1,071 / 1,738
1066.転売屋は引退した品を引き取る
しおりを挟む
「シロウ様、お時間よろしいですか?」
「ん?どうしたんだミラ。」
「先程ゲイル様とお会いしたのですが、内密にお話したいことがあるとのことでお店まで来てほしいと言付かりました。」
「マスターが?」
わざわざミラに伝言を頼んで呼び出すとはいったい何事だろうか。
もしや西方国に動きがあったとか?
いくつもの可能性を考えながら仕事を置き急ぎ三日月亭へと向かう。
いつもなら大勢の冒険者が出入りしているはずなのだが、今日はシンと静まり返っていた。
「シロウだ、マスターいるのか?」
「おぅ、入ってくれ。」
恐る恐る声をかけると中から帰ってきたのはいつもと変わらない感じの声。
扉を開けて中に入ると、店のど真ん中の席に誰かが座っている背中が見える。
「呼び出して悪かったな、まぁこっちに来てくれ。」
「店を閉めてるのか?」
「今だけな。」
つまり宿泊客を一時的に追い出してまで他人に聞かれたくない話という事なんだろう。
そしてマスターと俺の他にいるもう一人がその中心人物と。
その後ろをゆっくりと回って正面に立ち相手の顔を見る。
「って、ゴゴさんじゃないか。」
「悪いねぇシロウ君、忙しいのに来てもらって。」
そこにいたのはまさかの人物。
ここに来るまでに最悪の事態も含めた様々な状況を想定していただけに、思わず大きな声が出てしまった。
「なんだ知り合いだったのか。」
「昔エリザが世話になっていた時にちょっとな。」
「まぁゴゴさんもここにきて長いからなぁ。」
「どのぐらい長いんだ?」
「それこそこの街ができてからずっとだよ、随分と長いこと商売してきたもんだねぇ。」
ゴゴさんは大通りから少し離れた所にある安宿を経営している。
街に冒険者向けの安宿は数あれど、誰もが安心して寝泊りできる宿と言えばゴゴさんの店ぐらいなものだ。
普通は道具や装備を置いて出ていくことなどできないが、ゴゴさんの宿ではそういった不祥事は一切起きない。
いや、起こさせない。
もしそういうことがあろうものならゴゴさんにバレる前に宿の利用者がそいつをボコボコにして追い出してしまうだろう。
この街で一番冒険者に愛されそして冒険者を大事にしてくれている人はゴゴさん以外にいないといわれるぐらいの存在だ。
この街にきてすぐのころ、エリザがまだ自分で宿を取っていたのもゴゴさんの所。
その後うちの店に入り浸るようになってもエリザは事あるごとに宿に顔を出していたらしい。
俺もその流れで必要な物なんかをよく持って行かされたものだ。
その縁もあって今でも時々注文をもらっている。
そんなゴゴさんがなんでマスターの店に?
「つまりゴゴさんはこの街の証人みたいなもんだな。」
「上手いこと言うじゃないか。」
「そんな偉い人じゃないさ。今じゃただのおいぼれ爺、みんなに助けてもらって何とかここまでやってこれただけだよ。」
「それでゴゴさんが何でここにいるんだ?まさか宿で何かあったのか?」
「あー、それは本人から聞いてくれ。」
「ん?」
バツの悪そうな顔をしてマスターが店の裏に消えてしまった。
ゴゴさんは静かに微笑みながらじっと俺の顔を見ている。
なんだろう、何かしてしまっただろうか。
「ここに来てもらったのは折り入ってシロウ君に頼みがあるんだよ。こんな話ができるのは君とゲイル坊しかいなくてね、申し訳ないけど付き合ってもらえるかな。」
「そりゃ構わないんだが・・・。」
「実はね、宿をたたもうと思っているんだよ。」
「え!?」
「私ももう年だからね、ここまでは皆に手伝ってもらって何とかやってこれたけど最近じゃ体も言う事を聞かなくてねぇ。年が変われば街も大きくなって宿の引っ越しなんかもしなきゃならないし、街が大きくなったら新しい子達を迎えなきゃならない。そうなった時に迷惑をかける前に潔くやめようと思ってるんだ。」
まさかゴゴさんが宿を閉める?
