転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア

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1137.転売屋は歌姫の復帰を聞く

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「シロウさん大変です!」

「悪い、もうそういうのおなかいっぱいだから。」

「そうじゃなくて!オリガが、オリガが復帰するんです!」

「オリガぁ?」

先日の大捜索の折に見つかった装備品を露店に並べていると、血相を変えた羊男が息を切らして走って来た。

そんなに急ぐ内容なのかと思ったのだが、思わぬ内容に変な声が出てしまう。

オリガってあのオリガだよな?

「そうです!行方不明になっていたあの歌姫が見つかったんです!しかも今度の感謝祭にも出てくださるとか!夢じゃないですよね!」

そういいながら自分の右頬を引っ張る羊男の左頬をいい感じの強さで叩いてやる。

まさか叩かれると思っていなかったのか鳩が豆鉄砲食らったように目を真ん丸にして俺を見てくる。

「夢じゃなかったか?」

「そうみたいです。」

「そりゃよかった。で、場所はどうするんだ?来ないとわかって会場設営は中断したんだろ?」

「もちろん再開します。感謝祭まであと一週間、忙しくなりますよ!」

力強く宣言する羊男。

だが、少々強くたたきすぎたのか少し赤くなった左頬を摩っている。

すまん、ちょっとやりすぎた。

「ちなみに復帰するってのは誰から聞いたんだ?」

「もちろん本人に決まってるじゃないですか。」

「・・・もちろん本人っていう証拠は見せてもらったんだよな?」

「あの歌声は間違いありません。今マイクさんもこちらに向かっているそうで、その時に改めてお話しすることになっています。って、しまったぁぁぁ。」

「今度は何だよ。」

「先にサインもらっておけばよかったと思いまして、あまりに驚いて急いで飛び出してきたんです。」

まったく、喜んだりへこんだり忙しい奴だ。

しかしあれだよな、歌声で本人と認めるってのはどうなんだろうか。

そっくりさんっていう可能性もあるし本当に信じていいのか聊か不安になってしまう。

だがもし本当なら、これは大変なことになるぞ。

「本人は今どこに?」

「とりあえず三日月亭に宿を移すようにお願いしました。」

「まぁそこなら安心か。俺が会いに行くのはさすがにまずいよなぁ。」

「いえ、本人が直接シロウさんと話をしたいと言っていまして、それを教えに来たんです。」

「歌姫が俺に?」

なんでまた。

そもそも本人とは面識はないはずだし、会う理由がわからない。

いや、心当たりがあるとしたら一つ。

大量に買い付けたコンサートチケットだ。

アナスタシア様から半ば強引に押し付けられた奴だが、あれを返してほしいとかそういう話じゃないよな?

復帰が決まった以上あれは金の卵以上の価値がある。

いくら本人の要望でもあれを全て渡すわけにはいかないぞ。

とわいえせっかくの機会だ、本人が望んでいるんだから行かない理由はない。

ひとまず店をおっちゃんとおばちゃんに任せて、羊男と一緒に三日月亭へと向かう。

「って、なんで一緒についてくるんだよ。」

「なんで歌姫がシロウさんを呼んだのか気になるじゃないですか。」

「そういうのを職権乱用っていうんだぞ。」

「どういわれようとかまいません。」

「それでもギルド協会の重役かよ。」

「それとこれとは話が別・・・と言いたいところですが、本当は今後についての打ち合わせの為です。さすがにあの場で話を続けると大変なことになってしまいますから途中で話を止めたんですよ。偉くないですか?」

いや、偉くないですか?とか聞かれてもなぁ。

最初に出会ったころと比べるとキャラ違うの気づいているんだろうか。

前はもっとこう、決まりに厳しく公平性を何よりも重んじているようなキャラだったのに。

そんな羊男と一緒に三日月亭へと向かうと、俺たちを一瞥したマスターが無言で首を階段の方に動かした。

「最上階だ。」

「ういっす。」

「すみません、ありがとうございます。」

誰が聞いているかわからないのですれ違いざまに必要最低限の会話を交わして階段へ。

三日月亭の最上階は一室しかない特別なつくりになっている。

階段を上った先に扉があり、そこを通らないと中には入れない。

「ギルド協会のシープです、シロウさんをお連れしました。」

「ど、どうぞ!」

ノックをして声をかけると中から緊張した雰囲気の声が返って来た。

はて、聞き覚えがあるような無いような。

かぎは掛かっていないようで、静かに扉を押し開けると広い部屋にでた。

リビング的な感じだろうか、奥に入り口とは別の扉が二つほど見える。

その中央には大きな机とソファー。

そして二人の女性が俺たちを迎えてくれた。

「ん?二人は確かこの間の。」

「はい!この間助けてもらったフレンです!」

「え、お知り合いなんですか?」

「知り合いっていうかなんていうか・・・、っていうかなんで二人が?」

ソファーに座っていた二人が慌てて立ち上がり俺に向かって頭を下げる。

そこにいたのはこの間助けた、っていうか一緒に脱出した冒険者。

そのうちの一人盗賊のフレンが慌ててもう一人の方を見た。

「その、私が呼んだんです。改めましてあの時はありがとうございました。」

もう一人、弓師の子がまた頭を下げる。

俺は歌姫に会いに来たのになんで助けた二人がいるんだろうか。

必死になって頭を回転させ、そして万に一つもあり得ないと思っていた可能性にたどり着く。

「君がオリガなのか?」

「はい。リカっていうのは正体を隠す偽名で、本当はオリガと言います。」

「え?え?歌姫が冒険者で、しかもこの間シロウさんが助けたんですか?」

「シープさん、悪いが少し黙っていてくれ。」

横でお礼状に慌てふためく羊男を黙らせ改めて彼女の姿を見る。

両耳と首元を飾るのはガーネットルージュ。

他にも歌姫が身に着けたことで大人気になったトンボ玉の指輪やルティエの作ったブレスレットなど、新人冒険者が決して身に着けられないようなアクセサリーを多数身に着けていた。

前々から気になっていたんだが、まさか歌姫本人だとはなぁ。

しかしまたなんで冒険者にと思ったところで、この間冒険者たちが話していたのを思い出す。

『誰かを幸せにできたらいいな』

それが彼女の夢だったはずだ。

冒険者になってそれをかなえることができたと喜んでいた彼女だったが、なんで今になって歌姫だと隠すのをやめたんだろうか。

「歌姫に戻っていいのか?」

「はい。この間フレンが私を待っているって言ってくれてわかったんです。こんな私でも誰かを幸せにしていたんだって。もちろん冒険者の自分も嫌いじゃないですけど、やっぱり私はこの歌でみんなに幸せを届けたい。待っていてくれている人に聞いてほしいって思ったんです。」

「それなら俺が言うことは何もない。むしろ復帰してくれて感謝している。」

「どうしてですか?」

「歌姫がいなくなったって噂になって事でコンサートのチケットを山ほど押し付けられてね。コンサートが開催されないのならただの紙くず、だったんだが歌姫が復帰したとなれば話は別だ。今頃復帰のうわさを聞いた客は大慌てしてるだろうよ。」

そういってニヤリと笑う俺を見て、リカ・・・じゃなかったオリガはふふふ、とほほ笑んだ。

彼女の復帰が俺に膨大な金(しあわせ)を運んできてくれる、

もしかすると今年一番の儲けになるんじゃないだろうか。

「そういえばアナスタシア様が大量に押し付けていましたね。」

「そういやシープさんは売りに来なかったな。」

「例え中止になったとしてもこの街にオリガが来るかもしれなかったという事実は手元に残しておきたかったんです。今はその選択をした自分を大いに褒めてやりたいですね!」

「ちなみに今日ここに呼ばれたのはチケットを返せって話じゃないよな?」

「違います違います!ただ改めてお礼を言いたかったのと、もう一つお願いがありまして・・・。」

「お願い?」

歌姫が俺を指名してわざわざお願いをする?

チケットを回収しないというのならむしろ喜んで手伝わせてもらうが、いったい何をさせるつもりなんだろうか。

「リカはね、ルティエ工房の新作が欲しいんだって。」

「そういや全身ルティエの作品ばかりだもんなぁ。」

「これを身に着けるとものすごい勇気が湧いてくるんです。最初は無名だったルティエ様がシロウさんの助けを借りて今や王都にも名を轟かす有名宝飾職人になっている。そんな風に私もなりたいって思って身に着けているんです。」

「別に俺が助けたわけじゃないぞ?あれは職人達全員で積み上げた結果だ。」

「でもガーネットを提供したのってシロウさんですよね?」

「まぁなぁ・・・。」

別に隠すような事じゃないし街の住民ならだれもが知っていること。

もちろん場所を知っているのは俺とルティエたち職人だけだが、まさか俺のことがそんな風に広まっているとは思っていなかった。

確かにルティエの成長はシンデレラストーリーのような流れではあったが、さっきも言ったように俺が彼女を有名にしたわけじゃない。

彼女の、いや彼女たちの非凡な才能と努力が今の結果を生み出している。

そういう意味で彼女たちになりたいとあこがれるのはいいだろうけど、そこに俺を加えるのはおかしな話だ。

しかしルティエの新作ねぇ。

あれは来年王都で売り出す予定だから今のところここで売り出す予定はない。

いや、この間王都の担当に挨拶をしたときに試験販売の許可をもらったんだった。

感謝祭の日に一日だけルティエ達の新作とは明かさずに100個限定で売り出す。

もちろんこの話を知っているのはごく限られた人間だけなのだが・・・。

「どこでそれを?」

「王都で新作が出るっていう噂は前々から出てました。でも、あのルティエ様がシロウさんの意見も聞かずに売りに出すことはないと思ってて。やっぱりでるんですね。」

「ほぉ、俺を相手にかまをかけたわけか。」

「そして見事に引っ掛かりましたね。」

「うるせぇ、黙ってろって言っただろ。」

まったく、恩人である俺を相手にいい度胸じゃないか。

それだけルティエの作品を欲しがっているということなのだが、まさかここまでするとはなぁ。

確かに試作品は手元にあるが、あれはとっておきのとっておきなのでいくら彼女の頼みでも提供することはできない。

が、今度売り出す分の内一つを拝借することは可能だろう。

ルティエ達もあの歌姫が着けてくれるとなると喜んでくれるはずだ。

だがそれにも色々と制約があるわけで。

「提供するにあたって条件が二つ、それを守るんなら手配できないこともない。」

「本当ですか!?」

「まぁ落ち着け。一つ目はとある理由で販売よりも前に市場に流すことになっているんだが、あくまでも売り出しは来年の春。それが終わるまでは表立って身に着けないことと、二つ目は宣伝をしないこと。」

「え、宣伝しちゃダメなの?リカがつけたら絶対に売れるのに。」

「売れるのはわかってる。だがな、歌姫が表立って宣伝したら本当に売れたかどうかがわからなくなるだろ。着ける着けないは個人の自由だが、結果を左右するようなことはしないでほしい。それを約束してくれるのなら彼らに言ってコンサートまでに新作を用意しよう。どうだ、できるか?」

「できます!」

即答だった。

そこまで求めてくれるなんて、ルティエも職人冥利に尽きる事だろう。

今回俺は制作にかかわっていないが、知り合いということで優先的に作品を流してもらえることになっている。

宣伝はしなくても歌姫が身に着けているだけで売れることは間違いない。

売れるとわかっている品が確実に手に入る安心感。

春が待ち遠しい限りだ。

「しかし、まだ彼女のことをリカって呼ぶんだな。」

「それは私がお願いしたんです。フレンの前ではもう一人の自分でいたいって。」

「私はどっちでもいいんだけどね。それよりも歌姫と一緒にいれる方がうれしいし!あぁ、あの時ダンジョンから生きて戻れて本当によかったぁ。」

「私も、生きて戻れたおかげでルティエ様の新作がもらえるんだって、夢みたい!」

目の前ではしゃぐ少女が二人。

例え歌姫とはいえ一人の人間であり、なんならうら若き乙女であることに変わりはない。

作られた歌姫という外側を脱ぎ捨てて本当の自分になれるというのはいいことだと思う。

もちろんフレンがそれを受け入れてくれているのもすごい事なのだが、もともとそういう何かがあったんだろうな。

とにもかくにも歌姫の復活だ。

今頃屋敷や店にはコンサートチケットを買い求める客が殺到していることだろう。

転売しそこねた紙くずが金の卵に生まれ変わる。

これだから転売はやめられないってね!
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