転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア

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564.転売屋は山を登る。

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猛スピードで横を駆け抜けていく馬車を見送り、俯いたままの男へと近づいていく。

大きなため息をついているあたり交渉は決裂という感じだな。

俺が近づいても気づかないなんてよっぽどのことなんだろうか。

「何かあったのか?」

「あ!貴方はこの間の。」

「シロウだ、一回会っただけなのに顔を覚えてもらえているとは光栄だな。」

「そりゃ覚えていますよ。うちのユジュをあんなに気に入ってくれたんですから。」

「あれは良い品だった、今回も色々と仕入れさせてもらおうと思っているんだが・・・何かあったのか?」

「えぇまぁ・・・。立ち話もなんですので奥へどうぞ、妻も喜びます。」

落ち込んだままの男だったが、すぐに気持ちを切り替え俺達を自宅へと案内してくれた。

ロッジ風の建物がいい感じだ。

「おかえり、どうだった?」

「残念ながらまた帰られたよ、割に合わないそうだ。」

「何をするにしても金金金、そりゃうちの依頼料が少ないのはわかるけどうちだって精いっぱい出してるんだ。早く出て行ってもらわないとうちの山はダメになっちまうよ。」

「もちろんわかってる。そんなことよりもお客様が来てくれたんだ、この前ユジュを山のように買ってくれたシロウさんだよ。」

「え、あ、ほんとだ!ささ入って入って汚いところだけど歓迎するよ!」

旦那の返事を聞き浮かない顔をしていた奥さんの表情がパッと明るくなる。

そのままリビングに通され人数分の香茶まで出してもらった。

「母さんから聞いたよ、出店費用まで出してもらったんだってね。おかげさまで大繁盛しているみたい、ほんとなんてお礼を言っていいのか。」

「俺はあの味をまた堪能したいと思っただけだ。それにユジュを売った分で十分に元は取らせてもらったよ。」

「本当かい?」

「あぁ、追加で仕入れをしに来たんだがまずはそっちの状況を聞かせてくれ。今の話だと俺達にも関係のある話なんだろう?」

「そんな、皆さんにご迷惑をおかけするなんて。」

「いいじゃないか、冒険者が手伝ってくれない今、話を聞いてくれるなら誰だって大歓迎さ。それにうちの果物を気に入ってくれているのなら関係のある話になる。」

客である俺達の手を借りることすら戸惑わないなんて、よっぽどの状況なんだろう。

普通であれば話を聞かずに帰るところなんだが、俺の大事な仕入れ先だ。

今後を考えて恩を売っておくに越したことはない。

「冒険者が逃げ帰るような状況なんだろ?」

「実は、うちの山にドラゴンが住み着いたんだ。」

「ドラゴン!?」

「そうさ。てっぺんにでっかい巣を作ってね、近づくやつを威嚇してくるんだ。おかげで中腹よりも上には近づけず、山は荒れ放題。これからしっかり手を入れないといけないっていうのに、あいつのせいでこれまでに作り上げたものが全部なくなっちまうよ。」

ドラゴンと聞きエリザが大きな声をあげる。

だが横で話を聞いていたキキは頬に手を当てるだけで静かに考え込んでいた。

「あの、そのドラゴンってのは姿を見ましたか?」

「私たちは見てないんだけど山に向かった冒険者が皆口を揃えていうんだよ、『あの声はドラゴンだ!』ってね。」

「一人ではなく複数人の証言があるのか。」

「あぁ、なんでうちみたいな何もない山に住み着くんだか。ほんと参っちまうよ。」

勘弁してくれという顔をする二人だが本当にそうなんだろうか。

冒険者もここにいる二人も本物を見たわけではない。

もちろんそういった客観的な情報から相手を推測するのが冒険者だが・・・。

「どう思う?」

「可能性の話にはなりますが、『イミテーションドラゴン』ではないかと思います。」

「え、あの偽物?」

「理由は?」

「ここに来るときに魔物の暴走が起きていないか魔力を調べましたが、ドラゴンのような強い魔力を感じることはありませんでした。巣を作るドラゴンは実力のある個体に限定されますので、魔力の反応がないのは正直あり得ません。それよりも気になるのは地下から感じる群生体の方です。」

グンセイタイ?

ドラゴンではない理由はわかったが、それとは別のよろしくないものがいるようだ。

「なにがいるんだ?」

「かなり微弱な魔力ですので種類までは特定できませんが、かなりの数が山の地下にいるようです。地上に出てきているかまでは不明ですが、コボレートなどであれば早々に対処する必要があります。」

「長いことこの山にいるけど、そういった魔物には出くわしたことがないね。」

「ってことは別のかしら。」

「魔物すべてに害があるわけではありませんので無視してもいいと思いますけど・・・。これまでに果樹が根こそぎなくなったりしたことはありますか?」

「そうだねぇ、この前の冬に一本丸々盗まれたことはあったけど。」

「そういやそんなのもあったな。」

どうやら心当たりがあるらしい。

さすが元研究者。

魔物に関する知見はギルドを上回るものがあるな。

出先でこういう情報を仕入れられるのは非常にありがたい。

「ともかく、山に行って魔物が何か確認すればいいんでしょ?本当にドラゴンなら一人じゃ無理だけど、偽物の方なら私一人でも問題なく対処できるわ。」

「いや、対処できるわってお前な。」

「キキも一緒だしシロウも来るでしょ?アネットとミラには商談してもらって私達だけで現場を確認。大丈夫、確認だけだって。」

「お前の大丈夫は信用できんのだが。それになんで俺が行くんだ?」

「え、来ないの?」

これはつまり来てほしいということだろう。

はぁ、なんで俺が山登りをせねばならんのだ。

「それなら道案内がいるね、アンタ行っておいで。」

「俺が?」

「アンタ以外に誰が行くんだい。それとも、この人たち相手にうまくやれるんだね?」

「う・・・。」

「こちらはどうぞご心配なく、キキ様とエリザ様が一緒でしたら問題ないでしょう。」

「そもそも魔物なんてめったに出ないんだしっかり案内しておいでよ。」

どうやら嫁さんの方が力が強いらしい。

カカア天下ってやつか。

でもまぁその方が夫婦仲はいいっていうし、実際仲よさそうだもんな。

ってことで、急遽決まった山登り。

さほど勾配はきつくないので簡単な探索道具を手にけもの道をゆっくりと登っていく。

「ユジュはもう終わったんだな。」

「はい、これから剪定をして次に備えるはずだったんですけど・・・。」

「それができなくて困っていると。道中何組かの冒険者とすれ違ったんだが、依頼を出したのはいつなんだ?」

「二日前です。」

「で、誰も討伐できなかったと。」

「はい・・・。皆さんドラゴンとなんて戦えるかと口を揃えて言いまして。山を転がり落ちるように逃げてきた人もいました。ほんと困ったものです。」

なるほど、途中ですれ違った泥だらけの冒険者はそれか。

ドラゴンとの戦いは竜の巣で見たことがあるが、あれと戦いたいとは思わないよなぁ。

「まぁ、行けばわかるけど多分ドラゴンじゃないわ。」

「わかるのか?」

「今中腹ぐらいでしょ?普通ならこの辺で威嚇してくるもの。」

「お姉ちゃんの言う通りです。巣を作るほどのドラゴンであればそれなりの知性があるはずですから、まずは威嚇をしてくるはずです。よほど好戦的でなければですけど・・・。」

「そうでないことを祈るさ。」

二人が同じ意見なのであれば間違いないだろう。

山頂にはドラゴンはいない。

じゃあ何がいる?

「そのイミテーションドラゴンってのはどんな魔物なんだ?」

「見た目はドラゴンっぽいんだけど、外側を似せてるだけで中身はただの雑魚よ。」

「他の魔物を遠ざける事で住処のエサを独占するこざかしい魔物です。ただ、それしか能がないので戦いになれば敵ではありません。問題は地下にいるやつですね。」

「何が隠れているかまだ分からないのか?」

「反応は大きくなっていますが・・・。お姉ちゃんちょっと待って!」

突然キキが先を行くエリザを引き留めた。

先ほどとは違う緊迫した声に全員の緊張が高まる。

いくら相手が雑魚とはいえ、それはエリザ基準。

戦う能力のない俺には脅威であることに変わりはない。

「なにかいる?」

「右手に魔力の反応があるの。あの、あっちは何がありますか?」

「あっちはこの前の雨で崩れてるんだ、行かない方がいい。」

「がけ崩れか。」

「そこになにかあるのね。」

「うん、地下の魔力が集まってきてる。」

「シロウ達は後ろに下がっていつでも逃げれるようにして。キキ、やばそうなら私は気にせず薙ぎ払っていいから。」

「うん、わかった。」

エリザは斧を構え、キキが杖を手にその後ろを追う。

二人を見失わない程度に距離を取りながら後ろを追いかけると・・・。

「洞窟ね。」

「洞窟なんて、こんなの今までなかったのに。」

「がけ崩れで露出したんだろうなぁ。中に何かいるのか?」

「います、そしてこっちに近づいてきてる。」

山の中腹。

がけ崩れにより木や岩が流出した跡地にぽっかりと穴が開いていた。

エリザに促されて発光石を取り出し手渡すと、華麗な放物線を描きながらそれが洞窟内に放り込まれた。

着弾と同時に昼間だというのに閃光が穴の外に漏れだす。

その瞬間、何かが動き回る音がその穴から聞こえてきた。

「出てくるわね。」

「二人は後ろへ。お姉ちゃんギリギリまでつっこんじゃだめだからね。」

「わかってるわよ。」

本当にわかっているのか不安になるなら。

昔ならともかく今のエリザのおなかの中には子供がいる。

無茶をすることはないと思うが・・・。

そんなことを考えていると洞窟内から黒い何かが飛び出してきた。

斧を振りかぶりそいつをにらむエリザ。

「え、嘘!お姉ちゃん待って!」

だが、それを確認したキキが慌ててエリザを引き留めた。

飛び出してきた何かはそのまま転がり、エリザを通り越して俺の足元へとやってくる。

黒く、丸い塊。

だがよく見ると、猫のような耳がついている。

「ブラックキャット!」

「え、嘘、本物?」

「うん、めったに見ないけど間違いない。ほら、尻尾もあるし。」

「ほんとだ!かわいぃぃ~!」

転がってきた黒い塊には耳としっぽがあり、なんなら手と足もあった。

二足歩行の黒猫。

身長は50㎝程だろうか。

かなり小さいが、黒い顔に金色の目でこちらを見つめてくる。

かわいい・・・のか?

「害はないのか?」

「ありません。普段は地中に住み着いて時々食料を求めて地上に出てくるんです。ダンジョンにはおらず野生でしか生息していない、一応魔物です。」

「亜人じゃなくて?」

「分類分けが難しいんですけど、言語を持たないので魔物扱いですね。でもこちらの言葉はわかるようで非常に友好的な種族です。本物を見るのはこれで二度目ですが・・・、可愛いです。」

結局はそこに落ち着くのか。

デレデレの女子二人に対して男二人はどうしていいのかわらず立ち尽くしている。

戸惑う俺を金色の目をしたそいつはじっと見つめてくるだけ。


偽物のドラゴンを探しているとこんな魔物を見つけてしまうとは。

どうしよう。

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