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754.転売屋は芋を売る
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「それじゃあまた。」
「送らなくていいのか?」
「目的は達成できたし、何より忙しいみたいだからね。」
「折角だから楽しんでいけばいいのに。」
「申し訳ないけどあの感動を形として残さないなんて今の僕には我慢できない。」
「まぁそれもそうか。それじゃあまた。」
「あぁ、次は王都で会えるのを楽しみにしているよ。」
そういうとフェルさんは馬車に乗り込み隣町に向かって出発した。
大量の顔料と一枚の大きなキャンパスを持って。
帰りも行きと同じく船を乗り継いで帰るんだろう。
馬車では無理でも船の上なら絵を描くことができるし、何より今のあの人はそれしか考えていない。
あの日、オレンジ色に染まる世界を見たフェルさんは日が暮れてもその場で筆を動かし続けた。
横に大きなランプを置き、彼の中に久々に湧きあがった感情全てを一枚のキャンパスに焼き付けていた感じだ。
それが絵描きという生き物なんだろう。
馬車に乗り込むときも絶対に離さなかったなぁ、あの絵。
仕上がりが楽しみだ。
「シロウ様、出発されたようですね。」
「あぁ、次は王都で会おうだってさ。まったくいつになるのやら。」
「マリー様が出産されたら顔を見せに行かなければいけません、その時でしょうか。」
「うーん、産後すぐってのはちょっとなぁ。」
「その時になってみないと分かりませんね。」
そうなんだよな。
アンナさんみたいに産後の肥立ちが良くない可能性だってあるし、そもそも出産後に赤子を人の多いところに連れて行くのは怖い。
元の世界では予防接種とかがあったが、どうやらこの世界にはそういうのはないらしいし。
魔法でどうにかなるのかもしれないけれど無理に動かさない方がいいのは間違いない。
そう考えるとやっぱり次の夏ぐらいになるんだろう。
もっとも、その時にまた誰かが孕んでいたら別だが。
「そうだな。とりあえず見送りは終わったし、やるべきことをやるとするか。」
「今、婦人会の皆様が大鍋で芋を蒸しておられます。それが終わりましたら手分けして調理に入れるかと。あと、先ほどエリザ様が屋台に芋を並べておられました。」
「あれは昼過ぎって話じゃなかったか?」
「我慢できなかったのではないでしょうか。」
「子供か。」
確かに在庫は山のようにあるが、今から焼き始めると後半お腹いっぱいになるから昼からにしようってついさっき話し合ったところなんだが。
困った奴だ。
「お、こんなところにいたか。」
「マスター、どうしたんだ?」
「芋が足りないから取りに行けって言われたんだよ。まったく、他の奴に頼めよな。」
「朝一番であれだけ持って行ったのにまだ足りないのか?」
「収穫祭だからな、騒いだもん勝ちって感じなんだろ。」
「食い物を粗末にするのはどうかと思うぞ。」
「ちゃんと食えるもの作れって言ってあるから大丈夫だろう。」
別に在庫を持って行ってもらう分には構わない。
使用した分はしっかり記録して後でしっかりギルド協会から回収すればいいだけだ。
今日は収穫祭。
麦が不作で今年はできないとか言われていたが、ぶっちゃけうちの街には関係のない話だ。
麦がなければ芋を食べればいいじゃないか。
なんせ芋は山ほどある。
いや、マジで熟成させておいた奴が畑の倉庫が埋まるぐらいにあるんだ。
アグリたちが手塩にかけて育てた芋は最初の奴よりも寝かせることでより甘さが増し、ただ焼くだけでほっぺたが落ちそうなぐらいに美味くなるんだからマジでやばい。
「畑の倉庫に山ほどあるから適当に持って行ってくれ。倉庫横の帳簿に持って行った芋の数だけ書いてくれればそれでいい。」
「しかし芋なぁ。」
「王都では大人気らしいぞ。」
「食い飽きないか?」
「味を変えれば結構いけるぞ。甘みが強いなら塩をかけてもいいし、焼いてバターを乗せるだけでもまた違う。だが一番は焼き芋だな。」
「エリザの用意していたやつか。」
なんだかんだ言ってシンプルな奴が一番うまいんだよなぁ。
マスターと共に畑へと移動して大量の芋を手押し車に乗せ、街の中央へと運ぶ。
そこかしこから芋のいい香りが漂ってきて、そこにいるだけでお腹がすいてしまった。
米もいいが、芋もいいぞ。
ってな感じでその日は一日芋尽くし。
昼を過ぎてもそれは変わらず、冒険者はここぞとばかりに芋を腹に収めていた。
いや、普段もっと美味い物くってるだろ?
