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295.転売屋は体を鍛える
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「げっ。」
「どうかした?」
風呂上がりにふと下を見ると、思ってもみない状況になっていた。
アレだけ忙しかったというのに何故だ。
いや、当然か。
雨が降っている間まともに体を動かさなかったし、その割にはしっかり食べていた。
散歩にも行けず、そんなに夜はっちゃけた訳でもない。
その結果がこれ。
う~む。
「シロウ?」
「いや、ちょっとな。」
「もしかして太った?」
「・・・わかるか?」
「なんとなくね。お腹がこう出てるかな~と。」
「まさにその通りだよ。何となく体も重いしなぁ。」
自分の腹を見てこんな気分になるなんて久しぶりだ。
それこそ元の世界以来じゃないだろうか。
歳をとると代謝が落ちる。
それを気にせず、ついいつも通りに食べているとすぐに腹につくんだよなぁ。
困ったものだ。
若い体になったから大丈夫だと思ったが、そうではないらしい。
要は運動不足って事だろう。
「運動ね。」
「いや、それはわかってる。幸い雨もやんだしルフと一緒に散歩に出れば・・・。」
「それじゃだめよ!一度ついたお肉はすぐに落とさないと!」
「まぁ、そうなんだが・・・。」
「最近ちょっと弛んできたなって思ってたのよね。うん、決めた。運動しましょ。」
「エリザ?」
「まずは軽いランニングから。とりあえず街の周りを10周して、それから腕立て腹筋を100回ずつ。さらに・・・。」
「まてまてまて!」
なんだか急にスイッチが入り暴走を始めたエリザ。
いくら若いとはいえ、いきなりそんなに運動できるわけないだろうが。
俺は一般人だぞ。
冒険者と一緒にされても困る。
「なによ!」
「なによじゃねぇよ、少し落ち着け。普段運動してないのにいきなりそんなに動けるかよ、これだから脳筋は。」
「動けるわよ!」
「いや、無理だって。ランニングはともかく腕立てと腹筋はそこまで出来ない。」
「じゃあやってみてよ。」
いや、やってみてよって・・・。
折角汗を流したのになんで今から汗かかないといけないんだ?
そう言いかけたがエリザの表情に思わず言葉を飲み込んだ。
いかん、こいつマジだ。
「ったく、わかったよ。」
パンイチで首からタオルをかけた格好のまま、腕立て伏せの格好になる。
「じゃあ数えるわよ。」
「あぁ。」
「い~ち、に~い、さ~ん・・・。」
エリザのカウントに合わせて回数を重ねる。
最初の20回までは意外にも簡単に出来た。
30回を越えて少ししんどくなってきたが行けそうな気がする。
だが問題は37回目からだ。
「きっつ。」
「まだ37回目!大丈夫シロウならできる!」
「いや、出来るって・・・。」
「はい、38!しっかり前見て!体を信じて!」
「信じるってお前何言って・・・。」
「39!行ける!シロウなら出来る!はい、腕下して~上げる!」
まるで昔流行ったムキムキの教官のようだ。
大きな声で俺を元気づけつつ何故か自分もスクワットをしている。
謎だ。
いや、そんな冷静になる体力もない。
もう無理。
「無理じゃない!はい40!」
「よん・・・じゅ!」
そこが限界だった。
そのまま地面に倒れこみ荒い呼吸を繰り返す。
いや、マジでもう無理。
40?
そこまで出来たら十分だろ。
「シロウの限界はこんなもんじゃないわ!もっと真剣にやったら出来るはず!」
「はずって、どこの修造だよ。」
「熱くなったらいいのよ!」
だから・・・いや、もういい。
あ~しんど。
呼吸は少しずつ落ち着いてきたが、心臓は早鐘の様にどくどく言っている。
血液が体中を循環している。
酸素を取り込もうと必死に血液を回しているんだろう。
「じゃあ、次は腹筋ね。」
「はぁ?」
「腕を使ったら今度はお腹、使う筋肉は違うから大丈夫よ。」
「全然大丈夫じゃねぇよ、体力は共通だろうが。」
「シロウなら出来るわ、追い込めば追い込むほど強くなれる。そしたら一緒にダンジョンにも潜れるわよ。」
「お断りだね。」
「なんでよ!」
「俺は商人でいいんだよ、冒険者じゃねぇ。」
「でもお腹へっこませたいんでしょ?」
もちろん目的はそうだが、ここまでハードなのは望んでいない。
もっと気軽にやりたいんだが、どうやら脳筋にそれを求めるのは間違いだったようだ。
「とりあえず今日はここまでだ、汗だけ流してくるわ。」
「仕方ないわねぇ。明日は腹筋だからね。」
「わかった明日な、明日。」
その一言が間違っていた。
また明日、確かに俺はそう言った。
言ったが、起きてすぐにやらされるとは思ってなかった。
「さぁ寝起きの運動よ!」
「ランニングはしないぞ。」
「わかってるわよ。でもルフの散歩ならいいでしょ?その前に、腹筋と腕立て20回ずつね。」
「・・・マジか?」
「体を追い込まないと痩せれないわ、一週間でいつものシロウに戻ってもらうんだから。」
「ミラ何とか言ってくれ。」
「頑張ってくださいシロウ様。」
「応援してます!」
「この裏切り者!」
自分達にエリザの矛先が向かないよう俺を犠牲にしやがった。
おのれ、覚えとけよ!
体力が戻ったらヒーヒー言わせてやる!
で、朝から体に鞭を打ち、さらに散歩という名のウォーキングをしこたまさせられた。
おかげで朝からくたくたになってしまった。
ルフは大喜びだったようだが、これが毎日続くのか?
マジかよ。
俺死ぬんじゃないか?
「それじゃあダンジョンに行って来るね、戻ってきたら夜は腹筋40回だから。大丈夫シロウなら出来るって。」
「・・・もう好きにしてくれ。」
そしてまたこの一言が余計だった。
夕方、ダンジョンから戻って来たエリザに連れられて長距離ウォーキングをさせられ、さらに鬼教官の応援を貰いながらの筋トレ。
さらに夜戦まですることになった。
あぁ、これは自分から望んだことだけど、筋肉が悲鳴を上げてしまいヒーヒー言わされたのはこっちの方だったのは残念だ。
くそ、今に見ていろ。
悔しさをバネにエリザブートキャンプを耐え抜いて一週間が経過したその日の夜。
「腹が戻った。」
「でしょ!」
「それどころか若干割れている気もする。シックスパック?」
「シロウは体がしっかりしてるんだから鍛えれば鍛えるだけ身になるのよ。やって良かったでしょ?」
「やって良かったって言うかなんて言うか・・・。」
ここまでしんどいとは思っていなかったが、ぶっちゃけ昨日と今日は初日程のしんどさがなかった。
自分が出来るようになっているのがまさに身をもって理解できる。
これが筋トレという奴か。
そりゃ嵌る人が多いわけだ。
人間結果が見えるとそれだけでやる気が出る。
貯まって来る貯金箱や通帳を見るのと同じだな。
でもまぁ、継続してするかと言われると・・・。
「凄いです、本当に痩せてますね。」
「ミラもやる?」
「シロウ様の半分も出来ませんが?」
「最初はそれでいいのよ。ミラの場合は下手に筋肉をつけるよりも持久力をつけた方がいいかもね、そしたら長い事楽しめるわよ。」
「おい。」
「エリザ様私はどうですか?」
「アネットは半々ね、程よく筋肉をつけつつ柔軟も取り入れて、しなりのある体にしていきましょ。下半身をメインで強化しましょうか。そしたら長時間同じ体勢でいても苦痛じゃないし、なにより作業しながら鍛えるという手もあるわ。」
俺の仕上がりを見て女達がやる気になる。
一番やる気になっているのはもちろんエリザだ。
「もちろんシロウもここで終わるわけないわよね?」
「いや、俺は。」
「ダメよ、サボったらすぐにお肉になるわ。大丈夫、筋肉は裏切らない。」
「何が大丈夫かさっぱりわからないんだが?」
「シロウ様、頑張りましょう。」
「頑張りましょう御主人様!」
エリザとアネットに両手を掴まれもう逃げ道はなくなった。
あぁ、元に戻れたらそれで良かったのに。
どうしてこうなった・・・
鬼教官がニコニコ笑顔で俺を見ている。
逃げられない。
俺はそれを悟った。
「どうかした?」
風呂上がりにふと下を見ると、思ってもみない状況になっていた。
アレだけ忙しかったというのに何故だ。
いや、当然か。
雨が降っている間まともに体を動かさなかったし、その割にはしっかり食べていた。
散歩にも行けず、そんなに夜はっちゃけた訳でもない。
その結果がこれ。
う~む。
「シロウ?」
「いや、ちょっとな。」
「もしかして太った?」
「・・・わかるか?」
「なんとなくね。お腹がこう出てるかな~と。」
「まさにその通りだよ。何となく体も重いしなぁ。」
自分の腹を見てこんな気分になるなんて久しぶりだ。
それこそ元の世界以来じゃないだろうか。
歳をとると代謝が落ちる。
それを気にせず、ついいつも通りに食べているとすぐに腹につくんだよなぁ。
困ったものだ。
若い体になったから大丈夫だと思ったが、そうではないらしい。
要は運動不足って事だろう。
「運動ね。」
「いや、それはわかってる。幸い雨もやんだしルフと一緒に散歩に出れば・・・。」
「それじゃだめよ!一度ついたお肉はすぐに落とさないと!」
「まぁ、そうなんだが・・・。」
「最近ちょっと弛んできたなって思ってたのよね。うん、決めた。運動しましょ。」
「エリザ?」
「まずは軽いランニングから。とりあえず街の周りを10周して、それから腕立て腹筋を100回ずつ。さらに・・・。」
「まてまてまて!」
なんだか急にスイッチが入り暴走を始めたエリザ。
いくら若いとはいえ、いきなりそんなに運動できるわけないだろうが。
俺は一般人だぞ。
冒険者と一緒にされても困る。
「なによ!」
「なによじゃねぇよ、少し落ち着け。普段運動してないのにいきなりそんなに動けるかよ、これだから脳筋は。」
「動けるわよ!」
「いや、無理だって。ランニングはともかく腕立てと腹筋はそこまで出来ない。」
「じゃあやってみてよ。」
いや、やってみてよって・・・。
折角汗を流したのになんで今から汗かかないといけないんだ?
そう言いかけたがエリザの表情に思わず言葉を飲み込んだ。
いかん、こいつマジだ。
「ったく、わかったよ。」
パンイチで首からタオルをかけた格好のまま、腕立て伏せの格好になる。
「じゃあ数えるわよ。」
「あぁ。」
「い~ち、に~い、さ~ん・・・。」
エリザのカウントに合わせて回数を重ねる。
最初の20回までは意外にも簡単に出来た。
30回を越えて少ししんどくなってきたが行けそうな気がする。
だが問題は37回目からだ。
「きっつ。」
「まだ37回目!大丈夫シロウならできる!」
「いや、出来るって・・・。」
「はい、38!しっかり前見て!体を信じて!」
「信じるってお前何言って・・・。」
「39!行ける!シロウなら出来る!はい、腕下して~上げる!」
まるで昔流行ったムキムキの教官のようだ。
大きな声で俺を元気づけつつ何故か自分もスクワットをしている。
謎だ。
いや、そんな冷静になる体力もない。
もう無理。
「無理じゃない!はい40!」
「よん・・・じゅ!」
そこが限界だった。
そのまま地面に倒れこみ荒い呼吸を繰り返す。
いや、マジでもう無理。
40?
そこまで出来たら十分だろ。
「シロウの限界はこんなもんじゃないわ!もっと真剣にやったら出来るはず!」
「はずって、どこの修造だよ。」
「熱くなったらいいのよ!」
だから・・・いや、もういい。
あ~しんど。
呼吸は少しずつ落ち着いてきたが、心臓は早鐘の様にどくどく言っている。
血液が体中を循環している。
酸素を取り込もうと必死に血液を回しているんだろう。
「じゃあ、次は腹筋ね。」
「はぁ?」
「腕を使ったら今度はお腹、使う筋肉は違うから大丈夫よ。」
「全然大丈夫じゃねぇよ、体力は共通だろうが。」
「シロウなら出来るわ、追い込めば追い込むほど強くなれる。そしたら一緒にダンジョンにも潜れるわよ。」
「お断りだね。」
「なんでよ!」
「俺は商人でいいんだよ、冒険者じゃねぇ。」
「でもお腹へっこませたいんでしょ?」
もちろん目的はそうだが、ここまでハードなのは望んでいない。
もっと気軽にやりたいんだが、どうやら脳筋にそれを求めるのは間違いだったようだ。
「とりあえず今日はここまでだ、汗だけ流してくるわ。」
「仕方ないわねぇ。明日は腹筋だからね。」
「わかった明日な、明日。」
その一言が間違っていた。
また明日、確かに俺はそう言った。
言ったが、起きてすぐにやらされるとは思ってなかった。
「さぁ寝起きの運動よ!」
「ランニングはしないぞ。」
「わかってるわよ。でもルフの散歩ならいいでしょ?その前に、腹筋と腕立て20回ずつね。」
「・・・マジか?」
「体を追い込まないと痩せれないわ、一週間でいつものシロウに戻ってもらうんだから。」
「ミラ何とか言ってくれ。」
「頑張ってくださいシロウ様。」
「応援してます!」
「この裏切り者!」
自分達にエリザの矛先が向かないよう俺を犠牲にしやがった。
おのれ、覚えとけよ!
体力が戻ったらヒーヒー言わせてやる!
で、朝から体に鞭を打ち、さらに散歩という名のウォーキングをしこたまさせられた。
おかげで朝からくたくたになってしまった。
ルフは大喜びだったようだが、これが毎日続くのか?
マジかよ。
俺死ぬんじゃないか?
「それじゃあダンジョンに行って来るね、戻ってきたら夜は腹筋40回だから。大丈夫シロウなら出来るって。」
「・・・もう好きにしてくれ。」
そしてまたこの一言が余計だった。
夕方、ダンジョンから戻って来たエリザに連れられて長距離ウォーキングをさせられ、さらに鬼教官の応援を貰いながらの筋トレ。
さらに夜戦まですることになった。
あぁ、これは自分から望んだことだけど、筋肉が悲鳴を上げてしまいヒーヒー言わされたのはこっちの方だったのは残念だ。
くそ、今に見ていろ。
悔しさをバネにエリザブートキャンプを耐え抜いて一週間が経過したその日の夜。
「腹が戻った。」
「でしょ!」
「それどころか若干割れている気もする。シックスパック?」
「シロウは体がしっかりしてるんだから鍛えれば鍛えるだけ身になるのよ。やって良かったでしょ?」
「やって良かったって言うかなんて言うか・・・。」
ここまでしんどいとは思っていなかったが、ぶっちゃけ昨日と今日は初日程のしんどさがなかった。
自分が出来るようになっているのがまさに身をもって理解できる。
これが筋トレという奴か。
そりゃ嵌る人が多いわけだ。
人間結果が見えるとそれだけでやる気が出る。
貯まって来る貯金箱や通帳を見るのと同じだな。
でもまぁ、継続してするかと言われると・・・。
「凄いです、本当に痩せてますね。」
「ミラもやる?」
「シロウ様の半分も出来ませんが?」
「最初はそれでいいのよ。ミラの場合は下手に筋肉をつけるよりも持久力をつけた方がいいかもね、そしたら長い事楽しめるわよ。」
「おい。」
「エリザ様私はどうですか?」
「アネットは半々ね、程よく筋肉をつけつつ柔軟も取り入れて、しなりのある体にしていきましょ。下半身をメインで強化しましょうか。そしたら長時間同じ体勢でいても苦痛じゃないし、なにより作業しながら鍛えるという手もあるわ。」
俺の仕上がりを見て女達がやる気になる。
一番やる気になっているのはもちろんエリザだ。
「もちろんシロウもここで終わるわけないわよね?」
「いや、俺は。」
「ダメよ、サボったらすぐにお肉になるわ。大丈夫、筋肉は裏切らない。」
「何が大丈夫かさっぱりわからないんだが?」
「シロウ様、頑張りましょう。」
「頑張りましょう御主人様!」
エリザとアネットに両手を掴まれもう逃げ道はなくなった。
あぁ、元に戻れたらそれで良かったのに。
どうしてこうなった・・・
鬼教官がニコニコ笑顔で俺を見ている。
逃げられない。
俺はそれを悟った。
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