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146.転売屋は小刀を貰う

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土の魔道具が無事に手に入ったので、空き時間を見つけて現場に行ってみた。

早くもギルド協会が手配した人たちが整地に向けた下準備をしている。

過去に手を入れられていたとはいえ放置されていて結構経っているせいかかなり荒れているので、まずは石や岩を取り除いたり雑草を引き抜くところからだ。

「ご苦労様です。」

「あ、シロウさんだ。」

「シロウさんだ!」

「なんだお前達も来てたのか。」

「うん、お手伝いするとお小遣い貰えるんだよ!」

「ご飯も!」

小さいのがいるなと思ったら教会の孤児達だった。

ギルド協会が気を使って声をかけたんだろうな。

草むしり程度なら子供でもできるし、大きい石や岩は大人がやる。

むしろ大人がやりにくい所にこそ、子供達の手が必要だろう。

ちゃんと仕事と分かっているのか、大人の指示通りにテキパキと動き回っていた。

良い事だ。

「シロウは何しに来たの?」

「俺か?ちょっと試運転をな。」

「シウンテン?」

「こいつを試しに来たんだ。」

そう言いながら前回買い付けてきた土の魔道具を取り出す。

見た目は細長い筒状の機械で、イメージはコードレス掃除機みたいな感じだ。

先っぽに魔石を嵌める場所があり、それを動力にして土を耕す。

本来は属性石をはめ込むんだが、出力が上がりすぎるので普通の魔石で挑戦だ。

雑草が抜かれ綺麗になった部分に魔道具を押し当てスイッチを入れると、稼働音と共に地面に小さな穴が開いた。

恐らく衝撃波か何かが出ているんだろう。

そのまま歩くと、ボコボコと地面が抉れていく。

うむ、動作に問題なしっと。

「「「すご~い!」」」

周りに集まってきたガキ共が歓声を上げる。

「やってみるか?」

「いいの!?」

「その代わり気を抜くなよ、怖がらず軽く地面に当ててそれを押すんだ。」

「うん!」

一番大きな子に魔道具を持たせてみる。

恐る恐るといった感じだが、スイッチを入れると問題なく稼働し地面を耕し始めた。

うむ、子供でも問題なしっと。

「すご~い!」

「土が柔らかくなってる!」

「やらせてやらせて!」

「遊びじゃないんだ、気をつけろよ。」

子供達からしたら遊んでいるようにしか思えないんだろうなぁ。

君たちにとっては遊びでも大人からしたら大切な仕事だ。

その証拠に遊びながら土がどんどんと耕されていく。

耕すっていうほどじゃないが、みるみるうちにそこらじゅうが柔らかくなり結果として雑草が抜きやすくなった。

当分はガキ共にこれを使わせつつ雑草を取るのがいいだろうな。

「塀の方はどんなかんじだ?」

「前の跡が見つかりましたのでそれに沿って建設予定です。」

「魔物や獣は?」

「これだけの人数でやってますから日中は問題ありません。ですが夜は入り込んでいるんでしょうね、朝に来ると足跡が結構あります。」

「そうか。やはり頑丈な奴が必要だな。」

「膝位まで石を積み上げそこから塀を組み上げると良いかもしれません。」

確かに有効かもしれないな。

狼とかその辺だと石塀だけじゃ飛び越えられるが、その上に塀があれば越えにくいかもしれない。

食い破られる事もないだろうし、効果は高そうだ。

だがその分費用も高くなる。

倉庫はギルドが作ってくれるらしいが、塀の分まではさすがに無理だろう。

「その場合と通常の場合二種類の見積もりを出してくれ。それと、必要人員もだ。」

「わかりました。」

「工期はかかっても構わない、別に急いでいるわけじゃないしな。」

「材料の手配もありますのでそう言って頂けると助かります。」

ちなみに俺が今話をしているのは、ギルド協会から派遣された今回の担当官、ディモスさんだ。

年は40過ぎ、ベテランの職人って感じだが物腰は柔らかく話し方も丁寧だ。

ギルド協会にいるとそうなるんだろうか。

「耕作は見ての通り魔道具を使えば女性でも問題ないだろう。今は出力を落としているが属性石を使えばもう少し深く掘れるはずだ。」

「あんな高価な物を五台も用意されるなんて、流石ですね。」

「ま、今はガキどもの玩具だけどな。」

「いいんですか?」

「別に壊すことはないだろう。たまには遊ばせてやってくれ。」

何でも五歳になる子供がいるそうだ。

だからかやんちゃなガキ供の扱いには慣れているようで、上手く使ってくれている。

上からこっぴどく叱る感じでもないし、良好な関係を築いているようだ。

「畏まりました。使用後はどこに?」

「今日は試運転だからあとで取りに戻る。倉庫が出来たらそこに放り込んどいてくれればいい。」

後は任せて一先ず現場を離れる。

マートンさんに呼ばれているんだ。

「シロウだが、マートンさんいるか?」

「おぅ、ここだここ!」

ドアを開けると目を顰めるような熱気が襲ってきた。

相変わらず暑いな、ここは。

工房の奥を見るとこちらに背中を向けたままマートンさんが手を上げていた。

「ちょっと待っててくれ、今良い所なんだ。」

「はいよ。」

カーンカーンと金属を叩く音が響く。

叩き、冷やし、熱し、また叩く。

その繰り返し。

背中越しだが流れるようなその動きに思わず魅入ってしまう。

暑いのを忘れてしまうぐらいだ。

「すまん、待たせた。」

「いや大丈夫だ。」

「そんなこと言って凄い汗だぞ。」

気付けば顔じゅうから汗が噴き出していた。

顎にしたたる汗をぬぐい苦笑いを浮かべる。

「で、今日はどうして呼ばれたんだ?」

「まぁこれを見てくれ。」

カウンター下から取り出したのは小さな刃物。

果物ナイフぐらいの大きさで、刀身は黒く光っていた。

「ダマスカス鋼の小刀か、素人の俺が見てもわかる見事な作りだ。」

「これをお前にやる。」

「はい?」

「だからやるって言ってるんだ。色々と俺達職人の為に動いてくれたからな、その礼だ。」

「いや、俺は礼を言われるためにやったんじゃない金儲けの為だ。むしろいい金で買ってくれて助かった。」

「あれだけの品を用意してくれたからな、仲間も喜んでいたよ。」

「用意したのは俺じゃないけどな。」

手配したのは業者であって俺じゃない。

それで礼を言われるのは違う気がするんだが・・・。

ここで断り続けるのも迷惑な話か。

「今までもお前みたいにあちこちウロウロする商人はいたが、俺達の足元をみて法外な値段を吹っ掛けてきやがった。だがお前は最低限の利益しかとらずに俺達に卸している。その気持ちがうれしいんだよ。」

「そりゃあこの街に店を持ってる以上そうなるだろ。」

「それでもやるやつはいるんだよ。ま、そういう奴はいつの間にか居なくなってるけどな。」

アッハッハと大声を上げて笑うマートンさん。

こんな狭い街でそんなことしようものならすぐに居場所が無くなってしまう。

利益を追い求める俺でもさすがにそんなバカなことはしないぞ。

目先の利益に目がくらんで、後々の事など考えていなかったんだろうな。

「有難く頂戴する。」

「そうしてくれ。冒険に出ないんじゃ使い道は少ないだろうが、何なりと使えるだろう。」

「そうだな。」

「これからも頼りにしてるぞ。」

「継続的に仕入れが必要ならまた声を掛けてくれ。」

お互い満足そうに頷いて店を後にする。

ほんの数分店にいただけなのに体中から汗が噴き出していた。

通りを抜ける風が気持ちがいい。

改めて小刀を抜いてみる。

漆黒の刀身が見事な作りだ。

『ダマスカスの小刀。ダマスカス鋼を丹念に叩いて作られてた銘品。切れ味と不折の効果が付与されている。最近の平均取引価格は金貨1枚、最安値銀貨85枚、最高値金貨2枚と銀貨25枚。最終取引日は74日前と記録されています。』

刀自体の値段はそれぐらいだろう。

だがそこに込められた気持ちとか効果を考えたらそんな値段で売ることは出来ない。

価値だけで言えば金貨20枚を超えそうな感じだ。

不折なんて効果始めてみたぞ。

折れない刃物とか反則じゃないだろうか。

「エリザに見せると煩そうだな。」

とはいえ見せないわけにもいかない。

大事にカバンにしまうとゆっくりと店へと歩き出した。

別に街の為職人の為と動いているわけではない。

あくまでも自分の利益の為にあれこれしてきただけなのだが、それが巡り巡って評価されるのは嬉しい話だ。

土地の件もそうだが、堅実に商売をしてきたからこそ周りが色々と手を差し伸べてくれる。

転売屋、買取屋なんて今まで蔑まれてきたが、こんなに喜ばれる日が来るとはなぁ。

それも法外な利益を得ようとしていないからこその話だ。

これからも取れる限りの利益を取りつつ、儲けさせてもらうとしよう。

そんな謎な満足感に包まれながら店へと戻るのだった。
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