なんて思ってしまうが、作り手としては喜んでもらえるならそれでよし。
なんせまだまだ山のようにある。
自分たちで消化するのはさすがに無理なので誰か買ってくれるとありがたいんだけど・・・。
「美味い!こんな美味い芋は初めてだ!」
そんなことを考えていると、突然近くにいた商人が焼き芋を手に騒ぎ始めた。
あっという間に焼き芋を平らげ、次にスティック芋、さらに大学芋、途中エールを飲んでドルチェの作ったスイーツをたべはじめる。
あ、泣き出した。
マジか、芋で泣くのか。
涙をぼろぼろと流しながら芋を食う商人に流石の冒険者も引き気味だ。
本人はそんなこともつゆ知らず、泣きながら芋を食べ続ける。
最後の一口を食べきり・・・。
あ、どうやら落ち着いたようだ。
「おい、大丈夫か。」
「すみません、あまりの美味しさに取り乱してしまいました。」
「そんなに喜んでもらったら芋も喜ぶだろうさ、作った奴もな。」
「なんと、この芋はここで作られているのですか!?」
「あぁ、今ここでふるまわれているのは全部うちの畑で採れたやつだが・・・。」「売ってください!」
最後まで言い切る前にその商人、っていうか若い兄ちゃんだが。
ともかくそいつは俺の手を取って売ってくれと頼んできた
「売るって、この芋をか?」
「そうです!こんなに美味しい芋ならばどこに出しても売れます!いえ、売ってみせます!」
「いや、売ってみせますっていわれてもなぁ。」
「いくらでも出します!私にこの芋を売ってください!」
土下座する勢いの兄ちゃんに流石の俺もたじろいでしまう。
なにより周りの目が痛い。
そいつを無理やり引っぺがし、引きずるようにして三日月亭へと移動する。
なんでそこかって?
一番近いからだよ。
「落ち着いたか?」
「申し訳ありません、取り乱してしまいまして。」
「そこまで気に入ってくれるのは嬉しいが場所を考えてもらえると助かる。」
兄ちゃんに水を飲ませて落ち着かせたところでやっとまともな話ができるようになった。
しがみつかれるのは男よりも女の方がうれしいんだが。
「で、芋を売ってほしいって?」
「はい!あの甘み、そして食べ応え!今まで食べたものの中で一番です。何か特別品種なのでしょうか。」
「いや、普通のスイートトポテだ。」
「じゃあ土?それとも水?わかりません、明らかにいつもと違います。」
「その辺は企業秘密ってやつだ。」
ただ単に寝かせただけだが、そのひと手間が違うんだよなぁ。
とはいえこのやり方はアグリも知っていたし実際には企業秘密というほどでもない。
他所のスイートトポテを食べたことがないから判断できないが、土が違うというのはあり得る話だ。
「そうですよねぇ。」
「で、いくら出す?その感じだと王都で売るんだろ?」
「まさか、ご存じでしたか。」
「王都じゃ空前の芋ブームらしいじゃないか。確かにこれだけ美味い芋なら間違いなく売れるだろうな、俺もその自信はある。だから本当は自分で売りに行くつもりだったんだが・・・。」
そこまで言った所で相手の目を見る。
自分で売ればぼろ儲け間違いない。
それを知った上で向こうがどう出るか、この辺の駆け引きが商売の楽しいところだ。
「そこまで気に入ってくれるならばアンタに譲るのも吝かではない。」
「言い値と言いたい所ですが、こちらも商売でして。」
「もちろんわかっている。そっちがどれだけ俺の芋を気に入っているのか、聞かせてもらいたいだけだ。」
「そういうことでしたら。」
兄ちゃんは腕を組み思案し始めた。
こういう時自分から値段を言ってもいいのだが、あえて相手に言わせることで自分の方が安かったというミスを防ぐことができる。
