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354.転売屋は目を付けられる
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「さて、ギルドから追い出される事になったわけだが・・・。」
例のオッサンを店から追い出してから二日。
羊男の言った通りの展開になってしまった。
まずギルドの利用停止。
いや、正確にはギルドを通じた取引の禁止だな。
住民である以上ギルドサービスを受ける権利はある。
だが、それを通じて物品を仕入れたり販売することは出来なくなってしまった。
なのでギルドの管理下にある冒険者ギルドや商業ギルドならびにギルド協会へは実質出禁。
取引所も使用禁止となった。
一般商店へはそこまでの圧力はかかっていないそうだが、ギルド直轄の販売店からは取引できないことになっている。
いやー、まさかあのオッサンを追い出しただけでこんなことになるとは。
ちょっと想像していなかった。
「各ギルドならびに系列の商店からは申し訳なさそうに取引停止を告げられました。」
「私もです。ご主人様の奴隷なので薬の販売は停止させて貰うと。」
「まったくいい迷惑よ、冒険者ギルドに在籍しているならここに近づくな!なんて言ってくるのよ。じゃあ宿泊代を出せって言ったら無視してくれちゃって。辞めてやろうかしら。」
バンとテーブルを叩きエリザが勢いよく立ち上がる。
あまりの勢いに椅子が後ろに倒れてしまった。
申し訳なさそうな顔をして椅子を戻しちょこんと座りなおす。
「そこまでする必要は無いさ、とりあえずは様子見でいい。」
「でも・・・。」
「この二日色々と考えてみたんだが、正直ギルドとの取引停止は俺にとって何のデメリットも無いんだよな。」
「といいますと?」
三人が同じタイミングで首をかしげる。
中々のシンクロ率だ。
「俺の仕入れは大半が冒険者だ。一応冒険者に対してうちに近づくなとお達しは出ているようだが、昨日今日を見てわかるようにまったく気にしていない。その他の仕入れに関しても、取引所ではなく露店で取引すればいいだけだし、食材なんかも基本自分達で何とかなってるしな。」
「確かに、一般商店を利用するのはパンやお肉を買うときぐらいでしょうか。」
「お肉は私がとりにいけばいいだけだし、野菜は畑に売るほどあるしね。」
「パンが無ければお米を食べれば問題ありません。」
「そういうことだ。必要なものはギルドに加盟していないハーシェさんを通じて自分で買い付ければすむだけの事。モーリスさんもギルドからの仕入れを受けていないからぶっちゃけ今の生活で不自由は無いんだよ。」
「となると、むしろ困るのはギルドというわけですね。」
「あぁ。俺がこういうのもなんだが俺達の貢献度はかなりのものだ。それを無くしてどうなるか、あと二日もすれば自ずと結果が出てくるだろう。それまでは様子見で問題ない。」
俺はともかく、アネットの薬を停止するとは中々大それたことをやるじゃないか。
確かに去年まではこの町に薬師は居なかったわけだからそれに戻るだけの事。
口で言うのは簡単だが、一度でも生活水準を上げた人達が元の水準に戻るのはかなりの苦痛を伴う。
それをギルドがどう対処するのか。
ぶっちゃけ今回の件に関しては完全に被害者同士なので、こちらとしては穏便に済ませたいのだが。
どうなるのかねぇ。
「おや、誰か来たようです。」
そんな話をしていたらドンドンと扉をたたく音が聞こえてきた。
まったく、連日閉店後に来るのは勘弁してほしいんだが?
そんな事を思いながら店の戸を開けると、そこに居たのはまさかの人物だった。
「レイラ、どうしたんだこんな夜更けに。」
「アネットの避妊薬を今後取り扱えないって言うのはどういう事やの?」
「どうもこうも無い、そういうギルドの決定だ。俺達には何も出来ない。」
「それじゃ困んねん、またあの不味くて効果の薄い避妊薬を飲むなんて耐えられへん。」
「そう言われてもなぁ・・・。」
「じゃあ、ギルドを通さずに個人で買えば問題ないやんな?他の冒険者もそうしてるって言ってたで?」
「個人ならな。」
「あ~よかった。ホンマどうしようかと思ったわ。」
ホッと胸をなでおろすレイラ。
そうか、竜宮館をはじめとする娼館のほとんどがいまはアネットの避妊薬を使っているんだったな。
ギルドが間に入って注文を受け、注文を受けた俺達が薬を納品しに行くというのが今の流れ。
それが止まった事で薬がなくなってしまったんだろう。
ほら、早速問題が発生してる。
「アネットに言ってすぐに準備させよう、中で待つだろ?」
「ええんか?」
「良い女を外で待たせるほど野暮じゃねぇよ。」
「せやんな。」
さも当たり前みたいな顔をしたので軽くおでこをデコピンしてやった。
前のレイラなら烈火の如く怒っただろうが、随分と丸くなったものだ。
「アネット、レイラの薬を用意してやってくれ。」
「すぐに持っていきます!」
二階からアネットの返事が戻ってくる。
ひとまず台所まで案内して香茶をふるまってやった。
「面白い味やな、ちょっと苦みがあるのにすっきりする。」
「西方の緑茶って奴だ。」
「へぇ、そんなんあるんやね。」
「大通りの乾物屋で売ってるぞ、ただし高い。」
「いくらするんや?」
「この茶筒で銀貨10枚。」
「ふ~ん、そんなもんか。」
さすが竜宮館一の人気娼婦、金銭感覚が普通じゃなかった。
リアクションを期待しただけにちょっと残念だが、まぁレイラだしな。
「お待たせしましたレイラ様。」
「わるいなぁ、アネット。」
「いえ、悪いのはギルドに変な命令した王都の役人です。」
「そうなんか?」
そこで驚いた顔をするとは思わなかった。
その辺も冒険者から聞いているのだと思ったが、もしかしたらその辺は箝口令が敷かれているのかもしれない。
「なんだそこまでは知らなかったのか。」
「面倒なやつがいるんやねぇ。どうせアンタに喧嘩売ったんやろ?」
「知らないんじゃなかったのか?」
「少し考えたらわかることや。ともかく薬はもらったから店に戻るわ、客待たせてんねん。」
「一人で大丈夫か?」
「心配してくれるん?」
「当たり前だろ。」
満足そうな顔をしてレイラが店の外に向かう。
一緒に外に出ると、竜宮館の警備員が軽く会釈をしてくれた。
この人が一緒なら大丈夫だろう。
「ほなまたな~。」
「おぅ、気をつけてな。」
とりあえず見えなくなるまでアネットと共に見送ってから店に入・・・れなかった。
「シロウさん!」
「今度はなんだよ。」
次にやってきたのはブレラだった
これまた珍しい来客だな。
「聞いて、ギルドから納入されるはずの水蜥蜴の革が全然入ってこないのよ。緊急の依頼なのに在庫がないの一点張りで、ねぇここにない?」
「ギルドからうちに来るなって言われてるんじゃないのか?」
「そんなの関係ないわよ。客を待たせるほうがよっぽど問題だわ。」
「ま、その通りだ。」
「ある?」
「水蜥蜴の革でしたら今日の昼に買い取ったものがありますよ。」
「だ、そうだ。」
様子を見に来たんだろうか、後ろからミラが答えてくれた。
そういえばそんなものを仕入れた気もする。
「よかった!」
「すぐに用意しますのでお待ちください。」
「あ、でもお金持ってきてない。」
「どんだけ慌ててたんだよ。」
「だって、いつもは纏めてギルドに納入してもらってるし代金もその時だから・・・。」
「仕方がない、また明日もってこい。いや、明日納品なら明後日か。」
「ほんとごめん。」
「水着の時の礼もあるし気にするな。」
「じゃあおまけして?」
「それとこれとは話が別だっての。請求書は明日工房まで持っていくからな。」
ミラから素材を受け取ったブレラがスキップをするように裏通りへと消えていく。
「もしかして、シロウ様がおっしゃっておられたのはこういうことですか?」
「それもある。だが一番の問題はギルド内部で起きているだろうから、表に出てくることはないだろう。」
「シープ様でしたら気にせずお話になりそうですが。」
「あ~、確かに。」
そのやり取りが現実のものになったのは、その翌日。
思ったよりも早いSOSだった。
「シロウさん、お金貸してください。」
「・・・はぁ。」
「こうなるのわかってましたよね?だからお願いします、本当にピンチなんです。」
「ピンチって、取引してないんだから補助金はちゃんと出てるだろ?」
「本部からの補助金なんて雀の涙ですよ!運営費のほとんどを自前で何とかしてるのに、それすら入らなくなったら終わりです!」
「出してもらえよ。」
「仮に出ても届くのには結構かかるんです。それまでにどれだけの支払いがあるか・・・。」
店に飛びこんでくるなり羊男が泣きついてくる。
俺が思っていた以上に今回の件は大変な事になっているようだ。
「それは資金をプールしてなかったそっちの問題だろ?俺じゃなくてまずはローランド様に申し立てるべきじゃないんか?」
「もちろんしましたよ!でも出してくれなかったんです。」
「いや、出してくれなかったって・・・。」
「それどころかシロウさんに詫びて許してもらえとまで言われました。別に私たちは何も悪くないのにですよ!?悪いのは全部王都の役人じゃないですか!」
「声が大きい。」
「頼れるのはシロウさんだけなんです!お願いします!お金を貸して下さい!」
まさかギルド協会に金を貸してくれと言われるとはなぁ。
でもそれも仕方のないことだ。
本来であればギルドに入っていたはずの金がかなり減ってしまったのだから。
それもそのはず、今の俺はギルド協会と連携してかなりの金額を動かしている。
その多くが昨日の薬であったり魔物の素材であったりするわけだが、それが止まれば必然的に収入が減る。
収入が減れば支出が補えずあっという間に支出過多になるわけだ。
基本自転車操業なんだよなぁ。
公営の機関だけに多額の貯金をするわけにもいかず、少しでもその歯車が狂えば今回のようになってしまう。
「いくら必要なんだ?」
「とりあえず今日明日中に金貨200枚ほど。」
「今回の件に懲りたらもう少し財務改善に取り組むんだな。」
「そんなことしても、余ったお金は全部吸い上げられるんです。はぁ、一週間もしたらギルド協会は破産ですよ。」
「例の男はまだいるんだろ?」
「はい。三日月亭に宿泊中です。」
「もちろんこの状況も理解してるんだよな?」
「当たり前じゃないですか。今頃どうやってシロウさんに頭を下げるか考えてるんじゃないですか?」
「いやいや頭を下げるなんてタマじゃないだろ。」
あぁいうタイプは最後まで自分の非を認めたがらない。
ならとことんやるしかないんだよなぁ。
残念だけど。
「今別口で王都に連絡を取っています。あと二日、あと二日だけ耐えれば状況は改善します!だからお金貸してください!」
「借用書持って来てるよな?」
「もちろんです!」
まったく俺が金を出してくれる前提で動きやがって。
癪には触るが別に羊男が悪いわけじゃない。
悪いのは全部あのおっさんだ。
はてさてどうなることやら。
ちょっと楽しみになってきたぞ。
例のオッサンを店から追い出してから二日。
羊男の言った通りの展開になってしまった。
まずギルドの利用停止。
いや、正確にはギルドを通じた取引の禁止だな。
住民である以上ギルドサービスを受ける権利はある。
だが、それを通じて物品を仕入れたり販売することは出来なくなってしまった。
なのでギルドの管理下にある冒険者ギルドや商業ギルドならびにギルド協会へは実質出禁。
取引所も使用禁止となった。
一般商店へはそこまでの圧力はかかっていないそうだが、ギルド直轄の販売店からは取引できないことになっている。
いやー、まさかあのオッサンを追い出しただけでこんなことになるとは。
ちょっと想像していなかった。
「各ギルドならびに系列の商店からは申し訳なさそうに取引停止を告げられました。」
「私もです。ご主人様の奴隷なので薬の販売は停止させて貰うと。」
「まったくいい迷惑よ、冒険者ギルドに在籍しているならここに近づくな!なんて言ってくるのよ。じゃあ宿泊代を出せって言ったら無視してくれちゃって。辞めてやろうかしら。」
バンとテーブルを叩きエリザが勢いよく立ち上がる。
あまりの勢いに椅子が後ろに倒れてしまった。
申し訳なさそうな顔をして椅子を戻しちょこんと座りなおす。
「そこまでする必要は無いさ、とりあえずは様子見でいい。」
「でも・・・。」
「この二日色々と考えてみたんだが、正直ギルドとの取引停止は俺にとって何のデメリットも無いんだよな。」
「といいますと?」
三人が同じタイミングで首をかしげる。
中々のシンクロ率だ。
「俺の仕入れは大半が冒険者だ。一応冒険者に対してうちに近づくなとお達しは出ているようだが、昨日今日を見てわかるようにまったく気にしていない。その他の仕入れに関しても、取引所ではなく露店で取引すればいいだけだし、食材なんかも基本自分達で何とかなってるしな。」
「確かに、一般商店を利用するのはパンやお肉を買うときぐらいでしょうか。」
「お肉は私がとりにいけばいいだけだし、野菜は畑に売るほどあるしね。」
「パンが無ければお米を食べれば問題ありません。」
「そういうことだ。必要なものはギルドに加盟していないハーシェさんを通じて自分で買い付ければすむだけの事。モーリスさんもギルドからの仕入れを受けていないからぶっちゃけ今の生活で不自由は無いんだよ。」
「となると、むしろ困るのはギルドというわけですね。」
「あぁ。俺がこういうのもなんだが俺達の貢献度はかなりのものだ。それを無くしてどうなるか、あと二日もすれば自ずと結果が出てくるだろう。それまでは様子見で問題ない。」
俺はともかく、アネットの薬を停止するとは中々大それたことをやるじゃないか。
確かに去年まではこの町に薬師は居なかったわけだからそれに戻るだけの事。
口で言うのは簡単だが、一度でも生活水準を上げた人達が元の水準に戻るのはかなりの苦痛を伴う。
それをギルドがどう対処するのか。
ぶっちゃけ今回の件に関しては完全に被害者同士なので、こちらとしては穏便に済ませたいのだが。
どうなるのかねぇ。
「おや、誰か来たようです。」
そんな話をしていたらドンドンと扉をたたく音が聞こえてきた。
まったく、連日閉店後に来るのは勘弁してほしいんだが?
そんな事を思いながら店の戸を開けると、そこに居たのはまさかの人物だった。
「レイラ、どうしたんだこんな夜更けに。」
「アネットの避妊薬を今後取り扱えないって言うのはどういう事やの?」
「どうもこうも無い、そういうギルドの決定だ。俺達には何も出来ない。」
「それじゃ困んねん、またあの不味くて効果の薄い避妊薬を飲むなんて耐えられへん。」
「そう言われてもなぁ・・・。」
「じゃあ、ギルドを通さずに個人で買えば問題ないやんな?他の冒険者もそうしてるって言ってたで?」
「個人ならな。」
「あ~よかった。ホンマどうしようかと思ったわ。」
ホッと胸をなでおろすレイラ。
そうか、竜宮館をはじめとする娼館のほとんどがいまはアネットの避妊薬を使っているんだったな。
ギルドが間に入って注文を受け、注文を受けた俺達が薬を納品しに行くというのが今の流れ。
それが止まった事で薬がなくなってしまったんだろう。
ほら、早速問題が発生してる。
「アネットに言ってすぐに準備させよう、中で待つだろ?」
「ええんか?」
「良い女を外で待たせるほど野暮じゃねぇよ。」
「せやんな。」
さも当たり前みたいな顔をしたので軽くおでこをデコピンしてやった。
前のレイラなら烈火の如く怒っただろうが、随分と丸くなったものだ。
「アネット、レイラの薬を用意してやってくれ。」
「すぐに持っていきます!」
二階からアネットの返事が戻ってくる。
ひとまず台所まで案内して香茶をふるまってやった。
「面白い味やな、ちょっと苦みがあるのにすっきりする。」
「西方の緑茶って奴だ。」
「へぇ、そんなんあるんやね。」
「大通りの乾物屋で売ってるぞ、ただし高い。」
「いくらするんや?」
「この茶筒で銀貨10枚。」
「ふ~ん、そんなもんか。」
さすが竜宮館一の人気娼婦、金銭感覚が普通じゃなかった。
リアクションを期待しただけにちょっと残念だが、まぁレイラだしな。
「お待たせしましたレイラ様。」
「わるいなぁ、アネット。」
「いえ、悪いのはギルドに変な命令した王都の役人です。」
「そうなんか?」
そこで驚いた顔をするとは思わなかった。
その辺も冒険者から聞いているのだと思ったが、もしかしたらその辺は箝口令が敷かれているのかもしれない。
「なんだそこまでは知らなかったのか。」
「面倒なやつがいるんやねぇ。どうせアンタに喧嘩売ったんやろ?」
「知らないんじゃなかったのか?」
「少し考えたらわかることや。ともかく薬はもらったから店に戻るわ、客待たせてんねん。」
「一人で大丈夫か?」
「心配してくれるん?」
「当たり前だろ。」
満足そうな顔をしてレイラが店の外に向かう。
一緒に外に出ると、竜宮館の警備員が軽く会釈をしてくれた。
この人が一緒なら大丈夫だろう。
「ほなまたな~。」
「おぅ、気をつけてな。」
とりあえず見えなくなるまでアネットと共に見送ってから店に入・・・れなかった。
「シロウさん!」
「今度はなんだよ。」
次にやってきたのはブレラだった
これまた珍しい来客だな。
「聞いて、ギルドから納入されるはずの水蜥蜴の革が全然入ってこないのよ。緊急の依頼なのに在庫がないの一点張りで、ねぇここにない?」
「ギルドからうちに来るなって言われてるんじゃないのか?」
「そんなの関係ないわよ。客を待たせるほうがよっぽど問題だわ。」
「ま、その通りだ。」
「ある?」
「水蜥蜴の革でしたら今日の昼に買い取ったものがありますよ。」
「だ、そうだ。」
様子を見に来たんだろうか、後ろからミラが答えてくれた。
そういえばそんなものを仕入れた気もする。
「よかった!」
「すぐに用意しますのでお待ちください。」
「あ、でもお金持ってきてない。」
「どんだけ慌ててたんだよ。」
「だって、いつもは纏めてギルドに納入してもらってるし代金もその時だから・・・。」
「仕方がない、また明日もってこい。いや、明日納品なら明後日か。」
「ほんとごめん。」
「水着の時の礼もあるし気にするな。」
「じゃあおまけして?」
「それとこれとは話が別だっての。請求書は明日工房まで持っていくからな。」
ミラから素材を受け取ったブレラがスキップをするように裏通りへと消えていく。
「もしかして、シロウ様がおっしゃっておられたのはこういうことですか?」
「それもある。だが一番の問題はギルド内部で起きているだろうから、表に出てくることはないだろう。」
「シープ様でしたら気にせずお話になりそうですが。」
「あ~、確かに。」
そのやり取りが現実のものになったのは、その翌日。
思ったよりも早いSOSだった。
「シロウさん、お金貸してください。」
「・・・はぁ。」
「こうなるのわかってましたよね?だからお願いします、本当にピンチなんです。」
「ピンチって、取引してないんだから補助金はちゃんと出てるだろ?」
「本部からの補助金なんて雀の涙ですよ!運営費のほとんどを自前で何とかしてるのに、それすら入らなくなったら終わりです!」
「出してもらえよ。」
「仮に出ても届くのには結構かかるんです。それまでにどれだけの支払いがあるか・・・。」
店に飛びこんでくるなり羊男が泣きついてくる。
俺が思っていた以上に今回の件は大変な事になっているようだ。
「それは資金をプールしてなかったそっちの問題だろ?俺じゃなくてまずはローランド様に申し立てるべきじゃないんか?」
「もちろんしましたよ!でも出してくれなかったんです。」
「いや、出してくれなかったって・・・。」
「それどころかシロウさんに詫びて許してもらえとまで言われました。別に私たちは何も悪くないのにですよ!?悪いのは全部王都の役人じゃないですか!」
「声が大きい。」
「頼れるのはシロウさんだけなんです!お願いします!お金を貸して下さい!」
まさかギルド協会に金を貸してくれと言われるとはなぁ。
でもそれも仕方のないことだ。
本来であればギルドに入っていたはずの金がかなり減ってしまったのだから。
それもそのはず、今の俺はギルド協会と連携してかなりの金額を動かしている。
その多くが昨日の薬であったり魔物の素材であったりするわけだが、それが止まれば必然的に収入が減る。
収入が減れば支出が補えずあっという間に支出過多になるわけだ。
基本自転車操業なんだよなぁ。
公営の機関だけに多額の貯金をするわけにもいかず、少しでもその歯車が狂えば今回のようになってしまう。
「いくら必要なんだ?」
「とりあえず今日明日中に金貨200枚ほど。」
「今回の件に懲りたらもう少し財務改善に取り組むんだな。」
「そんなことしても、余ったお金は全部吸い上げられるんです。はぁ、一週間もしたらギルド協会は破産ですよ。」
「例の男はまだいるんだろ?」
「はい。三日月亭に宿泊中です。」
「もちろんこの状況も理解してるんだよな?」
「当たり前じゃないですか。今頃どうやってシロウさんに頭を下げるか考えてるんじゃないですか?」
「いやいや頭を下げるなんてタマじゃないだろ。」
あぁいうタイプは最後まで自分の非を認めたがらない。
ならとことんやるしかないんだよなぁ。
残念だけど。
「今別口で王都に連絡を取っています。あと二日、あと二日だけ耐えれば状況は改善します!だからお金貸してください!」
「借用書持って来てるよな?」
「もちろんです!」
まったく俺が金を出してくれる前提で動きやがって。
癪には触るが別に羊男が悪いわけじゃない。
悪いのは全部あのおっさんだ。
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