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1048.転売屋は使い終わった道具を買いにいく
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「これより下水道用の地下採掘工事を始める。城壁工事も終わり一息ついたところ悪いがこちらもかなり危険な工事だ。各自いつも通り最善の注意を払いつつ作業にあたってほしい。工程表はもう確認したな?それじゃあ作業開始だ。」
「「「「「おぅ!」」」」」
秋晴れの朝。
拡張工事が行われている広場の真ん中に大勢の人が集まっている。
その大半が先に行われた城壁工事に参加していた屈強な面々なのだが、その中に肉体労働には縁遠い感じの見た目で言えば文系な方々の姿もある。
流石にローブは身に着けていないが、肌は白くそして細い。
全く日に焼けていない素肌を晒しているのは魔術師だ。
男女半々で10名ほどがよく日に焼けたマッチョな皆様に護衛されているように囲まれている。
今日から始まるのは下水道の採掘工事。
元の世界ならばパワーショベルやシールドマシンが大活躍するのだが、生憎とそんなものはこの世界にはない。
その代わりにあるのが土の魔道具、そして魔法だ。
採石場でも活躍している土魔法はこの世界における土木作業に必要不可欠な物。
見た目に細く頼りなさそうでも、身の丈以上の岩をいとも簡単に動かしてしまうんだから魔法ってホント凄いよなぁ。
作業開始と同時に土の魔道具と土魔法が猛烈な勢いで土を掘り起こし、あっという間に大きな穴を開けていく。
僅か一時間で人が中に入れるぐらいの大穴が開いてしまった。
「いやー、凄いなこれは。」
「石材を持ち上げたり積んだりするのに比べると単純作業ですからね。とはいえ、排出された土を搬出する作業はありますからそっちの方が大変です。」
「中は崩れないのか?」
「もちろん崩れますよ。なのである程度の大きさになったら補強を入れ、そこからまた上下左右に広げていきます。目的の深さまで掘り起こすのに一週間はかかるんじゃないでしょうか。」
鉱山とかもそうだが、穴を掘ればそこに周りの圧力が集中して崩落する危険がある。
なのでそうならないよう柱や板を使って補強して行くのは魔法があっても同じことのようだ。
下水道の出入り口は中央と東西南北の全部で5カ所。
それぞれの場所から掘り勧めて最終的に全部を開通させるらしい。
「しかしあれだな、深さもそうだが距離とか方向とかどうやって把握するんだ?」
「色々あるんですけど、深さに関しては共鳴石を使うんです。」
「・・・しらん。」
「特定の波長を出す石なんですけど、一定の距離に近づくとピカピカと光り出すんです。その性質を使って、地下からその石の反応を感知して深さを把握します。」
「なんとなくはわかるが、そんなので上手くいくのか?」
「後は地上に置いた魔石の魔力を下から感知して方角と距離を把握します。簡単に言うと魔石の入った箱を地上に置いてその方向めがけて魔術師が掘って、深さは共鳴石とメトルの節を使って合わせる感じですかね。」
うーむ、わかるようなわからんような。
方角はなんとなくわかるが、深さは微妙にずれそうなもんだけどなぁ。
でもまぁある程度わかれば後は何とかなるもんなんだろう。
とりあえず当分は粗削りと補強、それが終わったら深さと大きさ、広さを合わせながら、今度はレンガを敷き詰めていく。
下水道は地下およそ5m程の深さにあるらしい。
普段生活するそんな下に下水道網があるのは想像できないが、これが無いと排水が溢れ疫病がまん延してしまう。
それを人力で作ろうっていうんだから凄いよなぁ。
「まぁ、何か必要な素材が出たらまた声をかけてくれ。」
「暫くは大丈夫だと思いますが、地下工事が進行すると色々と問題が出てきますので、その時は頼りにしてます。」
「城壁の工事よりも大変だよな、これって。」