卑怯なやり方だがより高く売るための作戦だな。
もちろん向こうが予想以上に安い値段を言うのならば断わってもいい。
向こうからしてみれば安く買う機会を失うわけだが、初めて会う人だし別にそこまで歩み寄る必要もないだろう。
あまりの量にどうするか悩んでいた芋が金になるんだ、しっかり買い付けてもらおうじゃないか。
「小木箱一つにつき銀貨4枚はいかがでしょう。」
「まぁ、そんなもんだよなぁ。」
「王都に運ぶ運賃もありまして、流石にこれ以上は・・・。」
『スイートトポテ。数あるトポテ種の中でも甘みが強く主に菓子などに加工されている。熱を加えると甘みが増すのが特徴。最近の平均取引価格は銅貨45枚。最安値銅貨30枚最高値銅貨77枚。最終取引日は本日と記録されています。』
相場スキルの価格から考えてもかなり高値を付けているのは間違いない。
小木箱というのは一般的に使われる中でも一番小さい奴で、今回の芋なら5キロは入る。
相場スキルがおおよそ一キロ単位の値段なので銅貨80枚計算。
相場の倍近く払ってでも買いたいのか。
そういう意味ではかなり頑張ってくれているようだが・・・。
「木箱一つにつき銀貨5枚は最低ほしいところだな。」
「うぅ、そこまでは流石に無理です。」
「ま、普通はそうだろう。だが王都のある大陸までの運賃はこっちが持つと言ったらどうする?」
「え?」
「直近で王都に送る荷物があってな、それに便乗する形であれば送料はかからないし輸送の手間も省ける。もちろん港から王都に運ぶ荷馬車は自分で確保してもらうが、ここからの船代が全部浮くとなるとアンタならいくらつける?」
「銀貨7枚出します。」
「よし、売った。」
即決だった。
輸送費ってのは結構馬鹿にならないものだが、それがかからないとなると利益が一気に跳ね上がる。
それを踏まえても流石に倍はつけられなかったようだが、下手に値下げ交渉せずそれに近い値段を即決できる判断力には好感が持てる。
さっきも言ったが自分で売ればもっと利益が出る。
だが、俺にはその時間はないし在庫は売りさばいてしまいたい。
なら高値で買ってくれる人に売るのが一番というわけだ。
「どれだけほしいかは現物を見てその場で決めてくれ、畑にアグリという男がいるから彼に言えば木箱から輸送まで手配してくれるだろう。代金もそこで払ってくれればいい。」
「あの、本当に向こうまで送ってくれるんですか?」
「あぁ、これに誓って約束する。」
そういって俺はポケットから一枚のメダルを取り出した。
そこに書かれていたのは名誉男爵の称号。
それを見た兄ちゃんは目を真ん丸にしてメダルと俺を二度見する。
「貴方はもしや!」
「俺が誰だっていいじゃないか、あんたは芋を買って俺は芋を売った。それだけだ。」
俺の正体を知らない相手と商売をするのは非常に楽しい。
それこそ、この間フェルさんが言っていたように純粋に商売を楽しめる。
驚きすぎてまた暴走しそうな兄ちゃんをなだめつつ、交渉成立のお礼を兼ねて俺はマスターに飛び切りの酒を頼むのだった。
「送らなくていいのか?」
「目的は達成できたし、何より忙しいみたいだからね。」
「折角だから楽しんでいけばいいのに。」
「申し訳ないけどあの感動を形として残さないなんて今の僕には我慢できない。」
「まぁそれもそうか。それじゃあまた。」
「あぁ、次は王都で会えるのを楽しみにしているよ。」
そういうとフェルさんは馬車に乗り込み隣町に向かって出発した。
大量の顔料と一枚の大きなキャンパスを持って。
帰りも行きと同じく船を乗り継いで帰るんだろう。
馬車では無理でも船の上なら絵を描くことができるし、何より今のあの人はそれしか考えていない。
あの日、オレンジ色に染まる世界を見たフェルさんは日が暮れてもその場で筆を動かし続けた。
横に大きなランプを置き、彼の中に久々に湧きあがった感情全てを一枚のキャンパスに焼き付けていた感じだ。
それが絵描きという生き物なんだろう。
馬車に乗り込むときも絶対に離さなかったなぁ、あの絵。
仕上がりが楽しみだ。
「シロウ様、出発されたようですね。」
「あぁ、次は王都で会おうだってさ。まったくいつになるのやら。」
「マリー様が出産されたら顔を見せに行かなければいけません、その時でしょうか。」
「うーん、産後すぐってのはちょっとなぁ。」
「その時になってみないと分かりませんね。」
そうなんだよな。
アンナさんみたいに産後の肥立ちが良くない可能性だってあるし、そもそも出産後に赤子を人の多いところに連れて行くのは怖い。
元の世界では予防接種とかがあったが、どうやらこの世界にはそういうのはないらしいし。
魔法でどうにかなるのかもしれないけれど無理に動かさない方がいいのは間違いない。
そう考えるとやっぱり次の夏ぐらいになるんだろう。
もっとも、その時にまた誰かが孕んでいたら別だが。
「そうだな。とりあえず見送りは終わったし、やるべきことをやるとするか。」
「今、婦人会の皆様が大鍋で芋を蒸しておられます。それが終わりましたら手分けして調理に入れるかと。あと、先ほどエリザ様が屋台に芋を並べておられました。」
「あれは昼過ぎって話じゃなかったか?」
「我慢できなかったのではないでしょうか。」
「子供か。」
確かに在庫は山のようにあるが、今から焼き始めると後半お腹いっぱいになるから昼からにしようってついさっき話し合ったところなんだが。
困った奴だ。
「お、こんなところにいたか。」
「マスター、どうしたんだ?」
「芋が足りないから取りに行けって言われたんだよ。まったく、他の奴に頼めよな。」
「朝一番であれだけ持って行ったのにまだ足りないのか?」
「収穫祭だからな、騒いだもん勝ちって感じなんだろ。」
「食い物を粗末にするのはどうかと思うぞ。」
「ちゃんと食えるもの作れって言ってあるから大丈夫だろう。」
別に在庫を持って行ってもらう分には構わない。
使用した分はしっかり記録して後でしっかりギルド協会から回収すればいいだけだ。
今日は収穫祭。
麦が不作で今年はできないとか言われていたが、ぶっちゃけうちの街には関係のない話だ。
麦がなければ芋を食べればいいじゃないか。
なんせ芋は山ほどある。
いや、マジで熟成させておいた奴が畑の倉庫が埋まるぐらいにあるんだ。
アグリたちが手塩にかけて育てた芋は最初の奴よりも寝かせることでより甘さが増し、ただ焼くだけでほっぺたが落ちそうなぐらいに美味くなるんだからマジでやばい。
「畑の倉庫に山ほどあるから適当に持って行ってくれ。倉庫横の帳簿に持って行った芋の数だけ書いてくれればそれでいい。」
「しかし芋なぁ。」
「王都では大人気らしいぞ。」
「食い飽きないか?」
「味を変えれば結構いけるぞ。甘みが強いなら塩をかけてもいいし、焼いてバターを乗せるだけでもまた違う。だが一番は焼き芋だな。」
「エリザの用意していたやつか。」
なんだかんだ言ってシンプルな奴が一番うまいんだよなぁ。
マスターと共に畑へと移動して大量の芋を手押し車に乗せ、街の中央へと運ぶ。
そこかしこから芋のいい香りが漂ってきて、そこにいるだけでお腹がすいてしまった。
米もいいが、芋もいいぞ。
ってな感じでその日は一日芋尽くし。
昼を過ぎてもそれは変わらず、冒険者はここぞとばかりに芋を腹に収めていた。
いや、普段もっと美味い物くってるだろ?
なんて思ってしまうが、作り手としては喜んでもらえるならそれでよし。
なんせまだまだ山のようにある。
自分たちで消化するのはさすがに無理なので誰か買ってくれるとありがたいんだけど・・・。
「美味い!こんな美味い芋は初めてだ!」
そんなことを考えていると、突然近くにいた商人が焼き芋を手に騒ぎ始めた。
あっという間に焼き芋を平らげ、次にスティック芋、さらに大学芋、途中エールを飲んでドルチェの作ったスイーツをたべはじめる。
あ、泣き出した。
マジか、芋で泣くのか。
涙をぼろぼろと流しながら芋を食う商人に流石の冒険者も引き気味だ。
本人はそんなこともつゆ知らず、泣きながら芋を食べ続ける。
最後の一口を食べきり・・・。
あ、どうやら落ち着いたようだ。
「おい、大丈夫か。」
「すみません、あまりの美味しさに取り乱してしまいました。」
「そんなに喜んでもらったら芋も喜ぶだろうさ、作った奴もな。」
「なんと、この芋はここで作られているのですか!?」
「あぁ、今ここでふるまわれているのは全部うちの畑で採れたやつだが・・・。」「売ってください!」
最後まで言い切る前にその商人、っていうか若い兄ちゃんだが。
ともかくそいつは俺の手を取って売ってくれと頼んできた
「売るって、この芋をか?」
「そうです!こんなに美味しい芋ならばどこに出しても売れます!いえ、売ってみせます!」
「いや、売ってみせますっていわれてもなぁ。」
「いくらでも出します!私にこの芋を売ってください!」
土下座する勢いの兄ちゃんに流石の俺もたじろいでしまう。
なにより周りの目が痛い。
そいつを無理やり引っぺがし、引きずるようにして三日月亭へと移動する。
なんでそこかって?
一番近いからだよ。
「落ち着いたか?」
「申し訳ありません、取り乱してしまいまして。」
「そこまで気に入ってくれるのは嬉しいが場所を考えてもらえると助かる。」
兄ちゃんに水を飲ませて落ち着かせたところでやっとまともな話ができるようになった。
しがみつかれるのは男よりも女の方がうれしいんだが。
「で、芋を売ってほしいって?」
「はい!あの甘み、そして食べ応え!今まで食べたものの中で一番です。何か特別品種なのでしょうか。」
「いや、普通のスイートトポテだ。」
「じゃあ土?それとも水?わかりません、明らかにいつもと違います。」
「その辺は企業秘密ってやつだ。」
ただ単に寝かせただけだが、そのひと手間が違うんだよなぁ。
とはいえこのやり方はアグリも知っていたし実際には企業秘密というほどでもない。
他所のスイートトポテを食べたことがないから判断できないが、土が違うというのはあり得る話だ。
「そうですよねぇ。」
「で、いくら出す?その感じだと王都で売るんだろ?」
「まさか、ご存じでしたか。」
「王都じゃ空前の芋ブームらしいじゃないか。確かにこれだけ美味い芋なら間違いなく売れるだろうな、俺もその自信はある。だから本当は自分で売りに行くつもりだったんだが・・・。」
そこまで言った所で相手の目を見る。
自分で売ればぼろ儲け間違いない。
それを知った上で向こうがどう出るか、この辺の駆け引きが商売の楽しいところだ。
「そこまで気に入ってくれるならばアンタに譲るのも吝かではない。」
「言い値と言いたい所ですが、こちらも商売でして。」
「もちろんわかっている。そっちがどれだけ俺の芋を気に入っているのか、聞かせてもらいたいだけだ。」
