転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア

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1151.転売屋は年の瀬にもう一儲けする

感謝祭最終日。

オークションも終わり、大きなイベント事は全て終了。

例のイケメンとは遭遇したくなかったので後夜祭には参加せずその日は街に出る事もなく屋敷で朝を迎えた。

奴が何を企んでいるのかはわからない。

西方との取引を調べたところで俺が直接取引をしたことはないし、それで何かをしようと企んでいる事もない。

俺はただ元の世界の食べ物をこの世界で食べたかっただけ。

ケイゴさん達だって、縁あって集まって来ただけで別に俺が集めたというわけでもない。

まぁ、頼って来てくれているのは間違いないがそれだけの話だからなぁ。

とはいえ警戒しない理由もないので、セラフィムさんには今まで以上に探りを入れてもらうことにした。

マリーさんやオリンピアからも情報を仕入れつつ今後について協議してもらうことになっている。

議員の権力だとかどこまで出ているのかだとか、俺には見当もつかない話だが王族であれば知っていることもたくさんある。

とはいえ今は感謝祭、しかも最終日にそんな事をする理由もない。

一年の締めくくりとなる大切な日だ、今日は仕事を忘れて一日中好きな事を楽しむとしよう。

「ご主人様、出汁の準備出来ました!」

アネットが寸胴鍋に入った大量の出汁を露店の裏にドスンと置く。

見た目かなりほっそりとしているが、女たちの中ではエリザに次ぐ怪力の持ち主だったりする。

寸胴鍋満杯の出汁とかどれぐらいの重さになっているのか見当もつかないんだが、俺一人で持ち上げられないのは間違いない。

それを苦になく運ぶアネットって・・・いや、何も言うまい。

「ありがとう、そこに置いておいてくれ。」

「他にお手伝いすることはありませんか?」

「とりあえず出汁があればなんとかなるし、あとは醤油と砂糖で味付けするだけだから大丈夫だ。本当はみりんか調理酒が欲しい所だが、この為だけに清酒を使うわけにもいかないからなぁ。」

今日は感謝祭最終日。

昨年同様最後の一儲けをさせてもらうために今年も露店を出して準備をしている所だ。

昨年は『年越しうどん』と称して一日中うどんを売り続けたわけだが、今年はハワードにそれ関係の一切を丸投げしているので今頃婦人会の詰め所の前で腕を振るっている事だろう。

昨年の盛り上がりを考えればかなりの準備が必要になる。

もちろんハワードたちもそれを見越して街中の奥様総動員で準備しているはず。

敵は強い、だがそれに負けないだけのネタを用意させてもらった。

今回用意したのは大晦日といえば!という食べ物。

地域や家庭によっては他にも色々あるんだろうけど、俺の家ではこれが大晦日のお楽しみだったのでやる事にした。

うどんを出している時点で例の男が西方がどうのとか言うかもしれないが、それはそれこれはこれ。

俺はただこれを食べたいだけでそれ上でもそれ以下でもない。

「そんなの使ったら高すぎて誰も食べてくれないわよ。」

「わかってるっての。そっちはどうだ、良い肉は手に入ったか?」

「私を誰だと思ってるのよ、一番いい感じのワイルドカウを仕留めて来たわ。今肉屋のおじさんに捌いてもらってるから後で持ってくるけど、これ先に頼まれてた脂ね。」

そうそうこれこれ、これがあるのと無いのとだったら味付けが全然違うんだよな。

エリザから渡された白い塊を手にニヤリと笑う。

風蜥蜴の被膜に包まれているにもかかわらず、そいつはすこし柔らかくて滑るような感覚がある。

後は野菜が用意出来たら準備完了・・・いや、もう一つあるか。

「シロウさん、お待たせしました。」

「待ってました。悪いな、こんな所まで持って来てもらって。」

「うちの不動在庫を使ってくれるのはシロウさんだけですからね。これが頼まれていました麩とコニャークです。」

「手に入るもんだなぁ。」

「西方関係の品が流れてこなくなったとはいえ、近しい所では普通に食べられていますから。でもこれをどう調理に使うのか正直想像が出来ません。」

エリザの次にやってきたのはモーリスさん。

国中の保存食を扱っているお店だが、他にも西方関係の食材を多く仕入れてくれていた。

正直この世界に来て一番お世話になっているといっても過言ではない。

モーリスさんがいなかったら醤油も出汁もこんなに広まる事は無かっただろうし、この世界での俺の食を支えてくれた陰の功労者と言えるだろう。

そんな人にお願いしていたのがズバリお麩と糸こんにゃく。

こんにゃくなんて作成時の手間を考えたら絶対にないと思っていたのだが、案外こっちの世界では無毒な食べ物らしくそこまで特別なものではないらしい。

それでも似たような食感であることに変わりはない。

今回作る物に絶対必要かと言われたらそうでもないのだが、あるのと無いのとだったらあるほうが好きだ。

「まぁ、それは見てもお楽しみってね。お、そうだった。アネット、オッちゃんの所に行って頼んでおいたアングリーチキンの卵をもらってきてくれ。それとオバちゃんの所から器も一緒に頼む。」

