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1141.転売屋は餅をつく
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感謝祭まで一週間を切り、街は早くもお祭りムード一色だ。
皆浮かれきっており朝から酒盛りに興じている冒険者もいる。
どういう風に過ごすかなんて各自の自由だが、暇になると何かをしたくなってしまう貧乏性なので仕事が少なくなっているにも関わらずあちらこちらへと動き回っている。
「シロウ、準備できたわよ。」
「そんじゃま蒸しあがったらよろしく頼むな、今回のは年明け用だからつまみ食いはほどほどに頼むぞ。」
「仕方ないから我慢してあげる。」
前に使った臼と杵を倉庫から発掘し、屋敷の裏庭に設置。
少し離れたところでは簡易コンロの上でもち米が真っ白い蒸気を上げながら蒸されている。
「それじゃあいきまーす!」
「やけどしないように気をつけろよ。」
「せーのっと!」
気合と共に蒸しあがったもち米の入ったネットをアネットが運び、臼の中に投入。
すかさずエリザがぐるぐると臼の周りを回りながら軽くつぶしていく。
「それじゃあミラよろしくね。」
「久々ですので最初はゆっくりでお願いします。」
「オッケー、それじゃあいくわよ。」
「はい!」
エリザが大きく杵を振りかぶりもち米の上に振り下ろす。
再び振り上げられるタイミングを見計らい、横に控えていたミラが濡れた手で餅をひっくり返す。
「せい!」
「はい!」
「せい!」
「はい!」
最初はゆっくり、でもだんだんとリズミカルに餅がつきあがっていく。
前回はつきたての餅を美味しくいただいたのだが、今回は別の目的で作っているので試食は少なめ。
「できました!」
「それじゃあこっちの机の上に転がしてくれ。」
「あっつい!」
「横着するからだっての。」
餅の塊をお手玉するようにエリザが机の上に運んでくる。
机の上にはビープルニールの革が敷かれており、その上には大量の米粉がぶちまけられている。
元の世界では餅とり粉と呼ばれていて、これを撒いておかないと大変なことになってしまう。
とりあえず粉の上で軽く転がして粉まみれにしてから次の工程に移動。
「それじゃあ話したように二口三口で食べられる大きさにちぎってくれ。それができたら今度は軽く丸めてこっちの箱にくっつかないように並べるだぞ。」
「「「「はい!」」」」
「それじゃあハーシェさんあとは任せた。エリザがつまみ食いに来たら適当にあしらってくれ。」
「ちょっとひどくない!?」
「そうじゃないと見境なく食べるだろ。」
机の周りで待機していたのはキルシュをはじめとした若いの四人衆とおまけのリーシャ。
五人にはつきあがった餅を小さく成型する役目を任せている。
ここで小さくした後は箱に並べて年明けまでゆっくり乾燥させる。
そう、今作っているのは小餅と呼ばれる正月に必須の食べ物だ。
つきたての餅も美味しいが、硬くなったやつを火鉢の上で焼いて食べるのも捨てがたい。
今特に砂糖醤油で食べるのが大好きだ。
エリザはノリで巻く方が好きなようでこの間は腹がはちきれるぐらいに食べていたのだが、今回は保存用なので同じペースで食べられても困る。
本人は自重するといっているけれど本当かどうかわかったもんじゃない。
「次、行きます。」
「今度はウーラさん夫婦の番か、見ものだな。」
「やる気十分って感じだけど臼が壊れないかしら。」
「まぁ、大丈夫だろう。多分。」
蒸しあがったコメをハワードが臼へと運んでいく。
先ほどのエリザ同様に軽く米をつぶしてから、一度ドーラさんと目を合わせてお互いに頷き合う。
「ウ、ハイ!」
「ウ、ハイ!」
「ウ、ハイ!」
「ウ、ハイ!」
「マジか。」
「さすが熟練夫婦ね、息ぴったり。」
エリザとミラも十分早いと思っていたが、初めてにもかかわらずそれを上回る速度で餅をつくウーラ夫妻。
目にもとまらぬ早業であっという間にもち米がつやつやの餅に変わっていく。
うーむ、これは予想以上の速さだ。
「ほら急がないとすぐに餅で一杯になるぞ、頑張れよ。」
「えぇぇぇ、お館様も手伝ってくださいぃぃぃ。」
「ったく、そんな情けない声出すなっての。」
「え、シロウはお餅つかないの?」
「俺はこっちで十分だ。ってことでマリーさんとオリンピアもこっちの手伝いをよろしく。アネットは出来上がった箱を向こうに運んでくれ。」
「わかりました!」
本当はもっとゆっくり作る予定だったのだが、ウーラさん夫婦の気合がすごすぎるので予定を変更して量産体制に入る。
はじめは一つで十分だろうと話していた蒸し器もハワードがそれじゃ足りないと言い出して最終的に三つ同時に稼働させることになったが、どうやらそれで正解だったらしい
年明けも餅つきをするだろうと見越して中型木箱満載のもち米を持ち帰ったのだが、この感じだと今日中に消化してしまいそうな感じすらする。
俺を含め総勢8人で餅を丸めているにも関わらず丸め終わる気配が一切ない。
丸めてはドスン、丸めてはドスンと永久機関のように餅が投入され続ける恐怖。
楽しいはずの餅つきが苦行に変わるかと思われたころ、思わぬ助っ人がやって来た。
「シロウさん、感謝祭についてなんですけどって何やってるんですか?」
「見てわかるだろ餅つきだよ。いいから手伝え。」
「いえ、私はただ感謝祭について打ち合わせを・・・。」
「そういうのは丸めながらできるだろ?ほら、そこで手を洗ってハーシェさんと交代だ。」
「いや、私にも時間が!」
問答無用とやってきた羊男をむりやり参加させて餅づくりを再開。
その後もニアやモニカが来てくれたので、ありがたく手伝ってもらうことにした。
いやー持つべきものは友人だなぁ。
そんなこんなで怒涛の勢いで量産されていく餅にさすがに置き場所もなくなってきてしまう。
もちろん倉庫や廃鉱山に送ればいくらでも置き場所はあるのだが、せっかくこれだけ作ったんだからここはひとつ街の人にも味わってもらうとしよう。
「さぁさぁ年明けの準備はもうできてるか?新しい年を白く輝かしいものにするために年明けは餅を食べるのがおすすめだぞ。食べ方は簡単、コンロの上に網を敷いてそのうえで焼くだけだ。中から柔らかい餅が顔を出して焼き目がついたら好きなように味付けして食べてくれ。10個銅貨30枚、限定1000個早い者勝ちだぞ!」
年末年始の食材や道具を買い求めるべく人があつまるのはどの世界でも同じ事。
大勢の人が行きかう市場の片隅で道行く人に声をかけていく。
「シロウさん、これを食べるといい年になるのかい?」
「あぁ、西方ではそういう風に言われてるらしいぞ。」
「去年食べたのは美味しかったしせっかくだから買っていこうかな。」
「毎度あり、おすすめは砂糖と醤油を混ぜたやつだが案外海苔巻きとか醤油を塗りながら焼くのもいい感じだぞ。」
「そんなの言われるとすぐ食べたくなるじゃないか。」
顔なじみの奥様が早速一つお買い上げ。
もち米はそれほど高くないので10個売れれば銅貨18枚ぐらいの儲けになる。
正直儲けとしては少ないが縁起ものだし何よりここで普及させれば年明けもまだまだ売れ続けるだろう。
数を作りたいのなら冒険者を雇って大人数で一気に作るという手もある。
縁起物と限定という言葉にあっというまに1000個がすべて売れてしまった。
しめて銀貨18枚の儲けだが、正直これは序章に過ぎない。
「旦那様、準備できました。」
「よし飯時に間に合ったな。」
「これが向こうの味、なんですね。」
「本当は白みそとか赤みそとかいろいろな味付けがあるんだが、うちはだしを使ったすましタイプなんだ。」
「お野菜たくさんですしこの匂いは間違いなく美味しいってわかります。」
小餅と切り餅を売り終わった後に運ばれてきたのは巨大な寸胴鍋。
ここで食い物を売る時に毎回お世話になる巨大な鍋からは、鰹節もどきのいい香りが漂ってくる。
中に入っているのは大量の根菜。
スノーキャロットに始まり、バンバンブーの若芽やホワイトラディッシュ、一応アングリーバードもだしをとるために入ってるが、これはまぁおまけみたいなものだ。
次に用意したのはずばり雑煮。
本来年明けに食べるものだが感謝祭を前に試験的に作ってみることにした。
もちろん今回作った餅も入る予定だ。
「いい香りっすね。」
「雑煮っていう食べ物で西方で縁起物として食べられてるんだ。来年をいい年で迎えるためにも一杯どうだ?餅一つ入りで銅貨10枚、3個入りで銅貨15枚だぞ。」
来年をいい年で迎えるのなら年越しうどんがあるのだが、まぁ似たようなもんだろう。
縁起を担ぐのが好きな冒険者なら間違いなく食いつくと思っていたのだが、まさかこんなに早く客が寄ってくるとは思わなかった。
「じゃあ三つ入りで。」
「お、いいねぇ。」
「これを食べれば来年もいい感じに金儲けできそうだし、何よりこの寒さで暖かい食べ物は反則ですって。」
「あったまるぞ~。」
「汁多めでお願いします!」
比較的ましとはいえこの冬は例年以上によく冷える。
だしの匂いに引き付けられるように気づけば大勢の客が雑煮を求めて列をなしていた。
そこからはもういつもと同じ。
ひっきりなしにやってくる客をちぎっては投げちぎっては投げ、だしがなくなりそうになれば補充が運び込まれ、後ろでは大きなコンロでいくつもの切り餅が焼かれていく。
正直焼くのが追い付かないぐらいだが、様子を見に来たオッちゃんオバちゃんにも手伝ってもらいながらなんとか最後の客を見送る。
完売御礼。
数えないとわからないがこっちの儲けも銀貨30枚ぐらいは軽く超える事だろう。
しめて銀貨50枚、一日の儲けとしてはそれなりではないだろうか。
「ほい、これオッちゃんオバちゃんの分な。」
「いいのかこんなにもらって。」
「いいんだよ。食べ方はさっき作ってるのを見ている思うが程よく焼いて食べてくれ。それとのどに詰まりやすいからあまり無理して口に入れないように。」
片づけをしながら手伝ってくれたオッちゃんオバちゃんに今回作った餅を渡す。
終わりが見えないぐらいに作り続けた小餅だったのだが、ふたを開ければほとんど残ることはなかった。
ウーラさん夫妻があれだけ頑張ってくれたのに備蓄用も残らないというのはどういうことだ?
今年用のやつだからつまみ食いするなよって最初に言ったはずなのに、おかしいなぁ。
うーむ、この分だと明日も同じだけ作らなければ。
売れば儲かるのなら作らない理由はない。
とはいえ毎日餅つきで終わるのは嫌なので明日からは冒険者に依頼を出してやってもらってもいいかもしれない。
どうせ朝から飲んだくれているんだろ?
酔い覚ましに酒代を稼げば一石二鳥、俺は餅が手に入って一石三鳥ってね。
それにしてももう年の瀬か。
色々あったが穏やかな年末を過ごしたいものだなぁ。
皆浮かれきっており朝から酒盛りに興じている冒険者もいる。
どういう風に過ごすかなんて各自の自由だが、暇になると何かをしたくなってしまう貧乏性なので仕事が少なくなっているにも関わらずあちらこちらへと動き回っている。
「シロウ、準備できたわよ。」
「そんじゃま蒸しあがったらよろしく頼むな、今回のは年明け用だからつまみ食いはほどほどに頼むぞ。」
「仕方ないから我慢してあげる。」
前に使った臼と杵を倉庫から発掘し、屋敷の裏庭に設置。
少し離れたところでは簡易コンロの上でもち米が真っ白い蒸気を上げながら蒸されている。
「それじゃあいきまーす!」
「やけどしないように気をつけろよ。」
「せーのっと!」
気合と共に蒸しあがったもち米の入ったネットをアネットが運び、臼の中に投入。
すかさずエリザがぐるぐると臼の周りを回りながら軽くつぶしていく。
「それじゃあミラよろしくね。」
「久々ですので最初はゆっくりでお願いします。」
「オッケー、それじゃあいくわよ。」
「はい!」
エリザが大きく杵を振りかぶりもち米の上に振り下ろす。
再び振り上げられるタイミングを見計らい、横に控えていたミラが濡れた手で餅をひっくり返す。
「せい!」
「はい!」
「せい!」
「はい!」
最初はゆっくり、でもだんだんとリズミカルに餅がつきあがっていく。
前回はつきたての餅を美味しくいただいたのだが、今回は別の目的で作っているので試食は少なめ。
「できました!」
「それじゃあこっちの机の上に転がしてくれ。」
「あっつい!」
「横着するからだっての。」
餅の塊をお手玉するようにエリザが机の上に運んでくる。
机の上にはビープルニールの革が敷かれており、その上には大量の米粉がぶちまけられている。
元の世界では餅とり粉と呼ばれていて、これを撒いておかないと大変なことになってしまう。
とりあえず粉の上で軽く転がして粉まみれにしてから次の工程に移動。
「それじゃあ話したように二口三口で食べられる大きさにちぎってくれ。それができたら今度は軽く丸めてこっちの箱にくっつかないように並べるだぞ。」
「「「「はい!」」」」
「それじゃあハーシェさんあとは任せた。エリザがつまみ食いに来たら適当にあしらってくれ。」
「ちょっとひどくない!?」
「そうじゃないと見境なく食べるだろ。」
机の周りで待機していたのはキルシュをはじめとした若いの四人衆とおまけのリーシャ。
五人にはつきあがった餅を小さく成型する役目を任せている。
ここで小さくした後は箱に並べて年明けまでゆっくり乾燥させる。
そう、今作っているのは小餅と呼ばれる正月に必須の食べ物だ。
つきたての餅も美味しいが、硬くなったやつを火鉢の上で焼いて食べるのも捨てがたい。
今特に砂糖醤油で食べるのが大好きだ。
エリザはノリで巻く方が好きなようでこの間は腹がはちきれるぐらいに食べていたのだが、今回は保存用なので同じペースで食べられても困る。
本人は自重するといっているけれど本当かどうかわかったもんじゃない。
「次、行きます。」
「今度はウーラさん夫婦の番か、見ものだな。」
「やる気十分って感じだけど臼が壊れないかしら。」
「まぁ、大丈夫だろう。多分。」
蒸しあがったコメをハワードが臼へと運んでいく。
先ほどのエリザ同様に軽く米をつぶしてから、一度ドーラさんと目を合わせてお互いに頷き合う。
「ウ、ハイ!」
「ウ、ハイ!」
「ウ、ハイ!」
「ウ、ハイ!」
「マジか。」
「さすが熟練夫婦ね、息ぴったり。」
エリザとミラも十分早いと思っていたが、初めてにもかかわらずそれを上回る速度で餅をつくウーラ夫妻。
目にもとまらぬ早業であっという間にもち米がつやつやの餅に変わっていく。
うーむ、これは予想以上の速さだ。
「ほら急がないとすぐに餅で一杯になるぞ、頑張れよ。」
「えぇぇぇ、お館様も手伝ってくださいぃぃぃ。」
「ったく、そんな情けない声出すなっての。」
「え、シロウはお餅つかないの?」
「俺はこっちで十分だ。ってことでマリーさんとオリンピアもこっちの手伝いをよろしく。アネットは出来上がった箱を向こうに運んでくれ。」
「わかりました!」
本当はもっとゆっくり作る予定だったのだが、ウーラさん夫婦の気合がすごすぎるので予定を変更して量産体制に入る。
はじめは一つで十分だろうと話していた蒸し器もハワードがそれじゃ足りないと言い出して最終的に三つ同時に稼働させることになったが、どうやらそれで正解だったらしい
年明けも餅つきをするだろうと見越して中型木箱満載のもち米を持ち帰ったのだが、この感じだと今日中に消化してしまいそうな感じすらする。
俺を含め総勢8人で餅を丸めているにも関わらず丸め終わる気配が一切ない。
丸めてはドスン、丸めてはドスンと永久機関のように餅が投入され続ける恐怖。
楽しいはずの餅つきが苦行に変わるかと思われたころ、思わぬ助っ人がやって来た。
「シロウさん、感謝祭についてなんですけどって何やってるんですか?」
「見てわかるだろ餅つきだよ。いいから手伝え。」
「いえ、私はただ感謝祭について打ち合わせを・・・。」
「そういうのは丸めながらできるだろ?ほら、そこで手を洗ってハーシェさんと交代だ。」
「いや、私にも時間が!」
問答無用とやってきた羊男をむりやり参加させて餅づくりを再開。
その後もニアやモニカが来てくれたので、ありがたく手伝ってもらうことにした。
いやー持つべきものは友人だなぁ。
そんなこんなで怒涛の勢いで量産されていく餅にさすがに置き場所もなくなってきてしまう。
もちろん倉庫や廃鉱山に送ればいくらでも置き場所はあるのだが、せっかくこれだけ作ったんだからここはひとつ街の人にも味わってもらうとしよう。
「さぁさぁ年明けの準備はもうできてるか?新しい年を白く輝かしいものにするために年明けは餅を食べるのがおすすめだぞ。食べ方は簡単、コンロの上に網を敷いてそのうえで焼くだけだ。中から柔らかい餅が顔を出して焼き目がついたら好きなように味付けして食べてくれ。10個銅貨30枚、限定1000個早い者勝ちだぞ!」
年末年始の食材や道具を買い求めるべく人があつまるのはどの世界でも同じ事。
大勢の人が行きかう市場の片隅で道行く人に声をかけていく。
「シロウさん、これを食べるといい年になるのかい?」
「あぁ、西方ではそういう風に言われてるらしいぞ。」
「去年食べたのは美味しかったしせっかくだから買っていこうかな。」
「毎度あり、おすすめは砂糖と醤油を混ぜたやつだが案外海苔巻きとか醤油を塗りながら焼くのもいい感じだぞ。」
「そんなの言われるとすぐ食べたくなるじゃないか。」
顔なじみの奥様が早速一つお買い上げ。
もち米はそれほど高くないので10個売れれば銅貨18枚ぐらいの儲けになる。
正直儲けとしては少ないが縁起ものだし何よりここで普及させれば年明けもまだまだ売れ続けるだろう。
数を作りたいのなら冒険者を雇って大人数で一気に作るという手もある。
縁起物と限定という言葉にあっというまに1000個がすべて売れてしまった。
しめて銀貨18枚の儲けだが、正直これは序章に過ぎない。
「旦那様、準備できました。」
「よし飯時に間に合ったな。」
「これが向こうの味、なんですね。」
「本当は白みそとか赤みそとかいろいろな味付けがあるんだが、うちはだしを使ったすましタイプなんだ。」
「お野菜たくさんですしこの匂いは間違いなく美味しいってわかります。」
小餅と切り餅を売り終わった後に運ばれてきたのは巨大な寸胴鍋。
ここで食い物を売る時に毎回お世話になる巨大な鍋からは、鰹節もどきのいい香りが漂ってくる。
中に入っているのは大量の根菜。
スノーキャロットに始まり、バンバンブーの若芽やホワイトラディッシュ、一応アングリーバードもだしをとるために入ってるが、これはまぁおまけみたいなものだ。
次に用意したのはずばり雑煮。
本来年明けに食べるものだが感謝祭を前に試験的に作ってみることにした。
もちろん今回作った餅も入る予定だ。
「いい香りっすね。」
「雑煮っていう食べ物で西方で縁起物として食べられてるんだ。来年をいい年で迎えるためにも一杯どうだ?餅一つ入りで銅貨10枚、3個入りで銅貨15枚だぞ。」
来年をいい年で迎えるのなら年越しうどんがあるのだが、まぁ似たようなもんだろう。
縁起を担ぐのが好きな冒険者なら間違いなく食いつくと思っていたのだが、まさかこんなに早く客が寄ってくるとは思わなかった。
「じゃあ三つ入りで。」
「お、いいねぇ。」
「これを食べれば来年もいい感じに金儲けできそうだし、何よりこの寒さで暖かい食べ物は反則ですって。」
「あったまるぞ~。」
「汁多めでお願いします!」
比較的ましとはいえこの冬は例年以上によく冷える。
だしの匂いに引き付けられるように気づけば大勢の客が雑煮を求めて列をなしていた。
そこからはもういつもと同じ。
ひっきりなしにやってくる客をちぎっては投げちぎっては投げ、だしがなくなりそうになれば補充が運び込まれ、後ろでは大きなコンロでいくつもの切り餅が焼かれていく。
正直焼くのが追い付かないぐらいだが、様子を見に来たオッちゃんオバちゃんにも手伝ってもらいながらなんとか最後の客を見送る。
完売御礼。
数えないとわからないがこっちの儲けも銀貨30枚ぐらいは軽く超える事だろう。
しめて銀貨50枚、一日の儲けとしてはそれなりではないだろうか。
「ほい、これオッちゃんオバちゃんの分な。」
「いいのかこんなにもらって。」
「いいんだよ。食べ方はさっき作ってるのを見ている思うが程よく焼いて食べてくれ。それとのどに詰まりやすいからあまり無理して口に入れないように。」
片づけをしながら手伝ってくれたオッちゃんオバちゃんに今回作った餅を渡す。
終わりが見えないぐらいに作り続けた小餅だったのだが、ふたを開ければほとんど残ることはなかった。
ウーラさん夫妻があれだけ頑張ってくれたのに備蓄用も残らないというのはどういうことだ?
今年用のやつだからつまみ食いするなよって最初に言ったはずなのに、おかしいなぁ。
うーむ、この分だと明日も同じだけ作らなければ。
売れば儲かるのなら作らない理由はない。
とはいえ毎日餅つきで終わるのは嫌なので明日からは冒険者に依頼を出してやってもらってもいいかもしれない。
どうせ朝から飲んだくれているんだろ?
酔い覚ましに酒代を稼げば一石二鳥、俺は餅が手に入って一石三鳥ってね。
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