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510.転売屋は靴を作る
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ダンジョンから脱出して三日。
伝説を目撃したの何だのとひとしきり大騒ぎした後、マイクさんは王都へと旅立っていった。
今までで一番の歌が出来るぞと直したリュートをかき鳴らしていたぐらいだ。
俺からしてみればそこまでしなくてもいいと思うのだが、本人はそうではないらしい。
よくわからないが、生きてドラゴンと会話をするってのはかなり珍しい事なんだとか。
そもそも古龍自体なかなか出会うことがない。
それに出会うどころか会話を目撃したら、そりゃ騒ぎにもなるわよとエリザはあきれ顔で言っていた。
「うーん。」
「まだ痛いの?」
「靴擦れは治ったが靴そのものが限界だな。」
「ひどい穴ねぇ、買い換えたら?」
視線の先にはつま先に大きな穴が開いた靴。
この世界に来たときに履いていた靴だが、長年の使用でとうとう破れてしまった。
履き心地がよく足になじんでいただけに相棒を失った気分だ。
「買い換えるって言ってもなぁ。」
「シロウの足じゃ市販の靴は無理ね。」
「そうなんだよ。」
穴の開いた部分はちょうど親指の先のあたり。
足の親指がどちらも一番長いのでそこばかり穴が開いてしまうんだよなぁ。
靴下なんてひどいときは一週間持たなかった気がする。
馬鹿の大足とはよく言ったもんだが、足自体も結構大きめだ。
この世界に来て体も変わったんだからその辺も直してくれたらよかったのに、やれやれだ。
「とはいえこの靴で歩くのは無理だし、とりあえず間に合わせで何か買うか。軟革の靴ならそんなに痛くないだろ。」
「痛くはないけどあまり長時間歩けないわよ。」
「そもそもダンジョンにもぐることは想定してないし、遠出するとしても馬車移動だ。大丈夫じゃないか?」
「いえ、大丈夫ではございません。」
「ミラ聞いてたのか。」
「朝一番で市場中を歩き、その後各ギルドに顔を出し、昼過ぎにまた市場へ。夕方畑を見に行きそのまま散歩に行こうものならどれだけ歩くことになるか。シロウ様は思っている以上に歩いておられますよ。」
ふむ、自分の行動を改めて思い返すと確かに歩いているな。
軟革の靴はソールが柔らかいので近所を歩く程度なら問題ないが長時間となると足が痛くなる。
とはいえ、硬革は親指が痛くなるんだよなぁ。
この世界でも一般的な足のつくりはやはり親指が短い。
となると必然的に市販の靴は何も合わなくなってしまうわけだ。
「それならオーダーして作って貰えば?」
「そこまでする必要あるか?」
「あります。」
「即答か。」
エリザではなくミラに即答されてしまった。
オーダーメイドなぁ。
そこまでするかと思いつつも、痛い思いをするのなら金をかけた方がいいよなぁ。
金ならある。
それが今の強みでもあるわけだし。
「仮に作るとして職人に心当たりは?」
「冒険者向けでよければ紹介出来るわよ。何を隠そう私の靴もオーダーしたやつだし。」
「そういえば新しいの履いてたな。」
「前のが壊れちゃったのよね。修理しようと思ったら作ったほうが早いって言われてお願いしたの。」
「金持ち発言だな。」
「いい仕事がしたいならいい装備を、シロウの口癖でしょ?」
「違いない。」
「決まりね、今からメンテナンスに行くから一緒に行こ。」
今から、と反論する前に腕を引かれて連れて行かれたのはブレラ達が工房を連ねる別の職人通りだ。
「ここよ。ドック、いる?」
「その声はエリザか。手が離せないから適当に入って来いよ。」
「は~い。」
職人と聞くと硬いイメージを抱くが随分とフレンドリーな感じだ。
工房に入るとドドドドと機械が動いているような重低音が響いていた。
「あー、叩いてるのか。ちょっとうるさいけど我慢してね。」
「叩くってのはあれか?生地を伸ばしてるのか?」
「伸ばすっていうか柔らかくしてるの。やりすぎると弱くなるんだけど、ドックにかかると丈夫さはそのままで当たりが優しくなるのよ。」
「なるほどなぁ。」
本人の姿は工房の奥で見えないが、店内には作品と思われる靴が並べられている。
どれも立派な革靴ばかり。
とはいえ、元の世界と違ってその種類も色も様々だ。
『ワイルドボアの革靴。重厚なワイルドボアの皮が使われており非常に丈夫。水をはじくので湿地帯でも染みてこない。最近の平均取引価格は銀貨34枚。最安値銀貨5枚最高値銀貨66枚最終取引日は28日前と記録されています。』
『ランドドラゴンの硬革靴。ドラゴンの中でも加工のしやすいランドドラゴンの皮は乾燥に強く手入れをしなくても長持ちする。最近の平均取引価格は銀貨59枚。最安値銀貨41枚最高値金貨1枚。最終取引日は101日前と記録されています。』
手に取っただけでも何種類もの皮を上手に加工して作られていた。
一種類だけ使われているのもあれば、部分部分で種類を変えているものもある。
中には鉄板が仕込んでいるものもあった。
まるで安全靴だ。
金属製の靴もあるが、アレは中々にうるさいし歩きにくいのでほとんどが革靴の上に金属をハメて使われている。
何をするにしても足元がおろそかでは本領を発揮できない。
飯を抜いてでもいい靴を買えと初心者冒険者にレクチャーしていたのを聞いたことがある。
「ね、どれもすごいでしょ。」
「あぁ見事なもんだ。」
「そんなに褒められると照れるなぁ。」
靴の仕上がりに見惚れていると、後ろから先の声が聞こえてきた。
そこにいたのは長身の男。
俺と同じぐらいだから170cm後半、体格はちょっと太めか。
でも身長があるからそんなに太くは見えないな。
これがドワーダだとずんぐりむっくりな感じになってただろうけど、そういう感じもない。
「終わったの?」
「うちのお得意さんが来て仕事なんてできないって。あ、どうもドックっていいます。噂はブレラから色々と。」
「知り合いなのか?」
「うちの革はみ~んなブレラの工房から買ってるんだ。仕事ぶりはもう知ってるだろ?」
「あぁ、いい仕事してくれてる。」
それもそうだな、この街の革職人はそれほど多くない。
その中で一番の腕を持っているのがブレラの工房だ。
なるほどそれなら安心して任せられる。
「ねぇ、ちょっと右の小指が痛いんだけど見てくれない?」
「えぇ?この前直したのに?」
「踏み込んだ時にね、すれるのよ。」
「うーん、エリザの小指はひねくれてるからなぁ。」
「中身と一緒だな。」
「そうそう足の指はその人を現すんだ、よくわかってるね。」
お互いにニヤリと笑い合う。
「まったく、失礼しちゃう。」
「本当の事だろ?」
「じゃあシロウの指はどうなのよ。」
「なにか問題が?水虫ぐらいなら気にならないけど。」
「おかげさまでそっちは問題ない。両足とも親指が長くてな、何を履いてもそこが当たるんだ。」
「それはまた珍しいね、ちょっと拝見。」
つっかけを脱ぐとその場にしゃがんで俺の足を力強く掴んだ。
色々な角度から足を見られるのは少し恥ずかしい気持ちになるなぁ。
「ねぇ、シロウの足はどんな感じ?」
「そうだねぇ、好奇心旺盛で新しいことにチャレンジするのは好きだね。その点熱しやすく冷めやすいけど義理人情には厚い感じ。なんだかんだ言って自分で全部やってしまうタイプじゃないかな。」
「え、すごい!」
「なんでわかるんだ?」
「足は口よりも雄弁にその人を語ってくれる。うん、非常にいい足だね。」
まるで俺の事を知っているような口ぶり。
いや、多少は知っているかもしれないがそこまで当てられるとは思わなかった。
「いい足って言われて喜んでいいのか?」
「もちろん、作り甲斐のあるいい足だ。確かに親指は長いけどこれぐらいなら十分にカバーできる、どんな靴を御所望だい?」
「そうだな・・・。軽くて長時間歩いても疲れずクッション性の高いやつが理想だ。ただ強度はあまり気にしなくていい、別に魔物と戦うわけじゃないからな。」
「でもこの前はダンジョンに潜ったそうじゃないか。」
「知ってるのか?」
「噂の吟遊詩人が歌っているのを聞いたんだ、巨大なドラゴンに臆することもなく見事口だけで負かしてしまたっとね。」
「ったく、どれだけ脚色してるんだよ。」
負かしたのはどちらかというとミケとベッキーじゃないだろうか。
俺はただ話をしただけ、言い負かしたつもりはないんだが・・・。
マイクさんが王都に近づくにつれこの話がどんどん広まっていくんだろ?
一度は行ってみたい王都が一気に行きたくない場所に代わってしまった。
マジで勘弁してくれ。
「ダンジョンに潜るときは別の靴を作ればいいじゃない、戦うわけじゃないけど靴底に金属を敷いておけば罠を踏んでも安心よ。」
「そもそもそういう場所に行かなければいい。で、さっきの要望に叶う素材はありそうか?」
「そうだね、過度の強度を気にしなくていいのならのジャンピングリザードの革を使用して、クッションとしてブラックスライムの核を、ソールにはクッション性と耐久性のあるラバーゴーレムの外皮を使う感じかな。」
「うわぁ、豪華ねぇ。」
「エリザの反応からすると高いのか?」
「ん~エリザの紹介だし銀貨40枚ぐらいかなぁ。」
「そんなもんか。」
金貨2枚とか3枚ぐらい要求されるのかと思ったがそうではなかった。
確かに効果ではあるが、オーダーならそれぐらいしてもおかしくないだろう。
ブラックスライムは中々お目にかかれない珍しい魔物だ。
ジャンピングリザードは見た目のわりに動きが素早く冒険者から毛嫌いされているだけに、どちらもどうしても値段が高くなる。
「え、いいの?」
「素材の価格から考えても妥当な金額だろう。技術料込みでもう少しするもんだと思ってたからな。」
「良い仕事には良い報酬をがシロウのモットーだからね、仕上がりがよければ文句言わないわ。」
「さすが町一番のお金持ち、作り甲斐があるなぁ。」
「納期はどのぐらいだ?」
「どれも在庫があるから二日で出来るよ。」
「そんなに早いのか?」
「加工の難しい素材じゃないからね。じゃあ早速足型を取りたいからここに乗って、そうそうそのままそのまま。」
一週間ぐらいかかるのかと思ったがそうではないらしい。
後で聞くとどの素材も物はいいが高価でなかなか出ない不良在庫化した素材だったんだとか。
俺としてはいい物をすぐ作ってくれるのなら文句はない。
納期もそのお礼を込めてだったんだろう。
足形や甲高など色々と調べられ追い出されるようにして工房を後にした。
「あれ、物凄いやる気の顔よ。凄いのが出来ると思うわ。」
「そうなのか?」
「うん、目が輝いてたもん。」
「いい仕事してくれるんならなんでもいいさ。靴の調子はどうだ?」
「大丈夫、直してもらったから絶好調。」
トントンとその場でジャンプしてニカッと笑う。
こちらもなかなかに上機嫌とみえる。
やはり足元がすっきりすると気持ちが違うよな。
「で、一つ聞きたいんだが冒険者は靴に金をかけるんだよな?」
「かけるっていうか必須よね。足元をおろそかにしている冒険者は早死にするわ。」
「じゃあ良い物が安く手に入るんなら買うよな?」
「そりゃぁ、まぁ。」
「わかった。」
それが聞ければ十分だ。
「ねぇ、変なこと考えてる?ドックの仕事取っちゃだめだよ?仕事を押し付けてもダメだからね。」
「そんな事はしないさ。そもそもオーダーの靴なんて新米たちには高嶺の花、迷惑は掛からないだろ。」
「ってことはつまり?」
「レディメイドの靴が隣町で加工されてるって前にカーラが言ってたんでな、ちょっとそこに話をしに行くだけさ。」
「はぁ、シロウの目まで輝きだした。どうなっても知らないんだから。」
需要があるものは売れる。
良い物を出せば間違いなく売れる。
冒険者に限らず日々の生活に靴は必須だからな。
さ~て、いい感じの素材がないか早速戻って相談しよう。
靴も楽しみだがこっちも楽しみだな。
伝説を目撃したの何だのとひとしきり大騒ぎした後、マイクさんは王都へと旅立っていった。
今までで一番の歌が出来るぞと直したリュートをかき鳴らしていたぐらいだ。
俺からしてみればそこまでしなくてもいいと思うのだが、本人はそうではないらしい。
よくわからないが、生きてドラゴンと会話をするってのはかなり珍しい事なんだとか。
そもそも古龍自体なかなか出会うことがない。
それに出会うどころか会話を目撃したら、そりゃ騒ぎにもなるわよとエリザはあきれ顔で言っていた。
「うーん。」
「まだ痛いの?」
「靴擦れは治ったが靴そのものが限界だな。」
「ひどい穴ねぇ、買い換えたら?」
視線の先にはつま先に大きな穴が開いた靴。
この世界に来たときに履いていた靴だが、長年の使用でとうとう破れてしまった。
履き心地がよく足になじんでいただけに相棒を失った気分だ。
「買い換えるって言ってもなぁ。」
「シロウの足じゃ市販の靴は無理ね。」
「そうなんだよ。」
穴の開いた部分はちょうど親指の先のあたり。
足の親指がどちらも一番長いのでそこばかり穴が開いてしまうんだよなぁ。
靴下なんてひどいときは一週間持たなかった気がする。
馬鹿の大足とはよく言ったもんだが、足自体も結構大きめだ。
この世界に来て体も変わったんだからその辺も直してくれたらよかったのに、やれやれだ。
「とはいえこの靴で歩くのは無理だし、とりあえず間に合わせで何か買うか。軟革の靴ならそんなに痛くないだろ。」
「痛くはないけどあまり長時間歩けないわよ。」
「そもそもダンジョンにもぐることは想定してないし、遠出するとしても馬車移動だ。大丈夫じゃないか?」
「いえ、大丈夫ではございません。」
「ミラ聞いてたのか。」
「朝一番で市場中を歩き、その後各ギルドに顔を出し、昼過ぎにまた市場へ。夕方畑を見に行きそのまま散歩に行こうものならどれだけ歩くことになるか。シロウ様は思っている以上に歩いておられますよ。」
ふむ、自分の行動を改めて思い返すと確かに歩いているな。
軟革の靴はソールが柔らかいので近所を歩く程度なら問題ないが長時間となると足が痛くなる。
とはいえ、硬革は親指が痛くなるんだよなぁ。
この世界でも一般的な足のつくりはやはり親指が短い。
となると必然的に市販の靴は何も合わなくなってしまうわけだ。
「それならオーダーして作って貰えば?」
「そこまでする必要あるか?」
「あります。」
「即答か。」
エリザではなくミラに即答されてしまった。
オーダーメイドなぁ。
そこまでするかと思いつつも、痛い思いをするのなら金をかけた方がいいよなぁ。
金ならある。
それが今の強みでもあるわけだし。
「仮に作るとして職人に心当たりは?」
「冒険者向けでよければ紹介出来るわよ。何を隠そう私の靴もオーダーしたやつだし。」
「そういえば新しいの履いてたな。」
「前のが壊れちゃったのよね。修理しようと思ったら作ったほうが早いって言われてお願いしたの。」
「金持ち発言だな。」
「いい仕事がしたいならいい装備を、シロウの口癖でしょ?」
「違いない。」
「決まりね、今からメンテナンスに行くから一緒に行こ。」
今から、と反論する前に腕を引かれて連れて行かれたのはブレラ達が工房を連ねる別の職人通りだ。
「ここよ。ドック、いる?」
「その声はエリザか。手が離せないから適当に入って来いよ。」
「は~い。」
職人と聞くと硬いイメージを抱くが随分とフレンドリーな感じだ。
工房に入るとドドドドと機械が動いているような重低音が響いていた。
「あー、叩いてるのか。ちょっとうるさいけど我慢してね。」
「叩くってのはあれか?生地を伸ばしてるのか?」
「伸ばすっていうか柔らかくしてるの。やりすぎると弱くなるんだけど、ドックにかかると丈夫さはそのままで当たりが優しくなるのよ。」
「なるほどなぁ。」
本人の姿は工房の奥で見えないが、店内には作品と思われる靴が並べられている。
どれも立派な革靴ばかり。
とはいえ、元の世界と違ってその種類も色も様々だ。
『ワイルドボアの革靴。重厚なワイルドボアの皮が使われており非常に丈夫。水をはじくので湿地帯でも染みてこない。最近の平均取引価格は銀貨34枚。最安値銀貨5枚最高値銀貨66枚最終取引日は28日前と記録されています。』
『ランドドラゴンの硬革靴。ドラゴンの中でも加工のしやすいランドドラゴンの皮は乾燥に強く手入れをしなくても長持ちする。最近の平均取引価格は銀貨59枚。最安値銀貨41枚最高値金貨1枚。最終取引日は101日前と記録されています。』
手に取っただけでも何種類もの皮を上手に加工して作られていた。
一種類だけ使われているのもあれば、部分部分で種類を変えているものもある。
中には鉄板が仕込んでいるものもあった。
まるで安全靴だ。
金属製の靴もあるが、アレは中々にうるさいし歩きにくいのでほとんどが革靴の上に金属をハメて使われている。
何をするにしても足元がおろそかでは本領を発揮できない。
飯を抜いてでもいい靴を買えと初心者冒険者にレクチャーしていたのを聞いたことがある。
「ね、どれもすごいでしょ。」
「あぁ見事なもんだ。」
「そんなに褒められると照れるなぁ。」
靴の仕上がりに見惚れていると、後ろから先の声が聞こえてきた。
そこにいたのは長身の男。
俺と同じぐらいだから170cm後半、体格はちょっと太めか。
でも身長があるからそんなに太くは見えないな。
これがドワーダだとずんぐりむっくりな感じになってただろうけど、そういう感じもない。
「終わったの?」
「うちのお得意さんが来て仕事なんてできないって。あ、どうもドックっていいます。噂はブレラから色々と。」
「知り合いなのか?」
「うちの革はみ~んなブレラの工房から買ってるんだ。仕事ぶりはもう知ってるだろ?」
「あぁ、いい仕事してくれてる。」
それもそうだな、この街の革職人はそれほど多くない。
その中で一番の腕を持っているのがブレラの工房だ。
なるほどそれなら安心して任せられる。
「ねぇ、ちょっと右の小指が痛いんだけど見てくれない?」
「えぇ?この前直したのに?」
「踏み込んだ時にね、すれるのよ。」
「うーん、エリザの小指はひねくれてるからなぁ。」
「中身と一緒だな。」
「そうそう足の指はその人を現すんだ、よくわかってるね。」
お互いにニヤリと笑い合う。
「まったく、失礼しちゃう。」
「本当の事だろ?」
「じゃあシロウの指はどうなのよ。」
「なにか問題が?水虫ぐらいなら気にならないけど。」
「おかげさまでそっちは問題ない。両足とも親指が長くてな、何を履いてもそこが当たるんだ。」
「それはまた珍しいね、ちょっと拝見。」
つっかけを脱ぐとその場にしゃがんで俺の足を力強く掴んだ。
色々な角度から足を見られるのは少し恥ずかしい気持ちになるなぁ。
「ねぇ、シロウの足はどんな感じ?」
「そうだねぇ、好奇心旺盛で新しいことにチャレンジするのは好きだね。その点熱しやすく冷めやすいけど義理人情には厚い感じ。なんだかんだ言って自分で全部やってしまうタイプじゃないかな。」
「え、すごい!」
「なんでわかるんだ?」
「足は口よりも雄弁にその人を語ってくれる。うん、非常にいい足だね。」
まるで俺の事を知っているような口ぶり。
いや、多少は知っているかもしれないがそこまで当てられるとは思わなかった。
「いい足って言われて喜んでいいのか?」
「もちろん、作り甲斐のあるいい足だ。確かに親指は長いけどこれぐらいなら十分にカバーできる、どんな靴を御所望だい?」
「そうだな・・・。軽くて長時間歩いても疲れずクッション性の高いやつが理想だ。ただ強度はあまり気にしなくていい、別に魔物と戦うわけじゃないからな。」
「でもこの前はダンジョンに潜ったそうじゃないか。」
「知ってるのか?」
「噂の吟遊詩人が歌っているのを聞いたんだ、巨大なドラゴンに臆することもなく見事口だけで負かしてしまたっとね。」
「ったく、どれだけ脚色してるんだよ。」
負かしたのはどちらかというとミケとベッキーじゃないだろうか。
俺はただ話をしただけ、言い負かしたつもりはないんだが・・・。
マイクさんが王都に近づくにつれこの話がどんどん広まっていくんだろ?
一度は行ってみたい王都が一気に行きたくない場所に代わってしまった。
マジで勘弁してくれ。
「ダンジョンに潜るときは別の靴を作ればいいじゃない、戦うわけじゃないけど靴底に金属を敷いておけば罠を踏んでも安心よ。」
「そもそもそういう場所に行かなければいい。で、さっきの要望に叶う素材はありそうか?」
「そうだね、過度の強度を気にしなくていいのならのジャンピングリザードの革を使用して、クッションとしてブラックスライムの核を、ソールにはクッション性と耐久性のあるラバーゴーレムの外皮を使う感じかな。」
「うわぁ、豪華ねぇ。」
「エリザの反応からすると高いのか?」
「ん~エリザの紹介だし銀貨40枚ぐらいかなぁ。」
「そんなもんか。」
金貨2枚とか3枚ぐらい要求されるのかと思ったがそうではなかった。
確かに効果ではあるが、オーダーならそれぐらいしてもおかしくないだろう。
ブラックスライムは中々お目にかかれない珍しい魔物だ。
ジャンピングリザードは見た目のわりに動きが素早く冒険者から毛嫌いされているだけに、どちらもどうしても値段が高くなる。
「え、いいの?」
「素材の価格から考えても妥当な金額だろう。技術料込みでもう少しするもんだと思ってたからな。」
「良い仕事には良い報酬をがシロウのモットーだからね、仕上がりがよければ文句言わないわ。」
「さすが町一番のお金持ち、作り甲斐があるなぁ。」
「納期はどのぐらいだ?」
「どれも在庫があるから二日で出来るよ。」
「そんなに早いのか?」
「加工の難しい素材じゃないからね。じゃあ早速足型を取りたいからここに乗って、そうそうそのままそのまま。」
一週間ぐらいかかるのかと思ったがそうではないらしい。
後で聞くとどの素材も物はいいが高価でなかなか出ない不良在庫化した素材だったんだとか。
俺としてはいい物をすぐ作ってくれるのなら文句はない。
納期もそのお礼を込めてだったんだろう。
足形や甲高など色々と調べられ追い出されるようにして工房を後にした。
「あれ、物凄いやる気の顔よ。凄いのが出来ると思うわ。」
「そうなのか?」
「うん、目が輝いてたもん。」
「いい仕事してくれるんならなんでもいいさ。靴の調子はどうだ?」
「大丈夫、直してもらったから絶好調。」
トントンとその場でジャンプしてニカッと笑う。
こちらもなかなかに上機嫌とみえる。
やはり足元がすっきりすると気持ちが違うよな。
「で、一つ聞きたいんだが冒険者は靴に金をかけるんだよな?」
「かけるっていうか必須よね。足元をおろそかにしている冒険者は早死にするわ。」
「じゃあ良い物が安く手に入るんなら買うよな?」
「そりゃぁ、まぁ。」
「わかった。」
それが聞ければ十分だ。
「ねぇ、変なこと考えてる?ドックの仕事取っちゃだめだよ?仕事を押し付けてもダメだからね。」
「そんな事はしないさ。そもそもオーダーの靴なんて新米たちには高嶺の花、迷惑は掛からないだろ。」
「ってことはつまり?」
「レディメイドの靴が隣町で加工されてるって前にカーラが言ってたんでな、ちょっとそこに話をしに行くだけさ。」
「はぁ、シロウの目まで輝きだした。どうなっても知らないんだから。」
需要があるものは売れる。
良い物を出せば間違いなく売れる。
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*話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。
*他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。
*頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。
*本作の無断転載、無断翻訳、無断利用を禁止します。
小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。
カクヨムにても公開しています。
更新は不定期です。
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
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