226 / 444
226.転売屋は錬金術師と契約する
しおりを挟む
年が明けた。
じゃなかった13月になっただけか。
例年であれば年明けの挨拶回りとかがあるものだが、それはまた12か月後の話だ。
不思議な感覚だが、いつもの日常だと思えばいいだろう。
違いがあるとすれば・・・。
「ぬ、主様、お呼びですか?」
ビアンカが奴隷として生活するようになったことだろう。
レイブさんの所で買った時はまだ一般人の扱いだったが、13月になると同時に奴隷となったワケだな。
とはいえいきなり仕事をするわけにもいかないので、主にアネットの仕事を手伝うように指示している。
素材の処理なんかは似ているらしいので、助手みたいなものだな。
「作業中悪かったな。」
「大丈夫です、一息ついた所なので。」
「13月になったしそろそろ正式な契約書を作ろうと思ってな、ミラ頼む。」
「こちらが契約書になります。」
「契約書、ですか。」
「奴隷とはいえ金さえ納めたら解放する約束だ。口約束ではなくきっちり書面で残すべきだろう。」
「本当に解放してくださるんですね。」
ビアンカ的には口約束だったから信じていなかったらしい。
まぁ普通は奴隷を解放するなんてしないだろうから当然だな。
「目標があった方が仕事も捗るだろ?」
「そりゃあそうですけど。」
とか何とか言いながらちゃっかり契約書を受け取り素早く中身を確認し始めた。
「・・・読み終わりました。」
「何か問題はあるか?」
「むしろこんな条件でいいんでしょうか。」
「どのあたりだ?」
「自由行動、自由契約、義務は月一の報告の納金だけ。てっきり体を求められるとか好き放題されるとか覚悟していたのに。」
「その辺は三人がいるから十分満たされている。俺がお前を買ったのは金を生むからだ。」
「それでも自由すぎません?逃げたらどうするんですか。」
「逃げられないように月一でここに来るように義務付けてるんだろ。」
「サボったらどうするんです?」
「サボればサボるだけ解放が遅れるだけの話だろ?生活費なんかは支給する気はないし、材料の手配も全部自分でやってくれ。まぁ、手に入れにくい物やダンジョン産の素材なんかは連絡をくれれば準備してやる。それを俺から買って作ればいい。」
薬師同様に錬金術師も色々な素材を必要とする。
ただ薬草を使ってポーションを作ればいいってわけじゃない。
むしろ作れる素材やモノの数は錬金術師の方が多いそうだ。
ケガを治すポーションの他にも耐性ポーションや属性ポーション、魔加工用のコーティング剤なんかも錬金術師が作るのだそうだ。
この辺は鍛冶屋の中でも特殊な魔鉱専門の職人が使うらしいのだが、残念な事にこの街にはいない。
だが隣町には居るそうなので定期的に作ってもらって俺が仕入れ、ハーシェさんに運んでもらうという手段が取れそうだ。
「定期納品の品目はまた後日お送りします。いきなりは素材の準備も出来ないでしょうから、初回はこちらで材料を準備しますので必要な素材を書き出すように。」
「はい、ミラ様。」
「売り上げから材料費を抜いた9割が俺の取り分で残り1割がお前。で、そこから生活費を引いた残りを納金してもらう。」
「材料費もそこから抜くという話でしたが?」
「それだと生活できなくなるだろ?」
「まぁ、最初はそうですけど・・・。」
「別にひもじい生活をさせたいわけじゃないんだ、きっちり仕事して金を入れてくれればそれでいい。」
ギリギリまで切り詰めて金を搾り取ろうなんざ馬鹿のやる事だ。
快適な生活、快適な仕事環境こそ最良の結果を産み出す。
その結果が直接売り上げにつながり、そして俺の金になる。
稼げば稼ぐだけ返済は早まるだろうが、その分俺の取り分も増えていくってわけだ。
「住む場所はここじゃないんですね。」
「今はアネットの部屋で生活してもらっているがやっぱり狭いからなぁ。これ以上器具を増やせない以上、出て行ってもらうしかない。元の街なら顔見知りと仕入れ先のどちらもあるから仕事しやすいだろ?」
「でも、本当に錬金機材を用意してくださったんですね。」
「あぁ、ギルド協会に声をかけて押さえてもらっている。」
「じゃあ戻ったら家賃を払わないと。」
「それなんだがな、家賃はこっちに払ってくれ。」
「え?」
よくわからないという顔をするビアンカ。
ま、普通はそう言う顔するよな。
「毎月の家賃っていくらだった?」
「金貨2枚です。」
三日月亭に一月泊まると銀貨30枚。
一部屋でそれぐらいなんだから一軒丸々だとそんなもんだろう。
「まぁそんなもんだよなぁ。」
