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129.転売屋は幸先のいいスタートを切る

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隣町は馬車で半日ほどの所にあった。

朝方出発し、到着したのは夕方前。

道中魔物や盗賊に襲われることも覚悟していたが、特に問題も起きずに到着することが出来た。

エリザが若干不満気だが、何も起きないに越したことはない。

「さーて、まずは何からする?」

第一印象は緑が多いなという事。

産業が盛んと聞いていたのでもっとゴミゴミしたり空気が悪いような印象だったが、そこかしこに緑が有り、そこそこ大きな木も生えている。

近くに大きな川があるおかげだろうか。

途中大きな森の横も通ったし、草原が広がるいつもの街とは全然違うなぁ。

なにより一番の違いは通る人だろう。

冒険者が少ない。

圧倒的に少ない。

そりゃ、いないわけじゃないけどどちらかと言えば俺みたいな商人が多いように思える。

「私は宿を確保してくるわ。」

「私は取引所を覗いてきます。それが終わりましたら宿に戻りますので、どうぞ先にお休みください。」

「だそうだけど、シロウはどうするの?」

「せっかくだからウロウロしてくる。」

「変な事に巻き込まれないでよ?」

「やめろよ、縁起でもない。」

巻き込まれる事前提で話すのは止めてもらえないだろうか。

ちなみに宿泊する場所はもう確認済みだ。

この街で一番高い宿。

金はあるんだ、ケチケチして盗みに入られるなら高い金を出して防犯のしっかりしたところに泊まりたいよな。

ってことで、街のど真ん中にある月桂樹の冠亭に泊まる事になっている。

二人と別れて街の中を適当にうろつく。

うーん、空気が美味しい。

川が近いって事は魚がいるって事だ。

晩飯は魚にしようかな。

そんなことを考えながらまっすぐ進むと、大勢の人が出入りする門が見えてきた。

街の中に門?

近くまで行くと、そこが市場の入り口だという事が分かった。

かなり盛況なようだ。

「ちょっとどいてくれ。」

「っと、すまん。」

中を覗き込んでいると大柄なおばちゃんに怒られてしまった。

慌てて道を開けると小走りで俺の横を通り抜ける。

みんな忙しそうだなぁ。

「っと、兄ちゃん。」

「え、俺?」

「そんな所に居るんなら暇なんだろ?手伝っとくれよ。」

「いや、俺は・・・。」

「いいから!人助けだと思って頼むよ。」

まさかまさかの展開についていけないが、さっきのおばちゃんが突然クルリと反転し俺の所にやって来た。

そして有無を言わせず俺の手を取りグイグイと引っ張っていく。

連れていかれたのは市場の奥に並ぶ小さな商店。

並んでいる物から察するに武器屋か何かだろう。

大きな武器は無いようで並んでいるのはどれも短剣ばかりだ。

「仕入れたんだけど適当に置かれちゃってね、これを運んでほしいんだよ。」

「運ぶってどこに?」

「奥の工房に決まってるだろ、いつもは主人がやってるんだけど生憎腰をいわしてねぇ。私じゃ持ち上げられないし、アンタなら出来るだろ?」

「いや、出来るだろって言われてもなぁ。」

おばちゃんが指さしたのはカウンター横に置いてある大きな木箱だった。

蓋は無いので真っ黒い鉱石が丸見えになっている。

ん?真っ黒?

よく見ると店喉の短剣も黒光りしていた。

適当に一本手に取ってみる。

『ダマスカスの短剣。高温の炉で加工されており通常よりも強度が高い。最近の平均取引価格は銀貨50枚、最安値銀貨40枚、最高値銀貨62枚、最終取引日は昨日と記録されています。』

やっぱりダマスカス鋼だったようだ。

街について早々お目当ての品を見つけるとか、日ごろの行いがいいからだな。

まぁ、それを運ばされるわけだけども・・・。

木箱に手をかけ思いっきり持ち上げてみる。

が、木箱は微動だにしない。

もう一回やってみるも結果は同じだ。

「重すぎだろ。」

「なんだい力が無いねぇ。」

「そういう問題じゃない、これは重過ぎる。」

「主人は軽々ともってくけどねぇ。」

「どんな化け物だよ。」

「化け物なんて言うんじゃないよ、優しい自慢の主人さ。」

「あぁそうかい。」

それ以上喋らせると旦那自慢が始まりそうだったので視線を木箱に戻した。

いっきに運ぼうとするからダメなんだよな。

少しずつ運べば俺でも持てる。

「これよりも小さい箱とかないのか?」

「あれぐらいかい?」

「そうそう、それ。」

おばちゃんが指さしたのは運ぶ予定のやつの半分ぐらいの大きさだった。

あれなら行けるか。

それに鉱石を移しながら持てる重さまで調整する。

木箱半分ぐらいでギリギリ運べる重さだった。

いや、マジで重すぎだろ。

鉄鉱石の倍はあるんじゃないか?

