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755.転売屋は寿司を握る
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大量の芋を乗せた船は無事に向こうの大陸へと出発した。
いやーぎりぎりだった。
本来であればもう少し余裕があったのだが、道中思わぬ魔物の襲撃に会い余計な時間を食ってしまった。
まさか川を埋め尽くすほどのカニに遭遇するとは。
『シーサイドクラブ。汽水域にのみ生息するカニの魔物。巨大な右手を振って海水を呼び寄せると言う謂れからその名がついた。獲物を捕まえるのは小さい左手が行なうのだが、動きが非常に早くそちらに気を取られて巨大な右腕に叩き潰される被害が後を絶たない。最近の平均取引価格は銅貨75枚。最安値銅貨55枚最高値銀貨1枚最終取引日は28日前と記録されています。」
鑑定した瞬間にどこの飯屋だよと総ツッコミを入れたくなる気持ちをぐっとこらえた俺は偉いと思う。
ともかく、そんなカニが川を埋め尽くしてしまったせいで先に進めずかといって一匹に手を出せば全てを相手にしないといけない為、仕方なくその場で立ち往生することになってしまった。
今回は簡単な輸送だけなので武闘派のエリザやアニエスさんは一緒じゃなく、ディーネも子育てで忙しいため声をかけていない。
いくらキキが凄腕の魔術師でも川を埋め尽くすほどのカニを相手にするのは不可能だ。
もう少しで港というところでの立ち往生。
ちょうど潮が満ちてくるタイミングでカニは一匹一匹と海に帰っていき、最後に残った数匹をキキが船の上から焼きガニにして無事に通過できたというわけだ。
到着したのは船が出港する一時間前。
ドレイク船長は俺達が来るはずだからとギリギリまで出航を見合わせてくれていたらしい。
本当に助かった。
この後、荷物を総出で積み込んで芋売りの兄ちゃんに挨拶をして今に至るというわけだ。
もう一度言う、ギリギリだった。
「疲れた。」
「あはは、お疲れ様です。」
「明日は腰痛確定だな。」
「マッサージしましょうか?」
「お願いしたい所だがそれよりも今は腹を満たしたい。買い付けの時間もあるし、とりあえず担当した分を仕入れてきてくれ。終わったらゴードンさんの店に集合な。」
「「はい!」」
色々ありすぎて時間的余裕があまりない。
王都へ荷物を運ぶという一番の仕事は終わったが、他にもやることは山ほどある。
まずはシュンの所に顔を出してグラスを買い付け、その流れで果物の仕入れだな。
カーラの所でレレモンとグローブキウィを大量消費するから今回は山で収穫できる分をすべて買い付けさせてもらおう。
ついでにいい感じの果物もあればありがたい。
それからここの冒険者ギルドに顔を出して、余剰分の素材がないか確認だな。
ニアの話じゃヒポグリフが近くで大暴れしたらしく、その素材が港町に流れ込んでいるんだとか。
ちょうどウォールさんからヒポグリフ系の羽毛が手に入らないかと相談を受けたので買い付ける予定だ。
ってな感じで港町を上から下へと動き回る事になり、全て終わる頃には腰と共に足もフラフラになってしまった。
まさに満身創痍。
「だらしない奴だな、もう少し体力をつけたらどうだ。」
「いやいや俺は商人だから、鍛える必要はないんだよ。」
「それを言い訳にさぼってるだけだろう。この前の礼もあるしいっちょ鍛えてやろうか?」
最後にゴードンさんの所で買い付けをしてこれで全て終わり。
のはずだったんだが、あまりにも不甲斐ない姿の為にダメだしされてしまった。
「勘弁してくれ。それよりも早く飯が食いたい。」
「もうそんな時間か。どこで食べるか決まっているのか?」
「場所は決まっていないんだがちょっと試したいものがある。どこか厨房を貸してくれる場所知らないか?」
「厨房?」
「作りたいものがあるんだよ。」
今回はこれを試すために来たといってもいい。
荷物の搬入はあくまでも前座だ。
ちょうど親方の奥様が工房にやってきて話をすると二つ返事で厨房を貸してくれることになった。
っていうかゴードンさん結婚でき・・・してたんだ。
キキとアネットには奥様と一緒に米やらおかずやらの準備を頼み、俺はゴードンさんと共に港へと向かう。
時間的に閑散としているが、奴はまだいた。
「ゾイル。」
「お、シロウじゃないか。ってゴードンさんもいるのか。」
「不満か?」
「滅相もない。で、何しに来たんだ?」
「手に入れたい魚がいるんだ、手配できるよな。」
「おいおいこの時間だぞ?もうほとんど売れちまったよ。」
「トゥーンフィッシュの半身、それとこの時期ならサモーンはまだ遡上してないはずだよな。あと、レッドパーゲルもほしい。あるよな?」
俺とゴードンさんの睨みを受けてゾイルが後ずさりする。
用意できないとは言わせない。
いや本当にないのならさすがの俺も無理は言わないが、俺達の仲であるものを無いと言わないよなという圧力だ。
うん、圧力だな自覚はある。
「あるが、ちと高いぞ。」
「値段はいい。それと海苔も頼む、できれば板状の奴で。」
「未加工の奴なんてどうするんだよ。」
「そりゃ食うんだよ。」
そのために来たんだから。
なんだかんだいながらもゾイルはしっかりと魚を手配してくれたので、お礼の代わりに夕食に案内した。
折角食うなら大人数の方が楽しい。
「ただいま。」
「おかえりなさいませ。」
「お米の準備は出来ています!あと、卵焼きとスパークスプラウトも手に入りました。」
「よしよし、それじゃあ準備するか。」
「なんだよ、今から作るのか。」
「文句言うなら帰っていいんだぞ?」
「アナタ、ゾイルさんが可愛そうでしょ。折角来たんだから、ほら入って入って。」
いつもは強面のゴードンさんも奥さんの前ではおとなしいようだ。
意外と家では奥様の尻に敷かれているのかもしれない。
「で、何すればいいんだ?」
「さっきのを捌いて生で食えるように一口大にしてくれ、得意だろ?」
「いやまぁ、得意だが。」
「俺はこっちで酢飯を作るから。アネット、この海苔を10cmぐらいの正方形に切ってくれ。キキは奥様に頼んで醤油を入れる小皿と手配して、あとこれをすりつぶしてくれ。気をつけろよ、かなり目に染みるぞ。」
「気を付けます。」
ここまで言えばわかる人は分かるだろう。
今回の目的は寿司。
モーリスさんが西方から米酢を手に入れてくれたので、寿司を作るしかないと心に決めたんだ。
屋敷でみんなと食べることも考えたのだが、やはり鮮度の問題で現地に限られると判断した。
なまものだけに何かあるといけないので元気な二人に来てもらったという理由もある。
硬めに炊いてもらった米を大きめの器にうつし、上から米酢を少量掛けながら木べらで切るようになじませていく。
ゴードンさんに米を仰いでもらうというオプション付きで。
なんだか申し訳ないがこれも美味い物を食うためだ。
めんどくさいと言おうものなら奥様の叱咤が飛んでくるのでゴードンさんも静かに手伝ってくれた。
「よーし出来たぞ。」
「こっちも終わった。で、どうすればいい?」
「中央に切った奴を並べてくれ。で、アネットが切った海苔を一枚取ってスプーンで酢飯を乗せる。で、切り身を乗せてくるんだら醤油につけて、食う。」
寿司と言っても用意したのは手巻き寿司。
流石に握り寿司はスキルがなさ過ぎて俺には無理だ。
真似事はできるだろうがぼろぼろになるだろうし、何より俺が納得しない。
パリッとした海苔の触感と共にトゥーンフィッシュのうまみが口いっぱいに広がる。
これこれ、この味。
酢飯と醤油のコンビがたまらなく美味い。
俺が食いたかったのはまさしくこれだ。
因みにトゥーンフィッシュはマグロ、サモーンは鮭、レッドパーゲルは鯛のような魚だ。
アニサキス的なものがいないかも確認済み。