「滞納分もありますから最初は更にお金を借りなければならないですよね、はぁ。」
「それは気にしなくていいぞ、全部清算してある。」
「立て替えてくださったんですか?」
「いや、それも含めて家を買う事にした。」
「はい?」
本日二回目のよくわからないという顔。
それがおかしかったのかミラが横を向いて笑いをこらえている。
なかなかレアなシーンだぞ。
「家を買うと申し出たら滞納した家賃は要らないと言ってくれたぞ、良い家主じゃないか。すぐに機材を売る事もしなかったようだし、向こうに着いたら直接御礼を言いに行くからついてこい、わかったな?」
「いくらだったんですか?」
「それは聞かない方がいいだろう。毎月の家賃は今と変わらず金貨2枚でいいぞ、返済分とは別に毎月支払うように。」
「家を一括で買うって・・・、どれだけお金持ちなんですか。」
「色々やってるからな、俺一人で稼いだ金じゃないさ。」
因みに代金は金貨300枚だった。
一か月金貨2枚という事は年間で金貨24枚。
12年半で元が取れる計算になっている。
ビアンカの返済期間は20年ほど。
元が取れるどころか後は利益を生み出してくれるというわけだ。
不動産屋が儲かる理由がよくわかる。
とはいえこの街でそれをするのは不可能だろう。
前にレイブさんが屋敷の値段を教えてくれたが、一棟金貨2000枚を超えるらしい。
流石の俺でも買う事は出来ないなぁ。
「わかりました、機材があれば十分お支払いできるはずです。」
「しっかり稼げよ。」
「はい!」
「では問題がなければ契約書にサインをお願いいます。」
ペンを渡されたビアンカが署名欄にサインをする。
これにて契約完了だ。
奴隷という身分ではあるが、俺とビアンカは雇用契約を結んだ者同士ということになる。
圧倒的に俺が有利な雇用だけどな。
「さて、契約も終わった事だし早速働いてもらうか。」
「え、今からですか?」
「そんなわけないだろ、出発は三日後。それまでに準備を終わらせるように。」
「かしこまりました。」
「これが支度金だ。もちろん返済する必要はないから安心していいぞ。」
「金貨1枚もですか!」
「機材はあるとしても生活用品は無いはずだ、市場にいるモイラさんに言えば安く手配してくれるだろう。服や下着類は自分で勝手に用意してくれ。」
「ありがとうございます!」
後はビアンカを隣町まで送って行けば任務完了だ。
ついでに薬草をいくつか仕入れていくとしよう。
いや、薬も持って行くべきだな。
確か薬師がいなかったはずだ。
「ちなみに働いてもらうのは本当だぞ、隣町に行くついでに薬も卸すつもりだから引き続きアネットの手伝いをしてくれ。」
「頑張ります!」
「長い付き合いになるがよろしく頼むぞ。」
「はい、よろしくお願いします!」
奴隷がよろしくお願いします・・・か。
なんだか変な感じだ。
小走りで階段を上がっていくビアンカを見送り、小さく息を吐く。
「薬の他にもいくつか見繕いましょうか?」
「そうだな、軽い物であれば馬車に乗るだろう。任せて構わないか?」
「それが私の仕事ですから。」
「・・・奴隷が増えてもミラが俺の一番の奴隷ってことは変わらないから安心しろ。」
「もったいない言葉です、でもありがとうございます。」
「本当に奴隷のままでいいのか?ビアンカのように解放してもいいんだぞ?」
「いえ、シロウ様が不要だと思うまで働かせてください。」
「なら俺が死ぬまでだな。」
「シロウ様が死ぬときは私も一緒です。」
奴隷が後追いするとか死んでも死に切れない。
俺の女にはみんな幸せになってもらわないとな。
まぁ、その頃には俺にも子供ぐらいできてるだろうからミラの面倒はしてくれるはず。
子供、子供かぁ。
真面目に考えないといけないんだろうけど、まだ12か月あるしそれからでもいいか。
なんせ今の俺はまだ20代、やりたい盛りの若者だ。
って、自分で若者っていう時点であれだな。
「せめて一年は遅れて来い。」
「嫌です。」
「即答かよ。」
「シロウ様無しの人生はもう考えられません。」
「随分好かれたものだな。」
「だってシロウ様は私の・・・。」
「なんだって?」
「なんでもありません。」
良く聞き取れなかったが、ぷいっとそっぽを向かれてしまったのでそれ以上は追及しなかった。
「すみません、買取良いですか。」
「おっと、客だ。じゃあそっちは任せたぞ。」
「おまかせを。」
「イラッシャイ、今日は何を持って来たんだ?」
俺は俺の仕事をするとしよう。
さぁ、今日の買取品は何かなっと。
じゃなかった13月になっただけか。