「非力だねぇ、それぐらい私でも持てるよ。」

「じゃあおばちゃんがやったらどうだ?」

「若い子が何言ってんだい!ほら、がんばりな。」

おばちゃんにケツをおもいっきりひっぱたかれる。

なぁ、俺手伝ってるんだよな?

しかも勝手に連れていかれて。

何でケツひっぱたかれてるんだろうか。

俺がそんなことを思っているとも思わず、おばちゃんは別の仕事を始めてしまった。

仕方なくよろよろとそれを持って奥まで行く。

「誰だ!」

と、今度はいきなり怒鳴られた。

もうやだ帰りたい。

「ここのおばちゃんに鉱石を運べって言われたんだよ、どこに運べばいいんだ?」

「なに?まったく、知らない人に迷惑をかけるなとあれほど言ったのに・・・。」

怒鳴ってきたのは消えた炉の横に腰かけていたおっちゃんだ。

細身だが上腕部が異様なまでに太い。

この人が主人でこの工房の主なんだろう。

「手伝いはいいんだが、これはどこに置けばいいんだ?」

「妻には良く言い聞かせておく、右奥の木箱に頼めるか?見ての通り動けなくてな。」

「聞いたよ、腰やったんだって?俺もやったことあるからその苦労はわかる。」

「若いのになぁ。」

「色々あるんだよ。とりあえず全部運べばいいな?」

「あぁ、頼む。」

見た感じいい人っぽいのでここでしっかり恩を売らせてもらおう。

っていうか早く終わらせて宿に戻らないとエリザに何を言われるか分かったもんじゃない。

4往復程して何とか全部の鉱石を移動させることが出来た。

汗が噴き出て首からしたたっている。

戻ったら風呂に入ろう。

「すまん、世話になった。」

「いいって、暇・・・じゃなかったけど丁度良かった。」

「ちょうどよかった?」

「こっちの話だ。で、報酬なんだが・・・。」

「あいつ、それも言わずにつれてきたのか。」

「怒ってやらないでくれよ、旦那さんの為に何とかしようと思ったんだろうからさ。」

嫁さんの事を持ち上げてみるとまんざらでもない顔をする。

やり方がセコイがこれも目的の為だ。

「見ず知らずの人にここまで親切にしてもらえるとは、世の中捨てたもんじゃないな。冒険者なら武器の一つも打ってやるんだが、生憎この調子だ、当分ハンマーは握れないだろう。」

「大丈夫なのか?あれは仕入れたばかりなんだろ?金は大丈夫なのか?」

「それなりに蓄えてるからな、心配しなくても何とかなる。」


「だが当分打てないんだろ?」

「まぁなぁ・・・。」

積みあがった鉱石を見ながらおっちゃんがため息をつく。

ここが攻め時だな。

「一つ提案なんだが、報酬の代わりにこの鉱石を買わせてもらえないか?半分、いや四分の一でもいい。」

「どういうことだ?」

「実はダマスカス鋼を仕入れにこの街に来たんだが、本当に偶然奥さんに連れてこられたんだ。まさかダマスカス鋼の職人とは思わなかったよ。」

「だからちょうど良いって言ったのか。」

「この街に来たばかりでどこでどうしようか悩んでいたところだ。普通に仕入れようとすると吹っ掛けられる可能性だってあるし、仕入れ値のまま買い取らせてくれないか?」

「うちとしては助かるが、本当にいいのか?」

「奥さんに連れてこられたのが何かの縁だろ、こっちから頼みたい。」

「わかった、全部は無理だが半分ならいいだろう。どうせ本調子になるのは当分先だ。」

ヤレヤレと言った感じでおっちゃんが苦笑いをする。

よっしゃ!

街に来て早々、早速お目当ての品を手に入れることが出来たぞ。

ついでだ、情報収集もさせてもらおう。

持ってきた荷物を伝えてみる。

「うーむ、聖布と糸は職人仲間を紹介できるが他は使わないものだな。ギルドにもっていけば買い取ってくれるぞ?」

「ギルドだと買いたたかれるだろ?出来れば今後の為にも直接卸したいんだ。」

「なるほどなぁ。仲間には伝えておくが他は力になれそうにない。」

「そうか、変なこと聞いて済まなかった。」

流石にとんとん拍子にはいかないようだ。

それでも十分な収穫と言えるだろう。

他はミラが探しているかもしれないしな。

おっちゃんがおばちゃんを呼び、事情を説明した。

しめて金貨1枚と銀貨20枚分。

予想よりも高かったが、半分となればかなりの量だ。

持ち帰っても間違いなく利益が出るだけに安心して金を支払える。

「明日の昼に取りに来るからそれまでおいといてくれるか?」

「わかった。」

「じゃあまた。」

二人にお礼を言って店を後にする。

気付けば空がオレンジ色に染まっていた。

早く宿に帰ってサッパリしたい。

心地よい疲労感に包まれながら知らない街をのんびりと歩く。

さぁ金儲け・・・でもその前に休憩タイムだ。
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