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第十一章
イナバの不思議なダンジョン:中ボス編
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出来るなら早速実行だ。
シルフィーと共に気付かれないようにゆっくりと大部屋へと近づいていく。
離れていた時はわからなかったが、近づくに連れ確かにそこに居る何かの『圧』のようなものを感じ始めた。
近づいてはいけない。
そんな防衛本能からくる警告かなにかだろうか。
一歩がドンドンと重たくなっていく。
「もしかして怖いの?」
「もしかしてもなにも怖いですよ。」
「ダンジョンに潜るくせに怖いだなんて変なの。」
「祝福を戴いてはいますが元はただの商人、魔物にも戦いにも慣れていません。」
「その割には自分で危ない所に行こうとしてるよね。」
仰るとおりです。
怖いくせに自分から危ないことに首をつっこもうとしているんだから困ったものだ。
だからエミリアやシルビア様に怒られるんだよな。
でも仕方ないじゃないか、思いついたのは俺なんだし。
助けに行こうって言い出したのも俺だ。
言いだしっぺの責任って奴ですよ。
ゆっくりと近づき、入口からはじめてみたキュプロスは、想像以上に大きくそして恐怖を感じた。
ゴア種だからとかそういう問題じゃない。
建物の二階を越えるような灰色の巨体に象の足よりも太い腕。
遥か頭上から周りの様子を伺う巨大な一つ目に睨まれたら、ちびらない自信は全くない。
こんなのに戦いを挑もうだなんて、冒険者になる人は頭おかしいんじゃないか。
そんな風にさえ思ってしまう。
恐ろしい。
こんなのとタイマンなんて絶対に無理だ。
「あれだね、随分大きいなぁ。」
「大きいって言う問題じゃないですよ。こんなやつに戦いを挑もうだなんておかしいんじゃないですか。」
「やろうって言ったのは君だよ?」
「いやまぁそうなんですけど・・・。」
「随分と天井が高いね、なるほど入口が狭いからこの部屋からは出れないんだ。なんだかかわいそう。」
かわいそうか。
確かにこいつからしたらこの部屋より他に行く場所は無いんだよな。
もっとも本人がどう思っているかは知らないけど。
「できそうですか?」
「これだけ天井が高ければ出来るんじゃないかな。」
「目標は上三分の一ぐらいの空気を抜くことなんですけど。」
「まぁやってみるよ。」
シルフィーがブツブツと何かを良いながら指を動かすと、部屋の空気が動き出すのが分かった。
最初はソヨソヨとした感じだったがだんだんと大きな音をたてながら風が下の階へと押し出されていく。
キュプロスが不思議そうに周りを見渡すもあの高さからなら入口付近に居る俺達の姿は見えない。
「あれ?」
順調に空気が抜けていると思ったのもつかの間、なぜか背後から部屋に向って風が入り込んでくる。
おかしいな、お願いしたのは部屋の中だけなんだけど・・・。
「あ、そうか抜けば後ろから補充されるよね。すっかり忘れていたよ。」
あぁそうか。
上の空気を抜けば別の場所から空気が補充されるのか。
隔離されているわけじゃないんだから同然だな。
「入口の空気を遮断する事は出来ます?」
「うーん、同時並行は苦手だけど・・・。よいしょっと。」
部屋と通路が繋がる場所に目に見えない薄い膜が張られたのが分かった。
その途端に後ろから吹いてきた風がぴたっと止む。
どうやら成功したようだ。
しかしこの膜、一体どうなっているんだろう。
「触らないほうが良いよ、上から強い風を吹き降ろして遮断してるから指ぐらいなら簡単に切れちゃうし。」
シルフィーの助言に俺は慌てて指を引っ込める。
触る前でよかった。
そういう事は先に言ってほしいんだけどなぁ。
それからしばらく空気を抜く作業を眺めていると少しずつ変化が現れた。
まず見られたのは段々と呼吸が荒くなってソワソワし始める兆候だ。
それから明らかに呼吸が荒くなり目がキョロキョロと動き落ち着かなくなる。
そしてついに立っている事ができなくなりドスンという音と共に膝をついた。
よし、ここまでは成功だ。
「これからどうするの?」
「カムリ騎士団長を呼んで弱点を一突きにしてもらいましょう。」
「それはいいけど、消すと君も一緒に部屋に流れ込む事になるけど構わないんだよね?」
「え?」
「いやさ、上部の空気を抜くはずが気付けば部屋中の空気を抜いちゃったみたいで・・・。」
ちょっと待て。
部屋中の空気を抜いているだって?
「つまり作業を中断しても空気が中に流れ込むのは止まらない?」
「下から戻ってくる空気はあるけど、さっきみたいに後ろから吸い込まれるだろうね。」
それは困った。
それではカムリに突撃してもらう事はできない。
突撃したところでカムリも酸欠になってしまうだろう。
空気は今も排出され続けているのでサイクロプスは先程以上に苦しそうに喘いでいる。
あれか、高い山に登って酸欠になっているような感じなのか。
まてよ。
それならこのまま空気を抜いて弱らせれば良いのでは?
「あの、もっと空気を減らすことってできます?」
「それは部屋中のってことかな?」
「そうです。」
「もちろん出来るけど、何処まで減らすの?」
「そうですね、あの大きいのが動かなくなるぐらいまででしょうか。」
恐怖を感じたあの巨体も酸欠にあえぎものすごく弱弱しくなっているのが分かる。
このまま行けばいずれ見上げるほどの巨体も地に伏すことだろう。
そこまでいけばすぐに元に戻ることは無い。
空気を戻しても弱ったままだろうからそこを叩けば被害は最小限で済む。
よし、これでいこう。
それから空気を抜き続けることしばし。
とうとうキュプロスはダンジョンを揺らしながら床に倒れた。
苦しそうに喉をつかみ、目はあさっての方向を向いている。
だらしなく舌が垂れ下がっている所を見ると気を失ったのだろう。
いや、もしかしたら死んでしまったのかも。
まさかね。
「とりあえず倒れたけど・・・。さっきも言ったけど膜を失くせばすごいことになるよ?」
「わかっています。」
真空までは行かないまでもそれなりに空気の抜かれた部屋だ。
遮断している膜をなくせば、ダンジョン中の空気がそこに集ろうとしてものすごい風が吹く。
そんな事になれば全員が怪我をしてしまうことだろう。
本番を前にそんな危険なことはできない。
じゃあ、どうすれば良いのか。
「一瞬だけ穴を開ける事はで来ますか?」
「まだ何かするの?」
「これを入れようと思いまして。」
俺は腰にぶら下げてあったダマスカスの短剣を抜き、照準を合わせる。
恐らく吸い寄せられるとしたら部屋の中心部に向ってだろう。
幸い弱点の目はこちらを向いたままだし、標的が大きい分外れる可能性も少ないはずだ。
「開けて良い?」
「お願いします。」
外気を遮断する為に吹き降ろされていた風が止み、次の瞬間には身体が持っていかれるような引力を感じた。
慌てて壁にしがみつく頃には風は止んだが、奥から聞こえてきたのは何ともいえない肉を裂く鈍い音。
それと、断末魔の悲鳴だった。
一瞬にして部屋に飛び込んだ短剣は一直線に獲物の巨大な目に飛び込み、身体の中心部までを切り裂いた。
意識を失っていたようだが、突然身体を引き裂く激痛に叫び声をあげるも短剣が心臓を貫き絶命。
それでも耳を劈くような悲鳴はダンジョン中に響き渡った事だろう。
「何の音だ!」
叫び声を聞きつけてカムリ達が慌てて走ってくる。
「ねぇ、こうなるって分かって空気を抜かせたの?」
「本当は弱らせるだけだったんですけど、まぁ結果オーライという事で。」
「ふーん。ねぇ、これで暴れさせてくれるんだよね?」
「もちろんです。これはまだ前座ですから、本番は派手にお願いします。」
「まっかせといて。」
意味深な表情をしていたシルフィーだったが、また無邪気な子供の顔でニコニコと笑い出す。
なにか気に障るような事をしただろうか。
まぁ怒っていないみたいだし、目標は倒せたんだからそれで良いか。
「見ろ!ゴアキュロプスが倒れてるぞ!」
「すげぇ、イナバ様がやったのか?」
「嘘だろ、あれ一人で?いや精霊様がやったのか?」
「精霊様は足止めできないって・・・。」
「じゃあやっぱりイナバ様がやったんだろ。」
様子を見に来た冒険者が倒れているキュプロスを見て大騒ぎをしている。
そういえばこいつはゴア種なんだっけ。
空気を抜いたのはシルフィーなので俺がやったのは短剣をセットしただけ。
それで倒したといって言っていいんだろうか。
「イナバ様!」
「一体何があったんですか、それにこの壁・・・。」
「あ、触らないほうが良いですよ。触ると指が飛びます。」
「ちょっと、シルフィー何やったのよ!」
「何やったのって、彼に言われた通りにしただけだよ。」
「それでゴアキュプロスを倒すって、ちょっと貴方おかしいんじゃないの?」
いや、おかしいんじゃないのって言われても。
魔物を倒した人に向かってそんな言い方ないんじゃないですかねぇメルクリアさん。
「たまたま策が上手くはまっただけです。空気を戻すのに少し時間がかかりますので狭いですがここで小休止にしましょうか。」
「もう戻して良いの?」
「この膜はそのままであとは戻しちゃってください。」
その後空気が戻るまでに半刻程の時間を要した。
時間はかかったが怪我人なしで通り抜けられたことを考えると若干のプラスになったかもしれない。
空気が戻った部屋に入り、魔物が死んでいる事を確認する。
短剣を見つける為に解体していくと、身体の中心部分でそれは見つかった。
随分と勢いよく食い込んだものだ。
これがオリハルコンとかだったら貫通していたかもしれない。
短剣の血をぬぐい鞘に戻す。
「ゴア種までお一人で倒すなんてさすがイナバ様です。」
「私がやったわけじゃありませんよ、シルフィー様のおかげです。」
「それでもあのゴア種ですよ。一人で倒したのはギルドではイナバ様が初めてじゃないでしょうか。」
「無傷で眼球から心臓までを一突きです。並みの冒険者には出来ないでしょう。」
「バーグさんまで。」
「噂では聞いていましたが本当に凄い方ったんですね。」
やめてください。
そんな尊敬のまなざしで俺を見ないで!
「と、ともかく脅威は去りましたがまだもう1階層あります。残りの階層も恐らく先程同様魔物で溢れている事でしょう。二人の為にも急がねばなりません。」
「イナバ様がいれば怖いもの無しだ!」
「そうだよなキマイラなんて敵じゃないぜ!」
「だ、そうだけど本当はアンタ一人で倒せるんじゃないの?」
「リュカさんまでそんな事を言うんですか?」
「だって私が居なくてもシルフィーは言う事聞くみたいだし~?」
「もぅ、そんなにいじけないでよリュカ。もうしないからさぁ。」
自分の精霊が他人の命令を聞いたことにリュカさんがすねてしまった。
それを宥めるシルフィーという構図も中々面白い。
「残念だけど私のエフリーは貴方の言う事を聞かないわよ。」
「そんな、今回はたまたまお力をお借りできただけです。」
「どうだか。」
なんだかメルクリア女史まで不機嫌なんですけど!
困ったなぁ。
とか思っていると斥候に出ていた騎士団員が戻ってきた。
「カムリ様戻りました。」
「状況は。」
「は、降りてすぐは敵影確認できませんでした。ですが・・・。」
「なんだ、はっきり報告しろ。」
「先の通路には大量の魔物の死骸が転がっており、その強い力で壁に叩きつけられたような跡がいくつもありました。もしかしたら凶暴な魔物と殺しあったのかもしれません。」
「大量の死骸が・・・わかった。お前らは後列に合流しろ。」
「ハッ!」
大量の魔物が壁に叩きつけられた跡か。
何もないと良いんだけど。
「報告は聞きましたか?」
「えぇ、魔物は居ないようですね。」
「ですが気を抜けないようです。」
「気を抜かず慎重に進みましょう。」
マップは分かっていても何が起きるかわからない状況だ。
慎重に、でも迅速に。
「さぁ、行きましょう!」
「「「「応!」」」」
助けを待つ二人の為にも、俺達は先に進むしかない。
残る階層はあと一つ、これを越えればいよいよキマイラとの御対面だ。
という感じで慎重かつ迅速に、凶悪な魔物と殺しあったと想定される下層へと挑んだ俺達の目に飛び込んできたのは死体の山。
斥候の報告にあったように壁には叩き付けられた様な血の痕がいくつもあった。
「本当に死んでいるわね。」
「えぇ、ものの見事に。」
「何があったのかしら。」
「さぁ、今は何とも。」
まだ息のある魔物も死骸に押しつぶされ身動きが取れないでいた。
念のためにトドメを刺して先を急ぐも、さっきまでの緊張感はさっぱりなくなってしまった。
「皆殺しですが妙ですね、魔物なら爪痕や噛跡がありそうなものですが。」
「バーグさんもそう思いますか。」
「全て壁に叩きつけられています。それか押しつぶされている。」
「魔法でなら出来なくは無いけど、あの二人は魔法使えないんでしょ?」
「そのはずです。」
ジルさんは癒しの術は使えるが、魔術師的な魔法は使えないはずだ。
もちろんガンドさんも使えない。
「逃げ遅れた冒険者が居る可能性は?」
「それは居ないはずです。」
「となると魔法を使う敵が居ると考えるべきね。」
魔法を使う魔物も居る。
アンデット系のリッチやワイト、コボレートの中にもメイジと名のつくやつは魔法が使えるはずだ。
俺達の知らない冒険者が一人で倒して回ったなんて都合の良い可能性もなくは無いが、じゃあさっきの階層をどうやって抜けてきたんだって話しになる。
転送装置がない以上、ゴアキュプロスと対峙しなければならないわけで。
それを無視してこの階層に来たとは考えられないんだよなぁ。
「魔術師が相手でもこちらには精霊師が居ます、大丈夫でしょう。」
「ちょっと、何勝手に安心してるのよ。」
「大丈夫じゃないんですか?」
「リュカさんと私が居るのよ?大丈夫に決まってるじゃない。」
「なら安心です。」
だって自分で大丈夫って言ったし。
「と、ともかく魔術師相手でも叩くのはあんた達の役目なんだからしっかり壁になってよね!」
「まだ働いていませんのでその時は頑張らせていただきます。」
「そういえばそうでしたね。」
「お役をいただけるはずが一人で倒されてしまいましたから。」
そういえばそんな事を言っていた気がする。
「騎士団長様には相応しい敵が居ますので、そちらで頑張ってください。」
まぁメインイベントはキマイラだ。
そっちで全力を出してもらおう。
奥に進むと多少の敵に遭遇したものの、先程の階層ほど大量の魔物に襲われることは無かった。
怯えて隠れているのかもしれないが、今の俺たちには好都合だ。
気付けば下層前の大部屋。
先程のようにゴア種がいる事もなく、10匹ほどのハイオーグルがたむろしているだけだった。
「上位種とはいえなんだか拍子抜けね。」
「10匹となるとかなり手ごわいはずなのですが、あのキュプロスを見た後では・・・。」
リュカさんとティナさんが何とも言えない顔で魔物を見ている。
「魔術師も居なかったわね。」
「そのようです。」
「さっきのは一体なんだったのかしら。」
「さぁ・・・。」
恐らくこうだろうなって言うのは思いつくんだけど、それを口に出せばまた大騒ぎになってしまうのであえて言うまい。
決してシルフィーが排出した風と、戻ってくる風で魔物が叩き潰されたとは言えるはずがない。
言えば最後、全く知らないところで『さすがイナバ様!』なんていわれてしまうからだ。
「どうしましょう、やれと言われればやれないこともないですが。」
「バーグさん一人で行く必要はありません、全員で行きましょう。」
「もちろん貴方も行くのよね?」
「私は先程頑張りましたので。」
「はいはい、働かない奴はそこで待ってなさい。」
そうしまーす。
「騎士団が先行して撹乱します、バーグ様は反対側からお願いできますか?」
「わかりました。」
「乱戦になったら各自自分の目の前の敵に集中してください。決して一人で戦わず三人以上で叩けば貴方達でも大丈夫です。」
騎士団はともかく中級冒険者からしたら格上の相手になる。
だがそれもタイマンで戦った時の話だ。
数は正義、複数で叩けば戦力差を覆せる。
ティナさんに鼓舞され冒険者たちの目に力がこもる。
「念のため最後尾には何人か残します、お前たちイナバ様を頼んだぞ。」
「お任せください!」
「これより殲滅戦を開始する、臆するな勝利は我らと共にある!」
「「「「我らと共に!」」」」
カムリが抜刀し剣を上に掲げると先行する騎士団員が一斉に抜刀、雄叫びと共に大部屋になだれ込んだ。
突然の襲撃に反応が遅れた手近なオーグルをカムリの剣が一閃。
心臓を一突きにされ一匹目のオーグルが絶命する。
そちらに気を取られている隙にバーグさんが反対側から別のオーグルに襲い掛かり、斧で頭をたたき割ったかとおもうと、引き抜いた勢いで近くにいたもう一匹の首に斧が食い込んでいた。
まさに嵐のような勢いだ。
隠密が得意なのに得物が斧って凶悪すぎませんかね。
乱戦になっても臆することなく戦えるってずるい。
「お、俺達も行くぞ!」
「「「お、おう!」」」
乱戦になった大部屋に冒険者がなだれ込んでいく。
一匹、また一匹とオーグルが沈み気づけば残り三匹ほど。
圧勝だなと気を抜いたその時だった。
「しまった、それは!」
カムリの慌てた声が聞こえたと思ったら突然甲高い笛の音が大部屋中に響き渡った。