例年であれば年明けの挨拶回りとかがあるものだが、それはまた12か月後の話だ。
不思議な感覚だが、いつもの日常だと思えばいいだろう。
違いがあるとすれば・・・。
「ぬ、主様、お呼びですか?」
ビアンカが奴隷として生活するようになったことだろう。
レイブさんの所で買った時はまだ一般人の扱いだったが、13月になると同時に奴隷となったワケだな。
とはいえいきなり仕事をするわけにもいかないので、主にアネットの仕事を手伝うように指示している。
素材の処理なんかは似ているらしいので、助手みたいなものだな。
「作業中悪かったな。」
「大丈夫です、一息ついた所なので。」
「13月になったしそろそろ正式な契約書を作ろうと思ってな、ミラ頼む。」
「こちらが契約書になります。」
「契約書、ですか。」
「奴隷とはいえ金さえ納めたら解放する約束だ。口約束ではなくきっちり書面で残すべきだろう。」
「本当に解放してくださるんですね。」
ビアンカ的には口約束だったから信じていなかったらしい。
まぁ普通は奴隷を解放するなんてしないだろうから当然だな。
「目標があった方が仕事も捗るだろ?」
「そりゃあそうですけど。」
とか何とか言いながらちゃっかり契約書を受け取り素早く中身を確認し始めた。
「・・・読み終わりました。」
「何か問題はあるか?」
「むしろこんな条件でいいんでしょうか。」
「どのあたりだ?」
「自由行動、自由契約、義務は月一の報告の納金だけ。てっきり体を求められるとか好き放題されるとか覚悟していたのに。」
「その辺は三人がいるから十分満たされている。俺がお前を買ったのは金を生むからだ。」
「それでも自由すぎません?逃げたらどうするんですか。」
「逃げられないように月一でここに来るように義務付けてるんだろ。」
「サボったらどうするんです?」
「サボればサボるだけ解放が遅れるだけの話だろ?生活費なんかは支給する気はないし、材料の手配も全部自分でやってくれ。まぁ、手に入れにくい物やダンジョン産の素材なんかは連絡をくれれば準備してやる。それを俺から買って作ればいい。」
薬師同様に錬金術師も色々な素材を必要とする。
ただ薬草を使ってポーションを作ればいいってわけじゃない。
むしろ作れる素材やモノの数は錬金術師の方が多いそうだ。
ケガを治すポーションの他にも耐性ポーションや属性ポーション、魔加工用のコーティング剤なんかも錬金術師が作るのだそうだ。
この辺は鍛冶屋の中でも特殊な魔鉱専門の職人が使うらしいのだが、残念な事にこの街にはいない。
だが隣町には居るそうなので定期的に作ってもらって俺が仕入れ、ハーシェさんに運んでもらうという手段が取れそうだ。
「定期納品の品目はまた後日お送りします。いきなりは素材の準備も出来ないでしょうから、初回はこちらで材料を準備しますので必要な素材を書き出すように。」
「はい、ミラ様。」
「売り上げから材料費を抜いた9割が俺の取り分で残り1割がお前。で、そこから生活費を引いた残りを納金してもらう。」
「材料費もそこから抜くという話でしたが?」
「それだと生活できなくなるだろ?」
「まぁ、最初はそうですけど・・・。」
「別にひもじい生活をさせたいわけじゃないんだ、きっちり仕事して金を入れてくれればそれでいい。」
ギリギリまで切り詰めて金を搾り取ろうなんざ馬鹿のやる事だ。
快適な生活、快適な仕事環境こそ最良の結果を産み出す。
その結果が直接売り上げにつながり、そして俺の金になる。
稼げば稼ぐだけ返済は早まるだろうが、その分俺の取り分も増えていくってわけだ。
「住む場所はここじゃないんですね。」
「今はアネットの部屋で生活してもらっているがやっぱり狭いからなぁ。これ以上器具を増やせない以上、出て行ってもらうしかない。元の街なら顔見知りと仕入れ先のどちらもあるから仕事しやすいだろ?」
「でも、本当に錬金機材を用意してくださったんですね。」
「あぁ、ギルド協会に声をかけて押さえてもらっている。」
「じゃあ戻ったら家賃を払わないと。」
「それなんだがな、家賃はこっちに払ってくれ。」
「え?」
よくわからないという顔をするビアンカ。
ま、普通はそう言う顔するよな。
「毎月の家賃っていくらだった?」
「金貨2枚です。」
三日月亭に一月泊まると銀貨30枚。
一部屋でそれぐらいなんだから一軒丸々だとそんなもんだろう。
「まぁそんなもんだよなぁ。」
「滞納分もありますから最初は更にお金を借りなければならないですよね、はぁ。」
「それは気にしなくていいぞ、全部清算してある。」
「立て替えてくださったんですか?」