あぁ、最高だ。
「美味しい!」
「なんだこりゃ、魚なんて食い飽きたと思ったがこんな食い方があったのか。」
「この米が合うのか?ちょっと酸っぱい感じが生臭さを消してる。こんなの食ったら他の魚食えなくなるじゃねえか、どうしてくれるんだよ。」
「こんな美味しいのを食べたって知ったらお姉ちゃん怒るだろうなぁ。」
四者四様。
因みに奥様は無言で次のに手を伸ばしている。
あれこれ乗せて食べるのが美味いんだよなぁ。
味に飽きたらカイワレ大根もどきを一緒に入れるとスッとするし、なにより俺は最強の奴を手に入れたんだ。
偶然とはいえこれがあれば寿司は歓声と言っても過言ではない。
「辛い!」
「なんだこれ、鼻が!鼻が痛いぞ!」
「これ、毒じゃないのか?」
「毒じゃない。みんな乗せすぎなんだよ、小指の先でも多いぐらいだ。」
「なんなんだよこれ。」
「ワサビだ。」
さっきキキにお願いして摺ってもらったのがまさにこれ。
シュウの所で買い付けを行っていると、急にキョウがこれを出してくれたんだ。
前に話していたのを覚えていたらしく、今回偶然手に入ったからと持ってきてくれた。
『ワサビ。清流にのみ自生する植物で、辛みが強くその成分のせいで自分も大きく育つことができない。主に西方の料理に使われており非常に珍しい。最近の平均取引価格は銀貨10枚、最安値銀貨8枚最高値銀貨27枚最終取引日は19日前と記録されています。』
こっちの世界でもワサビというようだ。
いやー、鑑定した瞬間テンション上がったね。
「ほんとだ、ちょっとだけ乗せるとスッとしてトゥーンフィッシュの脂っぽさがなくなります。」
「こういう食い物もあるのか。」
「俺にはちょっと辛いな。」
「アナタは甘党だから。」
「え、そうなのか?」
「おい、言うなよ。」
「隠れて菓子ばっか食ってるんだぜ。」
「ゾイル。」
「いいじゃねぇかよ、別に。恥ずかしいことでもないだろ。」
奥様という強い味方がいるのをいいことにゾイルがゴードンさんの秘密を漏らしていく。
あぁ、こういう食事も悪くないよな。
こうやってお互いの関係を少しずつ深めていって、よりいい仕事をしていく。
飲みにケーションはあまり好きじゃないが、食いにケーションは大賛成だね。
と、その時までは思っていた。
そんなこんなで話が盛り上がっていたその時、コンコンと玄関がノックされ奥様が様子を見に行く。
何やら話声が聞こえるからてっきり知り合いと話し込んでいるんだろうと思っていたのだが・・・。
「アナタ、ポーラ様が来られたわよ。」
「なにぃ?」
お酒が進みいい感じに出来上がっていたゴードンさんだったが、予想もしていなかった人の登場に一気に素面に戻る。
いや、なんであの人がここに?
「こんばんは、申し訳ありません食事中に。」
「いいんですよ。すみませんね、こんなに散らかっていて。」
「ありがとうございます奥様。それと、お久しぶりですシロウ様。」
「お、おぅ。」
「僕がお手紙を出しても出しても出しても中々お返事を頂けなかったのに。でも、こうやって来てくださったのは嬉しいです。来られたのなら一声かけてくださればよかったのに、冒険者ギルドで来られていると聞いたときは思わず変な声が出てしまいました。」
今まで見たことのないような微笑みを浮かべてポーラさんが俺を見てくる。
やばい。
俺の中の何かがそう告げている。
それを察知したのかアネットとキキが俺の両サイドに素早く動いた。
「よろしければポーラ様もご一緒しませんか?シロウ様が食事を用意してくださったんですよ。」
「シロウ様が?」
「今までに食べたことのない魚料理なんです、いいですよね皆さん。」
何も知らない奥様がニコニコとポーラさんを席に案内した。
前に座った彼・・・ではなく彼女は料理ではなくじっと俺を見てくる。
「折角の席ですから、色々とお話を聞かせてくださいね、シロウ様。」
逃げに逃げていたツケがここにきて回ってきてしまった。
