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282.転売屋は街長に呼ばれる

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「そういう事だから、確かに伝えたから。」

「はぁ、やっぱりこうなるか。」

「化粧品の開発だけじゃなく隣町との関係強化までしたらそうなるわよ。」

「別に俺が望んだわけじゃないんだけど。」

「結果としてそうなったんだから、大人しく受け入れなさい。」

「はぁ・・・。」

言うだけ言うとアナスタシア様は店を出て行った。

それを見送りまた一つ、大きなため息をつく。

「そんなに嫌なの?」

「嫌に決まってるだろ。街長からの呼び出しだぞ?いったい何を言われるのやら。」

「別に怒られるわけじゃないんでしょ?」

「むしろその方がいいんじゃないか?街を追い出されたら済むだけの話だ。」

「その時は私達も一緒に行きます、どうぞご安心を。」

「二人がいないと仕事にならないからな、助かる。」

「わ、私だって一緒に行くわ!」

さも当たり前という感じを出す二人に対して、エリザが慌てて名乗りを上げる。

「当たり前だろ。ダンジョンは別にここだけじゃないんだし、別の所でもしっかり稼いでもらわないとな。」

「ふふ~ん、任せといてよ!」

「でも、今回はそうじゃないんですよね?」

「あぁ。」

「街に残れと言われると?」

「それならまだいい、無理やりここに縛り付けられる可能性だってある。まぁ、そう言われたら夜逃げでもするかな。金さえ持って行けば何とかなるだろう。カーラかビアンカの所にでも逃げ込むさ。」

自主的ならともかく強制されるのであれば俺にも考えがある。

別に、この街じゃないと商売できない理由はない。

俺はしがない転売屋、どこに行っても仕事は出来る。

「さすがにそれは無いと思うけど?」

「何でそう言い切れる?」

「シロウの性格はそれなりに理解しているだろうし、街としても出ていかれることを考えたら穏便に済ませるんじゃないかしら。大方、今回のお礼とかご褒美とか、そんなところじゃない?」

「ご褒美なぁ・・・。ぶっちゃけ金以外に欲しいものが無い。」

「シロウ様らしいですね。」

「考えてもみろ、税金を安くすることは無いだろ?かといって新しい店や家は土地が無い。あるとしたら畑用の土地ぐらいなものだ。これ以上畑を貰っても税金の対象になるし、なによりそこまで手が回らねぇよ。」

「ハーシェ様にお願いして売ってもらうとか?」

「それか隣町で売っちゃえばいいのよ。」

確かにやり方はあるが、今の人数で畑を増やすのは中々に大変だ。

そりゃあ他にも労働力はいるが、いきなり人を増やすと喧嘩の原因になりかねない。

せっかくいい感じで仕事が出来ているんだ、それを荒らす必要はないだろう。

「まぁ、とりあえず行って来る。もしもがある事だけ覚えていてくれ。」

「わかりました。」

「準備しておきます。」

「いってらっしゃい。」

三人に見送られて店を出て向かうは街一番の大きな建物。

街長の屋敷だ。

相変らずデカイな。

これだけの屋敷を維持しようと思ったら一体どれだけ金がかかる・・・。

いや、これ以上考えるのはよそう。

自分で自分の首を絞める必要はない。

「ようこそシロウ様、ローランド様がお待ちです。」

「今日はよろしく。」

出迎えてくれた美人なメイドさんに連れられて屋敷の一番奥へと向かう。

ここまで来るのは初めてだ。

いつもはエントランスまでだからなぁ。

「失礼します、シロウ様がお越しになられました。」

「入れ。」

大きな扉が開き中へと誘導される。

中は・・・。

うん、予想通りというか想像通りというか。

豪華な調度品に大きな接客用テーブルとソファー。

一番奥が執務机か?

絵にかいたような街長の部屋。

相手に威厳と気品を見せるとなるとどうしてもこんな感じになってしまうんだろうか。

見栄を張るってのは大変だな。

「失礼します。」

「良く来てくれた、そう畏まるな。」

「そうは言われてもなぁ・・・。」

「君が畏まるのは王族の前で十分だろう、私はただの街長だよ。」

「じゃあ遠慮なく。」

どういう理屈かは理解に苦しむが、本人がそう言うのであればいつもの通りにやらせてもらおう。

目線で案内された来客用のソファーに腰を掛ける。

家のソファーとは違い随分とフカフカだ。

沈み過ぎるぐらいに。

やっぱり俺は多少硬い方が好きだな。

「それで、話ってのは何です?」

「まぁ待て、今準備をしている所だ。」

「準備?」

「呼び出した理由はわかっているだろう?隣町との関係強化、ダンジョン産素材を使用した化粧品の開発。この二つ以外にも多大な貢献をしてくれているからな、それに報いるのもまた街長の仕事なんだ。」

「別に報いなくても構わないんですが?」

「君がそれでよくても他の者に示しがつかない。褒美に懲罰、人の上に立つにはそれをうまく使いこなさねばな。」

自慢げに話す街長・・・いや、ローランド様。

はぁ、褒美ねぇ。

どう考えても金だけって感じではなさそうだ。

「ローランド様、頼まれていた品をお持ちしました。」

「早かったな、入ってくれ。」

「お、おぉ?」

さっきのメイドさんが何やら大きな紙筒を持って部屋に入って来た。

それを目の前のテーブルに置くと深々とお辞儀をして部屋を出て・・・行かなかった。

そのままドアの前で待機している。

まるで俺が逃げ出さないように監視しているようだ。

「何とかこれだけ準備できたか。」

「申し訳ありません、時間がありませんでしたので。」

「いや、いい。むしろこの短時間で良く集めて来た。」

「お褒めにあずかり光栄です。」

「で、これは?」

「言っただろ、褒美だよ。」

褒美?

この紙筒の中にいったい何が入っているんだろうか。

ぶっちゃけ金さえくれればそれでいいんだけど・・・。

コンなもの並べられたら、それで済ませてくれるわけがないよなぁ。

「どれか一つですか?」

「別に二つでも三つでも構わないが、とりあえず一つにしておくのが良いだろう。ほれ、好きなのを選べ。」

「え、確認してとかじゃなく?」

「中身が分からないからこそ面白みがあるという物だ。選び直しは無しだぞ。」

面白ければ何でもオッケーを地で行くローランド様。

街長がこんなのでいいのか?

いや、こういうのだからこんな不思議な街が成立するのか。

はぁ、何が入っているのやら。

用意された紙筒は全部で四つ。

長い物は2m程、短い物は50cmぐらい。

とりあえず順番にもってみるが、軽さはどれも同じだ。

てっきり金貨でも入っているのかと期待したのだが、人生そんなに甘くないようだ。

こういう時は何が良いんだっけ。

一番小さい奴?

昔話的には欲張るなっていうのが戒めになっていたから、たまにはそう言うのに乗っかってもいいだろう。

先人のお言葉は大切にってね。

「ではこれを。」

「なんだ、一番デカイのを選ぶと思ったのに。面白くない。」

「いや、面白くないってなんですか?」

「いいからあけてみろ。」

卒業証書のように上を引っ張って開けるタイプのようだ。

蓋を開け中身を確認する。

入っていたのは一枚の紙?

なんだろう、つい先日同じような物を見た記憶があるんだが・・・。

「間取り図ですね。」

「ご明察。」

「見た感じ狭い・・・家、違う事務所か?」

「その通り、それは大通りに面する店の間取りだ。」

「で、これをどうしろと?」

「お前にやる。」

「はい?」

「察しの悪い奴だな、その店を褒美にやると言っているんだ。さっきも言ったように交換は無しだぞ。」

「ちなみに他のには何が?」

「貴族の屋敷に裏通りの住居、畑の増設だな。」

「いやいやいや、これが褒美って・・・。」

「不満か?」

不満どころか何考えてるんだって話だ。

大通りに面した店なんてよほどの事が無い限り空くことのない好物件だ。

それをポンと渡すとか・・・。

そうか、この店を俺に押し付けて逃げられないようにする作戦か。

まぁ、そういうやり方で来るよね。

っていうか貴族の屋敷とかもらっても使い道ないんだけど。

よかった変なの選ばないで。

「ローランド様、やはり店が小さすぎましたでしょうか。」

「空き物件はここしかなかったんだ止むをえまい。何だったら畑もつけるぞ?」

「・・・これ以上褒美を出して俺に一体何をさせる気だ?」

「何かを勘違いしているようだが本当にこれはただの褒美だ。この街に店を構えてはや16ヶ月。その間の貢献度と今回の一件を踏まえて渡すべきと私が考えたまでだ。今後も今まで同様好きに働き、そしてこの街に金を落としてくれれば何も言わん。」

「つまり縛り付ける気はないと?」

「もちろん出て行ってもらうのは困るが、それを止める理由はない。が、もしその手段を選ぶのであればそれ相応の理由を聞かせてもらおう。改善できるところがあるのであれば我々も改善する。平行線だというのであればそこまでの話だ。」

俺をこの街に縛り付けるためではないのか。

それでも一等地の物件は流石にやりすぎだろう。

「物件の出どころは?」

「そのお店は裏でよからぬことをしておりまして、近日中に主人を拘束する予定です。くれぐれも他言しないようにお願いします。」

「はぁ?」

「聞いての通りだ。この街でご禁制の物それも危ない薬をばら撒こうなど許される事ではない。資産没収の上処刑というのが筋だろうな。安心しろ、その店で殺すことはしない。家探しもするから荒れ放題になっているだろうが、そこはきれいに掃除をしてから明け渡すつもりだ。化粧品と買取屋、両方を一つの店で行うというのは些か無理があるだろう。」

「確かにそうだが・・・。」

「個人的には屋敷を選んでほしかったがな。女を囲えば出ていくのも難しくなるというもの、それはまた次回のお楽しみにするとしよう。」

結局のところそう言う目的があったんじゃないか。

まったく、油断も隙も無い。

「話は以上だ、これからもこの街の為に良く働きそして金を落としてくれ。期待しているぞ。」

「御帰りはこちらです、シロウ様どうぞ。」

話は終わったからさっさと帰れ。

そんな雰囲気全開であっという間に屋敷から追い出されてしまった。

手には貰った物件の見取り図のみ。

こんな事なら金をくれと先に言うべきだっただろうか。

はぁ、めんどくさい。
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