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347.転売屋は久しぶりの人に会う

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マスターと共に宿に戻ってきたリングさんが、俺とミラが掃除をした最上階の部屋に泊まるそうだ。

全ての仕事が一段落した後、俺達はマスターの奢りで遅い夕食を堪能していた。

「つまり。リングさんを迎えに行く為に呼び出されたのか。」

「あぁ。なんでも近くに凶暴な魔物が出たって言うんで念のためにな。」

「わざわざ呼ばれるって事は相当の手練れってわけだが・・・。」

「大昔の話だ、それに前線で戦うのは俺じゃなくて他の冒険者だよ。」

「そう言っているが実際のところどうなんだ、エリザ。」

「閃光のゲイルって言えば冒険者の中では有名な話よ。目にも留まらぬ速さで敵を仕留めて、相手は死んだことすら気づかないってね。」

なんとまぁ凄い二つ名だこと。

「その名前で呼ぶのは勘弁してくれ、俺はもう一般人だよ。」

「そういうことにしといてやる。ってことでおかわり。」

「まだ食うのかよ。」

「働くと腹が減るんだよ。」

「そりゃそうだが・・・。まぁ、今日は世話になったしな。」

「マスター私もおかわり!」

「お前はそろそろ控えろ。」

「えぇぇぇまだ飲み足りないぃぃぃ!」

「随分とにぎやかだな。」

エリザの叫び声が途中で止まる。

全員の視線が後ろから聞こえてきた声のほうに向けられた。

来た時とは打って変わって落ち着いた感じの服だ。

平民だといわれても疑うことは無いだろう。

見た目が見た目だけにマジで子供に見えるな。

「リング様、失礼しました。」

「無礼講だしゃべり方は気にするな。」

「それは助かるよ。」

「お前ははじめから気にしてなかっただろうが。」

リングさんは俺の頭を軽く叩き、横の席に座る。

あれ、そこにはミラが・・・と思ったら早々と場所を移動していたようだ。

全然気付かなかった。

「ゲイル、世話をかけたな。」

「滅相もありません。何をお飲みになりますか?」

「そうだな、せっかくここに来たんだ。噂の琥珀酒の発泡水割を貰うとしよう。」

「ん?王都にはないのか?」

「あるにはあるが琥珀酒の種類が少ない。」

「うちはその辺力を入れているからな、そんじょそこらの店には負けないつもりだ。」

ま、発泡水割りを教えたのは俺なんだけども。

それは言わないでおくとしよう。

リングさんの前に琥珀色の液体が静かに置かれる。

ロックアイスがいい感じに丸い。

この辺の技術が素人との違いだよな。

「うむ、美味いな。」

「ありがとうございます。」

「マスター、私も!」

「お前はエールで十分だ。」

「ケチ!」

そう言いながらも、ちゃんとエールを持ってきてくれるのがマスターの優しさだ。

俺なら絶対に出さないね。

「それで、ここには何しに来たんだ?観光ってわけじゃないんだろ。」

「もちろん。そうでなければこんな辺鄙なところまで足を伸ばすわけが無いだろう。」

「悪かったな辺鄙なところで。」

「さっさと王都に来いと言いたい所だが、ダンジョンのある場所こそお前の居る場所なのだろうな。色々と聞かせて貰ったぞ。」

「どこまで聞いてるんだ?」

「そうだな・・・ロバート王子が何をしにここに来たか、だな。」

という事はマリーさんの事も聞いているということだ。

表向きは国の平和を願うために来たって事になっているが、そう言わない事からそう考えられる。

本人とは面識は無いと思うのでわざわざ呼ぶところまではしなくていいだろう。

あくまでも奥さんが王家の人間というだけのはずだ。

「まぁ色々あったんだよ。」

「時間があれば挨拶をしたい、面通しを頼めるか?」

「今じゃリングさんの方が偉いと思うんだが?」

「事実を知っていて無礼なことが出来るはずないだろう。それと、妻に頼まれているんだよ。お前の化粧品を買って来いとな。」

「そういうことか。いい感じに有名になっているみたいだな。」

「お披露目してすぐに私は王都を出たが、それはもう大騒ぎだったんだぞ。」

「そんなにか?」

「近々報告が来るだろう、覚悟するがいい。」

そんな事を言われると不安になるんだが・・・。

ってまだ本当の理由を聞いてなかった。

「で、本当の目的は?」

「もうすぐ子供が生まれるのは知っているな?」

「あぁ。来月ぐらいだろ?」