「ですねえ、幸いこの辺りの土地は地盤がしっかりしていますし地下水もそんなに浅くないので問題はありませんが、川の近くなんかは大変だと聞いています。」
「成程なぁ。」
「そういえばシロウさんは港町で採掘中の下水道を拝見されたとか。」
そういえばそんな事もあった気がする。
俺が見たのはほぼほぼ出来上がった状態だったが、今思えばアレを作るのにはかなりの時間と労力が必要だったんだろう。
人が住める場所を作るってのはそれだけ時間も金もかかるという事、でもそれを怠れば人が住みにくくなってしまう。
作業員のみなさんには頭が上がらないよなぁ。
「シロウさん大変です!」
羊男と一緒に現場を見て回っていると、詰所の方から誰かが駆けて来るのが見えた。
遠くから見えるその表情はあまり宜しくない。
「どうかしたのか?」
「採掘用の土の魔道具が急に動かなくなってしまって、急ぎ新しいのを手配したいんです。お持ちじゃないですか?」
「そんな、この間新しいのを入れたはずなのに。」
「恐らくは魔石との相性が悪かったんだと思います。時々あるんですよね、魔石の出力に耐えられないのが。」
土の魔道具ってそれなりに高級品ではあるのだが、所詮は道具なので故障はつきもの。
それこそ初期不良だってあり得る話だ。
もちろん修理する事も出来るのだが、急ぎ使いたいという事なので別途新しいのを仕入れる必要があるだろう。
まぁ、羊男が宜しくない物を掴まされたという可能性もゼロではないけれどいまさらそんな事を言ってもどうしようもない。
「悪いが土の魔道具は一個も残ってないんだ。」
「そうですか・・・。」
「どこのが壊れたんですか?」
「南の採掘現場です。」
「という事は大型の魔道具が壊れたんですね。はぁ、高かったのになぁ。」
大型の魔道具ともなれば金貨10枚近くしたはずだ、それが故障したと聞かされたらこんな反応にもなるだろう。
現物は一度しか見た事無いが、1mぐらいありそうな巨大なやつだったはず。
下水道工事で大活躍するはずがまさか初日に故障とは。
「すぐに必要なのか?」
「出来れば早いうちに代替品が欲しい所です。」
「とはいえ金貨10枚をまた出すとなると経理に何を言われるか。修理じゃダメですか?」
「ダメじゃないですが、工期が遅れるとだけ。」
余裕を持った工期設定とはいえ初日からずれるのは宜しくない。
はてさてどうしたもんか。
「シープさん、そのデカいのって重いのか?」
「大人二人掛りで持てるぐらいです。」
「ならバーンでも行けるか・・・。ちょっと港町まで飛ぶ、そっちはそっちで修理の見積もりを取っといてくれ。」
「お願いします!出来れば予備も何個かあれば!」
「それはおかんむりのその人に直談判しといてくれ。」
それなりに予算はあるだろうけど、それを好き放題使えば足りなくなるのは目に見えている。
それでも現場は今欲しい物をガンガン要求してくるので、誰かがそのバランスを取らないといけないわけだ。
羊男を納得させるのはなかなか大変だぞ、頑張れよ。
そんな事を祈りつつ、畑でレイとコッコと共に遊んでいたバーンにお願いして一路港町へ。
あまり会いたくはない相手だが、事情が事情だけに今はそうも言ってられない。
「まさかシロウさんから僕に会いに来てくれるなんて、デートのお誘いならいつでも歓迎ですよ!」
「残念ながら今日も仕事だ。下水道工事の時に使ってた土の魔道具ってまだ置いてあったりするか?」
「いきなり仕事の話をしてくるシロウさんもかっこいい・・・。って、土の魔道具でしたね、生憎小型中型はどれも別の部署で使用してまして残っているのは大きいのだけなんです。」
「それを譲ってくれ!」
すぐに街長の屋敷へと向かい、名誉男爵の証を見せて無理を言ってアポを取ってもらう。
幸い先約などは無かったようですぐに応接室に案内してもらえた。
まさか一番欲しいやつが残っているとは、幸先がよさそうだ。
「え、大きいのですか?それは構いませんけど、条件があります。」
「デートか?」
「それでもいいんですけど、そうじゃないんですよね。」
「・・・何だ?」
「実は複数の漁師から海水温の異変について報告が上がってるんです。それが起きると大抵厳しい寒さになるんですけど、それに対処するべく燃料を買おうと思ったらシロウさんが多量に買い付けているのを見つけちゃったんですよね。もちろん事情があって買い付けておられるのはわかっているんですけど、こっちも街の生活が懸かっているのである程度融通していただけないかと。もちろん定価とはいいませんが、あまり色は付けられないと思って下さい。それでも良ければお譲りできます。」
幸先がいいと思ったのはどうやら間違いだったようだ。
デートじゃないのはりがたいが、その要求はちょっと困る。
さすが、若くして街長の仕事を任されるだけの事はあるわけだな。
見た目はこんなだし俺の事になると周りが見えなくなるような残念なやつだが、やるときはやる女なのも間違いない。
女豹とはまた違うタイプの俺の苦手なタイプだ。
「寒くなるねぇ、聞いた事ないな。」
「そうですか?その割には近隣で売られているの燃料の約三割を買い付けているじゃないですか、聞いた話じゃ燃料用のパーム油も精製されているとか。何か燃やすつもりですか?」
「放火魔かよ。」
「どうしても無理だというのなら諦めます、でもこっちも街長っていう立場なのでその辺ご理解頂けると有難いです。」
別に隠しているわけではないのだが、この先需要が高くなるとわかっている物をおいそれと放出するのは儲けをみすみす捨てるのと同じことだ。
もちろん土の魔道具がそれを超える利益を出してくれるのであれば構わないのだが、生憎と今回は相場とかそういうのを抜きにして買い付けに来ているので儲けが出る保証がないんだよなぁ。
まぁ、別の部分で融通を聞かせてもらえればそれでいいんだが羊男がそれを認めるかどうかだけど。
「ちなみに魔道具はいくらで譲ってくれるんだ?」
「結構使っちゃって傷んでるので、金貨5枚でどうですかね。」
「結構安いな。」
「でもすぐ壊れたからって文句言わないでくださいね。一応使用後はちゃんと点検しましたし、油だってしっかり挿してますけど。下水道工事で大活躍するのは保証しますよ。」
「わかった、その値段で買わせてくれ。燃料もこっちで買い付けた分は街に流すように指示を出しておく。」
「ありがとうございます!」
若くしてこの交渉力と決断力。
俺みたいなのとは根本的に頭の出来が違うタイプだ。
出会ったときはあんなだったのに、別に俺が助けなくても最終的に自分で何とかしたんじゃないかとか思ってしまう。
ローランド様とかエドワード陛下とか、頭のネジが少し人と違う人こそが人の上に立てるんだろう。
俺には無理な話だ。
「後でバーンに持ってもらうから大型の木箱に入れて欲しいんだが、入るよな?」
「入ると思いますが底抜けませんかね。」
「それじゃあ底板をもう一枚追加しよう。」
「わかりました。じゃあ準備をしている間に僕と一緒にお茶でも・・・。」
「悪いが仕入れが待ってるんでね、今日はありがとな。」
「お礼を言うならデートぐらいしてくれたっていいじゃないですかぁぁぁ!」
そんなポーラさんの悲鳴を聞きつつ街長の屋敷を後にする。
さて、とりあえずこれで工期は正常化するだろう。
後はどうやって羊男に高く買わせるかと、提供した燃料の代替えをどうするか考えなければ。
俺達の街だけが満たされるのもよろしくないが、ポーラさんの言葉を借りれば名誉男爵としての立場も理解してもらいたい。
なぜか俺に頼めば何とかなるとか思っている人が多いんだが、それに応えたいとも思ってしまうんだよなぁ。
もちろん金を出せばの話だけど。
あっという間に冬が来る。
それまでにやらなければならないことが盛りだくさんだ。
やれやれ、休んでいる暇なんてなさそうだなぁ。
「「「「「おぅ!」」」」」
秋晴れの朝。
拡張工事が行われている広場の真ん中に大勢の人が集まっている。
