転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア

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439.転売屋は契約書を作る

新作発表会はなんだかんだあったが無事に終わりを迎えた。

ドンダークはいつの間にか帰ってしまったようだ。

まぁ、味方ゼロのこの場に残れるほど神経は図太くなかったんだろう。

他の貴族や商人はここぞとばかりにオリンピア様に近づき、気に入って貰えないかと模索している。

もしくは、カーラさんとイザベラに化粧品の取り扱いについて相談していた。

ここにいる時点で優先販売権はある。

だがそれ以上の何かを獲得しようと模索しているようだ。

皆大変だねぇ。

ちなみに俺は女豹と一緒にその様子をぼんやりと眺めている。

俺も共同開発者なんだが、誰も俺の所に来ないし。

まぁ別にいいんだけど。

「やぁシロウさん。」

「ウィフさん、王都に行ってすぐ呼び戻す形になって悪かったな。」

「いやいや、イザベラのためなら構わないよ。」

「あら、私はお邪魔?」

「どうなんだ?」

「別に聞かれても問題ないさ、本人は随分と忙しそうだしね。」

「とりあえず家の敵は取った気になっているようだ、あとはどうもって行くかだが・・・。」

「考えはあるんだろ?」

「あぁ、その為にちょっと耳を借りたい。」

俺はイザベラの今後についてウィフさんへと説明した。

最終到着点はこの人だ。

俺はそのための足がかりを作るだけ、後は自分で何とかして貰うしかない。

「なるほど。」

「構わないか?」

「もちろん、君がそれでいいのならば僕は喜んで手を貸そう。」

「この条件はあくまでも本人に向けたものだ、当初の予定通り報酬は別途もらうぞ。」

「でも彼女を解放してからになると随分先になるんじゃないかな?」

「当面は本人が頑張って稼いでくれるだろ、そっちのは成功報酬ということにしておく。」

当初の予定では早々に返済して貰うつもりだったが、このやり方であれば別に急ぐ必要はない。

元々貴族として社交界を渡り歩いてきたんだ、もしかしなくても適任だろう。

「後は本人がそれを受け入れるかだけど、どう思う?」

「もちろんやるだろ。マイナスは何もないんだ、やる気次第だけどな。」

「やる気はあると思うよ。むしろ彼女には適役かもしれない。」

「俺もそう思う。最初はどうかと思ったが、そもそも住む場所が違うんだよなぁやっぱり。」

「根っからの貴族だからね、奴隷になってもそこは変わらない。むしろ本人も思っていると思うよ、奴隷だとしても関係ない、私は私だと。」

「あのティアラを見ればそうだろうさ。」

大勢の貴族や商人に囲まれながらも、イザベラは堂々と話をしている。

その頭上に輝くは太陽のティアラ。

その効果があってもなくても彼女は堂々と話をしていただろうけど。

「とりあえず話だけはしてみる、どうなるかはその後のお楽しみって事で。」

「期待しているよ。」

ウィフさんに肩を叩かれ、俺は大勢に笑顔を振りまいているイザベラの所へと向かった。

「あ、シロウさん。」

「カーラ、大盛況のようだな。」

「おかげさまで今回の商品もたくさんの人に喜んで貰えそうだよ。」

「そいつは何よりだ。で、そっちは何してるんだ?」

「皆様ルティエ様のガーネットルージュに興味があるようでして、詳しく教えて差し上げている所です。」

「ガーネットルージュの?」

「アンタがガーネットルージュを作っているってのは本当かい?」

「次の新作はいつなんだ?妻にしつこく聞かれて困っているんだ。」

イザベラを取り巻いていた商人たちが俺の顔を見るなり近寄ってくる。

圧が半端ないんだが。

「まぁまぁ落ち着け、確かに俺がプロデュースしたが今は本人達に業務を委任している。俺がやっているのは材料の提供だけだ。」

「だが今でも関係はあるのだろう?」

「そりゃなぁ。」

「頼む!少しでいいから譲って貰えないか!」

「王都じゃぜんぜん手に入らないんだ。せめて取引契約だけでもしたい!」

「シロウ様、皆様窓口がどこかわかりづらくて困っておられるようです。差し出がましい提案ですが代理店か何かを作られ、そこで取引されてはいかがですか?」

「代理店なぁ。」

それは前にも考えていたんだが、代理店契約をするにも安心して任せられる相手がいないんだよなぁ。

俺が知ってるのは皆貴族やら騎士団やら王族やらと身分の高い人ばかりだ。

その人たちなら安心はできるものの、気軽に仕事を任せることは出来ない。

もしそれが出来るのならば、今後色々と楽にはなるんだが・・・。

まさか自分からそのネタを振ってくれるとは思わなかったよ。

心の奥でほくそ笑みながら俺は次の流れを考える。

よし、コレでいこう。

「カーラ、王都での化粧品の販売はどうやってるんだっけ。」

「マリーに任せしていますが、マリーも向こうで知り合いの商人に任せている程度だったかと。」

「つまり実売店はないのか。」

「供給量が追いついていないから難しいね、予約販売が関の山さ。」

「だが、あると便利だよな?」

「もちろんだとも。マリーも最近は忙しいようだし、任せられると色々と助かる。」

「と、言うことだからイザベラ、ちょっと王都に行って代理店やって来い。」

「はい?」

お、他の貴族がいるというのにイザベラが素の顔になっている。

素の顔も中々に美人ではあるが、作った顔ではないためなんていうか年齢相応に幼く見えるな。

「シロウ様、今なんと?」

「だからお前が直接王都に行って販売してこいって言ってるんだ。こういった皆様が取引先がなくて困ってるんだぞ?なら作るのが商売人だろうが。」

「私は奴隷です。」

「だからどうした、奴隷だから商売が出来ないのか?それならミラとアネットはどうなる。」

「確かにそうですが・・・。」

「皆さんも王都に代理店があると嬉しいだろ?」

「も、もちろんだ。わざわざこんな辺境まで・・・失礼。遠方まで来なくてすむ。」

「代理店ということは販売や契約もそこで行えるんだよな?」

「そのつもりだ。イザベラが窓口になって今後は取引を行うことになる。もちろんすぐに供給は出来ないだろうが、今よりかはマシになるはずだ。」

他の貴族や商人がウンウンと大きく頷いている。

だが、本人はまだ納得しないという顔だ。

もう一押し必要だな。

「イザベラ、コレは命令じゃない契約だ。」

「契約、ですか。」

「もしこれから設定する条件を達成できれば奴隷から解放してやる、それを聞いてもやらないのか?」

「え?」

「え?」

横で話を聞いていたカーラまで変な声をだす。

まぁ、驚くのも無理はない。

さっきまで金貨1000枚も出したんだぞと文句を言っていた人間が、いきなり解放するとか言い出したんだから。

「王都で代理店を開き、そこで金貨5000枚売り上げて来い。それが達成できれば晴れて自由の身だ、忌まわしいその首輪を外してやる。」

「奴隷じゃ・・・なくなる?」

「さっきまでの対応を見て確信した。俺には王都でのコネはないし、貴族や大商人相手に商談をする技量も度胸もない。だがお前は違う。貴族として振る舞い、話をすることが出来るだろう。あぁ、奴隷だからと下に見てくる奴とは商売しなくてもいいぞ。いくら大口でもお断りだ。俺の奴隷を雑に扱う奴にうちの商品を任せたくない。」

「もし、逃げたらどうするおつもりです?」

「逃げないさ、お前はそういう中途半端なことをする女じゃない。だが、ここと王都じゃ離れすぎて確認することも出来ないからな、一時的に所有者を変更してその人に監督して貰うつもりだ。」

「シロウ様以外の奴隷になるつもりはありません。」

「まぁそういうなって、俺が最も信頼している人だ。もちろんお前も知っている。なぁウィフさん。」

後ろを振り向き、壁際で出番を待っていたウィフさんを大きな声で呼んだ。

まったく、嬉しそうな顔しやがって。

もうすこし演技しろよな。

「呼んだかい?」

「王都での商売を考えて代理店を作ろうと思うんだが、どう思う?」

「いいんじゃないかな。コレだけの顧客がいるんだ、一括して管理できる体制は作るべきだと思う。」

「そうだろ?だからその役をイザベラにやらせるつもりなんだ、だが王都とこっちじゃちゃんと働いているか確認できない。そこでアンタに監督役を任せたい。ついでに、代理店の店舗になる部屋も貸して欲しいんだが・・・いいよな?」

「もちろんだとも、他でもない君の頼みなら喜んで力を貸そう。」

「ちょっとウィフ!?」

「ウィフ様だぞ、イザベラ。」

「っ、ウィフ・・・様。」

なんとも言えない顔をしてウィフさんの名前を呼ぶイザベラ。

当初は奴隷として彼女を迎えたくない、彼女は遠慮するからそういっていたウィフさん。

だがどうだ?

イザベラに名前を呼ばれた瞬間にものすごい笑顔になったぞ。

このサディストめ。

絶対好きな子に意地悪してきたタイプだぞこの人。

「これから契約書を作るから後はそれを見てくれ。流れとしては一時的にイザベラの主人になって貰い、解放されるまで監督して貰う。それと住居と仕事場の提供、あぁ食事も頼みたい。こいつまともに飯作れないから。」

「ふふ、知ってるとも。」

「うるさいわね、仕方ないでしょやったことないんだから。」

ウィフさんにからかわれてイザベラがぷいっと横を向く。

昔は恋仲だったこともある二人。

だが、色々な事情があってそれは叶わなかったんだろう。

だが、今は違う。

二人を隔てていた家はなくなり、違いは身分のみ。

その身分も自分の頑張り次第では何とかなるとなったら、こんな反応にもなるよな。

二人は念願の恋人同士になれる。

俺は何もせずに大金が転がり込んでくる。

ここにいる商人や貴族は、王都での取引先が出来る。

誰も損をしない最高の流れだ。

あ、ついでに言うとイザベラを厄介払いできるというのもある。

別に嫌いじゃないが、やはり好きでもない女を家においておくのは気が引けるし、なにより俺の女達とイチャイチャしづらいじゃないか。

念願?の屋敷も手に入ったわけだし、これからはのんびりとやっていける。

「イザベラ、金貨5000枚だ。それだけ稼げば自由にしてやる、サボるなよ?」

「サボるわけありません、さっさと稼いでこんな首輪から逃れて差し上げます。」

「そうそう、それだ。初めて顔合わせした時のあの勢い。猫被っている普段のお前よりもよっぽどまともだな。」

「失礼な、シロウ様でなければ張り倒していたところです。」

腰に手を当てて俺をにらみつける目は、野生の獣のようだ。

これがイザベラの本性なんだろう。

気が強くて手が付けられない、獣のような女。

それがウィフさんの幼馴染イザベラ。

そもそも俺の好みじゃないし、こういう女は俺の手に余る。

わざわざ好きでもない女を手元に置くぐらいなら、金儲けの道具として有効利用させてもらうだけだ。

これで王都での商売も確立されたわけだし、俺の手元にまた金が転がり込んでくるなぁ。

あっはっは。

笑いが止まらんわ。

そんなこんなで上機嫌のまま店へと戻った俺だったのだが・・・。

「シロウ様、妊娠しました。」

「はい?」

お腹に手を当てて幸せそうな顔をする女に、そんな気分は一気に吹き飛ばされるのだった。
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