「そういうことでしたら。」
兄ちゃんは腕を組み思案し始めた。
こういう時自分から値段を言ってもいいのだが、あえて相手に言わせることで自分の方が安かったというミスを防ぐことができる。
卑怯なやり方だがより高く売るための作戦だな。
もちろん向こうが予想以上に安い値段を言うのならば断わってもいい。
向こうからしてみれば安く買う機会を失うわけだが、初めて会う人だし別にそこまで歩み寄る必要もないだろう。
あまりの量にどうするか悩んでいた芋が金になるんだ、しっかり買い付けてもらおうじゃないか。
「小木箱一つにつき銀貨4枚はいかがでしょう。」
「まぁ、そんなもんだよなぁ。」
「王都に運ぶ運賃もありまして、流石にこれ以上は・・・。」
『スイートトポテ。数あるトポテ種の中でも甘みが強く主に菓子などに加工されている。熱を加えると甘みが増すのが特徴。最近の平均取引価格は銅貨45枚。最安値銅貨30枚最高値銅貨77枚。最終取引日は本日と記録されています。』
相場スキルの価格から考えてもかなり高値を付けているのは間違いない。
小木箱というのは一般的に使われる中でも一番小さい奴で、今回の芋なら5キロは入る。
相場スキルがおおよそ一キロ単位の値段なので銅貨80枚計算。
相場の倍近く払ってでも買いたいのか。
そういう意味ではかなり頑張ってくれているようだが・・・。
「木箱一つにつき銀貨5枚は最低ほしいところだな。」
「うぅ、そこまでは流石に無理です。」
「ま、普通はそうだろう。だが王都のある大陸までの運賃はこっちが持つと言ったらどうする?」
「え?」
「直近で王都に送る荷物があってな、それに便乗する形であれば送料はかからないし輸送の手間も省ける。もちろん港から王都に運ぶ荷馬車は自分で確保してもらうが、ここからの船代が全部浮くとなるとアンタならいくらつける?」
「銀貨7枚出します。」
「よし、売った。」
即決だった。
輸送費ってのは結構馬鹿にならないものだが、それがかからないとなると利益が一気に跳ね上がる。
それを踏まえても流石に倍はつけられなかったようだが、下手に値下げ交渉せずそれに近い値段を即決できる判断力には好感が持てる。
さっきも言ったが自分で売ればもっと利益が出る。
だが、俺にはその時間はないし在庫は売りさばいてしまいたい。
なら高値で買ってくれる人に売るのが一番というわけだ。
「どれだけほしいかは現物を見てその場で決めてくれ、畑にアグリという男がいるから彼に言えば木箱から輸送まで手配してくれるだろう。代金もそこで払ってくれればいい。」
「あの、本当に向こうまで送ってくれるんですか?」
「あぁ、これに誓って約束する。」
そういって俺はポケットから一枚のメダルを取り出した。
そこに書かれていたのは名誉男爵の称号。
それを見た兄ちゃんは目を真ん丸にしてメダルと俺を二度見する。
「貴方はもしや!」
「俺が誰だっていいじゃないか、あんたは芋を買って俺は芋を売った。それだけだ。」
俺の正体を知らない相手と商売をするのは非常に楽しい。
それこそ、この間フェルさんが言っていたように純粋に商売を楽しめる。
驚きすぎてまた暴走しそうな兄ちゃんをなだめつつ、交渉成立のお礼を兼ねて俺はマスターに飛び切りの酒を頼むのだった。
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