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322.転売屋は贋作を見せられる

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「そろそろオークションだな。」

「そうですね。」

「準備は進んでるんでしょ?」

「まぁ目玉はあるし後はこまごまとしたものが手に入ればって感じだな。だがこの暑さじゃなぁ・・・。」

「露店を出すのは避けますよね。」

「あぁ、ちょっと暑すぎる。」

夏野菜にはありがたいかもしれないが、俺達人間には強すぎる。

この暑さの下で露店を出す気になるやつはいないだろう。

まぁおっちゃんおばちゃんのように生活に関わるなら別だけどな。

「当分この暑さは続きそうよ。」

「となると誰かが持ってきてくれるのを待つだけだな。買取屋だし。」

「私ならこの暑さの中売りに行こうとは思わないわね。」

「生活に困ったら別だろ?」

「まぁ、そうだけど・・・。」

そんな話をしていた時だった。

カランと店のベルが鳴り客が来たようだ。

「私が行きます。」

「あぁ、頼む。」

普通の客ならミラで十分だ。

俺はもうすこしのんびりさせてもらうとしよう。

アネットの淹れてくれた香茶を堪能していると、しばらくしてミラが裏に戻って来た。

「どうした?」

「店主を出せと言われまして、正直怪しいので代わっていただけますでしょうか。」

「怪しい?」

「はい。身なりは良いのですが妙に堂々としていてそれが逆に怪しいというか。」

「ふむ、買取希望だな?」

「はい。オークション用の品があるとのことです。」

確かにそいう言うのを望んではいるが、自分で言ってくる奴は初めてだな。

どれ、ミラが怪しいという奴を拝んでやろうじゃないか。

ミラに変わって店頭に行くと、この暑さにもかかわらず真っ黒なローブを着込んだ男がカウンターの前で待っていた。

「俺が店主のシロウだが買取か?」

「貴方が噂のシロウさんですか、いやいや話に聞いた通り聡明な方ですな。」

ふむ確かに怪しい。

見た目は50代後半。

初老と言っていい感じの白髪の目立つ男だ。

「世辞は間に合ってるよ。で、オークション用の品を持って来たって?」

「いかにも。貴方のような方にお譲りするのが相応しいと思い持参しました。」

「自分で出せばいいじゃないか。何故そんな回りくどい事をする?」

「私のような者は出品できないのです。」

「そんなはずはない。オークションは誰にでも開かれている、参加費さえ払えば出品可能なはずだ。俺の所に持ってくるぐらいだ、それなりの値段で売れるんだろ?十分元は取れるんじゃないか?」

「仰る通りですが、その時期にはここを離れていましてな。オークションには参加できないのです。」

「旅行か?」

「まぁ、そんな所で。」

怪しい。

怪しさ全開過ぎて逆に面白い。

「まぁいいだろう、その品というのを見せてくれ。」

「見せるのは構いませんが、見せたからには買い取っていただきたい。それをお約束していただけないのであればお見せする事はできませんが、構いませんかな?」

「はぁ?」

「これは門外不出の貴重な品。下手に見せて後ろをつけられては困りますからな。」

「物も見ないで買い取れるわけないだろ。」

「ですが儲かる事に間違いは・・・。」

「儲かるかどうかは俺が決める、さっさと出て行ってくれ。」

物を見ないで買い取るような馬鹿はいない。

こういう輩には退場いただくとしよう。

あまりの怪しさにちょっと面白くなってしまったが、普通に考えて受けるわけがない。

「そんな、せっかく来たというのに。」

「そんなの知るか。」

カウンターの反対側に回り、男の背中を押しながら店の外へと誘導する。

男は若干抵抗したものの、案外素直に追い出された。

はぁ、疲れた。

「帰しちゃったの?」

「あんなの怪しすぎて受けられるわけないだろ。」

「まぁ確かにね。」

「下手に買い取って面倒事に巻き込まれるのは御免だ。」

「で、その男はどこに?」

「ん~・・・ベルナの店みたいだな。」

「いくら何でも買い取ることは無いと思うが・・・。」

しばらく様子を見ていると、男がベルナの店から出て来た。

そして足早に去っていく。

あの感じは、まさか。

「ちょっと見て来るわ。」

「え?ベルナの店?」

「あぁちょいと気になる。」

道を横断してそのままベルナの店に入る。

「ベルナ、ちょっといいか?」

「シロウ!ちょっと見てほしいニャ!」

「あ~・・・。」

「こんなすごい物を持っている人がいるなんて思わんかったニャ!これで大儲け間違いなしニャ!」

「落ち着けベルナ、何を買ったんだ?」

「これニャ!」

興奮したベルナがカウンターに乗せたのは真っ赤な卵。

じゃなかった宝石だった。

どこかで見た事あるよなぁこれ。

「これは?」

「クリムゾンレッドニャ!」

「え?」

「この色にこの透明度、鑑定スキルでも間違いないニャ!」

「ちょっとみてもいいか?」

「いいけどこれは私の物なのニャ、シロウには譲らないのニャ。」

「わかってるって。」

俺が昔見たやつはネックレスになっていたが、これは宝石のまま。

恐る恐るそいつに触れると、スキルが発動した。

『クリムゾンレッド。深紅の宝石は持つ者に力と火の加護を授ける。贋作。最近の平均取引価格は銀貨10枚、最安値銀貨1枚。最高値金貨120枚。最終取引日は本日と記録されています。』

クリムゾンレッド。

俺が手に入れたのはクリムゾンティアだったが、似たようなものだろう。

が、大事なのはそこじゃない。

贋作。

俺のスキルにはそう表示されていた。

だが、ベルナは違うようだ。

そうでないと偽物をつかまされてこんなに喜ぶはずがない。

「クリムゾンレッドか。」

「そう言ってるニャ。」

「これをどうするんだ?」

「もちろんオークションに出すニャ、そしたら今年の税金も安泰ニャ!」

「ちなみにいくらで買ったんだ?」

「金貨30枚ニャ。」

確かに普通に考えれば大儲けだろう。

何かしら理由をつけてベルナに売りつけ、男は去っていった。

普通に考えれば今日中には街を離れてしまうだろう。

どうする、追いかけるか?

商売敵とはいえベルナは友人、放置するのは流石に憚られる。

「そうか、良かったな。」

「シロウもいい品が来ると良いニャね。」

「そうだな。じゃあまた。」

俺は急ぎ店を出て男を探す。

確かこっちに行ったはず。

そのまま街を出たのであれば街道を行くはずだ。

警備に聞いてみるか。

「すまん、ちょっといいか。」

「シロウさんどうかしたんですか?」

「真っ黒なローブを羽織った不審者、見なかったか?」

「え、こんなに暑いのにローブ?見てませんよ。」

「そうか。」

「何かあったんですか?」

「まぁそんな所なんだが、とりあえず見かけたら知らせてくれ。白髪の多い初老の男性だ。」

「わかりました!」

ルフに匂いをたどらせるという手もあるが、ベルナの性格だとあれをすぐに磨き上げるだろうなぁ。

ってことは匂いも無くなる。

う~む。

とりあえず他を当たるか。

こっちに来てないとなると街の中。

が、あの見た目はかなり目立つ。

俺なら一儲けした後にわざわざ安宿に泊まることはしない。

ってことはだ・・・。

俺が足を向けたのは三日月亭。

「イラッシャイ、何だシロウか。」

「何だとは何だって、今日はそれどころじゃないんだ。」

「何かあったのか?」

「黒いローブを着た白髪交じりの初老の男、来なかったか?」

「・・・ちょっとこれ飲んで待ってろ。」

後ろに気配を感じ振り向こうとしたその時、返事を言わず強引に手に持っていた酒を押し付けられた。

そしてそのまま裏に引き込まれむりやりしゃがまされる。

「イラッシャイ。」

「一泊頼めるか?」

「飯付きで銀貨1枚だ。」

「街一番の宿と聞いてきたんだが安いんですねぇ。」

「値段が高けりゃいい宿と勘違いしているなら他を当たってくれ。」

「いつもの私なら帰る所ですが、今日は気分が良い。食事は結構です、代わりに水を頼めますか?」

コトンと頭上で音がする。

顔を上げると銀貨が一枚マスターの指につままれいた。

「偽物・・・じゃなさそうだな。」

「当たり前じゃないですか。」

「悪いな、最近そう言うのが多いんだよ。部屋は最上階の一番奥、一番静かな場所だ、使ってくれ。」

「お気遣いどうも。」

階段を上る音が聞こえなくなってから、ひょこっと顔を出し上を見つめる。

「で、あいつか?」

「あぁ、あいつだ。」

「何したんだ?」

「ベルナに贋作を売りつけた。」

「おいおい、あいつは鑑定もちだろ?」

「おそらくはアナスタシア様同様鑑定スキルをごまかす何かを使っているのかもしれない。」

「じゃあこいつはどうだ?」

マスターが受け取った銀貨を俺に投げてよこす。

『銀貨。国内で流通する貨幣で銅貨100枚分の価値を持つ。最近の平均取引価格は銀貨1枚。最安値銅貨80枚、最高値銀貨1枚。最終取引日は本日と記録されています。』

なぜか最安値が下回っているのが気になるが本物で間違いないようだ。

「本物だってよ。」

「まぁ偽造は重罪だからな。さすがにそんなことはしないか。」

「だがあれは贋作だった。」

「間違いないのか?」

「間違いない。他人はごまかせても俺はごまかせない。」

「じゃあどうする?」

「ちょっと頼みたいことがある、手を貸してくれるよな?」

この街で贋作を売ろうなんて俺が許さない。

友人を騙した分も含めてしっかり落とし前をつけてやらないとな。
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