全く想定していなかった状態に思わず口を開けたまま固まってしまった。
確かに高齢ではあるけれど、まだまだよぼよぼって程じゃない。
冒険者同士が助け合っていたという事実はあるけれどそれでも閉めるほどじゃないと勝手に思い込んでいたのだが、この顔を見るとそうではなかったようだ。
そうか、引退するのか。
「なんだかんだ大変な仕事だもんな。」
「まぁねぇ、宿もいい感じにボロボロになってきたしいい機会なのかもしれない。幸い南方に住んでいる息子が声をかけてくれてね、閉めた後は向こうに行くつもりなんだ。」
「南方か、寂しくなるな。いつ閉めるんだ?」
「来月には。」
「かなり急だな。」
てっきり年明けぐらいかと思ったらあと一か月しかないとは思っていなかった。
店を閉めるって言ってもやることはたくさんある。
街への届け出に客への告知、店を閉めてからも在庫の処分や貸付金の清算などやることは山ほどある。
俺の記憶じゃまだ客は取っていたはずだし、残り一か月でそれを全部やってしまおうってのはかなり大変だと思うんだが・・・。
「色々あってね。」
「それで俺に話が来たわけか。マスター、いったい何をやらせるつもりなんだ?」
「なに、お前にはゴゴさんの店を買ってもらおうと思ってな。」
「はぁ!?」
「そんなでかい声出すなって。別に宿を引き継げって言ってるんじゃない、ゴゴさんの店が片付くまで引き継いでほしいだけだ。街への届け出なんかは俺の方でするからお前には宿の中を頼みたい。」
宿の中って、ベッドとか食器とかつまりそういう物の処分って事だろ?
それならわざわざ店を買わなくても普通に売り払えば・・・。
そこまで考えたところでマスターとゴゴさんの考えに気が付いた。
なんでこんなに急なのか、そしてどうして俺が買い取るのか。
なんとも回りくどいやり方だが、確かにこの方法なら周囲の目は全部俺に集まってくる。
つまり汚れ役を引きうけろって事か。
「ダンの店か。」
「あのヤンチャなダン坊が北街道に宿を出すって話を聞いた時に決めたんだ。だが、ただここを閉めるってなったら文句をいう連中もいるもんでね。やれあれが欲しいだのこれが欲しいだの、長いことやっているとそういうくだらないしがらみとかが色々出来ちまうんだよ。」
「そこで、俺がゴゴさんの宿を買ってしまえばそういうしがらみが一切関係なくなるわけだ。それこそ、ダンの店に全部流したって文句を言われる筋合いはない。なるほど、そりゃ俺にしか頼めないわけだな。」
「お前が今の身分を振りかざすようなやつじゃないのはわかっている。だが、少々強引な手を使うには都合のいい武器になるんだよ。」
「私の最後のわがままにどうか付き合ってもらえないかい?」
うーん、悪い話ではないんだよなぁ。
向こうの店に使う中身は全くと言っていいほどそろっていないわけで、それを一気に準備できるってのはこっちとしても非常にありがたい。
もう手配してしまった消耗品なんかは別においていても問題はないし、なによりゴゴさんがダンの為に譲りたいという気持ちを大切にするべきだ。
エリザだけでなくこの街の冒険者が一度は世話になっているはず。
直接の縁があまりないとはいえ、そんな人の頼みを無下にできるはずがない。
「値段は?」
「金貨200枚。」
「たっか!」
「経営権も含まれているからな。手続きをして店を街に手放すタイミングで金貨50枚戻ってくるから、差額を俺からお前に支払えば中の売上金が丸々お前の儲けになる。悪い話じゃないだろ?」
「俺は中身を売って利益を出し、そしてゴゴさんは残った金貨50枚を手に入れる。確かに悪くない話だな。」
普通に手放すだけでも金貨50枚は戻ってくるんだろう。
だが、それをするとダンに中身を譲ることはできないしめんどくさい後処理をしなきゃならなくなる。
加えてその値段なら自分が買いたいと言い出す人も出てくるだろう。
安宿とはいえ年単位で考えればそれなりの儲けは出るはず、拡張工事もあるし長い目を見れば十分に回収できる。
でも名誉貴族の俺が買うと宣言すればよほどの奴でなければ文句を言ってこないはずだ。
そりゃあ裏で好き放題言われるかもしれないけれど、そんなことでへこたれる俺ではない。
マスターもいるし、あくどいことを考えたら最後に消されるのはそいつの方だ。
怒らせると怖いからなぁ。
「シロウ君を面倒な事に巻き込んでしまって本当に申し訳ない。」
「別にゴゴさんが謝る事じゃないさ。それにダンもゴゴさんの気持ちを知ったら喜ぶだろう、泣くんじゃないか?」
「違いない。」
ダンの泣きそうな顔を思い浮かべてマスターと共に声を出して笑う。
ひとしきり笑ったところで同じく笑みを浮かべるゴゴさんの方を向いた。
「この話喜んで手を貸そう。俺としても宿の備品関係を仕入れなくて済むのは助かる。ただし、条件が二つ。ダンにはゴゴさんから事情を説明してやってほしいのと、マスターには俺が買うための道筋をしっかりと作ってもらいたい。いきなり買うっていうのも変な話だろ、矛盾がなくて更には俺が責められないような内容で頼むな。」
「なんだ悪役を引き受けてくれるわけじゃないのか?」
「こう見えて黒いことには手を出さないようにしているんでね、子供達の為にも手を汚すのは嫌なんだ。」
この街に来てから出来るだけ犯罪には加担しないように気を付けて生きてきた。
今回の件も別に犯罪ではないのだが、恨みはできるだけ買わないに越したことはない。
マスターに頼んでおけばその辺の根回しは確実にやってくれるだろう。
店を譲りたい、そんなゴゴさんの願いをかなえつつ俺は宿の備品や機材を丸々仕入れることができる。
それはそのままダンの店へと受け継がれ、そして俺の懐は温かくなると。
なかなか悪くない道筋だ。
「ありがとうシロウ君、ありがとうゲイル坊。」
「ダンもそうだがマスターも坊って呼ぶんだな、ゴゴさんは。」
「私にとっては皆息子みたいなものだからね。」
「なるほどなぁ。」
この街の冒険者にとってゴゴさんは父親のような存在。
それはマスターにとっても同じこと。
俺ももっと前から世話になっていたら坊と呼んでもらえたのかもしれない。
なんだかちょっとくすぐったい感じだ。
そんな人が自らの限界を悟り引退を決める。
いずれ俺にもそんな日が来るのかもしれないが、その時はゴゴさんのように綺麗な終わりを迎えたい。
そんなことを考えてしまうのだった。
「ん?どうしたんだミラ。」
「先程ゲイル様とお会いしたのですが、内密にお話したいことがあるとのことでお店まで来てほしいと言付かりました。」
「マスターが?」
わざわざミラに伝言を頼んで呼び出すとはいったい何事だろうか。
もしや西方国に動きがあったとか?
いくつもの可能性を考えながら仕事を置き急ぎ三日月亭へと向かう。
いつもなら大勢の冒険者が出入りしているはずなのだが、今日はシンと静まり返っていた。
「シロウだ、マスターいるのか?」
「おぅ、入ってくれ。」
恐る恐る声をかけると中から帰ってきたのはいつもと変わらない感じの声。
扉を開けて中に入ると、店のど真ん中の席に誰かが座っている背中が見える。
「呼び出して悪かったな、まぁこっちに来てくれ。」
「店を閉めてるのか?」
「今だけな。」
つまり宿泊客を一時的に追い出してまで他人に聞かれたくない話という事なんだろう。
そしてマスターと俺の他にいるもう一人がその中心人物と。
その後ろをゆっくりと回って正面に立ち相手の顔を見る。
「って、ゴゴさんじゃないか。」
「悪いねぇシロウ君、忙しいのに来てもらって。」
そこにいたのはまさかの人物。
ここに来るまでに最悪の事態も含めた様々な状況を想定していただけに、思わず大きな声が出てしまった。
「なんだ知り合いだったのか。」
「昔エリザが世話になっていた時にちょっとな。」
「まぁゴゴさんもここにきて長いからなぁ。」
「どのぐらい長いんだ?」
「それこそこの街ができてからずっとだよ、随分と長いこと商売してきたもんだねぇ。」
ゴゴさんは大通りから少し離れた所にある安宿を経営している。
街に冒険者向けの安宿は数あれど、誰もが安心して寝泊りできる宿と言えばゴゴさんの店ぐらいなものだ。
普通は道具や装備を置いて出ていくことなどできないが、ゴゴさんの宿ではそういった不祥事は一切起きない。
いや、起こさせない。
もしそういうことがあろうものならゴゴさんにバレる前に宿の利用者がそいつをボコボコにして追い出してしまうだろう。
この街で一番冒険者に愛されそして冒険者を大事にしてくれている人はゴゴさん以外にいないといわれるぐらいの存在だ。
この街にきてすぐのころ、エリザがまだ自分で宿を取っていたのもゴゴさんの所。
その後うちの店に入り浸るようになってもエリザは事あるごとに宿に顔を出していたらしい。
俺もその流れで必要な物なんかをよく持って行かされたものだ。
その縁もあって今でも時々注文をもらっている。
そんなゴゴさんがなんでマスターの店に?
「つまりゴゴさんはこの街の証人みたいなもんだな。」
「上手いこと言うじゃないか。」
「そんな偉い人じゃないさ。今じゃただのおいぼれ爺、みんなに助けてもらって何とかここまでやってこれただけだよ。」
「それでゴゴさんが何でここにいるんだ?まさか宿で何かあったのか?」
「あー、それは本人から聞いてくれ。」
「ん?」
バツの悪そうな顔をしてマスターが店の裏に消えてしまった。
ゴゴさんは静かに微笑みながらじっと俺の顔を見ている。
なんだろう、何かしてしまっただろうか。
「ここに来てもらったのは折り入ってシロウ君に頼みがあるんだよ。こんな話ができるのは君とゲイル坊しかいなくてね、申し訳ないけど付き合ってもらえるかな。」
「そりゃ構わないんだが・・・。」
「実はね、宿をたたもうと思っているんだよ。」
「え!?」
「私ももう年だからね、ここまでは皆に手伝ってもらって何とかやってこれたけど最近じゃ体も言う事を聞かなくてねぇ。年が変われば街も大きくなって宿の引っ越しなんかもしなきゃならないし、街が大きくなったら新しい子達を迎えなきゃならない。そうなった時に迷惑をかける前に潔くやめようと思ってるんだ。」
まさかゴゴさんが宿を閉める?