「いや、それも含めて家を買う事にした。」
「はい?」
本日二回目のよくわからないという顔。
それがおかしかったのかミラが横を向いて笑いをこらえている。
なかなかレアなシーンだぞ。
「家を買うと申し出たら滞納した家賃は要らないと言ってくれたぞ、良い家主じゃないか。すぐに機材を売る事もしなかったようだし、向こうに着いたら直接御礼を言いに行くからついてこい、わかったな?」
「いくらだったんですか?」
「それは聞かない方がいいだろう。毎月の家賃は今と変わらず金貨2枚でいいぞ、返済分とは別に毎月支払うように。」
「家を一括で買うって・・・、どれだけお金持ちなんですか。」
「色々やってるからな、俺一人で稼いだ金じゃないさ。」
因みに代金は金貨300枚だった。
一か月金貨2枚という事は年間で金貨24枚。
12年半で元が取れる計算になっている。
ビアンカの返済期間は20年ほど。
元が取れるどころか後は利益を生み出してくれるというわけだ。
不動産屋が儲かる理由がよくわかる。
とはいえこの街でそれをするのは不可能だろう。
前にレイブさんが屋敷の値段を教えてくれたが、一棟金貨2000枚を超えるらしい。
流石の俺でも買う事は出来ないなぁ。
「わかりました、機材があれば十分お支払いできるはずです。」
「しっかり稼げよ。」
「はい!」
「では問題がなければ契約書にサインをお願いいます。」
ペンを渡されたビアンカが署名欄にサインをする。
これにて契約完了だ。
奴隷という身分ではあるが、俺とビアンカは雇用契約を結んだ者同士ということになる。
圧倒的に俺が有利な雇用だけどな。
「さて、契約も終わった事だし早速働いてもらうか。」
「え、今からですか?」
「そんなわけないだろ、出発は三日後。それまでに準備を終わらせるように。」
「かしこまりました。」
「これが支度金だ。もちろん返済する必要はないから安心していいぞ。」
「金貨1枚もですか!」
「機材はあるとしても生活用品は無いはずだ、市場にいるモイラさんに言えば安く手配してくれるだろう。服や下着類は自分で勝手に用意してくれ。」
「ありがとうございます!」
後はビアンカを隣町まで送って行けば任務完了だ。
ついでに薬草をいくつか仕入れていくとしよう。
いや、薬も持って行くべきだな。
確か薬師がいなかったはずだ。
「ちなみに働いてもらうのは本当だぞ、隣町に行くついでに薬も卸すつもりだから引き続きアネットの手伝いをしてくれ。」
「頑張ります!」
「長い付き合いになるがよろしく頼むぞ。」
「はい、よろしくお願いします!」
奴隷がよろしくお願いします・・・か。
なんだか変な感じだ。
小走りで階段を上がっていくビアンカを見送り、小さく息を吐く。
「薬の他にもいくつか見繕いましょうか?」
「そうだな、軽い物であれば馬車に乗るだろう。任せて構わないか?」
「それが私の仕事ですから。」
「・・・奴隷が増えてもミラが俺の一番の奴隷ってことは変わらないから安心しろ。」
「もったいない言葉です、でもありがとうございます。」
「本当に奴隷のままでいいのか?ビアンカのように解放してもいいんだぞ?」
「いえ、シロウ様が不要だと思うまで働かせてください。」
「なら俺が死ぬまでだな。」
「シロウ様が死ぬときは私も一緒です。」
奴隷が後追いするとか死んでも死に切れない。
俺の女にはみんな幸せになってもらわないとな。
まぁ、その頃には俺にも子供ぐらいできてるだろうからミラの面倒はしてくれるはず。
子供、子供かぁ。
真面目に考えないといけないんだろうけど、まだ12か月あるしそれからでもいいか。
なんせ今の俺はまだ20代、やりたい盛りの若者だ。
って、自分で若者っていう時点であれだな。
「せめて一年は遅れて来い。」
「嫌です。」
「即答かよ。」
「シロウ様無しの人生はもう考えられません。」
「随分好かれたものだな。」
「だってシロウ様は私の・・・。」
「なんだって?」
「なんでもありません。」
良く聞き取れなかったが、ぷいっとそっぽを向かれてしまったのでそれ以上は追及しなかった。
「すみません、買取良いですか。」
「おっと、客だ。じゃあそっちは任せたぞ。」
「おまかせを。」
「イラッシャイ、今日は何を持って来たんだ?」
俺は俺の仕事をするとしよう。
さぁ、今日の買取品は何かなっと。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
269
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる