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315.転売屋は女達の夢を見守る

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カキ氷は当った。

いや、大当たりだった。

氷が簡単に手に入るようになったからというのもあるが、手軽に作れるというのが非常に受けたようで一週間もしないうちに売れなくなってしまった。

理由は簡単だ、自分で作れるから。

その代わりおばちゃんの店でカンナ代わりになる調理器具が飛ぶように売れたらしい。

来年になると思われたカキ氷用の機材もこの夏のうちに出来そうな感じだ。

シロップも意外や意外、各家庭で作られておりそれぞれが思い思いのカキ氷を作って楽しんでいる。

商売になると思ったが失敗だったか。

残ったのは大量の食器だけ。

木製なので最悪燃やすという手もあるが、何かに使えるかもしれないのでしっかり消毒して天日干ししておこう。

「ん~、美味しい!」

「そりゃ何よりだ。」

「この暑さで何も気にせず氷を食べられるのは幸せね。」

「そういう意味ではこの前の騒動に感謝だな。」

ある日の夕方。

珍しく店にハーシェさんとマリーさんがやってきた。

しかも二人同時にだ。

折角なのでみんなで夕飯でもという事になり、待ち時間にカキ氷をつくっていた。

「なんていうか、喜んでいいんでしょうか。」

「いいんじゃない?快適に過ごせるのはいい事よ。」

「確かに、王都でもコレだけ快適な夜は過ごせませんから。」

寝室に氷の柱を三つほど置いておくといい感じで部屋を冷やしてくれる。

溶けきったらそこで終わりだが、冷えすぎることも無いので身体を壊す心配も無い。

今年は熱中症が少ないとアネットが喜んでいたっけ。

「次は何で儲けるの?」

「カキ氷が予定よりも早く終わったからなぁ・・・。当分はこの前手に入れた魔物の素材を近隣の街に売るぐらいだろう。」

「いつもどおりね。」

「そんなもんだって。オークション用の品もそろそろ選定していかないといけないし、やる事は意外と多いぞ。」

「今回は何を出すんですか?」

「倉庫で見つけた指輪があっただろ?サンオブザサン、あれを出すつもりだ。」

「そういえばそんな物もあったわね。」

「団長から買ったドラゴンハートとお前の見つけたオーブもある。あれもそれなりの値段が付くはずだろう。他にもこまごまとした物があるからその辺を考えて出品する。流石に前回のノワールエッグのような値段は付かないだろうけどな。」

「聖銀杯はどうされるんですか?」

「あれなぁ・・・。」

異世界から何者かを召喚する為に使うらしい聖銀で作られた杯。

前の遺跡騒動の時に発見したものだが、あえてこの前は国王陛下には報告しなかった。

売れるという判断もそうだが、なんていうかタイミングがなかったんだよね。

目の前に居るこの人のせいで。

「聖銀杯ですか?」

「この前遺跡が見つかったんだけど、その近くでシロウが見つけたのよ。旧王朝時代に呪いで使われていたんだって。」

「え、そんな物があるんですか!?」

「ぶっちゃけて聞くが、王家的にその辺どうなんだ?集めていたりするのか?」

「王家が集めているというワケではありませんが、そういった物を収集する部署が欲しがると思います。旧王朝時代の品は数が少なく、見つかっても状態が宜しくない事が多いので・・・。」

「それに関しては申し訳ないと思ってるわ。でもさ、直ぐお金にならないものって邪魔なんだもん。」

文化財団とか博物館とかが率先して買取ってくれるならまだしも、そんな物はこの辺に無いからなぁ。

あったとしてもめんどくさがって持ち込まないのが冒険者。

金にならないとわかれば適当に捨ててしまうので、状態の良いものが残らないんだろう。

やっている事は半分盗掘。

でもそれは悪い事じゃない。

欲しければちゃんと規制するなり収集するなりの情報を出していけば良いだけの話だ。

それをしてこないという事は、歴史的な品々を回収する道筋ができていないんだろう。

それかそこまで熱を入れていないか。

古いものなんて、不要な人から見ればゴミだからなぁ。

「まぁちょっと考える。下手にオークションに出して買い叩かれるぐらいなら、しかるべきところにしかるべき値段で買取ってもらう方が良いかもしれない。」

「そこはシロウ様にお任せします。もし紹介が必要であれば仰ってください。」

「あぁ、そうさせてもらうよ。」

「いいないいな~、マリーさんはシロウの仕事が手伝えて。」

「エリザ様もダンジョンに潜って沢山の品を持って帰ってくるじゃないですか。」

突然、エリザがふてくれたように頬を膨らませて愚痴りだした。

おい、誰だよコイツに酒飲ませたの。

時間はまだ昼間、いや気付けばもう夕方になっていた。

さっきまでかき氷を食べていたはずなのに良く見たらシロップの代わりに酒をぶっ掛けている。

そりゃ酔っ払いにもなるわ。

「アネットは薬を作れて、ミラはちゃんと店番が出来るでしょ?ハーシェさんは行商に出れるし、ビアンカだってポーションを作れるじゃない?ルティエとかもさ、何だかんだ言いながら売上に貢献してるし・・・。はぁ、私なんて直ぐにいらなくなっちゃうんじゃないなぁ。」

「絡み酒かよ。」

「何とか言いなさいよ!」

「別に、金を運んでくるなら捨てる理由なんてないだろ?」

「やっぱりお金なんだぁぁぁ。」

「つまりシロウ様はお金にならなくなったら用済みということでしょうか。」

「そこまでは言わないが、『今』はそうかもしれん。とはいえ、何だかんだいってこいつ等がいないと困るんだよなぁ。」

仮に怪我でダンジョンに潜れなくなったとしてもエリザを捨てる事はしないだろう。

ミラもアネットも同じだ。

その他はどうかと聞かれると、正直何とも言えないというね。

やはり奴隷かどうかってのもあるかもしれない。

ビアンカ?

あれは借金みたいなものだろ?

「そうみたいですよ、エリザ様。」

「うふふシロウならそう言ってくれると思ってたわ!」

「分かったから抱きつくな酒臭い。」

「いいじゃないのよぉ、ほらほら~。」

「胸を押し付けるな!」

「私が言うのもなんですが、やはり胸ですかねハーシェ様。」

「え、どうでしょう。私は皆さんと違って若さが無いのでなんとも・・・。」

「でもハーシェ様の胸はお綺麗ですよね。」

「私もそう思ってました!」

ミラの鋭い突っ込みにアネットもすかさず賛同する。

確かに良い胸だ。

硬すぎず柔らかすぎず、大きさも申し分ない。

あれは良い胸だ。

「うちの化粧品を使ってくれるのはありがたいが、塗りすぎても意味ないからな。」

「程ほどにします。でも、妊娠したら張りが戻るそうなのでそこを期待しようかと。」

「あ~、抜け駆けはダメだからね!」

「勿論分かっています。でも、残された時間も少ないので。」

「・・・まだ大丈夫じゃないか?」

「いいえ、そんな事ありません!」

珍しくハーシェさんが強気だ。

最近特にお誘いが多いのはそれを気にしてのことだろう。

俺はよく知らないが、女達の中で一種の協定のようなものは結ばれているらしく皆アネットの避妊薬を飲んでいる。

なので妊娠の心配は無い。

ないのだが、欲しがっているのも知っている。

特にハーシェさんは一番年上なだけにその辺に敏感だ。

「皆さんシロウ様のお子さんを?」

「シロウ様がそれを許してくださるのであれば。」

「やっぱり欲しいですね。」

「でも、妊娠しちゃうと稼げないのよねぇ。子連れでダンジョンってわけにも行かないし。」

「そうなんですよね。私は指示を出すだけですけど、エリザ様達は直接関係しますから。」

「俺の稼ぎが多ければいいんだが。」

「いや、シロウは十分稼いでるから。」

酔っ払っているはずなのに随分と冷静なツッコミをしてくるじゃないか。

まさか酔ってない?

「ともかく、当分はこのままだ。ハーシェさんには悪いけどな。」

「いえ、それを非難するつもりは無いんです。私こそごめんなさい。」

「でも、皆さんの夢なんですよね?」

「いつかはねぇ・・・。」

「いいなぁ、私もその夢に混ざりたいです。」

「はい?」

「なにか?」

「いえ、何でもないです。」

自分、元男・・・

そんな事を言おうものなら

この場にいる全員から非難の目を向けられてしまう。

夢は自由だ。

というか、マリーさんの場合は長年諦めていた夢がかなうわけで、そりゃあ思い入れも大きいよなぁ。

男性のままでは妊娠させることはできても妊娠できないわけだし。

それができるようになるのは確かにうれしいかもしれないが・・・。

絶世の美女に好かれるのは確かにうれしいが、ペーパーナイフを送ろうとしている自分に今一度言いたい。

覚悟はあるのかと。

「ここにいる全員の夢はシロウ様にかかっています、また気が乗られましたらおっしゃってください。」

「そんなに軽くていいのか?」

「無理強いするものでもないし?」

「個人的には・・・いえ何でもありません。」

「コレから毎日迫ってみましょうか。」

「それよりも子供をほしいと思わせるほうが早いかもしれませんよ。」

なにやら後ろでアネットとマリーさんが盛り上がっている。

聞かなかったことにしよう。

俺の夢?

いう必要もないが、あえて言うなら金儲けだな。
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