全く想定していなかった状態に思わず口を開けたまま固まってしまった。
確かに高齢ではあるけれど、まだまだよぼよぼって程じゃない。
冒険者同士が助け合っていたという事実はあるけれどそれでも閉めるほどじゃないと勝手に思い込んでいたのだが、この顔を見るとそうではなかったようだ。
そうか、引退するのか。
「なんだかんだ大変な仕事だもんな。」
「まぁねぇ、宿もいい感じにボロボロになってきたしいい機会なのかもしれない。幸い南方に住んでいる息子が声をかけてくれてね、閉めた後は向こうに行くつもりなんだ。」
「南方か、寂しくなるな。いつ閉めるんだ?」
「来月には。」
「かなり急だな。」
てっきり年明けぐらいかと思ったらあと一か月しかないとは思っていなかった。
店を閉めるって言ってもやることはたくさんある。
街への届け出に客への告知、店を閉めてからも在庫の処分や貸付金の清算などやることは山ほどある。
俺の記憶じゃまだ客は取っていたはずだし、残り一か月でそれを全部やってしまおうってのはかなり大変だと思うんだが・・・。
「色々あってね。」
「それで俺に話が来たわけか。マスター、いったい何をやらせるつもりなんだ?」
「なに、お前にはゴゴさんの店を買ってもらおうと思ってな。」
「はぁ!?」
「そんなでかい声出すなって。別に宿を引き継げって言ってるんじゃない、ゴゴさんの店が片付くまで引き継いでほしいだけだ。街への届け出なんかは俺の方でするからお前には宿の中を頼みたい。」
宿の中って、ベッドとか食器とかつまりそういう物の処分って事だろ?
それならわざわざ店を買わなくても普通に売り払えば・・・。
そこまで考えたところでマスターとゴゴさんの考えに気が付いた。
なんでこんなに急なのか、そしてどうして俺が買い取るのか。
なんとも回りくどいやり方だが、確かにこの方法なら周囲の目は全部俺に集まってくる。
つまり汚れ役を引きうけろって事か。
「ダンの店か。」
「あのヤンチャなダン坊が北街道に宿を出すって話を聞いた時に決めたんだ。だが、ただここを閉めるってなったら文句をいう連中もいるもんでね。やれあれが欲しいだのこれが欲しいだの、長いことやっているとそういうくだらないしがらみとかが色々出来ちまうんだよ。」
「そこで、俺がゴゴさんの宿を買ってしまえばそういうしがらみが一切関係なくなるわけだ。それこそ、ダンの店に全部流したって文句を言われる筋合いはない。なるほど、そりゃ俺にしか頼めないわけだな。」
「お前が今の身分を振りかざすようなやつじゃないのはわかっている。だが、少々強引な手を使うには都合のいい武器になるんだよ。」
「私の最後のわがままにどうか付き合ってもらえないかい?」
うーん、悪い話ではないんだよなぁ。
向こうの店に使う中身は全くと言っていいほどそろっていないわけで、それを一気に準備できるってのはこっちとしても非常にありがたい。
もう手配してしまった消耗品なんかは別においていても問題はないし、なによりゴゴさんがダンの為に譲りたいという気持ちを大切にするべきだ。
エリザだけでなくこの街の冒険者が一度は世話になっているはず。
直接の縁があまりないとはいえ、そんな人の頼みを無下にできるはずがない。
「値段は?」
「金貨200枚。」
「たっか!」
「経営権も含まれているからな。手続きをして店を街に手放すタイミングで金貨50枚戻ってくるから、差額を俺からお前に支払えば中の売上金が丸々お前の儲けになる。悪い話じゃないだろ?」
「俺は中身を売って利益を出し、そしてゴゴさんは残った金貨50枚を手に入れる。確かに悪くない話だな。」
普通に手放すだけでも金貨50枚は戻ってくるんだろう。
だが、それをするとダンに中身を譲ることはできないしめんどくさい後処理をしなきゃならなくなる。
加えてその値段なら自分が買いたいと言い出す人も出てくるだろう。
安宿とはいえ年単位で考えればそれなりの儲けは出るはず、拡張工事もあるし長い目を見れば十分に回収できる。
でも名誉貴族の俺が買うと宣言すればよほどの奴でなければ文句を言ってこないはずだ。
そりゃあ裏で好き放題言われるかもしれないけれど、そんなことでへこたれる俺ではない。
マスターもいるし、あくどいことを考えたら最後に消されるのはそいつの方だ。