「それでは私も行きましょう。」

「悪いな。」

「これもシロウ様の料理を頂く為です。」

「期待してくれていいぞ。」

大事なものをもらってくるのを忘れていた。

モーリスさんには申し訳ないがついでに手伝ってもらった分はしっかりとお返しさせてもらおう。

着実に食材が用意されていく。

目的の物を作るためにあとは野菜を入れるだけなのだが、物が物だけに手に入れるのに手間取っているのかもしれない。

二人が離れていくと、今度は反対側から転がり込むようにして冒険者がやって来た。

「間に合った!?」

「シロウさんお待たせしました。」

「二人ともご苦労さん、その様子じゃなかなか大変だったみたいだな。」

「大変なんてもんじゃなかったよ!でも、リカが手伝ってくれたから何とかなったかな。」

「フランが注意を反らしてくれたおかげだよ。」

派手に転がり込んできたこの二人のうち一人がこの間俺達を感動させた歌姫オリガだとは誰も思わないだろう。

えへへとはにかむ表情はどこにでもいる若い冒険者にしかみえない。

コンサート終了後のんびり感謝祭を堪能していた二人だったのだが、流石に引きこもるのにも飽きてきたようなので勘を取り戻すついでに食材を取りに行ってくれるよう依頼を出させてもらった。

二人の感じだと中々に大変だったようだが、まぁ無事に帰って来たし結果オーライという事で。

「それじゃあ頼んだものを見せてもらおうか。」

「それではこれが依頼されたスプリングクラウンとブラウンマッシュルーム、それとベッキーさん達にお願いしたバンブーヘッドもあります。」

「お、ちゃんと確保してきてくれたか。これがあると違うんだよなぁ。」

「あとで美味しいお菓子とご飯を持ってこないと祟ってやるって言ってたよ。」

「そりゃこわい、ちゃんと持って行かないとな。」

バンブーヘッドはベッキーとミケの力を借りないと手に入れられないからな、今後も考えてしっかりお礼を言っておかないと。

そうなることを見越してドルチェのスイーツは確保しておいたから後でフランにもっていってもらうとしよう。

「報告は以上です。」

「依頼は完璧、持ち込んだ品もかなり綺麗な状態だ。これが依頼料な。」

「え、こんなに!?」

「いくらなんでも多すぎませんか?」

「感謝祭最終日に無理言ってダンジョンに潜ってもらった上に、面倒な依頼をこなしてもらったんだ。二人でなくてもこれだけの報酬は出すぞ。」

因みに渡したのは銀貨4枚。

普通に考えたら多すぎる報酬だが、タイミングを考えばこんなもんだろう。

新人の報酬五日分。

いい宿に泊まらなければ一週間は暮らしていける金額だ。

「それじゃあ遠慮なく。」

「ありがとうございます!」

「店が始まったら二人分サービスするから忘れずに食べに来いよ。」

「「は~い。」」

相変わらず仲のいいことで。

二人を見送ってから改めて運ばれてきた食材を確認する。

タケノコ、こんにゃく、シイタケ、お麩、春菊、それとネギ。

後は牛肉と鶏肉が運ばれてきたら準備完了。

今回最終日に用意した特別料理といえば、そう『すき焼き』だ。

子供のころは大晦日の時ぐらいにしか食べない特別な料理だったのをよく覚えている。

大人になればそれなりに食べる機会はあるのだが、なぜか特別な感じがするんだよなぁ。

各家庭によって入れるものが違うので、それ系の話でも盛り上がれる不思議な料理。

本来は鍋を何人かでつつくのが普通なのだが、今回はどんぶりにして提供するつもりでいる。

牛丼ではない、すき焼き丼だ。

本当は焼き豆腐も用意したかったんだが、残念ながら間に合わなかったので今回は見送ることに。

入れなくてもすき焼きはすき焼きだからな。

「ご主人様戻りました。」

「お、ご苦労さん。あれ、ミラにハーシェさんまで。」

「母の所に挨拶に行きましたらアネットさんに会ったので手伝いに来ました。」

「人手は多い方がいいと思いまして。」

「そりゃ助かるが、子供たちはいいのか?」

「ミミィちゃんたちが遊んでくれていますから。」

屋敷のみんなも感謝祭の間は自由にしていいとは言ったものの、前半で飽きてしまったようで今ではいつものように仕事をしてくれている。

もちろん自由に抜けても誰も怒らないのだが自由過ぎるというのもよくないようだ。

わかる、分かるぞその気持ち。

でもまぁ、そういう事ならありがたく手伝ってもらうとしよう。

流石にこれだけの量を一人で仕込むのは無理なので、婦人会にお願いしに行こうかと思っていたぐらいだ。

でもみんなが手伝ってくれるのならばそんなに時間もかからず準備ができそうだな。

「お肉来たわよー!」

「お手伝いに来ました。」

「ナイスタイミング。それじゃあ調理の方に回ってくれ。エリザ、コンロを準備するから手伝いよろしく。」

「オッケー、任せて!」

感謝祭最終日だというのに俺の楽しみを文句を言わずに手伝ってくれる女達をはじめとした大勢の人たち。

ほんとありがたいことだ。

そんな彼らの頑張りに報いるためにも、今年最後の大儲けの為にもうひと頑張りと行こうじゃないか。
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