頼みの綱はアネットとキキだけ。
果たして俺は無事に今日を越えられるのだろうか。
美味しい食事のはずなのに、その後は何を食べたか正直思い出せなかった。
いやーぎりぎりだった。
本来であればもう少し余裕があったのだが、道中思わぬ魔物の襲撃に会い余計な時間を食ってしまった。
まさか川を埋め尽くすほどのカニに遭遇するとは。
『シーサイドクラブ。汽水域にのみ生息するカニの魔物。巨大な右手を振って海水を呼び寄せると言う謂れからその名がついた。獲物を捕まえるのは小さい左手が行なうのだが、動きが非常に早くそちらに気を取られて巨大な右腕に叩き潰される被害が後を絶たない。最近の平均取引価格は銅貨75枚。最安値銅貨55枚最高値銀貨1枚最終取引日は28日前と記録されています。」
鑑定した瞬間にどこの飯屋だよと総ツッコミを入れたくなる気持ちをぐっとこらえた俺は偉いと思う。
ともかく、そんなカニが川を埋め尽くしてしまったせいで先に進めずかといって一匹に手を出せば全てを相手にしないといけない為、仕方なくその場で立ち往生することになってしまった。
今回は簡単な輸送だけなので武闘派のエリザやアニエスさんは一緒じゃなく、ディーネも子育てで忙しいため声をかけていない。
いくらキキが凄腕の魔術師でも川を埋め尽くすほどのカニを相手にするのは不可能だ。
もう少しで港というところでの立ち往生。
ちょうど潮が満ちてくるタイミングでカニは一匹一匹と海に帰っていき、最後に残った数匹をキキが船の上から焼きガニにして無事に通過できたというわけだ。
到着したのは船が出港する一時間前。
ドレイク船長は俺達が来るはずだからとギリギリまで出航を見合わせてくれていたらしい。
本当に助かった。
この後、荷物を総出で積み込んで芋売りの兄ちゃんに挨拶をして今に至るというわけだ。
もう一度言う、ギリギリだった。
「疲れた。」
「あはは、お疲れ様です。」
「明日は腰痛確定だな。」
「マッサージしましょうか?」
「お願いしたい所だがそれよりも今は腹を満たしたい。買い付けの時間もあるし、とりあえず担当した分を仕入れてきてくれ。終わったらゴードンさんの店に集合な。」
「「はい!」」
色々ありすぎて時間的余裕があまりない。
王都へ荷物を運ぶという一番の仕事は終わったが、他にもやることは山ほどある。
まずはシュンの所に顔を出してグラスを買い付け、その流れで果物の仕入れだな。
カーラの所でレレモンとグローブキウィを大量消費するから今回は山で収穫できる分をすべて買い付けさせてもらおう。
ついでにいい感じの果物もあればありがたい。
それからここの冒険者ギルドに顔を出して、余剰分の素材がないか確認だな。
ニアの話じゃヒポグリフが近くで大暴れしたらしく、その素材が港町に流れ込んでいるんだとか。
ちょうどウォールさんからヒポグリフ系の羽毛が手に入らないかと相談を受けたので買い付ける予定だ。
ってな感じで港町を上から下へと動き回る事になり、全て終わる頃には腰と共に足もフラフラになってしまった。
まさに満身創痍。
「だらしない奴だな、もう少し体力をつけたらどうだ。」
「いやいや俺は商人だから、鍛える必要はないんだよ。」
「それを言い訳にさぼってるだけだろう。この前の礼もあるしいっちょ鍛えてやろうか?」
最後にゴードンさんの所で買い付けをしてこれで全て終わり。
のはずだったんだが、あまりにも不甲斐ない姿の為にダメだしされてしまった。
「勘弁してくれ。それよりも早く飯が食いたい。」
「もうそんな時間か。どこで食べるか決まっているのか?」
「場所は決まっていないんだがちょっと試したいものがある。どこか厨房を貸してくれる場所知らないか?」
「厨房?」
「作りたいものがあるんだよ。」
今回はこれを試すために来たといってもいい。
荷物の搬入はあくまでも前座だ。
ちょうど親方の奥様が工房にやってきて話をすると二つ返事で厨房を貸してくれることになった。
っていうかゴードンさん結婚でき・・・してたんだ。
キキとアネットには奥様と一緒に米やらおかずやらの準備を頼み、俺はゴードンさんと共に港へと向かう。
時間的に閑散としているが、奴はまだいた。
「ゾイル。」
「お、シロウじゃないか。ってゴードンさんもいるのか。」
「不満か?」
「滅相もない。で、何しに来たんだ?」
「手に入れたい魚がいるんだ、手配できるよな。」
「おいおいこの時間だぞ?もうほとんど売れちまったよ。」
「トゥーンフィッシュの半身、それとこの時期ならサモーンはまだ遡上してないはずだよな。あと、レッドパーゲルもほしい。あるよな?」
俺とゴードンさんの睨みを受けてゾイルが後ずさりする。
用意できないとは言わせない。
いや本当にないのならさすがの俺も無理は言わないが、俺達の仲であるものを無いと言わないよなという圧力だ。
うん、圧力だな自覚はある。
「あるが、ちと高いぞ。」
「値段はいい。それと海苔も頼む、できれば板状の奴で。」
「未加工の奴なんてどうするんだよ。」
「そりゃ食うんだよ。」
そのために来たんだから。
なんだかんだいながらもゾイルはしっかりと魚を手配してくれたので、お礼の代わりに夕食に案内した。
折角食うなら大人数の方が楽しい。
「ただいま。」
「おかえりなさいませ。」
「お米の準備は出来ています!あと、卵焼きとスパークスプラウトも手に入りました。」
「よしよし、それじゃあ準備するか。」
「なんだよ、今から作るのか。」
「文句言うなら帰っていいんだぞ?」
「アナタ、ゾイルさんが可愛そうでしょ。折角来たんだから、ほら入って入って。」
いつもは強面のゴードンさんも奥さんの前ではおとなしいようだ。
意外と家では奥様の尻に敷かれているのかもしれない。
「で、何すればいいんだ?」
「さっきのを捌いて生で食えるように一口大にしてくれ、得意だろ?」
「いやまぁ、得意だが。」
「俺はこっちで酢飯を作るから。アネット、この海苔を10cmぐらいの正方形に切ってくれ。キキは奥様に頼んで醤油を入れる小皿と手配して、あとこれをすりつぶしてくれ。気をつけろよ、かなり目に染みるぞ。」
「気を付けます。」
ここまで言えばわかる人は分かるだろう。
今回の目的は寿司。
モーリスさんが西方から米酢を手に入れてくれたので、寿司を作るしかないと心に決めたんだ。
屋敷でみんなと食べることも考えたのだが、やはり鮮度の問題で現地に限られると判断した。
なまものだけに何かあるといけないので元気な二人に来てもらったという理由もある。
硬めに炊いてもらった米を大きめの器にうつし、上から米酢を少量掛けながら木べらで切るようになじませていく。
ゴードンさんに米を仰いでもらうというオプション付きで。
なんだか申し訳ないがこれも美味い物を食うためだ。
めんどくさいと言おうものなら奥様の叱咤が飛んでくるのでゴードンさんも静かに手伝ってくれた。
「よーし出来たぞ。」
「こっちも終わった。で、どうすればいい?」
「中央に切った奴を並べてくれ。で、アネットが切った海苔を一枚取ってスプーンで酢飯を乗せる。で、切り身を乗せてくるんだら醤油につけて、食う。」
寿司と言っても用意したのは手巻き寿司。
流石に握り寿司はスキルがなさ過ぎて俺には無理だ。
真似事はできるだろうがぼろぼろになるだろうし、何より俺が納得しない。
パリッとした海苔の触感と共にトゥーンフィッシュのうまみが口いっぱいに広がる。
これこれ、この味。
酢飯と醤油のコンビがたまらなく美味い。
俺が食いたかったのはまさしくこれだ。
因みにトゥーンフィッシュはマグロ、サモーンは鮭、レッドパーゲルは鯛のような魚だ。
アニサキス的なものがいないかも確認済み。
あぁ、最高だ。
「美味しい!」
「なんだこりゃ、魚なんて食い飽きたと思ったがこんな食い方があったのか。」
