転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア

文字の大きさ
1,152 / 1,738

1147.転売屋はコンサートの準備をする

しおりを挟む
感謝祭も四日目。

色々ありすぎてあっという間に時間がたってしまい早くも折り返しになるわけだが、今日はいよいよ待ちに待ったコンサートが行われる。

今や王都で、いや国中で一番の人気を誇る歌姫オリガがこの街でコンサートを開催するなんて昨年の感謝祭で誰が想像できただろうか。

しかも一度は行方不明になり開催も危ぶまれたはずが紆余曲折あったものの、無事に今日という日を迎えられたのは非常に感慨深い。

一時は大量のチケット在庫を抱える羽目になりどうなる事かと思ったが、復帰が決まったおかげで俺は大儲けできたわけだし本当にありがたい限りだ。

まさか歌姫が冒険者になっていてしかもダンジョンで一緒に閉じ込められるなんてことになるとは世の中何が起こるかわからないものだ。

「お、やっと来たか。」

「予定通りだろ?」

「こういう日は時間に余裕を持ってくるべきだと思うぞ。」

「俺も色々と忙しいんだよ。」

「忙しいってどうせ金儲けだろうが。」

コンサート開始まであと半日というタイミングでやって来たのは三日月亭。

ちゃんと予定時間よりも早く来たのになぜかマスターに怒られてしまった。

確かに当日は何が起きるかわからないものだが、こっちにも色々と都合ってもんがあってだな。

「まぁそうなんだけどさ。本人は?」

「上で待機してる。」

「本番前だってのに落ち着いているもんだなぁ。」

「それよりも会場はどうなんだ?昨日も作業をしていたみたいだが準備は間に合ったのか?」

「シープさんが間に合わせないはずがないだろ?金に物を言わせて無事に出来上がったよ。」

感謝祭が始まったにもかかわらずコンサート会場は完成しておらず別の意味で開催そのものが危ぶまれるような状態ではあったのだが、羊男が金に物を言わせて労働力を一気に投入してつい先ほど最終点検が終わったところだ。

それもこれもすべては初日の雪のせいなのだが、まぁ間に合ったのならば何も言うまい。

羊男のコンサートにかける熱量がこれほどとは思わなかった。

そのまま階段を上がり最上階へ。

階段の前に立ちふさがる扉を三回、一回、三回のタイミングでノックする。

「誰?」

「シロウだ。」

「すぐ開けます!」

怪訝な感じの返事から一変、すぐに明るい声に変わり扉が開かれる。

そのまま急いで部屋に入り扉を閉めると、すぐ横で目を輝かせる女と目が合った。

「そんな顔で見るなよ、ちゃんと買ってきてるって。」

「やった!ドルチェさんのスイーツ!」

「もぅ、フランったらシロウさんにお礼を言わないと。」

「えへへ、ありがとうございます。」

奪うようにしてスイーツの入れ物を奪っていく盗賊娘(フラン)。

出会ったころと対照的にリカの方がフランの世話をしているような感じに見える。

年は彼女の方が下のはずだが、彼女の職業がそうさせてしまったのかもしれない。

もちろん土産はこれだけじゃない。

やれやれという表情を見せるリカの前に右手を伸ばすと、不思議そうな顔をしながらもその手の下で両手を重ねた。

そしてその上にポトリと隠していたものを落としてやる。

「そしてこれが約束のアクセサリーだ。ついさっきルティエが仕上げたばかりの出来立てほやほやだぞ。」

「やった!ルティエ様の新作!」

掌に落ちてきたアクセサリーを胸に押し付けながら、弓娘(リカ)がその場で飛び跳ねる。

「リカだってお礼言ってないじゃない。」

「ありがとうございます!大事にします!」

掌に落ちてきたのは白い光を蓄えたホワイトサファイアのネックレス。

親指の先ほどの大きさをした宝石の周りを囲うように、深緑の小さな宝石がいくつも飾られている。

前に見せてもらった物をさらに豪華な感じにアレンジしたようだ。

うーむ流石ルティエだな、素人の俺が見ても一目で売れるとわかる素晴らしいデザイン。

これは次の春が楽しみだ。

そんな特別な作品を胸に押し付けてぴょんぴょんと飛び跳ねる姿からは、誰もを魅了する歌姫の雰囲気は一切ない。

どこからどう見てもそこら辺にいる若い女の子だよなぁ。

「約束は守ってくれよ、身に着けるのは問題ないが表には見えない部分で頼む。」

「もちろんわかってます!あぁ、これで今日からまた頑張れます!」

「現金な奴だなぁ。」

「だって誰も持ってない新作ですよ!それも私の為にわざわざ加工してくれたなんて、夢みたいです。」

「まぁ、向こうからしてみればいい広告塔になってくれているしな。ガーネットルージュをはじめ身に着けたやつは軒並み売れていくし、化粧品や食べ物なんかでも名前を出せば次の日には完売だ。」