「子供と妻に特別な贈り物をしたいと思っている。ありきたりなものではなく、本当に二人を守ってくれるようなそういうものだ。」

「いや、いきなりそんなこと言われても困るんだが。」

「出来るだろ?」

「そりゃ探せばあるだろうが、今すぐには思いつかない。調べる時間ぐらいくれるよな?」

「一週間が限度だ。それを過ぎると出産に立ち会えん。」

「それしかないのかよ!」

「頼むシロウ、お前にしか頼めない仕事なんだ。」

あの、リングさんが深々と俺に向かって頭を下げる。

貴族、いや王族に列する人がだ。

平民の買取屋にそんな事をするなんて普通じゃない。

いや、そもそも俺を頼っている時点で普通じゃないか。

「責任重大だな、シロウ。」

「他人事みたいに言うなよ。」

「リング様、お生まれになるのは男の子ですか女の子ですか?」

「医者の話では男のはずだ。魔力感知でもそう出ている。」

「男か・・・。」

なら一つは決まりだな。

本当はオークションに出すつもりだったんだが、誰ともわからない相手に譲るぐらいならこの人に譲りたい。

残るはもう一つだ。

特別な贈り物で二人を守るようなものでないといけない。

守るとなると普通に考えるのは防具。

だが、相手は王族だ。

戦いに出るわけじゃなんだから、どちらかというと不慮の事故や呪い、毒なんかから身を守るためのものになるだろう。

ノワールエッグまではさすがに無理だ。

でもそれに近いようなものは用意できるかもしれない。

身に着けるものとしていいのは、やはりアクセサリーだな。

クリムゾンレッドを持っているのだからネックレスは避けるべきだろう。

ブレスレットかイヤリングか。

子供がいるのなら邪魔にならないものがいいか。

となると衣服や指輪がいいだろうか。

指輪なぁ。

息子と同じなのはどうかと思ったが、旦那からの贈り物なんだからそれはありかもしれない。

その線で探すか。

「どうするの、シロウ。」

「よし、とりあえず明日になったら考える。」

「え、それでいいの?」

「酒が入っている頭で考えられるかよ。今日はもう疲れたよ。」

「確かにヘトヘトです。」

「大変な一日でしたしね。」

一日慣れない仕事をして心も体もフラフラだ。

ここが家だったらすぐにでもベッドに倒れこむんだが、そういうわけにもいかない。

いろいろ考えたい事もあるがさっきも言ったようにフラフラなんだ。

いい感じに酒も入って腹も膨れている。

そろそろ眠気が襲ってきてもおかしくない。

「って事で今日は勘弁してくれ。」

「それは仕方ないだろう。明日からよろしく頼む。」

「費用は?」

「そうだな・・・金貨50枚までなら出せる。それ以上となるとちと厳しいな。」

「金貨50枚だな。」

「出来るだけ安く頼むとは言わん。だが、それなりの品を頼みたい。」

「とりあえず出来るところまではするよ。」

「断らないのだな。」

「色々と世話になっているし、友人の頼みを断るのは気が引けるだろ。」

「友人か、そう言ってくれるのだな。」

俺から友人っていうのは気が引けるが、そういう相手だと俺は思っている。

向こうがそう思っているかは分らなかったがどうやら大丈夫なようだ。

友人少なそうだしなって俺が言えたセリフじゃないか。

「やめやめ、湿っぽい雰囲気は勘弁してくれ。」

「相変わらずだなぁお前は。」

「なんていうか痒くなるんだよ、背中が。」

「気持ちはわかる。」

「だろ?だから勘弁してくれ。」

「シロウ様、せっかくの雰囲気が台無しです。」

「だからいいんだって。」

向こうもそれでいいって言ってるんだからいいんだよ。

目の前のエールをグイっと飲み干す。

アルコールがのどを通り抜け胃の中がカッと熱くなった。

「ふふ、シロウが照れてるわ。」

「珍しいですよね。」

「自分から言い出しておいて恥ずかしくなったんだろ。」

「だから止めろって!」

「やなこった。」

「なら次に頼まれても手伝わないからな。」

「別にいいさ、お前じゃなく他の人に頼むだけだ。」

「は~い、それなりにお金出してくれるならやるわ。」

「お前は高くつくから頼まねぇよ。」

「え、それはないんじゃない!?」

マスターとエリザのやり取りに空気が一気に明るくなる。

久々の再会を祝してリングさんと再びグラスを交わした。

さぁ明日から忙しくなるぞ。
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