が盗人から足を洗うための金をあいつが工面したのさ。それを聞いた時にはもうあいつは別の街に連れていかれていた。やっとの思いでこの街にいることを突き止めたが・・・まさかオークションだなんて。」

「ミラ、オークションにかけられると何がダメなんだ?」

「普通の販売であれば面会が許されます。この方は若く元気ですから売ればそれなりの値段になるでしょう。その金で娘さんを買い戻すことも可能のはずです。」

「だがそれが出来ない。」

「えぇ、オークションにかけられる奴隷は別の場所に保管され面会は許されません。販売後は速やかに購入者に譲渡される流れとなっております。もちろんこのオークションは限られた方しか入れませんので誰が購入されたかを調べるのは難しいかと。」

「そして調べがついた頃にはまたどこか遠くにいる可能性もあるわけか。」

なんとまぁ・・・。

まさかこんなことになるとはなぁ。

「シロウ・・・。」

「それ以上は言うな、俺だって悩んでいるんだ。」

「悩む?捕まえといてよく言うぜ。ほら、さっさと警備に突き出せよ。それで終わりだろ。」

「あぁお前は終わりだ。貴族の所に連れていかれて殺されてな。だがお前を助ける為に自分を売った妹はどうするつもりだ。」

「どうするも何も俺が捕まった時点で終わりだよ。オークションへは限られた人間しか行けないんだ。貴族かもしくは金持ちか・・・。おい、まさか!」

そのまさかだよ。

くそ、さっさと例のブツを売って売上金でウハウハしようと思ったのに。

こんな事を聞かされたんじゃその気も起きやしない。

「エリザ、ミラ、これからすることは誰にも言うな。わかったな、絶対にだ。」

「ちょっと、何するつもりよ。」

「シロウ様の思うままになさってください。」

「助かる。」

「ちょっとミラまで!」

「ここまで来たら共犯だ、覚悟しろよ。」

「おい、何をするつもり・・・。」

「いいから黙れ。」

考えろ。

ない頭を使って考えるんだ。

どうするのが一番いい?

今すぐ警備に突き出す?

そりゃそうさ、それが一番いい。

だがそれじゃ寝覚めが悪い。

悪すぎて吐き気すらするね。

そんなオークションに金を稼ぎに行くなんてさ。

「ミラ、隠し部屋の準備だ。保存食はそれなりに残ってたよな。」

「はい。一週間は十分食べて行ける量があります。」

「よし、エリザはそいつを隠し部屋に連れて行って檻につないでくれ。」

「檻につなぐって・・・まさか!」

「そのまさかだよ。」

「どうなっても知らないわよ。」

「わかってるさ。だがな、今の話を聞いて何事も無かったかのように暮らせるほど人間が出来てないんだよ。」

「シロウらしいわね。わかった、私も覚悟を決めるわ。」

ミラとエリザがお互いの顔をみて大きく頷いた。

まったく、最高の女だよお前達は。

「おい、俺をどうするつもりだ?」

「捕まえた以上お前をどうするかは俺が決める。暴れるなよ。暴れたら殺す。」

「・・・わかった。」

「賢い奴は嫌いじゃないぜ。」

アイツのセリフを奪ってみたがキザだっただろうか。

俺の女たちはそんな事を気にすることも無く忙しそうに準備を進めている。

裏庭に俺と馬鹿男の二人が取り残された。

月明かりが綺麗だ。

あーあ、どうしてこんなことになったんだろうなぁ。

「誰が売りに出すかは調べたのか?」

「あぁ、レイブって奴隷商人が今の主人らしい。」

「マジかよ。」

「知り合いなのか?」

「知り合い・・・になるんだろうなぁ。」

知り合いというかなんというか。

向こうが俺の事をどう思っているかはわからないが、俺にとってはマスターの次に頭の上がらない人だ。

正直に事情を言って・・・。

いや、それはそれであの人の迷惑になる。

これは俺達だけで何とかしなければならないんだ。

レイブさんの所に居るのならばやりようはある。

大丈夫だ。

「シロウ準備できたよ。」

「わかった。ほら、ついてこい。」

紐を引き男を隠し部屋へと移動させる。

その後はどうするのかって?

もちろん通報するさ。

強盗に入られたが逃げられましたってね。

これだけ騒いだんだ他の家も何事かと思っているだろう。

流石に何もなかったってわけにはいかない。

通報することで俺の無実を証明するというわけだ。

被害はそうだな、盗もうとした涙貝と願いの小石って事にしよう。

これも隠し部屋に放り込んでおけば大丈夫・・・のはずだ。

あーあ、こういった事には手を染めないつもりだったんだが。

聞いてしまった以上仕方ない。

月は人を狂わす力があるらしい。

もしかすると俺もそれにやられたのかもな。

そういう事にしておこう。
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