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438.転売屋は貴族を叩き潰す
新作化粧品発表会はアニエスさんとアナスタシア様、それとナミル女史によってあっという間に告知、拡散された。
呼び寄せたのは王都近辺の貴族と大商人。
それと、ドンダーク家だ。
選んだ基準はごく単純、黒い噂があるかないか。
たったそれだけなのだが、ぶっちゃけ半数の貴族は引っかかってしまった。
だが、正直それには驚かない。
ぶっちゃけ、貴族っといっても儲かっている貴族と儲かっていない貴族とがいる。
特に儲かっていない貴族は自分の家の名を維持するだけでもいっぱいいっぱいだったりする。
それこそ俺みたいに固定で金を稼げるような家でなければ、やっていけないはずだ。
で、そんな家を狙ってドンダークのような危ない奴が声をかけるわけだな。
いい金儲けがあるぞ、とかそんな感じだろう。
今までも色々と噂はあったらしい。
それこそ今回のような徴収命令書の作成とかも、その中の一部だ。
偽造はかなりの罪に問われるが、本物であれば問題はない。
同じ家が何度も出す事は出来ないので、弱みを握った家なんかに依頼して回るんだろう。
だが、今回はそんな弱みを利用することもできない。
どちらかと言えばそういった噂のあるドンダークを嫌っている家ばかりを集めたので、さぞ居心地の悪い気分になっているだろう。
「シロウ様、準備出来ました。」
「よし、それじゃあやってやるか。」
「準備は万全です、憎っくきドンダークを叩き潰してごらんに入れましょう。」
「いや、叩き潰すって・・・。」
「今回は王家の支援もあります、この機会を使わずいつ叩くというのですか?」
「俺は穏便に片付けばいいんだが・・・。まぁ、いいか好きにしろ。」
やると決まって今日で二週間。
来週には冬がやってくる。
つまりはドンダークが提示してきた徴収期限が迫っているというわけだ。
向こうもこっちが何かしてくるだろうとは予測しているだろうけど、こちらはそれ以上の準備をしている。
この二週間、持てるツテをすべて使ってドンダークについて調べまくった。
その結果、イザベラの家を潰しにかかったのもドンダークの命令だったということもわかっている。
分かっているが、やはり物証は出てこなかった。
それはまぁ仕方がない。
仕方がないが、イザベラにとっては戦うべき理由が一つ出来たわけだ。
彼女が白い髪をかき上げると、首に着けられた隷属の首輪がキラリと光った。
絶対に着けないと言っていた首輪。
これを着けると決めた事こそが、彼女の意気込みを表している。
もう二度と、奴らの好きにはさせない。
俺にとっては関係のない話だが、イザベラにとっては亡き家と父親の無念を晴らすための戦いだもんなぁ。
ま、それで俺の平穏が手に入るのならばそれで良し。
「皆様お待たせいたしました、新作発表会を開始いたします!」
戦いの舞台は隣町の迎賓館。
そのエントランスホールでは、呼ばれた皆様方が開始を今か今かと待ちわびていた。
ホールを見下ろす二階からナミル女史が声をかける。
皆の視線を一身に受け嬉しそうな顔をしているのは気のせいじゃないだろう。
「今や飛ぶ鳥を落とす勢いと言われるカーラ研究員の化粧品、皆様も一度はお手に取ったことがあるでしょう。今回はその最新作をご紹介させて頂きます。もちろん紹介だけではございません、優先的にご提供させていただくために皆様にお越しいただいたわけです。ではまず、カーラ研究員から新商品についてご説明頂きましょう。」
さすが女豹と言われるだけの事はある。
鮮やかな話術で一瞬にして会場中の人間をこちら側へと引き込んだ。
呼ばれて出てきたカーラが若干辿々しくも説明を始める。
「で、奴さんどんな感じだ?」
「何とかきっかけを作ろうと色々と声をかけていたようですが、あまり長時間話をさせて貰っていないようですね。」
「そりゃそうだろう、嫌われてるんだから。」
「しょぼしょぼと壁際に移動して話を聞いているようです。」
この日までどういう見た目なのかは知らなかったが、見るからに悪人という顔をしている。
頬に傷、目は鋭く威圧するような感じがある。
中年だが中年太りはしていない、どっちかっていうとがっちりした感じ。
ジムにでも通っていそうだな。
「あの二人は?」
「ど真ん中に。」
アニエスさんと共に奥の通路から中の様子を伺いつつ、中央に目を向ける。
そこにいたのはアナスタシア様。
その横にはオリンピア様とウィフさんの姿があった。
まさかオリンピア様が来るとは思っていなかったが、兄・・・じゃなかった姉からの要請だ、来ない理由はないよな。
王家が来たことで更にやりづらい感じが出ている。
っと、そろそろカーラの挨拶も終わりだ。
いよいよメインイベントの開始だな。
「では、今回の化粧品『ピュアウォーター』をご紹介いたしましょう。イザベラさんお願いします。」
カーラの紹介を受け、特製ボトルを手にイザベラが前に出る。
死角になっていた場所からまさかの人物が出てきたことで、会場が一気にざわついた。
それもそうだろう。
地方貴族とはいえ、コレだけの美貌だ。
知らない人は少ない。
特に、ドンダークの驚いた顔はかなりのものだ。
まさかこの場に出てくるとは思わなかったんだろうな。
「こちらが体内から綺麗になる化粧水、『ピュアウォーター』です。先程カーラ様がお話されたように外からではなく体の内側からお肌を綺麗にする、そういった成分が多数含まれています。私も二週間ほど前から飲んでいますが、今まで以上に肌につや、そして潤いが出ていることを実感しています。是非今日はこの素晴らしい商品を覚えて帰ってください。このイザベラが、効果を保証いたしますわ。」
頭上に輝く太陽のティアラに負けないぐらいの自信たっぷりの顔で、眼下の貴族達を見下ろしている。
そこにいるのは奴隷のイザベラではない、大貴族ウォルト家の一人娘、イザベラだ。
「イザ・・・ベラ?」
「見れば見知った顔もおられるようですわね。ですが、皆様ご承知の通り私は以前の私ではございません。今はタダの奴隷、この首輪を見ていただければと思います。今の主人は皆様もよくご存知の買取屋、この化粧品の開発にも携わっていますシロウ様です。」
「シロウだ、今はイザベラの主人をさせて貰っている。今日はカーラ研究員の開発したこの化粧品を是非広めていただきたい。もちろん、本業のほうも大歓迎だ。即金が必要な場合はいつでも声をかけてくれ。」
イザベラが隷属の首輪をつけていることにウィフさんが信じられないという顔をしている。
せっかく俺が出てきたというのに、その視線はイザベラに釘付けになっていた。
それともう一人、ドンダークの目も。
「皆イザベラの美貌に釘付けなようだが、彼女は私の奴隷だ。もちろん、頭上に輝く太陽のティアラも私の物。実はイザベラを買った後に色々とちょっかいをかけてきた人もいましてね、生憎と譲るつもりはないのでこうやって皆様の前でお披露目させて頂いたのだが・・・。」
「待て。」
「ん?」
「その奴隷には強制徴収命令が出ているはずだ、何故このような場で自分の奴隷だと宣言する。事情によってはただじゃ済まさんぞ。」
「これはこれはドンダーク様、化粧品に興味があるとは存じませんでした。それで、なんでしたかね強制徴収でしたか?」
「その通りだ。そなたの奴隷、そこにいるイザベラには強制徴収命令が出されている。その期限が月末にもかかわらず、そなたは命令に応じず抵抗を続けているな。それでいてそのような発言は許さん。」
「確かに命令は出ていますがギルド協会には仲介をお願いしております。先日もギルド協会がドンダーク様に接触されたそうですが、無視されたとか。それでいてその発言は頂けませんね。」
「無視などしておらん!」
大声を出して俺の方を睨むドンダーク。
鋭い目つきがさらに鋭くなる。
「では何故お会いされなかったんです?お昼に伺った後、夕方にお出かけになられたのは確認しております。」
「貴様・・・監視していたのか?」
「そう、ギルド協会より報告を受けております。監視などという人聞きの悪いことをこの場で言うのはお控えいただけますか?」
「監視以外のなんだというのだ!」
「ではもしそうだとしても、お会いにならなかった理由にはなりませんね。のらりくらりとかわして期日を迎えようという魂胆かもしれませんが、好都合です。今この場で決着をつけようじゃありませんか。」
「強制徴収命令ですか?」
「その通りですオリンピア様。我々には貴族特権により民間人の所有する物を徴収権利が与えられております。もちろん余程の理由があれば拒否することはできますが、その決定は公平を司るギルド協会に委ねられております。」
オリンピア様の疑問に、横に控えるウィフさんが答える。
「それは・・・どうなのですか?」
「確かに私にも思うところはありますが、権利ですので。」
「・・・今はそれに対して議論する必要はありませんね。王家を代表してこの場を見守らせていただきます。」
思うところはある、という顔をしながらもこの場を認めるオリンピア様。
まぁ、これもすべて仕組んだやり取りなんだけどな。
「この場で、だと!?ギルド協会はどうするつもりだ?」
「はいはい、ここにおりますよ。」
「貴様は?」
「ギルド協会職員のシープと申します、加えてそこにおりますナミルも協会の職員。共に立ち合いを認められております上級職員となっております。二名以上の立ち合いが条件と記憶しておりますが、不服でしょうか。不服な場合はその理由を・・・。」
「これは茶番だ!八百長だ!なぜこの場に都合よくギルド職員がいる、こいつが仕組んだに決まっているではないか!?」
「我々が八百長?それは聞き捨てなりませんね。」
ジロリとドンダークをにらみつける羊男。
普段はひょうひょうとした感じだが、まるで別人になってしまったようだ。
「シープの言う通りですわ。私達がこの場にいるのは、この化粧品発表会で談合などが行われないかを見守るため、それを八百長と言われるのは心外ですわね。」
「今の発言を撤回していただけますでしょうか、ドンダーク様。」
「くっ・・・。」
「どうされますか?」
「撤回する。不服は・・・ない。」
「では両名の立ち合いの元、今回の強制徴収命令が妥当かどうかを判断致します。まず、この度の徴収命令、事情はどのようなものでしょうか。」
「名高きウォルト家のご息女が卑しい買取屋風情に買い取られたと聞き、貴族の名誉とイザベラ氏の身を守るために徴収命令を出した。いくら親の借金で奴隷に落ちたとはいえ、太陽のティアラを冠する貴族が平民に買われることなどありえん。貴族の不始末は貴族がつけるもの、だからこそこうして名乗りを上げたのだ。」
「なるほど、貴族の名を守る為ですか。」
「その通りです、オリンピア様。」
「我が国の貴族にもこのような素晴らしい志を持つ方がられるのですね、お父様に代わり感謝致します。」
「有難きお言葉。」
なんともまぁわざとらしい言い分だ事。
そうは言いながらもどうせティアラ目的だろと、ここにいる全員が思っている。
が、口には出さない。
出せば面倒なことになるとわかっているからな。
「続いて徴収命令に反対する理由を述べてください、買取屋シロウ様。」
「そもそもこの奴隷は金貨1000枚もの大金で買い付けたものだ。それを家を守るからという勝手な理由で徴収されるのは納得がいかない。もう一つ、太陽のティアラを平民が買うことに対する考え方も納得いかない。そもそもこのティアラはイザベラが所持して初めて意味のあるもので、無理やり引きはがせば災いが起きることは貴族であれば誰でもわかっているはず。はずなんだが、イザベラを買うだけ買ってティアラを手にしたら用済みにしようなんて馬鹿なことを考えている奴もいるらしいと、前所有者のレイブさんから聞かされたんだ。また前みたいにダンジョンが溢れちゃ困るからな、そうならないために俺が買ったわけなんだが・・・。それを卑しい平民が買うからという理由で連れていかれるのは理由としてどうなんだ?誰が所持しようがティアラはティアラだ、『ティアラを冠する貴族が平民に買われることなどありえない』だなんて、まるでティアラありきで考えているような言い方じゃないか。」
言った。
言い切ってやった。
先程まで自信満々だった顔が、苦虫を噛み潰したような顔に変わっている。
まさかティアラの逸話を知らなかった、とは言わないよな?
そういう目をしてやると悔しそうな顔で睨んできた。
なんとまぁ卑しい顔だ事。
「ティアラの逸話については私も存じています。まさか、そのような考えを持つ人がいるとは・・・。それを未然に防ぐために彼女をご購入されたのですね。」
「その通りですオリンピア様。今度はダンジョンだけでなく世界に災いが及ぶかもしれない、それを聞いて買わないでおられますでしょうか。例え卑しい平民と蔑まれても私は自分のするべきことをしただけです。それでいて勝手な理由で連れていかれるのは、いくら貴族様とはいえ許せるものではありません。」
「ドンダーク様の言い分も尤もですが、この方は決して彼女を弄ぶ為に買ったわけでは無いという事が今のお話で伝わって参りました。聞けば、以前にも奴隷を購入され大事にされているとか。このような素晴らしい方に買われてイザベラ様も安心でしょう。」
「しかし、オリンピア様!このままではティアラが、あの素晴らしいティアラが平民の手に落ちてしまうのですよ!」
「ドンダーク様、我々王族や貴族の身分を大切にしてくださる気持ちは痛いほどわかります。ですが、彼女はもう貴族ではないのです。加えて、ティアラも好き勝手に売られるようなものではありません。このようなティアラだからこそ、今後は私たち王家が責任を持って管理したいと思います。シロウ様、それまで一時的にお預けしてかまいませんでしょうか。」
「責任を持ってお預かり致します。」
今後は王家が管理する。
この一言が欲しかったんだ。
もちろんこれもすり合わせ済みの発言にはなるが、さすがオリンピア様。ここぞというところでしっかりと場を収めてくれたな。
「話は以上でしょうか?では、ギルド協会としての見解を申し上げますが・・・言うまでもなさそうですね。」
「そうですわね、王家が管理するのであれば今は誰が持っていても問題は無いでしょう。シロウ様の所には腕利きの冒険者が多数おられるとか、防犯面でも心配はないと判断致します。」
「ではギルド協会として、今回の強制徴収命令は無効であると結論付けます。」
「そんな・・・。」
「ドンダーク様、以上が我々の決定です。いえ、王家の、でしょうか。」
「本来個人間の問題に王家が立ち入るべきではないのですが、今回に限り介入させていただきます。これも平穏な国を維持するため、お二人ともご理解いただけますね。」
オリンピア様、いや王家の人間にここまで言われて文句を言える貴族はいないだろう。
もちろん俺も言うつもりはない。
欲しかったものを手に入れられず、悔しそうな顔をするドンダーク。
それを上から見ていたイザベラがとてもうれしそうな顔をしていた。
これにて一件落着。
・・・っていけばいいんだけど。
これからの事も考えて、こっちも決着つけるべきだよな。
呼び寄せたのは王都近辺の貴族と大商人。
それと、ドンダーク家だ。
選んだ基準はごく単純、黒い噂があるかないか。
たったそれだけなのだが、ぶっちゃけ半数の貴族は引っかかってしまった。
だが、正直それには驚かない。
ぶっちゃけ、貴族っといっても儲かっている貴族と儲かっていない貴族とがいる。
特に儲かっていない貴族は自分の家の名を維持するだけでもいっぱいいっぱいだったりする。
それこそ俺みたいに固定で金を稼げるような家でなければ、やっていけないはずだ。
で、そんな家を狙ってドンダークのような危ない奴が声をかけるわけだな。
いい金儲けがあるぞ、とかそんな感じだろう。
今までも色々と噂はあったらしい。
それこそ今回のような徴収命令書の作成とかも、その中の一部だ。
偽造はかなりの罪に問われるが、本物であれば問題はない。
同じ家が何度も出す事は出来ないので、弱みを握った家なんかに依頼して回るんだろう。
だが、今回はそんな弱みを利用することもできない。
どちらかと言えばそういった噂のあるドンダークを嫌っている家ばかりを集めたので、さぞ居心地の悪い気分になっているだろう。
「シロウ様、準備出来ました。」
「よし、それじゃあやってやるか。」
「準備は万全です、憎っくきドンダークを叩き潰してごらんに入れましょう。」
「いや、叩き潰すって・・・。」
「今回は王家の支援もあります、この機会を使わずいつ叩くというのですか?」
「俺は穏便に片付けばいいんだが・・・。まぁ、いいか好きにしろ。」
やると決まって今日で二週間。
来週には冬がやってくる。
つまりはドンダークが提示してきた徴収期限が迫っているというわけだ。
向こうもこっちが何かしてくるだろうとは予測しているだろうけど、こちらはそれ以上の準備をしている。
この二週間、持てるツテをすべて使ってドンダークについて調べまくった。
その結果、イザベラの家を潰しにかかったのもドンダークの命令だったということもわかっている。
分かっているが、やはり物証は出てこなかった。
それはまぁ仕方がない。
仕方がないが、イザベラにとっては戦うべき理由が一つ出来たわけだ。
彼女が白い髪をかき上げると、首に着けられた隷属の首輪がキラリと光った。
絶対に着けないと言っていた首輪。
これを着けると決めた事こそが、彼女の意気込みを表している。
もう二度と、奴らの好きにはさせない。
俺にとっては関係のない話だが、イザベラにとっては亡き家と父親の無念を晴らすための戦いだもんなぁ。
ま、それで俺の平穏が手に入るのならばそれで良し。
「皆様お待たせいたしました、新作発表会を開始いたします!」
戦いの舞台は隣町の迎賓館。
そのエントランスホールでは、呼ばれた皆様方が開始を今か今かと待ちわびていた。
ホールを見下ろす二階からナミル女史が声をかける。
皆の視線を一身に受け嬉しそうな顔をしているのは気のせいじゃないだろう。
「今や飛ぶ鳥を落とす勢いと言われるカーラ研究員の化粧品、皆様も一度はお手に取ったことがあるでしょう。今回はその最新作をご紹介させて頂きます。もちろん紹介だけではございません、優先的にご提供させていただくために皆様にお越しいただいたわけです。ではまず、カーラ研究員から新商品についてご説明頂きましょう。」
さすが女豹と言われるだけの事はある。
鮮やかな話術で一瞬にして会場中の人間をこちら側へと引き込んだ。
呼ばれて出てきたカーラが若干辿々しくも説明を始める。
「で、奴さんどんな感じだ?」
「何とかきっかけを作ろうと色々と声をかけていたようですが、あまり長時間話をさせて貰っていないようですね。」
「そりゃそうだろう、嫌われてるんだから。」
「しょぼしょぼと壁際に移動して話を聞いているようです。」
この日までどういう見た目なのかは知らなかったが、見るからに悪人という顔をしている。
頬に傷、目は鋭く威圧するような感じがある。
中年だが中年太りはしていない、どっちかっていうとがっちりした感じ。
ジムにでも通っていそうだな。
「あの二人は?」
「ど真ん中に。」
アニエスさんと共に奥の通路から中の様子を伺いつつ、中央に目を向ける。
そこにいたのはアナスタシア様。
その横にはオリンピア様とウィフさんの姿があった。
まさかオリンピア様が来るとは思っていなかったが、兄・・・じゃなかった姉からの要請だ、来ない理由はないよな。
王家が来たことで更にやりづらい感じが出ている。
っと、そろそろカーラの挨拶も終わりだ。
いよいよメインイベントの開始だな。
「では、今回の化粧品『ピュアウォーター』をご紹介いたしましょう。イザベラさんお願いします。」
カーラの紹介を受け、特製ボトルを手にイザベラが前に出る。
死角になっていた場所からまさかの人物が出てきたことで、会場が一気にざわついた。
それもそうだろう。
地方貴族とはいえ、コレだけの美貌だ。
知らない人は少ない。
特に、ドンダークの驚いた顔はかなりのものだ。
まさかこの場に出てくるとは思わなかったんだろうな。
「こちらが体内から綺麗になる化粧水、『ピュアウォーター』です。先程カーラ様がお話されたように外からではなく体の内側からお肌を綺麗にする、そういった成分が多数含まれています。私も二週間ほど前から飲んでいますが、今まで以上に肌につや、そして潤いが出ていることを実感しています。是非今日はこの素晴らしい商品を覚えて帰ってください。このイザベラが、効果を保証いたしますわ。」
頭上に輝く太陽のティアラに負けないぐらいの自信たっぷりの顔で、眼下の貴族達を見下ろしている。
そこにいるのは奴隷のイザベラではない、大貴族ウォルト家の一人娘、イザベラだ。
「イザ・・・ベラ?」
「見れば見知った顔もおられるようですわね。ですが、皆様ご承知の通り私は以前の私ではございません。今はタダの奴隷、この首輪を見ていただければと思います。今の主人は皆様もよくご存知の買取屋、この化粧品の開発にも携わっていますシロウ様です。」
「シロウだ、今はイザベラの主人をさせて貰っている。今日はカーラ研究員の開発したこの化粧品を是非広めていただきたい。もちろん、本業のほうも大歓迎だ。即金が必要な場合はいつでも声をかけてくれ。」
イザベラが隷属の首輪をつけていることにウィフさんが信じられないという顔をしている。
せっかく俺が出てきたというのに、その視線はイザベラに釘付けになっていた。
それともう一人、ドンダークの目も。
「皆イザベラの美貌に釘付けなようだが、彼女は私の奴隷だ。もちろん、頭上に輝く太陽のティアラも私の物。実はイザベラを買った後に色々とちょっかいをかけてきた人もいましてね、生憎と譲るつもりはないのでこうやって皆様の前でお披露目させて頂いたのだが・・・。」
「待て。」
「ん?」
「その奴隷には強制徴収命令が出ているはずだ、何故このような場で自分の奴隷だと宣言する。事情によってはただじゃ済まさんぞ。」
「これはこれはドンダーク様、化粧品に興味があるとは存じませんでした。それで、なんでしたかね強制徴収でしたか?」
「その通りだ。そなたの奴隷、そこにいるイザベラには強制徴収命令が出されている。その期限が月末にもかかわらず、そなたは命令に応じず抵抗を続けているな。それでいてそのような発言は許さん。」
「確かに命令は出ていますがギルド協会には仲介をお願いしております。先日もギルド協会がドンダーク様に接触されたそうですが、無視されたとか。それでいてその発言は頂けませんね。」
「無視などしておらん!」
大声を出して俺の方を睨むドンダーク。
鋭い目つきがさらに鋭くなる。
「では何故お会いされなかったんです?お昼に伺った後、夕方にお出かけになられたのは確認しております。」
「貴様・・・監視していたのか?」
「そう、ギルド協会より報告を受けております。監視などという人聞きの悪いことをこの場で言うのはお控えいただけますか?」
「監視以外のなんだというのだ!」
「ではもしそうだとしても、お会いにならなかった理由にはなりませんね。のらりくらりとかわして期日を迎えようという魂胆かもしれませんが、好都合です。今この場で決着をつけようじゃありませんか。」
「強制徴収命令ですか?」
「その通りですオリンピア様。我々には貴族特権により民間人の所有する物を徴収権利が与えられております。もちろん余程の理由があれば拒否することはできますが、その決定は公平を司るギルド協会に委ねられております。」
オリンピア様の疑問に、横に控えるウィフさんが答える。
「それは・・・どうなのですか?」
「確かに私にも思うところはありますが、権利ですので。」
「・・・今はそれに対して議論する必要はありませんね。王家を代表してこの場を見守らせていただきます。」
思うところはある、という顔をしながらもこの場を認めるオリンピア様。
まぁ、これもすべて仕組んだやり取りなんだけどな。
「この場で、だと!?ギルド協会はどうするつもりだ?」
「はいはい、ここにおりますよ。」
「貴様は?」
「ギルド協会職員のシープと申します、加えてそこにおりますナミルも協会の職員。共に立ち合いを認められております上級職員となっております。二名以上の立ち合いが条件と記憶しておりますが、不服でしょうか。不服な場合はその理由を・・・。」
「これは茶番だ!八百長だ!なぜこの場に都合よくギルド職員がいる、こいつが仕組んだに決まっているではないか!?」
「我々が八百長?それは聞き捨てなりませんね。」
ジロリとドンダークをにらみつける羊男。
普段はひょうひょうとした感じだが、まるで別人になってしまったようだ。
「シープの言う通りですわ。私達がこの場にいるのは、この化粧品発表会で談合などが行われないかを見守るため、それを八百長と言われるのは心外ですわね。」
「今の発言を撤回していただけますでしょうか、ドンダーク様。」
「くっ・・・。」
「どうされますか?」
「撤回する。不服は・・・ない。」
「では両名の立ち合いの元、今回の強制徴収命令が妥当かどうかを判断致します。まず、この度の徴収命令、事情はどのようなものでしょうか。」
「名高きウォルト家のご息女が卑しい買取屋風情に買い取られたと聞き、貴族の名誉とイザベラ氏の身を守るために徴収命令を出した。いくら親の借金で奴隷に落ちたとはいえ、太陽のティアラを冠する貴族が平民に買われることなどありえん。貴族の不始末は貴族がつけるもの、だからこそこうして名乗りを上げたのだ。」
「なるほど、貴族の名を守る為ですか。」
「その通りです、オリンピア様。」
「我が国の貴族にもこのような素晴らしい志を持つ方がられるのですね、お父様に代わり感謝致します。」
「有難きお言葉。」
なんともまぁわざとらしい言い分だ事。
そうは言いながらもどうせティアラ目的だろと、ここにいる全員が思っている。
が、口には出さない。
出せば面倒なことになるとわかっているからな。
「続いて徴収命令に反対する理由を述べてください、買取屋シロウ様。」
「そもそもこの奴隷は金貨1000枚もの大金で買い付けたものだ。それを家を守るからという勝手な理由で徴収されるのは納得がいかない。もう一つ、太陽のティアラを平民が買うことに対する考え方も納得いかない。そもそもこのティアラはイザベラが所持して初めて意味のあるもので、無理やり引きはがせば災いが起きることは貴族であれば誰でもわかっているはず。はずなんだが、イザベラを買うだけ買ってティアラを手にしたら用済みにしようなんて馬鹿なことを考えている奴もいるらしいと、前所有者のレイブさんから聞かされたんだ。また前みたいにダンジョンが溢れちゃ困るからな、そうならないために俺が買ったわけなんだが・・・。それを卑しい平民が買うからという理由で連れていかれるのは理由としてどうなんだ?誰が所持しようがティアラはティアラだ、『ティアラを冠する貴族が平民に買われることなどありえない』だなんて、まるでティアラありきで考えているような言い方じゃないか。」
言った。
言い切ってやった。
先程まで自信満々だった顔が、苦虫を噛み潰したような顔に変わっている。
まさかティアラの逸話を知らなかった、とは言わないよな?
そういう目をしてやると悔しそうな顔で睨んできた。
なんとまぁ卑しい顔だ事。
「ティアラの逸話については私も存じています。まさか、そのような考えを持つ人がいるとは・・・。それを未然に防ぐために彼女をご購入されたのですね。」
「その通りですオリンピア様。今度はダンジョンだけでなく世界に災いが及ぶかもしれない、それを聞いて買わないでおられますでしょうか。例え卑しい平民と蔑まれても私は自分のするべきことをしただけです。それでいて勝手な理由で連れていかれるのは、いくら貴族様とはいえ許せるものではありません。」
「ドンダーク様の言い分も尤もですが、この方は決して彼女を弄ぶ為に買ったわけでは無いという事が今のお話で伝わって参りました。聞けば、以前にも奴隷を購入され大事にされているとか。このような素晴らしい方に買われてイザベラ様も安心でしょう。」
「しかし、オリンピア様!このままではティアラが、あの素晴らしいティアラが平民の手に落ちてしまうのですよ!」
「ドンダーク様、我々王族や貴族の身分を大切にしてくださる気持ちは痛いほどわかります。ですが、彼女はもう貴族ではないのです。加えて、ティアラも好き勝手に売られるようなものではありません。このようなティアラだからこそ、今後は私たち王家が責任を持って管理したいと思います。シロウ様、それまで一時的にお預けしてかまいませんでしょうか。」
「責任を持ってお預かり致します。」
今後は王家が管理する。
この一言が欲しかったんだ。
もちろんこれもすり合わせ済みの発言にはなるが、さすがオリンピア様。ここぞというところでしっかりと場を収めてくれたな。
「話は以上でしょうか?では、ギルド協会としての見解を申し上げますが・・・言うまでもなさそうですね。」
「そうですわね、王家が管理するのであれば今は誰が持っていても問題は無いでしょう。シロウ様の所には腕利きの冒険者が多数おられるとか、防犯面でも心配はないと判断致します。」
「ではギルド協会として、今回の強制徴収命令は無効であると結論付けます。」
「そんな・・・。」
「ドンダーク様、以上が我々の決定です。いえ、王家の、でしょうか。」
「本来個人間の問題に王家が立ち入るべきではないのですが、今回に限り介入させていただきます。これも平穏な国を維持するため、お二人ともご理解いただけますね。」
オリンピア様、いや王家の人間にここまで言われて文句を言える貴族はいないだろう。
もちろん俺も言うつもりはない。
欲しかったものを手に入れられず、悔しそうな顔をするドンダーク。
それを上から見ていたイザベラがとてもうれしそうな顔をしていた。
これにて一件落着。
・・・っていけばいいんだけど。
これからの事も考えて、こっちも決着つけるべきだよな。
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