「この米が合うのか?ちょっと酸っぱい感じが生臭さを消してる。こんなの食ったら他の魚食えなくなるじゃねえか、どうしてくれるんだよ。」
「こんな美味しいのを食べたって知ったらお姉ちゃん怒るだろうなぁ。」
四者四様。
因みに奥様は無言で次のに手を伸ばしている。
あれこれ乗せて食べるのが美味いんだよなぁ。
味に飽きたらカイワレ大根もどきを一緒に入れるとスッとするし、なにより俺は最強の奴を手に入れたんだ。
偶然とはいえこれがあれば寿司は歓声と言っても過言ではない。
「辛い!」
「なんだこれ、鼻が!鼻が痛いぞ!」
「これ、毒じゃないのか?」
「毒じゃない。みんな乗せすぎなんだよ、小指の先でも多いぐらいだ。」
「なんなんだよこれ。」
「ワサビだ。」
さっきキキにお願いして摺ってもらったのがまさにこれ。
シュウの所で買い付けを行っていると、急にキョウがこれを出してくれたんだ。
前に話していたのを覚えていたらしく、今回偶然手に入ったからと持ってきてくれた。
『ワサビ。清流にのみ自生する植物で、辛みが強くその成分のせいで自分も大きく育つことができない。主に西方の料理に使われており非常に珍しい。最近の平均取引価格は銀貨10枚、最安値銀貨8枚最高値銀貨27枚最終取引日は19日前と記録されています。』
こっちの世界でもワサビというようだ。
いやー、鑑定した瞬間テンション上がったね。
「ほんとだ、ちょっとだけ乗せるとスッとしてトゥーンフィッシュの脂っぽさがなくなります。」
「こういう食い物もあるのか。」
「俺にはちょっと辛いな。」
「アナタは甘党だから。」
「え、そうなのか?」
「おい、言うなよ。」
「隠れて菓子ばっか食ってるんだぜ。」
「ゾイル。」
「いいじゃねぇかよ、別に。恥ずかしいことでもないだろ。」
奥様という強い味方がいるのをいいことにゾイルがゴードンさんの秘密を漏らしていく。
あぁ、こういう食事も悪くないよな。
こうやってお互いの関係を少しずつ深めていって、よりいい仕事をしていく。
飲みにケーションはあまり好きじゃないが、食いにケーションは大賛成だね。
と、その時までは思っていた。
そんなこんなで話が盛り上がっていたその時、コンコンと玄関がノックされ奥様が様子を見に行く。
何やら話声が聞こえるからてっきり知り合いと話し込んでいるんだろうと思っていたのだが・・・。
「アナタ、ポーラ様が来られたわよ。」
「なにぃ?」
お酒が進みいい感じに出来上がっていたゴードンさんだったが、予想もしていなかった人の登場に一気に素面に戻る。
いや、なんであの人がここに?
「こんばんは、申し訳ありません食事中に。」
「いいんですよ。すみませんね、こんなに散らかっていて。」
「ありがとうございます奥様。それと、お久しぶりですシロウ様。」
「お、おぅ。」
「僕がお手紙を出しても出しても出しても中々お返事を頂けなかったのに。でも、こうやって来てくださったのは嬉しいです。来られたのなら一声かけてくださればよかったのに、冒険者ギルドで来られていると聞いたときは思わず変な声が出てしまいました。」
今まで見たことのないような微笑みを浮かべてポーラさんが俺を見てくる。
やばい。
俺の中の何かがそう告げている。
それを察知したのかアネットとキキが俺の両サイドに素早く動いた。
「よろしければポーラ様もご一緒しませんか?シロウ様が食事を用意してくださったんですよ。」
「シロウ様が?」
「今までに食べたことのない魚料理なんです、いいですよね皆さん。」
何も知らない奥様がニコニコとポーラさんを席に案内した。
前に座った彼・・・ではなく彼女は料理ではなくじっと俺を見てくる。
「折角の席ですから、色々とお話を聞かせてくださいね、シロウ様。」
逃げに逃げていたツケがここにきて回ってきてしまった。
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