怒らせると怖いからなぁ。
「シロウ君を面倒な事に巻き込んでしまって本当に申し訳ない。」
「別にゴゴさんが謝る事じゃないさ。それにダンもゴゴさんの気持ちを知ったら喜ぶだろう、泣くんじゃないか?」
「違いない。」
ダンの泣きそうな顔を思い浮かべてマスターと共に声を出して笑う。
ひとしきり笑ったところで同じく笑みを浮かべるゴゴさんの方を向いた。
「この話喜んで手を貸そう。俺としても宿の備品関係を仕入れなくて済むのは助かる。ただし、条件が二つ。ダンにはゴゴさんから事情を説明してやってほしいのと、マスターには俺が買うための道筋をしっかりと作ってもらいたい。いきなり買うっていうのも変な話だろ、矛盾がなくて更には俺が責められないような内容で頼むな。」
「なんだ悪役を引き受けてくれるわけじゃないのか?」
「こう見えて黒いことには手を出さないようにしているんでね、子供達の為にも手を汚すのは嫌なんだ。」
この街に来てから出来るだけ犯罪には加担しないように気を付けて生きてきた。
今回の件も別に犯罪ではないのだが、恨みはできるだけ買わないに越したことはない。
マスターに頼んでおけばその辺の根回しは確実にやってくれるだろう。
店を譲りたい、そんなゴゴさんの願いをかなえつつ俺は宿の備品や機材を丸々仕入れることができる。
それはそのままダンの店へと受け継がれ、そして俺の懐は温かくなると。
なかなか悪くない道筋だ。
「ありがとうシロウ君、ありがとうゲイル坊。」
「ダンもそうだがマスターも坊って呼ぶんだな、ゴゴさんは。」
「私にとっては皆息子みたいなものだからね。」
「なるほどなぁ。」
この街の冒険者にとってゴゴさんは父親のような存在。
それはマスターにとっても同じこと。
俺ももっと前から世話になっていたら坊と呼んでもらえたのかもしれない。
なんだかちょっとくすぐったい感じだ。
そんな人が自らの限界を悟り引退を決める。
いずれ俺にもそんな日が来るのかもしれないが、その時はゴゴさんのように綺麗な終わりを迎えたい。
そんなことを考えてしまうのだった。
19
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
中途半端なソウルスティール受けたけど質問ある?
ミクリヤミナミ
ファンタジー
仮想空間で活動する4人のお話です。
1.カールの譚
王都で生活する鍛冶屋のカールは、その腕を見込まれて王宮騎士団の魔王討伐への同行を要請されます。騎士団嫌いの彼は全く乗り気ではありませんがSランク冒険者の3人に説得され嫌々魔王が住む魔都へ向かいます。
2.サトシの譚
現代日本から転生してきたサトシは、ゴブリンの群れに襲われて家族を奪われますが、カール達と出会い力をつけてゆきます。
3.生方蒼甫の譚
研究者の生方蒼甫は脳科学研究の為に実験体であるサトシをVRMMORPG内に放流し観察しようとしますがうまく観察できません。仕方がないので自分もVRMMORPGの中に入る事にしますが……
4.魔王(フリードリヒ)の譚
西方に住む「魔王」はカール達を自領の「クレータ街」に連れてくることに成功しますが、数百年ぶりに天使の襲撃を2度も目撃します。2度目の襲撃を退けたサトシとルークスに興味を持ちますが……
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
七億円当たったので異世界買ってみた!
コンビニ
ファンタジー
三十四歳、独身、家電量販店勤務の平凡な俺。
ある日、スポーツくじで7億円を当てた──と思ったら、突如現れた“自称・神様”に言われた。
「異世界を買ってみないか?」
そんなわけで購入した異世界は、荒れ果てて疫病まみれ、赤字経営まっしぐら。
でも天使の助けを借りて、街づくり・人材スカウト・ダンジョン建設に挑む日々が始まった。
一方、現実世界でもスローライフと東北の田舎に引っ越してみたが、近所の小学生に絡まれたり、ドタバタに巻き込まれていく。
異世界と現実を往復しながら、癒やされて、ときどき婚活。
チートはないけど、地に足つけたスローライフ(たまに労働)を始めます。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる