転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア

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1620.転売屋は可愛らしい花を見つける

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「ん?何か音がしないか?」

「はて、特に気になる音は聞こえませぬが。」

「いや、確かに聞こえるぞ。あっちだ。」

アティナとジンと共にアニエスに頼まれた依頼をこなすべくダンジョンを探索中、普段なら絶対に気づかないようなほんの些細な音に気が付いた。

ジンには聞こえなかったようだが、歳を取ると高い音が聞こえなくなるっていうしもしかするとそれの影響があるのかもしれない。

まぁ見た目だけ老人なのでそれに該当するかは定かではないけれど、幻聴ではないはずだ。

とりあえず音のする方向へ三人でゆっくりと移動する。

音は次第に大きく・・・はならないものの他の二人にも確かに聞こえだしたようだ。

「はて、このあたりのはずですが見えるのは一面草ばかり。」

「そんなはずはない、確かに音は聞こえるだろ。」

「音は聞こえますがおりますのは獣が一匹、いや三匹。」

「マスターは後ろへ、先に奴らを片付けます。」

音につられて到着したのは膝丈の雑草がうっそうと茂る広い部屋。

その中にいたのはなんとも鋭い牙を見せるネコ科の獣、サーベルタイガーのような鋭い牙を覗かせながら餌がやってきたとこちらを見てくる。

俺一人なら確実に腹の中に納まってしまうだろうけど、この二人の前では赤子も同然。

確か牙はお守りとして人気があったはずだし毛皮は貴族に人気がある。

「出来るだけ毛皮に傷をつけるなよ、それと牙もな。」

「難しいことをおっしゃりますなぁ。」

「武器を使わず直接縊り殺せばいいだけの事、問題ありません。」

「俺は音の正体を探しておくから頑張ってくれ。」

難しいといいながらも本人が一番簡単に対処できるはずなんだけどなぁ。

ってなわけで部屋の中央でドタバタしている傍ら、隅の方をゆっくりと歩きながら音の正体を探していく。

確かにここから聞こえるはず、それが価値のあるものでもそうでなくても正体が気になって仕方がない。

ぐるりと部屋を一周し終わったところで戦いは終わったらしいが、残念ながら目的のものは見つからなかった。

「せん滅完了しました。」

「ご苦労、毛皮は綺麗にはぎ取って牙は根元から折るように。」

「爪はいかがしますかな?」

「一応回収しとくか、売れなきゃ冒険者ギルドに買ってもらえばいい。」

「お任せを。」

『ソードキャットの牙。鋭い刃物のような牙を持つ獰猛な魔物で、その牙はドラゴンの鱗すら貫くといわれている。どんな相手にも勇猛果敢に襲い掛かる姿から冒険者のお守りとして人気が高い。最近の平均取引価格は銀貨3枚、最安値銀貨2枚、最高値銀貨7枚、最終取引日は22日前と記録されています。』

ひとまず剥ぎ取りが終わったものの結局部屋からは何も発見できなかった。

毛皮の剥ぎ取りも終わったので仕方なく次に行こうかと思った時だ、捌いた腹部から内臓が零れ落ちてくると同時にあの音があろうことかその中から聞こえてきた。

どうやら二人にも聞こえたようで慌てた様子で胃の部分を切り開くと、中から出てきたのは白い花。

いや、ベル?

「音の正体はこれか。」

「そのようですな、まさかこんなものが腹に詰まっているとは。正直食い出はなさそうですが。」

「にもかかわらずこのようになるまで食べるあたり何か理由があるのでしょう。」

肉食獣の腹から出てきたのが真っ白い花ってのは何のホラーだ?

とりあえず音の正体も含めて確認すればおのずと理由はわかるだろう。

『ベルフラワー。小さなベルのような花が複数並んでおり、その音を聞くと何とも言えない心地良い気分になる。ただし毎日聞き続けると音に操られ最終的にそれを食べてしまう。食べられることで花は生息域を拡大させているといわれている。最近の平均取引価格は銅貨30枚、最安値銅貨11枚、最高値銅貨80枚、最終取引日は7日前と記録されています。』

「ベルフラワーっていうらしいが、知ってるか?」

「知りませんなぁ。」

「聞いたことはあります。確か不思議な音を鳴らして獲物を引き寄せるとか。」

「どうやらそんな感じらしい。音を鳴らして相手を呼び寄せ、自分を食わせることで別の場所で発芽するように促すそうだ。」

「なるほど、その結果があれですか。」

俺たちがここに呼ばれたのもある意味その影響があったのかもしれない。

見た目に可愛らしいし売れば人気が出るかもしれない、花弁を切り取れば勝手に音が鳴ることもないだろうしさすがに食べるやつはいないだろう。

とはいえ危険なのは間違いないわけで、売れば絶対に儲かるだけになんとも惜しい話だ。

「少量であれば問題なさそうですが、これが大量発生しているとなると中々恐ろしい物がありますな。」

「幸いダンジョン内の魔物が外に出ることはないから外は問題ないだろうけど、少なくともこいつらの腹をこんなにするだけの数が自生している可能性があるわけだろ?」

「そうなりますね。」

「ここからはより気を付けた方がよさそうだ。」

ダンジョン内で倒された魔物の死骸なんかは最終的に吸収されてしまうのだが、念のため火をつけて消し炭にしておくことにした。

結局吸収されるんだろうけどそのままどこかで出てきても困るしな。

何を隠そう今回ダンジョンに来たのは正体不明の魔物について調査する為、アニエスの話では魔物が不思議な動きをしているっていう話だったんだが十中八九こいつが原因だろう。

目の前に冒険者がいるにもかかわらず襲ってこなかったらしく、冒険者も必死の思いで逃げている途中だったから正体がわからなかったといっていたらしい。

もしかすると花に誘われていて冒険者に気づかなかった可能性もある。

それならそうと報告すればいいんだけども一応現物を確認しておかないとここまで来た意味がない。

最終的に駆除するかどうかは冒険者ギルドが判断するだろうし、その辺は俺が決める事じゃない。

出来れば花だけでも何かに使えたらいいんだが切り取ったやつでもダメなんだろうか。

とりあえず探し物は決まったので引き続き花を探してダンジョンの奥へ。

最初の場所まで戻り奥へと足を進めると、また例の音が聞こえてきた。

それもさっきよりも大きく耳元でリンリンとベルが鳴っている。

なんて綺麗な音なんだろうか。

もっと聞きたい、この音をもっと間近で・・・。

「ジン!」

「お任せを。」

これ以上はヤバい、そう思っても不思議と手が動かなかったので慌ててジンに助けを求めた。

すると何かしらの方法を使ったんだろうパタッと例の音が聞こえなくなる。

「すまん、助かった。」

「これぐらいお安い御用です。」

「なるほど空間ごと遮断しましたか。これ以上行くと危険ですがどうされますか?」

「撤退した方がいいのは分かってるんだが報告する為にもどうなっているかは確認しておきたい。ジン、俺の耳の周りだけ遮断する事とかできるのか?」

「一歩間違えば耳がなくなりますが、主殿の為ならばやってごらんにいれましょう。」

「頼むから耳なし芳一は勘弁してくれよ。」

耳の周りの空間だけ音が入らないように覆ってもらえば何とかなるはず、俺みたいな買取屋がここまでする必要はないといえばないのだがこれでも冒険者だし何より嫁の頼みとなれば頑張らない理由はない。

幸いにも耳なし芳一になることもなくそのままダンジョンの奥へ進むことができた。

二人との会話は出来なくなってしまったが指示を出さなくても勝手に魔物を退治してくれるので別に聞こえなくても問題なかったりするわけで。

そんな感じで奥へ奥へ進むこと30分ほど、通路の先に空間が見えたと思ったら突然アティナが手を横に出したのを見て歩みを止める。

「あったか?」

応えは聞こえないが二人とも首を縦に振って応えてくれた。

ゆっくりと歩みを進めながら通路の先をのぞき込むとそこにあったのは真っ白い花畑。

ベルフラワーが足の踏み場もないぐらいに咲き乱れ、まるで天国かと見まごう美しさだった。

だがよく見るとその下には同じく真っ白な骨がいくつも転がっているのが見える。

こいつらに呼ばれてやってきたものの死ぬまで食わされて結局は養分になっている哀れな魔物達。

いや、もしかするともしかしなくても冒険者が犠牲になっている可能性は非常に高い。

可愛い見た目をしながらもやることはかなりえげつないな、こいつら。

どうしましょうという感じで二人がこちらを見てくる。

しかしなんでこの状況でこの二人は大丈夫なのかはわからないが、何もないに越したことはないので気にしないでおこう。

このまま放置しても犠牲者が出るだけなのでサクッと駆除してから報告すればいいか。

見た目に騙されて花だけでも持ち帰れたらなんて考えてしまったがその考えはあの骨を見た瞬間にどこかに吹き飛んでしまった。

鞄からランタン用の燃料を取り出し、更にはボムツリーの実をありったけ花畑の中に放り込む。

燃やせるものはとりあえず投げ込んで最後は離れたところからスリングで着火。

離れていても感じるほどの爆風と共に、白い花がメラメラと燃え上がり始めた。

いや、これは予想よりも燃えているんだがもしかして下の骨まで全部いっちゃってる?

出来れば骨とか牙は使えるものがありそうなので回収したかったんだがどうやらそれもかないそうにない。

一応鎮火するまで見守った後、花が全て燃え尽きたのを確認してから地上へ戻ることにした。

アニエス曰くあの部屋に関しては別途耳栓をした職員が現場を確認しに行くことになるんだとか。

やれやれ、可愛い物だからと売れるかもと欲を出しすぎると危ない目に合う。

そう実感させられた一日だった。
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