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252.転売屋は場所を貸す
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冬ももうすぐ終わりだ。
心なしか外も温かくなり、マフラーをつけなくても出歩けるようになってきた。
とはいえまだ寒い日はあるんだけどな。
「あの~、シロウさんいますか?」
店番をしているとカランと音を立てて戸が開き、申し訳なさそうな顔をしたルティエが顔をのぞかせていた。
「お、ルティエじゃないか。どうしたんだ?そんな所にいないで中に入って来いよ。」
「えへへ、お邪魔します。」
「工房を出るなんて珍しいな。今日の分は終わったか?」
「うん、今日は調子が良かったんだ。あ、これ今月の分。」
「お、なかなかいい感じじゃないか。エリザが喜びそうだ。」
ルティエが取り出したのは小さなアクセサリー。
本業とは別に趣味で作っている冒険者用のやつだ。
わずかながら加護を得られるという事で、特に女性冒険者から人気がある。
「ありがと。でもそろそろ材料が無くなりそうなんだ。」
「材料ってことは宝石の方か。」
「うん。」
「ならまたダスキーに連絡して持ってきてもらうか。あぁ、風呂に入ってから来いって言っといてくれよ。」
「あはは、そうする。」
普段は下水道の掃除をしているからどうしても臭いがな。
前みたいに簡易のふろを用意してやるって手もあるが、うちは風呂屋じゃなくて買取屋だ。
そこまでする必要はないだろう。
「確かに納品してもらった。代金は・・・。」
「あ、また今度でいいよ。それよりもね、今日はお願いがあるんだ。」
「お願い?」
「実は、新しいアクセサリーを作りたいんだけどなかなかいい案が浮かばなくて。相談に乗ってもらえないかな。」
「それは構わないが、俺は男だぞ?」
「でも涙貝はシロウさんが考えたんだよ?」
「いやまぁ、そうなんだが・・・。」
あれはたまたま思いついただけで本当に偶然だ。
本業は買取屋でデザイナーではない。
「ねぇねぇ何の話?」
「お、エリザちょうどいい所に帰って来たな。」
「なによ、今日はダンジョンに行ったんじゃないのよ?」
「知ってるって。実はな・・・。」
エリザにルティエの相談について話をする。
すると、途端に目を輝かせ始めた。
「なにそれ!すっごい面白そう!」
「面白そうって、ルティエにとっては遊びじゃないんだぞ?」
「わかってるわよ。でね、実は前々から考えていたのがあったんだけど。」
「どんなのですか?」
エリザとルティエがカウンターに集まって何やら話を始めた。
と、またカランと音を立てて戸が開く。
「いらっしゃい。」
「あれ、先客がいるのか。」
「いや、これは・・・。おいお前ら、仕事の邪魔だから上でやってくれ。」
「え、でも上はミラとアネットが・・・。」
「いいから。で、今日は何を買い取ればいい?」
エリザとルティエを店の奥に押し込み、客を迎え入れる。
確かミラとアネットは二階の掃除をしていたはずだが・・・。
ま、大丈夫だろう。
しばらく客が途切れずにやって来て、終わったのは昼過ぎ。
休憩の札をつけて一息つく。
そういやルティエ達は降りてこないな。
何やってるんだろうか。
水を一杯飲んでから階段を上がる。
「だから、ここはもうちょっと鋭角にして・・・。」
「ですがそれでは髪の毛に引っかかりますよ。」
「そっかぁ、じゃあこんなのは?」
「いいですね!」
「私はこういうのが好きです。」
「あ~、わかります!上品で、でも可愛らしい感じ。私ももうすこし大人っぽかったら似合うんですけど・・・、アネットさんやミラさんみたいになりたいなぁ。」
「ルティエ様も十分素敵ですよ。」
「でもでも、シロウさんは全然興味ないみたいなんですよね~、はぁ。」
何やら上は賑やかな感じだ。
ここは俺が行くとややこしい事になりそうだな。
女三人寄れば姦しい。
四人ならばなおさらだろう。
邪魔者は退散して・・・っと。
階段を下り、五人分の昼食を作る。
で、一人分だけ食べる。
はぁ、お腹いっぱい。
んじゃま、続きをしますかね。
開店の札にするとすぐに客がやってきた。
今日は随分と客が多いな。
それも男ばかりだ。
「なぁ、なんで今日はこんなに買取が多いんだ?」
「え、シロウさん知らないんっすか?」
「なにがだ?」
「来月はお礼の日ですよ?」
「なんだそれ。」
「感謝の日に贈り物をもらった人が、その返事をする日ですよ。俺も貰っちゃったんですよね~。」
「・・・はい?」
「だから、贈り物の日に告白された人が返事をするんですって。指輪もいいけど、ネックレスもいいですよね~。」
あー、うんなんとなく理解した。
つまりホワイトデー、三倍返しの日ってやつだ。
だからあの日にみんな贈り物を持って来たのか。
つまりその返事をしないといけないわけで・・・。
マジか。
「ちなみに贈り物をもらって返事をしないとどうなるんだ?」
「告白だったらお断り。感謝だったら・・・嫌われたと思うでしょうねぇ。」
「そりゃマズイ。」
「まぁ普通そんな事しませんけど。って、シロウさんもしかして・・・。」
「あぁ、よくわからんがかなり貰った。」
「お金持ちですから大丈夫でしょうけど、頑張ってくださいね。」
はぁ。
ついこの間、クリスマスと歳暮を渡したはずなんだが・・・。
てっきりそのお礼だと思っていたのにまたお返しをしないといけないのか。
何て不毛なんだ。
どこかで終わらせなきゃと思うが、それもなぁ。
これも渡したやつの宿命か。
情報料として少し高めに買い取ってやり、しばらく考える。
上はまだ賑やかなようだ。
閉店の札に変えて裏に戻ると、昼食を済ませた跡があった。
ちゃんと食器を洗って片づけてある。
それに気づかないぐらい忙しかったわけだが。
とりあえず買取品を整理して、倉庫に突っ込んで・・・っと。
これで終わり。
「おーいお前ら、一体いつまで話し合ってるんだ?」
「え、あ、もう真っ暗!」
「どうしましょう全然準備してません。」
「今日の夕食担当はアネットだったもんね。」
「ごめんなさい、私が相談したばっかりに・・・。」
なにやら上が騒がしい。
とりあえず晩飯の準備が出来ていないのは分かった。
仕方ない、今日は外食にするか。
二階に上がると、四人がバタバタと後片付けをしていた。
机の上には大量の紙。
まさか、これ全部デザインなのか?
「随分と盛り上がったようだな。」
「はい!新しいデザインを沢山思いつきました!」
「なら場所代を請求しても問題なさそうだな。」
「え・・・。」
「冗談だよ、次の新作をいくつか優先して卸してくれればいい。」
「それだけ?」
「あぁ、来月は、な。」
「「「「あぁ!」」」」
四人が同時に手を叩く。
すっかり忘れていたらしい。
「ほんと、何でも貰うもんじゃないな。」
「いいじゃない、それだけみんなシロウに感謝してるんだから。」
「女連中はそれでいいとして、男連中には何がいいかなぁ。」
「マスターに相談したら?」
「それがいいかもな、ってことで今日はマスターの所に食べに行くぞ。」
「え、シロウのおごり?」
「なら私が払います!デザイン料がわりに!」
ルティエがおごる?
あのルティエが?
「いいのか?エリザはかなり飲むぞ。」
「えへへ、これでも職人通りの稼ぎ頭ですよ?それなりに貯金もしてるんですから。」
「ま、それもそうだな。ってことで、今日はルティエのおごりだ、好きなだけ飲んでいいぞ!」
「やった~!」
「御馳走様です、ルティエ様。」
「ありがとうございます!」
「え、えっと・・・ちょっとは加減してくださいね。」
まぁこの盛り上がりを見ると不安にもなるわな。
大丈夫だって、破産させる程は飲み食いしないから。
ちょっと、いやそれなりに貯金は減るかもしれないけどな。
高いデザイン料とおもえばいいだろう。
いや~、人の金で食う飯はいいもんだなぁ。
若干、いやかなり頬を引きつらせているルティエの肩をポンポンと叩き外に出る準備をする。
その後、15月になってすぐルティエの新作アクセサリーが発表された。
チェリーアイアンというピンク色をした金属を使った作品は春に相応しいデザインも相成って大人気。
即日完売が続くのだった。
もちろん素材を仕入れたのはハーシェさん。
そして各アクセサリーに付けられた宝石はダスキーが見つけてきたやつだ。
売れれば売れるだけ俺に金が戻って来る。
いやー、たまりませんなぁ。
こんなに儲かるなら毎回うちの二階を提供してデザインを考えてもらおうか。
なんて図太いことを考えるのだった。
心なしか外も温かくなり、マフラーをつけなくても出歩けるようになってきた。
とはいえまだ寒い日はあるんだけどな。
「あの~、シロウさんいますか?」
店番をしているとカランと音を立てて戸が開き、申し訳なさそうな顔をしたルティエが顔をのぞかせていた。
「お、ルティエじゃないか。どうしたんだ?そんな所にいないで中に入って来いよ。」
「えへへ、お邪魔します。」
「工房を出るなんて珍しいな。今日の分は終わったか?」
「うん、今日は調子が良かったんだ。あ、これ今月の分。」
「お、なかなかいい感じじゃないか。エリザが喜びそうだ。」
ルティエが取り出したのは小さなアクセサリー。
本業とは別に趣味で作っている冒険者用のやつだ。
わずかながら加護を得られるという事で、特に女性冒険者から人気がある。
「ありがと。でもそろそろ材料が無くなりそうなんだ。」
「材料ってことは宝石の方か。」
「うん。」
「ならまたダスキーに連絡して持ってきてもらうか。あぁ、風呂に入ってから来いって言っといてくれよ。」
「あはは、そうする。」
普段は下水道の掃除をしているからどうしても臭いがな。
前みたいに簡易のふろを用意してやるって手もあるが、うちは風呂屋じゃなくて買取屋だ。
そこまでする必要はないだろう。
「確かに納品してもらった。代金は・・・。」
「あ、また今度でいいよ。それよりもね、今日はお願いがあるんだ。」
「お願い?」
「実は、新しいアクセサリーを作りたいんだけどなかなかいい案が浮かばなくて。相談に乗ってもらえないかな。」
「それは構わないが、俺は男だぞ?」
「でも涙貝はシロウさんが考えたんだよ?」
「いやまぁ、そうなんだが・・・。」
あれはたまたま思いついただけで本当に偶然だ。
本業は買取屋でデザイナーではない。
「ねぇねぇ何の話?」
「お、エリザちょうどいい所に帰って来たな。」
「なによ、今日はダンジョンに行ったんじゃないのよ?」
「知ってるって。実はな・・・。」
エリザにルティエの相談について話をする。
すると、途端に目を輝かせ始めた。
「なにそれ!すっごい面白そう!」
「面白そうって、ルティエにとっては遊びじゃないんだぞ?」
「わかってるわよ。でね、実は前々から考えていたのがあったんだけど。」
「どんなのですか?」
エリザとルティエがカウンターに集まって何やら話を始めた。
と、またカランと音を立てて戸が開く。
「いらっしゃい。」
「あれ、先客がいるのか。」
「いや、これは・・・。おいお前ら、仕事の邪魔だから上でやってくれ。」
「え、でも上はミラとアネットが・・・。」
「いいから。で、今日は何を買い取ればいい?」
エリザとルティエを店の奥に押し込み、客を迎え入れる。
確かミラとアネットは二階の掃除をしていたはずだが・・・。
ま、大丈夫だろう。
しばらく客が途切れずにやって来て、終わったのは昼過ぎ。
休憩の札をつけて一息つく。
そういやルティエ達は降りてこないな。
何やってるんだろうか。
水を一杯飲んでから階段を上がる。
「だから、ここはもうちょっと鋭角にして・・・。」
「ですがそれでは髪の毛に引っかかりますよ。」
「そっかぁ、じゃあこんなのは?」
「いいですね!」
「私はこういうのが好きです。」
「あ~、わかります!上品で、でも可愛らしい感じ。私ももうすこし大人っぽかったら似合うんですけど・・・、アネットさんやミラさんみたいになりたいなぁ。」
「ルティエ様も十分素敵ですよ。」
「でもでも、シロウさんは全然興味ないみたいなんですよね~、はぁ。」
何やら上は賑やかな感じだ。
ここは俺が行くとややこしい事になりそうだな。
女三人寄れば姦しい。
四人ならばなおさらだろう。
邪魔者は退散して・・・っと。
階段を下り、五人分の昼食を作る。
で、一人分だけ食べる。
はぁ、お腹いっぱい。
んじゃま、続きをしますかね。
開店の札にするとすぐに客がやってきた。
今日は随分と客が多いな。
それも男ばかりだ。
「なぁ、なんで今日はこんなに買取が多いんだ?」
「え、シロウさん知らないんっすか?」
「なにがだ?」
「来月はお礼の日ですよ?」
「なんだそれ。」
「感謝の日に贈り物をもらった人が、その返事をする日ですよ。俺も貰っちゃったんですよね~。」
「・・・はい?」
「だから、贈り物の日に告白された人が返事をするんですって。指輪もいいけど、ネックレスもいいですよね~。」
あー、うんなんとなく理解した。
つまりホワイトデー、三倍返しの日ってやつだ。
だからあの日にみんな贈り物を持って来たのか。
つまりその返事をしないといけないわけで・・・。
マジか。
「ちなみに贈り物をもらって返事をしないとどうなるんだ?」
「告白だったらお断り。感謝だったら・・・嫌われたと思うでしょうねぇ。」
「そりゃマズイ。」
「まぁ普通そんな事しませんけど。って、シロウさんもしかして・・・。」
「あぁ、よくわからんがかなり貰った。」
「お金持ちですから大丈夫でしょうけど、頑張ってくださいね。」
はぁ。
ついこの間、クリスマスと歳暮を渡したはずなんだが・・・。
てっきりそのお礼だと思っていたのにまたお返しをしないといけないのか。
何て不毛なんだ。
どこかで終わらせなきゃと思うが、それもなぁ。
これも渡したやつの宿命か。
情報料として少し高めに買い取ってやり、しばらく考える。
上はまだ賑やかなようだ。
閉店の札に変えて裏に戻ると、昼食を済ませた跡があった。
ちゃんと食器を洗って片づけてある。
それに気づかないぐらい忙しかったわけだが。
とりあえず買取品を整理して、倉庫に突っ込んで・・・っと。
これで終わり。
「おーいお前ら、一体いつまで話し合ってるんだ?」
「え、あ、もう真っ暗!」
「どうしましょう全然準備してません。」
「今日の夕食担当はアネットだったもんね。」
「ごめんなさい、私が相談したばっかりに・・・。」
なにやら上が騒がしい。
とりあえず晩飯の準備が出来ていないのは分かった。
仕方ない、今日は外食にするか。
二階に上がると、四人がバタバタと後片付けをしていた。
机の上には大量の紙。
まさか、これ全部デザインなのか?
「随分と盛り上がったようだな。」
「はい!新しいデザインを沢山思いつきました!」
「なら場所代を請求しても問題なさそうだな。」
「え・・・。」
「冗談だよ、次の新作をいくつか優先して卸してくれればいい。」
「それだけ?」
「あぁ、来月は、な。」
「「「「あぁ!」」」」
四人が同時に手を叩く。
すっかり忘れていたらしい。
「ほんと、何でも貰うもんじゃないな。」
「いいじゃない、それだけみんなシロウに感謝してるんだから。」
「女連中はそれでいいとして、男連中には何がいいかなぁ。」
「マスターに相談したら?」
「それがいいかもな、ってことで今日はマスターの所に食べに行くぞ。」
「え、シロウのおごり?」
「なら私が払います!デザイン料がわりに!」
ルティエがおごる?
あのルティエが?
「いいのか?エリザはかなり飲むぞ。」
「えへへ、これでも職人通りの稼ぎ頭ですよ?それなりに貯金もしてるんですから。」
「ま、それもそうだな。ってことで、今日はルティエのおごりだ、好きなだけ飲んでいいぞ!」
「やった~!」
「御馳走様です、ルティエ様。」
「ありがとうございます!」
「え、えっと・・・ちょっとは加減してくださいね。」
まぁこの盛り上がりを見ると不安にもなるわな。
大丈夫だって、破産させる程は飲み食いしないから。
ちょっと、いやそれなりに貯金は減るかもしれないけどな。
高いデザイン料とおもえばいいだろう。
いや~、人の金で食う飯はいいもんだなぁ。
若干、いやかなり頬を引きつらせているルティエの肩をポンポンと叩き外に出る準備をする。
その後、15月になってすぐルティエの新作アクセサリーが発表された。
チェリーアイアンというピンク色をした金属を使った作品は春に相応しいデザインも相成って大人気。
即日完売が続くのだった。
もちろん素材を仕入れたのはハーシェさん。
そして各アクセサリーに付けられた宝石はダスキーが見つけてきたやつだ。
売れれば売れるだけ俺に金が戻って来る。
いやー、たまりませんなぁ。
こんなに儲かるなら毎回うちの二階を提供してデザインを考えてもらおうか。
なんて図太いことを考えるのだった。
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