転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア

文字の大きさ
1,106 / 1,738

1101.転売屋はヒーターを改良する

しおりを挟む
冬が始まって一週間が経過した。

色々ありすぎた一週間、なんていうかこれでもかってぐらいのボリュームで早くも息切れ気味だがまだまだ先は長いんだよなぁ。

とりあえずいえる事は予想通り寒さが例年以上に厳しいという事。

暖を取るために着込んではいるものの、着ぶくれすると動きにくくなるうえに眠くなってしまうのでどうしても暖房器具を多用してしまう。

その分燃料の消費も激しく、いつもの1.5倍ぐらいのペースで燃料がなくなっていると報告を受けた。

もちろんその分を見越して仕入れは行っているものの、消費すれば仕入れを行わないといけないわけで。

うちみたいに住民が多いと一回の仕入金額もばかにならないんだよなぁ。

まぁ、そのために稼いでいるわけだけど。

「アナタ、冒険者の皆様が頼んでいた物を運んできてくださいましたよ。」

「お、待ってました。裏庭に運んでもらってもらってくれ。」

「お礼はどうします?」

「報酬はギルドに渡しているが特急依頼だったしな、追加で銀貨1枚ずつ渡しておいてくれ。」

「わかりました。」

本来は俺が直接お礼を言うべきなんだが、ちょうど仕事が乗っている所なのでハーシェさんにお願いしておこう。

これが終われば少し手が空くからそのタイミングで作業ができるのは助かる。

「さて、もうひと頑張りだ。」

足元に手を降ろすとオレンジ色の光に悴んだ手に熱が戻ってくる。

普段使用している暖房器具よりもハロゲンヒーターの方が部分的な加熱は得意だが、部屋全体を温めるとかには不向きなんだよなぁ。

火力が強すぎるっていう難点もあって使用環境が限定され、今は主に屋外作業や室内でも暖房器具を使えないようなところに設置されるようになった。

今使っているのはそれを改良した小型版。

それでも火力の強さは残っているので少し離れた所に置いておかないと火傷しそうになってしまう。

中々思うようにいかないもんだな。

そんなことを考えながら急ぎ仕事を終わらせ裏庭へ。

北風の吹き抜ける裏庭の真ん中にはハロゲンヒーターがドンと設置されており、その前でアネットとミラが暖を取っていた。

「悪い遅くなった。」

「先程皆さん戻られたところです、追加報酬喜んでいましたよ。」

「そりゃなによりだ。で、ブツは?」

「ミラーゴーレムの装甲板ですがどれも大きな凹みなどなく綺麗な状態です。いい仕事をしてくださいました。」

「確かに見事なもんだ、これならもう少し上乗せしてもよかったかもなぁ。」

庭に設置されたヒーターの横には鏡のように光る板が何枚もおかれていた。

目の前に立つアネットの姿が少し変形して移っているぐらいに磨かれた装甲板は、昨日急遽冒険者ギルドに依頼した素材だ。

この寒さで燃料費がかさんでいるのは何もうちに限った話じゃない。

出来るだけ燃料を節約するべく何かできないかと考えた時にふと思いついたのが目の前で稼働しているハロゲンヒーターだった。

ヒータードールの操作糸を使っているためにどうしても火力が高く、それに合わせて魔石の消費量も多い。

幸い魔石に関しては大量に在庫があるのでそこまで困らないのだが、使用時間で考えると燃料よりもどうしても高くなってしまうのが欠点だ。

家計の負担を減らすには今の燃料よりも安く、更に供給量が安定している物でなければならない。

加えて安価で加熱性能もそれなりにないと意味がない。

そんな都合のいい素材があるわけないと思ったこともあったが、案外身近なものがその条件をしっかりと満たしていた。

じゃあ後はそれをどうやって使うのか。

それを今から試してみるわけだ。

「どうします?」

「とりあえずそのヒーターと同じように湾曲させよう。本当は接合できればいいんだけど試作品だし多少の隙間ができるのは仕方ない。」

「見た目と違って結構柔らかいんですね。」

「これが強靭なゴーレムの体を覆っていると思うと不思議な感じです。」

『ミラーゴーレムの装甲板。ミラーと名の付く通り魔法をはじめどんな攻撃をも反射させる特殊な装甲。反射性能の高さから鏡として用いられることが多いが、熱を逃がしたりわざと光を反射させて一か所に集めるのに使われることがある。最近の平均取引価格は銀貨7枚。最近の平均取引価格は銀貨5枚最高値銀貨10枚、最終取引日は本日と記録されています。』

大きさは30㎝位で両端を持って撓ませるとホワンホワンと音がするぐらいに柔らかく、外側は鏡のような光沢があるのだがボディに接着されいる面はザラザラなので表裏がわかりやすい。

ハロゲンヒーターと同じく光沢のある面を内側にして向かってきた熱を外に反射させるのだが、今回熱源に使うのは別の素材。

出来るだけ反射面を傷つけないようにしながらなんとか形を整える。

撓ませるだけだとどうしても上部が開いてしまうのだが、そこはヒーターの試作で培った腕を使って出来るだけ前に反射できるように加工、いつもなら糸を通したり魔石を設置する場所を作ったりするのだが今回はど真ん中に台を設置するだけなので10分程で何とか形になった。

「よし、カイロを取ってくれ。」

「どうぞ。」

「これをここにおいてっと・・・。」

カイロ袋の中から焔の石を取り出して台の真ん中にコロンと転がせば、今回の試作品焔の石を使った小型ヒーターの完成だ。

熱を反射させて前方に飛ばすという原理は既存の物と同じだが、操作糸とちがって光るわけではないので稼働しているかどうかがわかりにくい。

手を当ててみてもあったかいようなあったかくないような・・・。

「悪い、そっちのでかい方を止めてくれ。」

「わかりました。」

「寒いけどちょっと我慢してくれ。」

ハロゲンヒーターを切った瞬間に一気に冷気が流れ込んでくる。

他の熱源を切ってみたのだが、果たして効果のほどはどんなものか・・・。

「んー、一応温かい・・・のか?」

「わずかではありますが熱を感じますね、でも物足りない気はします。」

「向きが悪いのでしょうか。」

「わからんが、その辺は誤差の範囲だろう。」

多少温かさは感じる物の、既存の物に比べると勢いがなくじんわりと感じる程度。

これではこの冬は乗り越えられそうもない。

が、それはあくまでも外での話。

一度石を袋に戻して、今度は裏口から食堂へ戻る。

装置が小さいので持ち運びもさほど苦にならないが、取っ手がないので使ってすぐはやっぱり熱い。

でも裏側は全く熱くないから不思議なもんだ。

「今度の改良版は随分と小さいですね。」

「今回の目的は小型化と発熱量の低下だからな。」

「え、減らすんですか?」

「今までのだと熱すぎて近づけないだろ?これならそこまでいかないから近づけても大丈夫なはずだ。」

食堂に入るとハワードが興味深そうに近づいてきた。

厨房の中は屋敷の中で一二を争う寒さなので、中庭同様ここでもハロゲンヒーターは大活躍している。

毎日使っているからこそ違いが判るのではないだろうか。

早速石を設置して再び様子を確認。

さっきは風が強すぎて熱が散ってしまったような感じだったが、屋内だとさっき以上の熱を感じる気がする。

「確かに暖かいですが、個人的には物足りないですね。」

「うーむ、やっぱりか。」

「でもこれなら足元に置いておいても怖くありません。今までのは誤って触れてしまったら火傷してしまいますから、子供が近づいても大丈夫というのは安心感があります。」

「それでも直接触るのはアウトだけどな。でもそうか、そういう安心感もあるのか。」

熱量でいえば既存の物の半分以下、この寒さを乗り切るには少々物足りない感じがあるのは間違いない。

でも熱すぎないということは不慮の事態にも被害が少ないという事、もしくは狭い空間でも使用できるということだ。

熱は確かに反射しているので量を増やすなどすればもう少しましになるんじゃなかろうか。

まだまだ改良の余地はあるが、試しに使ってみて調子が良ければ売り出してみよう。

囲うこと自体はそこまで難しくないので、とりあえず今回冒険者が持ち込んでくれた分を使えば10個は作れる。

まずは屋敷の皆に試してもらうとしよう。

「ちなみにこれ一つ銀貨10枚、燃料費は別。」

「高くないですか?」

「だよなぁ・・・。」

「でも素材料を考えればむしろ安い方じゃないでしょうか。魔石だと継続時間も短めですし、長時間使えばその分値段も高くなります。でも焔の石だとかなりの時間保ちますし足元が温かくなるだけでも大分ましだと思いますよ。」

アネットも地下製薬室でハロゲンヒーターを使っているのだが、薬の素材の中には熱に弱いものもあるのであまり活用できていない感じだった。

その点このヒーターなら足元に置いておいても影響は少ないだろうし、そういった場所での需要もあるのかもしれない。

構造が簡単なので壊れる心配もさほどない上に一度買えば長く使えるというのも利点だろう。

そういう意味では婦人会や職人達に案内するのがいいのだろうか。

本当は住民に買ってもらえれば町全体での燃料消費量を減らすことができるんだろうけど、この値段だとそこまで普及するのは難しそうだ

「需要はある、でも値段は高い。ミラーゴーレム自体はさほど珍しい魔物じゃないから数は確保できるだろうけど、討伐の危険を考えると依頼料をこれ以上下げるのは好ましくない。儲けを捨てるか、それとも取っていくのか。難しい所だな。」

「いっそのこと街に買い上げてもらってはどうですか?まずは子供のいる家庭から使ってもらうとかでもいいと思うのですが。」

「それをする金があればいいんだが、さすがにシープさんがそれを良しとは言わないだろうなぁ。」

備蓄を買うのにだって資金援助を頼んできたぐらいだ、その状態でヒーターを買うとは考えにくい。

別に街が貧乏っていうわけじゃないんだろうけど、そこに使えるお金は多くない。

難しい所だよなぁ。

「とりあえず使ってみてから、ですね。」

「だな。10個しかないから順番に使って使用感を教えてくれ、明日には全員分準備できるだろう。」

「俺達が使ってもいいんですか?」

「厨房じゃ物足りなくても自室なら事足りるだろう。サンプルは多い方がありがたい。」

銀貨10枚という値段が安く感じるように改良するのも大切な仕事だ。

この冬を過ごすうえで少しでも快適になるように。

なにより儲けがたくさん出るようにしっかり改良していくとしよう。
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *本作の無断転載、無断翻訳、無断利用を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...