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279.転売屋はマスターの過去を知る
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ある日の事。
いつものように店番をしていると、一人の客がやってきた。
「買取屋だって聞いてきたんだけど、本当になんでも買い取ってくれるの?」
「いらっしゃい。物によるが、まぁ大抵買い取ってるぞ。」
「あっそ、じゃあお願いするわ。」
入って来たのは30代後半の女性。
若干気の強そうな感じで、年下である(見た目だけ)俺を見下している感じだ。
まぁ、そう言う客は多いしそんな事でいちいち気分を害する事もない。
「商品をここに出してくれ。」
「はいはい。」
めんどくさそうな顔をしながら女が出したのは小さなリングだった。
『金の指輪。何の変哲もない金の指輪。最近の平均取引価格は銀貨30枚、最安値銀貨15枚、最高値銀貨35枚。最終取引日は17日前と記録されています。』
何の変哲もないっていうのが面白いな。
ただの指輪みたいだ。
「金の指輪、効果もないから銀貨15枚って所か。」
「安すぎでしょ!」
「買取ならそんなものだ、目の前に質屋があるから不満があるならそっちに行けよ。」
「銀貨25枚にはならないの?」
「そうだな・・・出せて銀貨17枚だ。」
「あんまり変わらないじゃない!」
「ただの金の指輪だぞ?潰すのにも金がかかるんだ、無茶言うな。」
買い取った所で使い道もないし、ルティエに頼んで何かに加工してもらうしかないだろう。
ん?中に何か彫ってある。
イニシャルか?
Y to G
GからYへ。
こんなの彫ってあったら再利用できないじゃないか。
あぁ、結局余分な金がかかるのか。
「はぁ、どうしよう・・・。でもゲイルには迷惑かけられないし。」
「ん?いまゲイルって言ったか?」
「ちょっと、勝手に聞かないでくれる?」
「無理言うなっての。」
「別に貴方には関係ないでしょ。」
いや、まぁそうなんだけど。
ま、他人の面倒に首を突っ込むのは馬鹿のすることだ。
さっさとお引き取りいただくとしよう。
「買い取るのか、どうなんだ?」
「仕方ないわ、それで買い取って頂戴。」
「毎度あり。」
女の前に銀貨を積み上げるとふんだくるようにそれを掴んで去っていった。
はぁ、めんどくさ。
「なんだったの?」
「さぁ、金に困ってたんじゃないか?貰い物の指輪みたいだったし。」
「ふ~ん。あ、私は売ったりしないからね!」
「別に、金に困ったんならさっさと売っぱらえ。」
「そんなことしないわよ!」
エリザが慌てて自分の指を隠した。
別に俺は気にしないんだけどなぁ。
それで緊急事態が避けられるのであれば安い物だ。
物はまた買えばいい。
だが失った命は買い戻せない。
命は買えるのに不思議なものだなぁ。
「っと、そうだったちょっと出て来る。」
「マスターに呼ばれてるんだっけ?」
「あぁ、カーラの件でな。」
一体何をしでかしたんだろうか。
店を任せて三日月亭へと向かう。
「いけね、買取品持って来ちまった。」
ポケットを探るとさっきの金の指輪が引っかかる。
まぁいいか、帳簿には書いてあるし戻ってから倉庫にぶち込めば。
扉をあけるとちょうどマスターとカーラが話をしていた。
「よぉ、来たぞ。」
「ちょうど良い所に来たな。」
「こんにちはシロウさん。」
「宿の感じはどうだ?」
「ご飯は美味しいし部屋は綺麗だしベッドはフカフカだし最高!」
「だ、そうだ。」
「それはなによりよだ。」
満足そうな顔をするマスター。
そりゃあそこまで褒められて悪い気はしないだろう。
「で、呼ばれたわけだが何かあったのか?」
「シロウさん、宿代は負担させてください!」
「ってな感じなんだよ。」
「はぁ?」
「こんな素敵な宿まで紹介してもらって、費用負担なしなんて流石に好待遇過ぎます。」
「普通喜ぶところじゃないか?」
「共同研究なんでしたらそこはちゃんと線引きしないと。せめて半額は負担させてください。」
「代金はお前からもらってるんだが、追加で払うって言ってきかないんだ。で、俺からお前に返してほしいんだと。」
何でそんな面倒な事をするんだ?
直接俺に返しにくればいいのに。
「だってシロウさん受け取らないじゃないですか。」
「そりゃなぁ、そう言う契約だし。」
「じゃあ契約改定を希望します、内容は待遇の更新で。」
「却下だ。」
「なんで!」
「ブツが出来上がったならともかく今は研究段階だ。金が生まれない現状でそれはできないな。」
「お金ならありますよ?」
「そう言う問題じゃない。これは今後の為だ。」
利益を公平に折半するという契約を結んだ以上、それを遂行する義務が俺にはある。
金を産み出さない状況であれば金を出すのは俺。
金が金を産むようになれば戻してくれればいい。
「でも!」
「とりあえずこいつに甘えとけ。俺が言うのもなんだがこの街で一、二を争う金持ちだぞ。」
「いやいや、四番手ぐらいだろ?」
「同じだって。」
「え、そんなにお金持ちなんですか?」
「色々と手広くやってるからな。この前はオークションで荒稼ぎしていたし、そこにそのブツが加わったら街一番の座も近いだろう。そんなに金を稼いで何がしたいんだか。」
「金があれば安心するからな、老後の為だよ。」
「地獄に金は持って行けないぞ?」
「地獄前提かよ!」
でもまぁ、死んだらどこにいくにせよ金は持って行けないわけで。
地獄の沙汰も金次第とはよく言ったものだが、現実はどうにもならない。
まてよ、そもそも地獄があるのかすらわからないんじゃ?
異世界があるならあってもおかしくはないけどな。
「ともかくだ、うちは金さえ貰えれば文句はない。だからそっちはそっちで解決してくれ。」
「払います!」
「いらないって!」
「払います!」
バンとカウンターを叩いて主張するカーラさん、それに対抗するように俺もカウンターを叩く。
と、その拍子にポケットから指輪が落ちてしまった。
「おい、何か落ちたぞ。ん?その指輪は・・・。」
素早くマスターがそいつを拾い上げてマジマジと見つめた。
「悪い悪い・・・ってどうかしたのか?」
「それ、どうした?」
「さっき客から買ったんだよ。金に困ってそうな女だったな。」
「そうか・・・。」
コトンとカウンターに指輪が置く音が響く。
あれ、たしかマスターの名前って・・・。
「知り合いみたいだな。」
「元嫁だよ。」
「え、結婚してたのか!?」
「まぁ、昔にな。色々あって別れたが指輪は渡したままだった。こいつがその指輪だよ。そうか、ヨナがこの街に。」
「シロウさん、シロウさん。」
「どうした?」
「私たち御暇した方がいいですかね。」
「あ~そんな感じだな。」
昔を思い出して黄昏ているようだ。
今回の件は俺とカーラさんの問題だし、大人しくここは外にでて・・・。
「おい、二人共。」
「な、なんでしょう!」
「ちょいと話がある。いや、相談だ。」
「残念だが戻ってくる当てのない金は貸さない主義でね。」
「まぁ、そうだよなぁ。」
マスターの過去に何があったかは知らないが、あの女に金を貸す気はさらさらない。
それが例えマスターの頼みでもな。
「え、貸さないんですか?」
「何処の誰かもわからないやつに金を貸すほどは余っちゃいない。」
「そんな・・・。」
「いや、それが普通の判断だろう。俺も元嫁の事とはいえ気が動転したみたいだ、すまん。」
「何があったのかは知らないが、女関係は気をつけろよ。」
「お前に言われたくねぇよ。」
「だが、どうにもならないのであれば声をかけてくれ。そいつにではなくマスターに出資する金は用意してる。」
「高くつきそうな貸しだなぁ・・・。でもまぁ、その時はよろしく頼む。」
おそらく、というか間違いなく金関係だろう。
マスターに迷惑はかけたくないと言ってはいたものの、ここに来たのはどう考えてもそれ目的だ。
「指輪はマスターが持っていてくれ、よほどの馬鹿じゃなければそれを持っている理由が分かるだろ。」
「そうだな。」
「じゃあ、その出資金は私が援助しますね。」
「だから、ややこしくなるから・・・。」
「マスターに貸しを作ればご飯のグレードアップにデザートもつきそうじゃないですか?」
「・・・確かに。」
あいかわらずめざといなぁこの人は。
「どっちに借りても高くつくなぁ。」
「ま、そっちの面倒はそっちで解決してくれ。俺はマスターの味方だ。」
「あぁ、頼りにしてる。」
「じゃあな。」
とりあえずカーラとの話は保留だ。
出資金の件もあるし、今は金があった方がいいだろう。
あの人が今の契約に不満があるって事もわかったし、その辺はおいおい相談だな。
しっかし、マスターが結婚をねぇ。
バツイチだったのは知らなかった。
それで結婚の話が出た時によく考えろよって言っていたのか。
今度迷ったら相談でもしてみるかな。
いつものように店番をしていると、一人の客がやってきた。
「買取屋だって聞いてきたんだけど、本当になんでも買い取ってくれるの?」
「いらっしゃい。物によるが、まぁ大抵買い取ってるぞ。」
「あっそ、じゃあお願いするわ。」
入って来たのは30代後半の女性。
若干気の強そうな感じで、年下である(見た目だけ)俺を見下している感じだ。
まぁ、そう言う客は多いしそんな事でいちいち気分を害する事もない。
「商品をここに出してくれ。」
「はいはい。」
めんどくさそうな顔をしながら女が出したのは小さなリングだった。
『金の指輪。何の変哲もない金の指輪。最近の平均取引価格は銀貨30枚、最安値銀貨15枚、最高値銀貨35枚。最終取引日は17日前と記録されています。』
何の変哲もないっていうのが面白いな。
ただの指輪みたいだ。
「金の指輪、効果もないから銀貨15枚って所か。」
「安すぎでしょ!」
「買取ならそんなものだ、目の前に質屋があるから不満があるならそっちに行けよ。」
「銀貨25枚にはならないの?」
「そうだな・・・出せて銀貨17枚だ。」
「あんまり変わらないじゃない!」
「ただの金の指輪だぞ?潰すのにも金がかかるんだ、無茶言うな。」
買い取った所で使い道もないし、ルティエに頼んで何かに加工してもらうしかないだろう。
ん?中に何か彫ってある。
イニシャルか?
Y to G
GからYへ。
こんなの彫ってあったら再利用できないじゃないか。
あぁ、結局余分な金がかかるのか。
「はぁ、どうしよう・・・。でもゲイルには迷惑かけられないし。」
「ん?いまゲイルって言ったか?」
「ちょっと、勝手に聞かないでくれる?」
「無理言うなっての。」
「別に貴方には関係ないでしょ。」
いや、まぁそうなんだけど。
ま、他人の面倒に首を突っ込むのは馬鹿のすることだ。
さっさとお引き取りいただくとしよう。
「買い取るのか、どうなんだ?」
「仕方ないわ、それで買い取って頂戴。」
「毎度あり。」
女の前に銀貨を積み上げるとふんだくるようにそれを掴んで去っていった。
はぁ、めんどくさ。
「なんだったの?」
「さぁ、金に困ってたんじゃないか?貰い物の指輪みたいだったし。」
「ふ~ん。あ、私は売ったりしないからね!」
「別に、金に困ったんならさっさと売っぱらえ。」
「そんなことしないわよ!」
エリザが慌てて自分の指を隠した。
別に俺は気にしないんだけどなぁ。
それで緊急事態が避けられるのであれば安い物だ。
物はまた買えばいい。
だが失った命は買い戻せない。
命は買えるのに不思議なものだなぁ。
「っと、そうだったちょっと出て来る。」
「マスターに呼ばれてるんだっけ?」
「あぁ、カーラの件でな。」
一体何をしでかしたんだろうか。
店を任せて三日月亭へと向かう。
「いけね、買取品持って来ちまった。」
ポケットを探るとさっきの金の指輪が引っかかる。
まぁいいか、帳簿には書いてあるし戻ってから倉庫にぶち込めば。
扉をあけるとちょうどマスターとカーラが話をしていた。
「よぉ、来たぞ。」
「ちょうど良い所に来たな。」
「こんにちはシロウさん。」
「宿の感じはどうだ?」
「ご飯は美味しいし部屋は綺麗だしベッドはフカフカだし最高!」
「だ、そうだ。」
「それはなによりよだ。」
満足そうな顔をするマスター。
そりゃあそこまで褒められて悪い気はしないだろう。
「で、呼ばれたわけだが何かあったのか?」
「シロウさん、宿代は負担させてください!」
「ってな感じなんだよ。」
「はぁ?」
「こんな素敵な宿まで紹介してもらって、費用負担なしなんて流石に好待遇過ぎます。」
「普通喜ぶところじゃないか?」
「共同研究なんでしたらそこはちゃんと線引きしないと。せめて半額は負担させてください。」
「代金はお前からもらってるんだが、追加で払うって言ってきかないんだ。で、俺からお前に返してほしいんだと。」
何でそんな面倒な事をするんだ?
直接俺に返しにくればいいのに。
「だってシロウさん受け取らないじゃないですか。」
「そりゃなぁ、そう言う契約だし。」
「じゃあ契約改定を希望します、内容は待遇の更新で。」
「却下だ。」
「なんで!」
「ブツが出来上がったならともかく今は研究段階だ。金が生まれない現状でそれはできないな。」
「お金ならありますよ?」
「そう言う問題じゃない。これは今後の為だ。」
利益を公平に折半するという契約を結んだ以上、それを遂行する義務が俺にはある。
金を産み出さない状況であれば金を出すのは俺。
金が金を産むようになれば戻してくれればいい。
「でも!」
「とりあえずこいつに甘えとけ。俺が言うのもなんだがこの街で一、二を争う金持ちだぞ。」
「いやいや、四番手ぐらいだろ?」
「同じだって。」
「え、そんなにお金持ちなんですか?」
「色々と手広くやってるからな。この前はオークションで荒稼ぎしていたし、そこにそのブツが加わったら街一番の座も近いだろう。そんなに金を稼いで何がしたいんだか。」
「金があれば安心するからな、老後の為だよ。」
「地獄に金は持って行けないぞ?」
「地獄前提かよ!」
でもまぁ、死んだらどこにいくにせよ金は持って行けないわけで。
地獄の沙汰も金次第とはよく言ったものだが、現実はどうにもならない。
まてよ、そもそも地獄があるのかすらわからないんじゃ?
異世界があるならあってもおかしくはないけどな。
「ともかくだ、うちは金さえ貰えれば文句はない。だからそっちはそっちで解決してくれ。」
「払います!」
「いらないって!」
「払います!」
バンとカウンターを叩いて主張するカーラさん、それに対抗するように俺もカウンターを叩く。
と、その拍子にポケットから指輪が落ちてしまった。
「おい、何か落ちたぞ。ん?その指輪は・・・。」
素早くマスターがそいつを拾い上げてマジマジと見つめた。
「悪い悪い・・・ってどうかしたのか?」
「それ、どうした?」
「さっき客から買ったんだよ。金に困ってそうな女だったな。」
「そうか・・・。」
コトンとカウンターに指輪が置く音が響く。
あれ、たしかマスターの名前って・・・。
「知り合いみたいだな。」
「元嫁だよ。」
「え、結婚してたのか!?」
「まぁ、昔にな。色々あって別れたが指輪は渡したままだった。こいつがその指輪だよ。そうか、ヨナがこの街に。」
「シロウさん、シロウさん。」
「どうした?」
「私たち御暇した方がいいですかね。」
「あ~そんな感じだな。」
昔を思い出して黄昏ているようだ。
今回の件は俺とカーラさんの問題だし、大人しくここは外にでて・・・。
「おい、二人共。」
「な、なんでしょう!」
「ちょいと話がある。いや、相談だ。」
「残念だが戻ってくる当てのない金は貸さない主義でね。」
「まぁ、そうだよなぁ。」
マスターの過去に何があったかは知らないが、あの女に金を貸す気はさらさらない。
それが例えマスターの頼みでもな。
「え、貸さないんですか?」
「何処の誰かもわからないやつに金を貸すほどは余っちゃいない。」
「そんな・・・。」
「いや、それが普通の判断だろう。俺も元嫁の事とはいえ気が動転したみたいだ、すまん。」
「何があったのかは知らないが、女関係は気をつけろよ。」
「お前に言われたくねぇよ。」
「だが、どうにもならないのであれば声をかけてくれ。そいつにではなくマスターに出資する金は用意してる。」
「高くつきそうな貸しだなぁ・・・。でもまぁ、その時はよろしく頼む。」
おそらく、というか間違いなく金関係だろう。
マスターに迷惑はかけたくないと言ってはいたものの、ここに来たのはどう考えてもそれ目的だ。
「指輪はマスターが持っていてくれ、よほどの馬鹿じゃなければそれを持っている理由が分かるだろ。」
「そうだな。」
「じゃあ、その出資金は私が援助しますね。」
「だから、ややこしくなるから・・・。」
「マスターに貸しを作ればご飯のグレードアップにデザートもつきそうじゃないですか?」
「・・・確かに。」
あいかわらずめざといなぁこの人は。
「どっちに借りても高くつくなぁ。」
「ま、そっちの面倒はそっちで解決してくれ。俺はマスターの味方だ。」
「あぁ、頼りにしてる。」
「じゃあな。」
とりあえずカーラとの話は保留だ。
出資金の件もあるし、今は金があった方がいいだろう。
あの人が今の契約に不満があるって事もわかったし、その辺はおいおい相談だな。
しっかし、マスターが結婚をねぇ。
バツイチだったのは知らなかった。
それで結婚の話が出た時によく考えろよって言っていたのか。
今度迷ったら相談でもしてみるかな。
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