ここで隔離生活を送ってもらう傍ら、食事等の他にうちの化粧品なんかをいくつか提供している。

折角時間があるんだからそれを使ってアピールしない理由はない。

その結果、いくつか気に入ってくれたものがあったのでまとまった数を提供させてもらった。

新作と違ってこっちはガンガン表に出してもらって構わないのでコンサートが終わり次第たくさん使ってもらうつもりだ。

今回の目玉は『歌姫愛用の化粧水とパックのセット』。

特に化粧水に至っては非常に好評でお肌の艶が他人の俺が見てもわかるぐらいに改善している。

冒険者の生活が良くないとまではいわないが、やはり不規則な為にダメージを受けやすい。

少ない期間とはいえその間に痛んだお肌が化粧水とパックのおかげで復活したと大喜びしてくれた。

その結果を踏まえて作ったのがこのセット。

歌姫御用達ともなれば世のファンが買い求めないはずがない。

さらには特別サイン入りの特別セットなる物も用意している。

気分はテレビショッピング。

最近化粧品とパックの売り上げがじりじりと低下傾向にあったので、これでまた一気に盛り返すことだろう。

カーラが開発から離れてしまいなかなか新商品が開発できていなかったのだが、開発できないのならできないで既存の物をしっかりと販売すればいい。

もちろん使用を強制したわけではなくあくまでも本人が気に入ってくれたからこそ出来た話。

いい物を作っている自負はあるが好みの方はどうにもならないからなぁ。

フランがケーキに、リカがアクセサリーに夢中になっていると再び扉がノックされた。

本来であればフランが受け付けるのだが、スイーツを口いっぱいに頬張っている為致し方なく俺が対応することに。

「誰だ。」

「僕だよ。」

「・・・マイクさんか。」

「この声はシロウさんだね、悪いけど両手がふさがっているから開けてくれると助かるんだけど。」

オレオレ詐欺とか思ってしまったが結構特徴のある声なのですぐにわかった。

扉を開けると両手いっぱいの花を抱いたマイクさん滑り込むようにして入ってくる。

慌ててアクセサリーをしまったリカを見てマイクさんは一瞬だけ目を細め、そしてすぐ笑顔になった。

「お久しぶりだね、元気そうで何よりだ。」

「マイクさん。あの、本当にごめんなさい。」

「別に謝る必要はないさ、こうやってまた君と一緒に音楽ができるだけで十分だよ。」

「ありがとうございます。」

あれだけ必死になっても見つからなかった歌姫がまさかこの街にいるとは思わなかったんだろう。

復帰を発表後すぐにコンタクトを取ったのだがずいぶんと驚いた様子だった。

本来であれば一緒に仕事をしている以上叱ったりするべきところなんだろうが、ぐっとこらえて笑顔を向けられるあたり大人だなぁと思ってしまった。

「この花は僕とフェルからの贈り物だ。どうやらもっといい物をシロウさんからもらったみたいだけど、まぁこっちも受け取ってもらえると嬉しいかな。」

「わ、綺麗・・・。」

笑顔のマイクさんから花を受け取り、申し訳なさそうにしていたリカが再び笑顔に戻る。

さて、これで役者はそろった。

雪の影響で間に合うかどうかひやひやしたが、もしもの時はバーンで迎えに行くつもりだったのでそうならなくて一安心。

用意しておいたものを渡せたしそろそろ次の準備に取り掛かるとしよう。

「それじゃあ後はマイクさんに任せた。会場入りは三時間後、その頃にシープさんが迎えに来るからそれまでここで準備を続けてくれ。発声練習は防音魔法をかけてからでよろしく。マイクさんできたよな?」

「もちろんできるけど、せっかく僕が来てあげたのにもう行くのかい?」

「俺も忙しいんでね。積もる話はまたコンサートが終わってからでも構わないだろ?」

「相変わらずだねぇ。国一番の吟遊詩人と歌姫が一緒だっていうのに。」

「自分で言うなっての。」

確かにすごい二人だとは思うがそれで騒ぐほどの浅い関係でもない。

でもまぁ友人がせっかく来てくれたのは間違いないので、全部終わったら積もる話をしようじゃないか。

フェルさんの話も聞きたいし、なにより気になる人物についての情報も仕入れておきたい。

ま、それもこれもコンサートが終わってからの話だ。

お待ちかねの時間まであと少し、最高の時間を迎える為にも準備はしっかりとしておかないとな。
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

中途半端なソウルスティール受けたけど質問ある?

ミクリヤミナミ
ファンタジー
仮想空間で活動する4人のお話です。 1.カールの譚 王都で生活する鍛冶屋のカールは、その腕を見込まれて王宮騎士団の魔王討伐への同行を要請されます。騎士団嫌いの彼は全く乗り気ではありませんがSランク冒険者の3人に説得され嫌々魔王が住む魔都へ向かいます。 2.サトシの譚 現代日本から転生してきたサトシは、ゴブリンの群れに襲われて家族を奪われますが、カール達と出会い力をつけてゆきます。 3.生方蒼甫の譚 研究者の生方蒼甫は脳科学研究の為に実験体であるサトシをVRMMORPG内に放流し観察しようとしますがうまく観察できません。仕方がないので自分もVRMMORPGの中に入る事にしますが…… 4.魔王(フリードリヒ)の譚 西方に住む「魔王」はカール達を自領の「クレータ街」に連れてくることに成功しますが、数百年ぶりに天使の襲撃を2度も目撃します。2度目の襲撃を退けたサトシとルークスに興味を持ちますが……

処理中です...