転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア

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565.転売屋は魔物と取引する

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二足歩行の黒猫が、つぶらな瞳で俺を見つめてくる。

可愛い可愛いとしきりにはしゃいでいるエリザとキキだが、どうも俺はそういう気持ちにならなかった。

何かを訴えるような目。

発光石なんてのをぶち込んでおいてなんだが、何か用があって出てきたんだろうか。

「言葉はわかるんだよな?」

「そのはずですが。」

キキが答えると同時に黒猫も小さくうなずいた。

「俺達は害を与えるために来たんじゃない、山の上にいる魔物を退治するために来た。上に魔物がいるのは理解しているか?」

コクコクと二度首を縦に振る。

あれだな、ルフと会話しているみたいだ。

「とりあえず最初に謝っておく、相手が分からなかったとはいえ悪いことをしたな。大丈夫だったか?」

コクコク。

「そうか。ならここからが本題だ、何か用があってきたのか?それとも逃げてきただけか?」

うなずくことはなく右に首をかしげる。

ふむ、選択肢が多いのは難しいな。

じゃあこういうのはどうだろう。

「前者なら片手を挙げて、後者なら両手を挙げてくれ。もう一度聞こう、用があって出てきたのか?それとも逃げてきただけか?」

黒猫が右手を上げる。

お、片手ってことは用事があるのか。

俺達に何をやらせたいんだろうか。

ちょっと想像がつかない。

ふと視線を感じ後ろを向くと、興味深そうに俺と猫のやり取りを他の三人が見つめている。

「なんだよ。」

「ドラゴンのときもそうだったけど、よく意思疎通しようと思うわね。」

「話がわかる相手なんだ、敵意がないのなら対話は可能だろう。別に争いを好んでいるわけじゃない。」

「それもそうね。」

「で、用ってのは何だ?魔物を討伐して欲しいのか?それとも何か欲しいのか?」

今度は両手。

「魔物はどうでもいいと。じゃあ欲しいものが何か教えてくれ、手持ちがあれば用意も出来る。ただしタダって分けには行かないけどな。」

また首をかしげた。

む、何がわからないんだろうか。

あれか?タダって言葉か?

「商人ってわかるか?もしくは売買は?物を売り買いするやつだ。」

また首をかしげる。

「うーむ、じゃあ交換はどうだ?欲しいものと欲しいものを交換する。何か欲しいんなら何か俺達に提供してくれ、お互いに納得できるのなら取引しよう。ここまではいいか?」

今度は首をかしげず元気いっぱい両手が上がった。

なるほど、売買そのものを理解していないのか。

それでよく生きてこられるなぁ。

生活全てが自己完結できていると他者を必要としないって言うけれど、そういう感じなのかもしれない。

でもそれなら何で出てきたんだ?って話になるよな。

何かを必要としているから俺達の前に現れた。

そうじゃないとわざわざ危険を承知で出てくることはしないだろう。

どう見ても戦えなさそうだ。

「よし、じゃあ欲しいものと提供できる物を持ってきてくれ。その間に俺達は別の用事を済ませておく、いいか?」

再び両手が元気良く上げられた。

交渉成立。

魔物が金なんて持っているわけないから取引をするなら物々交換が必須になる。

もちろん彼らから何かをせしめようとは思っていない。

っていうか何を持っているかすらわからない。

普通は魔物と取引なんてしないんだろうけど、キキ曰くしゃべれないから魔物に分類されているだけで、亜人として考えるべきなんだろう。

それなら取引しても別におかしくはない。

「ってことで物々交換することになった。」

「はぁ、魔物相手に取引ってシロウらしいわねぇ。」

「一応意思疎通は出来る相手だと認識していますが、実際にこうやって意思疎通をしさらには取引までした記録はほとんどないはずです。学会に発表すると大騒ぎになりそうですね。」

「そういうのはめんどくさいから勘弁してくれ。とりあえず金になるかはわからんがコレも何かの縁だろう。キキがさっき言っていた果物がなくなったってのは、彼らが原因だとおもうか?」

「おそらくはそうかと。他の魔物であれば複数の樹を食い荒らすものですが、一本だけを綺麗にとなると意図してやったとしか考えられません。ブラックキャットは果実や木の実を好んで食べますので、必要な分を回収したのかも。彼らからしてみればここは天国かもしれませんね。」

「なるほどなぁ。こちらからしてみれば迷惑だが、彼らにしてみれば土地は誰のものでもないわけだから文句を言われる筋合いは無いと。ちなみに被害は多いのか?」

「いえ、記憶しているだけで一~二本です。」

金額で考えればさほど高額ではないわけか。

被害が深刻なら追い出したりするべきなんだろうけど、それを決めるのは俺じゃない。

物々交換ってのも話の流れで決まったことだが、もし価値のあるものを向こうが提供してくれるなら、お互いにいい関係を築ける可能性があるよな。

「ま、害はあっても敵意はないんだ。後は向こうの出方次第ってことで、俺達は本来の目的を果たすとしよう。本当にドラゴン、じゃないんだよな?」

「ここまできて攻撃してこないのであれば間違いなく。」

「ならさっさと終わらせましょ。」

「俺達はここで待ってるから、がんばれ。」

「えー、ずるくない?」

「交渉人がいなくなるわけには行かないだろ?さくっと終わらせて戻って来い。あ、素材はちゃんと回収して来いよ、それと無茶は禁物だ。」

「はいはい。それじゃあキキ、さっさと終わらせるわよ。」

「うん。」

魔物は本職にお任せして、俺は自分にできる仕事をするとしよう。

二人を見送り待つこと数分。

洞窟の中から再び黒猫が現れた。

同一固体なのかはわからん。

そもそもどのぐらいいるかもわからん。

だが、洞窟の中から顔だけ出してこちらを伺っているのは見える。

なにあの生首。

かわ・・・いいんだよなぁ。

世間的には。

「おかえり、それじゃあ順番に確認だ。まず欲しいのは何だ?」


黒猫が右手をゆっくりと俺に伸ばしてくる。

ゆっくりと指が開き見えてきた肉球の上には白い粒が乗っていた。

かなり小さいがこれなんだろう。

「触るぞ、いいか?」

コクリと頷いたのを確認して白い粒を掴んでみた。

『塩。土の中に含まれる微量な塩分が結晶化したもの。不純物が多く雑味がある。最近の平均取引価格は銅貨27枚。最安値銅貨21枚最高値銅貨39枚。最終取引日は昨日と記録されています。』

塩だった。

何の変哲もないただの塩。

いや、不純物が多いようだから恐らくはどこかで自然に出来たやつだろう。

ここは海風が結構当たるし塩交じりの雨が降る。

雨水がどこかにたまり、もしくは土の中で結晶化したって可能性もあるか。

ともかく、彼らはこれを欲しがっている。

なるほど。

「塩か。じゃあ、何を提供できる?」

今度は左手を伸ばし、同じように手を開く。

今度は黒っぽい色をした小石だった。

同じく断りを入れてからつまんでみる。

『黒水晶の欠片。地中深くにのみ存在する黒結晶は魔力を吸収し閉じ込めることが出来る。ただし必要以上の魔力を吸収すると破裂する。最近の平均取引価格は銀貨5枚、最安値銀貨2枚最高値金貨11枚。最終取引日は15日前と記録されています。』

いや、バランス悪!

欲しいものと提供できるものの差が激しすぎて量のバランスが取れないんだが。

相場に差があるのは恐らく大きさの問題だろう。

巨大であればあるほど高く、小さければ小さいほど安い。

それでも銀貨2~3枚で買取できそうな結晶だ。

うぅむ、どうするべきか。

「ちなみに、この結晶はたくさんあるのか?」

コクリ。

「塩は大量に必要か?そうだな、地面に必要な大きさを描いてみてくれ。」

一つ頷いたのち、足でぐりぐりと円を描き出す。

大きさは直径1m程。

高さはわからんが、山盛りと考えればいいだろう。

「この量なら手配できる。ちなみにだが、頻度はどのぐらいいるんだ?毎月か?半年か?一年か?」

選択肢が多いからではなく意味がわからないという感じで首を傾げられてしまった。

うぅむ、土の中にいるせいで日付感覚がないのだろうか。

それともそもそも暦の概念がない?

「この量を使い切るまでにここの果物は実ったりするか?」

首を横に振る。

「何回使い切ったら果樹が実る?回数分手を上げてくれ。」

しばし考えた後、6回右手が上がった。

色々と種類はあるだろうけど、基本は12か月で1回実るはず。

そこから逆算すると二か月に一回って感じか。

「なるほどわかった、そっちが望んでいる塩は十分手配できる。急ぎなら今日中にも用意しよう。急ぎか?」

少し考えた後ゆっくりと縦に首が動いた。

うーむ、確かに塩は買い付けたけど持ってきてないんだよなぁ。

船まで戻れば十分に量はあるんだが。

「あの、塩でしたら家にありますよ。」

「マジか。」

「はい、このぐらいの量でしたら。」

それは非常に助かる。

この手の取引はその場で完結した方が何かと都合がいい。

特にこっちの方が割のいい取引だ、無かったことにはしたくない。

「それは助かる。後で港まで取りに来てくれたら同量お返ししよう。いや、今後の分も渡しておいた方がいいかもな。」

「え、今後?」

「さっきもいってただろ、逆算すると二か月に一回は欲しいそうだ。その代わりに向こうはこいつを提供してくれるから俺の代わりに取引してもらえないか?その分の塩は提供する。」

「それはかまいませんが・・・。」

自分にはあまりメリットがない、そう思っているんだろう。

現状では俺と黒猫との取引だ。

面倒なことをやりたくない気持ちはわかる。

「ただいまー。」

「お、戻ったか。」

「やはりイミテーションドラゴンでした。もう大丈夫ですよ。」

「本当か!あぁ、なんてお礼を言ったらいいか。」

「そっちは?」

「お互いのカードは出し合った、塩が欲しいそうだからまずはそれを手配する。悪いが、ちょっと待っていてくれるか?望むだけの塩は用意するからそっちも提供できる範囲の分を用意しておいてくれ。ただし、出せる分だけでいいぞ。こっちは俺達にとってはかなり希少なものだ、少量でも十分に釣り合いが取れる。だからそっちの提供できる範囲の分を出してくれれば文句はない、わかったな?」

黒猫は何度も首を縦に振った。

交渉成立。

エリザ達は無事に戻ってきたし、それを聞いた旦那は大喜び。

これを逃す手はないよな。

俺達はこの山の危機を救った英雄なわけだし、その地位を十分に使わせてもらうとしよう。

踊りだしそうな旦那を連れて山を下り家に戻ると、どうやらミラ達の交渉も無事に終了したようだ。

三人とも楽しそうに香茶を飲みおしゃべりに花を咲かせていた。

あの顔を見る限りお互いに実のある話し合いだったんだろう。

もちろん俺達も同じだ。

突然の山登りだったが、まさかあんなのに出会うなんてなぁ。

ひとまず事情を説明して急ぎ山へと戻ろう。

果たしてどれだけの黒水晶の欠片を提供してくれるのか。

それによっては大きくもうけが変わってくる。

それこそ今回の仕入れがタダになるかもしれない。

はやる気持ちを抑えつつ、塩を手に再び山を登るのだった。
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