その大半が先に行われた城壁工事に参加していた屈強な面々なのだが、その中に肉体労働には縁遠い感じの見た目で言えば文系な方々の姿もある。
流石にローブは身に着けていないが、肌は白くそして細い。
全く日に焼けていない素肌を晒しているのは魔術師だ。
男女半々で10名ほどがよく日に焼けたマッチョな皆様に護衛されているように囲まれている。
今日から始まるのは下水道の採掘工事。
元の世界ならばパワーショベルやシールドマシンが大活躍するのだが、生憎とそんなものはこの世界にはない。
その代わりにあるのが土の魔道具、そして魔法だ。
採石場でも活躍している土魔法はこの世界における土木作業に必要不可欠な物。
見た目に細く頼りなさそうでも、身の丈以上の岩をいとも簡単に動かしてしまうんだから魔法ってホント凄いよなぁ。
作業開始と同時に土の魔道具と土魔法が猛烈な勢いで土を掘り起こし、あっという間に大きな穴を開けていく。
僅か一時間で人が中に入れるぐらいの大穴が開いてしまった。
「いやー、凄いなこれは。」
「石材を持ち上げたり積んだりするのに比べると単純作業ですからね。とはいえ、排出された土を搬出する作業はありますからそっちの方が大変です。」
「中は崩れないのか?」
「もちろん崩れますよ。なのである程度の大きさになったら補強を入れ、そこからまた上下左右に広げていきます。目的の深さまで掘り起こすのに一週間はかかるんじゃないでしょうか。」
鉱山とかもそうだが、穴を掘ればそこに周りの圧力が集中して崩落する危険がある。
なのでそうならないよう柱や板を使って補強して行くのは魔法があっても同じことのようだ。
下水道の出入り口は中央と東西南北の全部で5カ所。
それぞれの場所から掘り勧めて最終的に全部を開通させるらしい。
「しかしあれだな、深さもそうだが距離とか方向とかどうやって把握するんだ?」
「色々あるんですけど、深さに関しては共鳴石を使うんです。」
「・・・しらん。」
「特定の波長を出す石なんですけど、一定の距離に近づくとピカピカと光り出すんです。その性質を使って、地下からその石の反応を感知して深さを把握します。」
「なんとなくはわかるが、そんなので上手くいくのか?」
「後は地上に置いた魔石の魔力を下から感知して方角と距離を把握します。簡単に言うと魔石の入った箱を地上に置いてその方向めがけて魔術師が掘って、深さは共鳴石とメトルの節を使って合わせる感じですかね。」
うーむ、わかるようなわからんような。
方角はなんとなくわかるが、深さは微妙にずれそうなもんだけどなぁ。
でもまぁある程度わかれば後は何とかなるもんなんだろう。
とりあえず当分は粗削りと補強、それが終わったら深さと大きさ、広さを合わせながら、今度はレンガを敷き詰めていく。
下水道は地下およそ5m程の深さにあるらしい。
普段生活するそんな下に下水道網があるのは想像できないが、これが無いと排水が溢れ疫病がまん延してしまう。
それを人力で作ろうっていうんだから凄いよなぁ。
「まぁ、何か必要な素材が出たらまた声をかけてくれ。」
「暫くは大丈夫だと思いますが、地下工事が進行すると色々と問題が出てきますので、その時は頼りにしてます。」
「城壁の工事よりも大変だよな、これって。」
「ですねえ、幸いこの辺りの土地は地盤がしっかりしていますし地下水もそんなに浅くないので問題はありませんが、川の近くなんかは大変だと聞いています。」
「成程なぁ。」
「そういえばシロウさんは港町で採掘中の下水道を拝見されたとか。」
そういえばそんな事もあった気がする。
俺が見たのはほぼほぼ出来上がった状態だったが、今思えばアレを作るのにはかなりの時間と労力が必要だったんだろう。
人が住める場所を作るってのはそれだけ時間も金もかかるという事、でもそれを怠れば人が住みにくくなってしまう。
作業員のみなさんには頭が上がらないよなぁ。
「シロウさん大変です!」
羊男と一緒に現場を見て回っていると、詰所の方から誰かが駆けて来るのが見えた。
遠くから見えるその表情はあまり宜しくない。
「どうかしたのか?」
「採掘用の土の魔道具が急に動かなくなってしまって、急ぎ新しいのを手配したいんです。お持ちじゃないですか?」
「そんな、この間新しいのを入れたはずなのに。」
「恐らくは魔石との相性が悪かったんだと思います。時々あるんですよね、魔石の出力に耐えられないのが。」
土の魔道具ってそれなりに高級品ではあるのだが、所詮は道具なので故障はつきもの。
それこそ初期不良だってあり得る話だ。
もちろん修理する事も出来るのだが、急ぎ使いたいという事なので別途新しいのを仕入れる必要があるだろう。
まぁ、羊男が宜しくない物を掴まされたという可能性もゼロではないけれどいまさらそんな事を言ってもどうしようもない。
「悪いが土の魔道具は一個も残ってないんだ。」
「そうですか・・・。」
「どこのが壊れたんですか?」
「南の採掘現場です。」
「という事は大型の魔道具が壊れたんですね。はぁ、高かったのになぁ。」
大型の魔道具ともなれば金貨10枚近くしたはずだ、それが故障したと聞かされたらこんな反応にもなるだろう。
現物は一度しか見た事無いが、1mぐらいありそうな巨大なやつだったはず。
下水道工事で大活躍するはずがまさか初日に故障とは。
「すぐに必要なのか?」
「出来れば早いうちに代替品が欲しい所です。」
「とはいえ金貨10枚をまた出すとなると経理に何を言われるか。修理じゃダメですか?」
「ダメじゃないですが、工期が遅れるとだけ。」
余裕を持った工期設定とはいえ初日からずれるのは宜しくない。
はてさてどうしたもんか。
「シープさん、そのデカいのって重いのか?」
「大人二人掛りで持てるぐらいです。」
「ならバーンでも行けるか・・・。ちょっと港町まで飛ぶ、そっちはそっちで修理の見積もりを取っといてくれ。」
「お願いします!出来れば予備も何個かあれば!」
「それはおかんむりのその人に直談判しといてくれ。」
それなりに予算はあるだろうけど、それを好き放題使えば足りなくなるのは目に見えている。
それでも現場は今欲しい物をガンガン要求してくるので、誰かがそのバランスを取らないといけないわけだ。
羊男を納得させるのはなかなか大変だぞ、頑張れよ。
そんな事を祈りつつ、畑でレイとコッコと共に遊んでいたバーンにお願いして一路港町へ。
あまり会いたくはない相手だが、事情が事情だけに今はそうも言ってられない。
「まさかシロウさんから僕に会いに来てくれるなんて、デートのお誘いならいつでも歓迎ですよ!」
「残念ながら今日も仕事だ。下水道工事の時に使ってた土の魔道具ってまだ置いてあったりするか?」
「いきなり仕事の話をしてくるシロウさんもかっこいい・・・。って、土の魔道具でしたね、生憎小型中型はどれも別の部署で使用してまして残っているのは大きいのだけなんです。」
「それを譲ってくれ!」
すぐに街長の屋敷へと向かい、名誉男爵の証を見せて無理を言ってアポを取ってもらう。
幸い先約などは無かったようですぐに応接室に案内してもらえた。
まさか一番欲しいやつが残っているとは、幸先がよさそうだ。
「え、大きいのですか?それは構いませんけど、条件があります。」
「デートか?」
「それでもいいんですけど、そうじゃないんですよね。」
「・・・何だ?」
「実は複数の漁師から海水温の異変について報告が上がってるんです。それが起きると大抵厳しい寒さになるんですけど、それに対処するべく燃料を買おうと思ったらシロウさんが多量に買い付けているのを見つけちゃったんですよね。もちろん事情があって買い付けておられるのはわかっているんですけど、こっちも街の生活が懸かっているのである程度融通していただけないかと。もちろん定価とはいいませんが、あまり色は付けられないと思って下さい。それでも良ければお譲りできます。」
幸先がいいと思ったのはどうやら間違いだったようだ。
デートじゃないのはりがたいが、その要求はちょっと困る。
さすが、若くして街長の仕事を任されるだけの事はあるわけだな。
見た目はこんなだし俺の事になると周りが見えなくなるような残念なやつだが、やるときはやる女なのも間違いない。
女豹とはまた違うタイプの俺の苦手なタイプだ。
「寒くなるねぇ、聞いた事ないな。」
「そうですか?その割には近隣で売られているの燃料の約三割を買い付けているじゃないですか、聞いた話じゃ燃料用のパーム油も精製されているとか。何か燃やすつもりですか?」
「放火魔かよ。」
「どうしても無理だというのなら諦めます、でもこっちも街長っていう立場なのでその辺ご理解頂けると有難いです。」
別に隠しているわけではないのだが、この先需要が高くなるとわかっている物をおいそれと放出するのは儲けをみすみす捨てるのと同じことだ。
もちろん土の魔道具がそれを超える利益を出してくれるのであれば構わないのだが、生憎と今回は相場とかそういうのを抜きにして買い付けに来ているので儲けが出る保証がないんだよなぁ。
まぁ、別の部分で融通を聞かせてもらえればそれでいいんだが羊男がそれを認めるかどうかだけど。
「ちなみに魔道具はいくらで譲ってくれるんだ?」
「結構使っちゃって傷んでるので、金貨5枚でどうですかね。」
「結構安いな。」
「でもすぐ壊れたからって文句言わないでくださいね。一応使用後はちゃんと点検しましたし、油だってしっかり挿してますけど。下水道工事で大活躍するのは保証しますよ。」
「わかった、その値段で買わせてくれ。燃料もこっちで買い付けた分は街に流すように指示を出しておく。」
「ありがとうございます!」
若くしてこの交渉力と決断力。
俺みたいなのとは根本的に頭の出来が違うタイプだ。
出会ったときはあんなだったのに、別に俺が助けなくても最終的に自分で何とかしたんじゃないかとか思ってしまう。
ローランド様とかエドワード陛下とか、頭のネジが少し人と違う人こそが人の上に立てるんだろう。
俺には無理な話だ。
「後でバーンに持ってもらうから大型の木箱に入れて欲しいんだが、入るよな?」
「入ると思いますが底抜けませんかね。」
「それじゃあ底板をもう一枚追加しよう。」
「わかりました。じゃあ準備をしている間に僕と一緒にお茶でも・・・。」
「悪いが仕入れが待ってるんでね、今日はありがとな。」
「お礼を言うならデートぐらいしてくれたっていいじゃないですかぁぁぁ!」
そんなポーラさんの悲鳴を聞きつつ街長の屋敷を後にする。
さて、とりあえずこれで工期は正常化するだろう。
後はどうやって羊男に高く買わせるかと、提供した燃料の代替えをどうするか考えなければ。
俺達の街だけが満たされるのもよろしくないが、ポーラさんの言葉を借りれば名誉男爵としての立場も理解してもらいたい。
なぜか俺に頼めば何とかなるとか思っている人が多いんだが、それに応えたいとも思ってしまうんだよなぁ。
もちろん金を出せばの話だけど。
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やれやれ、休んでいる暇なんてなさそうだなぁ。
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タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
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楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
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そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
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