転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア

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509.転売屋は歌にされる

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「はい無理。」

「何言ってるのよもう少し近づくわよ。」

「いや近づくって、あの巨体だぞ?噛まれなくても踏まれるだけで死ぬぞ?」

「踏まれなきゃいいのよ。逃げ場所をしっかり意識してたらどうって事ないわ。」

「コレだから脳筋は。」

「うるさいわね!助けてあげないわよ!」

約200mほど先を巨大なトカゲが歩いている。

昔、絵本や漫画で読んだドラゴンという生き物。

若干姿形は違うが、7割ほどは想像通りだ。

ダンジョン内だというのに巨大な羽を持ち、一歩進むたびに地面が揺れる。

それが一頭ならいい。

だが俺の視界の先には色とりどりのそいつらが四頭は見える。

アレ全部と戦うのはどう考えても不可能だ。

「レッドドラゴンがいないわね。」

「もう少し奥にいるんじゃないかしら。適当に間引いていく?」

「ん~、そうやって逃げられるのもアレだしギリギリまで近づいてからでいいんじゃない。」

「それもそうね。」

ニアとエリザが前を歩くドラゴンを見ながらそんな話をしている。

間引くって、そんな簡単に倒せるものなんだろうか。

どう考えても大事になる未来しか想像できない。

「いやー、コレだけ離れていても立派だねぇ。」

「初めて見ました。あの大きさ、離れていてもわかる迫力。さすが魔物の王者と呼ばれるだけあります。」

「若い個体は話も聞かないから王者って程じゃないわよ。奥のほうに行けば多少話しができる奴がいるかもね。」

「おい、ドラゴンが話すのか?」

「当たり前じゃない。」

「そいつを殺すのか?」

「古龍は殺さないわ、っていうかそこまで行くとこの人数では無理。後10人増やしてもギリギリじゃないかしら。」

「違いがわからん。」

今俺達を守ってくれているのは街で最高峰の冒険者達だ。

それをあと10人増やしてもぎりぎりとかどんな相手なんだろうか。

っていうか魔物がしゃべるのか。

まぁ、ミケやルフもいるから人語を理解できる魔物がいることは理解しているが・・・。

改めて俺達が手に入れようとしているものがかなりヤバイ物だってわかるな。

「さ、もう少し奥まで行くわよ。」

「「「おぅ!」」」

エリザの掛け声とともにゆっくりと先を進む。

竜の巣と呼ばれるその場所はダンジョンの中にもかかわらず頭上30mはあろうかという巨大なお椀型の空間になっていた。

広さに関しては見当もつかない。

地面付近は岩がごつごつしていてそこに小さなドラゴンなんかが隠れているようだ。

出来るだけ刺激をしないようにゆっくりと、ほんとうにゆっくりと先を進んだ所でエリザが歩みを止めた。

「見つかった?」

「えぇ、向こうもこっちがわかったみたい。」

「どうする?」

「んー平和的に解決できるようには見えないわねぇ。」

「見て、今にも火を吹きそうな顔してるわ。」

随分と軽い感じで話をしているが、やばい相手だというのは素人の俺でもわかる。

視線のはるか先、ドームの中ほどにそびえる山の上に真っ赤な体をしたひと際巨大なドラゴンが鎮座していた。

エリザの言うようにこちらを認識しているんだろう、まっすぐにこちらを見てくる。

ヤバイ。

生存本能が危険信号を発しまくっている。

「あはは、流石の僕もアレはまずいってわかるよ。」

「すごい、あれがドラゴン。」

「ミラは怖くないのか?」

「皆さんと一緒ですから。それに、何かあってもシロウ様と一緒に死ねるのなら本望です。」

死ぬ選択肢はさすがに勘弁してもらいたい。

男と違って女の方が度胸があるというけれど、まさにそれだ。

エリザを筆頭にアニエスさんや他の女冒険者は皆やる気に満ちた顔をしているが、俺を含めた男連中にはビビっている奴が多い。

もちろんやる気満々なやつもいるけど、ごく少数だ。

「あれが古龍なのか?」

「おそらくはね、あの大きさだし人語は余裕でしょ。」

「会話は出来ても平和的には無理なんだよな?」

「シロウはいきなり家に上がり込んできて金貨500枚よこせって言われたらどうする?」

「追い返すな。」

「そういう事。」

非常にわかりやすい説明ありがとう。

あくまでも俺達は侵入者で招かれざる客というわけだ。

エリザが武器を抜くと同時に他の冒険者達もそれぞれの武器を構える。

武器を構えたエリザが一歩進んだ瞬間、心臓を握り潰されるような威圧感と共に鼓膜を破けるぐらいに巨大な咆哮がダンジョン中に反響した。

それを合図に近くにいたドラゴン達が一斉に向かってくる。

さぁ戦いの始まりだ。

迫りくるドラゴンの群れに向かってエリザがまっすぐに突っ込んでいく。

俺達はそれをただ見守る事しかできなかった。


「だー、終わり!」

「エリザさん後ろへ。今のうちに休憩と回復を、それと右腕が切れてますよ。」

「ほんとだ。シロウポーション取って~。」

「取ってってお前なぁ。」

ドクドクと血が流れているにも関わらず、まるでのどが渇いたから水をとってほしい程度のノリでポーションを求めてきやがる。

アドレナリンがそうさせるのか、それともこれが普通なのか。

血の匂いが濃すぎ俺まで正常な判断が出来なくなってきた。

とりあえず水筒とポーション、それと干し肉を一緒に渡してやると嬉しそうに受け取り全て飲みほした。

もう一度言う飲み干した。

干し肉を噛まずに飲むとかどんな荒業なんだよ。

ポーションを飲むと流血はすぐに止まり、具合を確認するかのように腕を回す。

「残るはあの大きいのだけど・・・。」

「やばい相手なんだよな?」

「出来れば戦いたくないわね、近くまで行ったけどあの古龍はここの主かもしれない。」

「ダンジョンのか?」

「ううん、龍の巣の。」

仲間が倒されているにも関わらず初期位置から動かずこちらを見下ろす巨大なドラゴン。

最初の咆哮以降目立った動きはない。

「髭はあいつしか持ってないんだろ?」

「そうね、雑魚には生えてないから必然的にそうなるわ。」

「だ、そうだぞ。」

「あぁ、ここにリュートがないのが惜しい!こんなに素晴らしい戦いをすぐに歌にできないなんて・・・。」

「だめだ聞いちゃいねぇ。」

髭を欲する本人は、目の前で行われる戦いに心奪われ今にも歌いそうな感じだ。

さて、どうするかなぁ。

「とりあえず全部倒してから考えるわ。」

「もういくのか?」

「うん、右翼にけが人がいるから手伝ってくる。」

「無理するなよ。」

「シロウもね。」

俺は別に無理なんてしないさ。

ただこうやって後ろで戦いの様子を見守っているだけ。

エリザが再び戦列に加わるのを見届け再びドラゴンへと視線を向ける。

「あれ?」

が、そこにドラゴンの姿はなく止まり木のような岩があるだけ。

「シロウ様危ない!」

「え?」

ミラの慌てた声が聞こえてきたと同時に悪寒が全身を駆け抜け、慌てて視線を上に向ける。

巨大なドラゴンがまるで猛禽類が獲物を狙うが如く爪を立てて急降下してくるのが見えた。

ミラが駆け寄ろうとするのを腕で制し、ドラゴンをにらみつける。

標的がミラじゃなくてよかった。

恐怖よりも安堵のほうが大きかったのを覚えている。

誰もが俺の死を覚悟しただろう。

俺以外の全員が。

「ミケ!」

「にゃあ!」

だがその爪が俺を貫くことはなかった。

空を切るドラゴンの爪。

風圧でミラとマイクさんが吹き飛ばされたのは見えたが、そこで一気に視界が流れてしまいその先はわからなかった。

ものすごい力と速度で身体が引っ張られる。

「その髭貰ったし!」

「ぐ、おのれ小娘一体どこから!」

「油断大敵だし!ドラゴンなんて怖くないし!」

そんな会話もあっという間に聞えなくなってしまった。

気付けば俺はドラゴンの乗っていた例の岩の上で宙に浮いていた。

まるで何かに咥えられたかのように。

「ナイスミケ、助かった。」

「みゃ~う!」

そう、俺を助けたのはそばでずっと待機していた幽霊猫のミケ。

ドラゴンが俺達非戦闘民を狙ってくるであろうと警戒し、透明のまま隠れていたのだ。

ドラゴンは再び空中に戻り俺の方をにらみつけてくる。

よく見ると右の髭が一本ない。

そうか、ベッキーが上手くやったか。

「忌々しい人間め、まさか死者を甦らす邪法まで扱うか。」

「何を誤解しているか知らないがミケは自分の意志でここにいる、そうだよなミケ。」

「みゃう!」

「ほぉ、死してなお人に仕えるか。よく見れば向こうにも死人がいるな。私の大事な髭を強引に引っ張りおって、肌が荒れたらどうする。」

「え、心配するのそこ?」

「最近は年のせいかうろこの調子もよくない、年は取るものではないな。」

「なら今度化粧品を持ってきてやるよ、髭を貰ったお礼にな。」

まさかドラゴンが肌荒れを心配するとは思わなかった。

っていうか全身鱗だろ?

肌荒れするのか?

「面白い男だ、さっきまで私の咆哮で震えていたというのに。」

「どうも俺の思っていたドラゴンと違うんでな。話せばわかるそういうタイプだろ、アンタ。」

「アンタとは失礼な、それが乙女に対する男のセリフか?」

「え、メスだったのか?」

「そうか人間にはわからぬか。」

えぇ分かりませんとも。

ドラゴンが上に降りて来そうだったのでミケに合図して地面に降ろして貰う。

長時間の実体化は疲れるのですぐにミケの姿は見えなくなった。

「シロウ、大丈夫?」

「こっちはな。ミラとマイクさんは?」

「二人は無事よ。ベッキーが上手くやってくれたのね。」

「あぁ、作戦成功だ。」

「その作戦とやらで私は髭を失った。まったく、髭が欲しいのであればそういえば考えてやったのに。」

「いや、襲ってきたのはそっちだろ?」

「巣を襲ったやつが何を言うか。」

売り言葉に買い言葉。

さっきまで血で血を洗う戦いをしていたはずなのに、ココだけは別の空気が流れていた。

「とりあえず目的の物は頂いた、アンタ・・・えーっと。」

「ディネストリファ、ディーネでよいぞ人間。」

「シロウだ。」

「どれも同じような顔をしていてよくわからんな。いや、シロウだったか。そなただけは別の気配でよくわかる。」

「そりゃどうも。」

別の気配っていうのは異世界から来たことを言うのだろうか。

ディネスト・・・ディーネでいいか。

ともかくこれ以上襲ってくるような様子はないし、さっさと上に戻るとしよう。

「ディーネには悪いが俺達はこれで失礼する。ここはダンジョン、恨みっこはなしだ。」

「何を心配しているかは知らんが、そなたらが倒したのは所詮魔物。100匹倒したところでまた勝手に増えるだけだ。」

「あぁそうかい。」

「髭を奪われたのは癪だが、此度はそなた等が上だっただけの事。次に来たときは覚悟するがいい。」

「いや、多分来ないぞ。」

「なんだと?化粧品とやらを持ってきてくれるのではないのか?」

そういえばそんなこと言った気がする。

っていうかマジでほしいのかよ。

ドラゴンなのに。

「あ~、わかった今度持ってくるが期待はするなよ。あくまでも人間用だ。」

「その辺は心得ている。ほら、さっさと去ね、人間。私の気が変わらぬうちにな。」

そう言うとディーネは岩の上にゆっくりと伏せ、尻尾で顔を覆ってしまった。

「帰っていいってさ。」

「あのさ、シロウ、怖いんじゃなかったの?」

「会話が出来ないやつは怖いさ、だがあいつはそんな感じじゃなかったからな。話が出来るのならそんなに怖くない。」

「まさか伝説のドラゴンと会話をするなんて、君はいったい何者なんだい?」

いつの間にかミラとマイクさんを含め冒険者全員が俺の後ろに集まっていた。

皆俺とディーネとの会話を信じられないという感じで見守っていたようだ。

「何者ってただの買取屋だよ。ともかく目的の髭は手に入ったんだ、さっさと地上に戻って祝杯を上げようぜ。聞かせてくれるんだろ、ご自慢の歌をさ。」

「もちろんだとも。今日あった事全てを僕のすべてをかけて歌にさせてもらううよ。これは絶対に流行る、なんせドラゴンと人が意思を通わせるなんてお伽噺でしか聞いたことないはずだからね!」

「いや、それは勘弁してくれ。」

今の話が歌になるって?

しかもそれを他の場所で歌う?

いやいや、そういうのは勘弁してもらえないかな。

興奮冷めやらぬ感じのマイクさんをなだめながら、俺達はゆっくりと地上へ戻る準備をするのだった。
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