大部屋だけではない、その音はすぐにこの階層の隅々にまで響いた事だろう。
カムリの剣が笛を吹いていたオーグルに襲い掛かり音は止まった。
「今のはなんでしょうか。」
「おそらくオーグルが連絡に使う笛だったと思いますが・・・。」
「連絡に?」
護衛役の騎士団員の説明を聞きながら安全圏でのんびり見物としゃれこんでいたその時だった。
「て、敵襲!背後からオーグルが!」
後ろから騎士団員の慌てた声が聞こえ振り向いたその先には、真っ赤な顔で襲い来るオーグルの群れが見えた。
その数10以上。
そうか、あの笛は仲間に救援を求めるためだったのか。
「下がれ、いや下がるな!」
「どうするんだよ!」
「イナバ様は部屋の中に!」
乱戦の続く部屋に突き飛ばされたかと思うと、殿を務めていた騎士団員から怒号が聞こえてきた。
「ガァアアアア!」
「くそ、押し留まれ!」
「無理言うな!何匹いると思ってるんだ!」
この階層に来たときは敵が少ないと思っていた。
だけど違ったんだ、奴らは隠れていただけでいなかったわけじゃない。
おそらくキュプロスの断末魔やその前の大風におびえてダンジョンの隅の方で身を隠していたんだろう。
だから道中で出会う事があまりなかったんだ。
ここにきて殲滅せずに来たのがあだになったか。
前門のオーグルに後門のオーグルって、全部オーグルだよ!
「慌てないで通路を使えば数を凌げます!囲みつつ順に大部屋に引き入れなさい!」
突然の出来事に対応しきれず押し込まれそうになる騎士団員を後ろから押し返す小さな影が一つ。
ティナさんだった。
「ここは私達が!イナバ様は次の階層へ!」
「ですが!」
「この程度の魔物に臆する冒険者ではありません!それに騎士団の皆さんもいますから。」
ここに俺がいたところで何も出来る事はない。
むしろ乱戦になった時に邪魔になるだけか。
「これで最後よ!」
大部屋の奥では最後の一匹が片付いたようだ。
となると対処するべきはなだれ込んでくる入り口のみ。
「死なないでください。」
「そうだ、キマイラの素材は買取対象ですから忘れずに持って帰ってきてくださいね!」
「兄貴を頼みます!」
「姐さんによろしく伝えてください!」
ティナさんの応援に向かう冒険者に背中を押されながら俺はカムリ達の側へ急ぐ。
「行きましょう!」
「でも後ろは!」
「ティナさんたちがひきつけてくれています、彼らを信じるしかありません。」
カムリとしても部下を置いていくのは心苦しいだろう。
「生半可な鍛え方はしていません、彼らなら大丈夫でしょう。」
とか思ったらそうでもなかった。
心配だろうけどそれ以上に部下を、いや仲間を信頼している。
畜生こういう所でもかっこいいな。
「行くわよ!」
「はい!」
乱戦続く戦いの音を背中で聞きながら俺達は目的の階層へとなだれ込んだ。
シルフィーと共に気付かれないようにゆっくりと大部屋へと近づいていく。
離れていた時はわからなかったが、近づくに連れ確かにそこに居る何かの『圧』のようなものを感じ始めた。
近づいてはいけない。
そんな防衛本能からくる警告かなにかだろうか。
一歩がドンドンと重たくなっていく。
「もしかして怖いの?」
「もしかしてもなにも怖いですよ。」
「ダンジョンに潜るくせに怖いだなんて変なの。」
「祝福を戴いてはいますが元はただの商人、魔物にも戦いにも慣れていません。」
「その割には自分で危ない所に行こうとしてるよね。」
仰るとおりです。
怖いくせに自分から危ないことに首をつっこもうとしているんだから困ったものだ。
だからエミリアやシルビア様に怒られるんだよな。
でも仕方ないじゃないか、思いついたのは俺なんだし。
助けに行こうって言い出したのも俺だ。
言いだしっぺの責任って奴ですよ。
ゆっくりと近づき、入口からはじめてみたキュプロスは、想像以上に大きくそして恐怖を感じた。
ゴア種だからとかそういう問題じゃない。
建物の二階を越えるような灰色の巨体に象の足よりも太い腕。
遥か頭上から周りの様子を伺う巨大な一つ目に睨まれたら、ちびらない自信は全くない。
こんなのに戦いを挑もうだなんて、冒険者になる人は頭おかしいんじゃないか。
そんな風にさえ思ってしまう。
恐ろしい。
こんなのとタイマンなんて絶対に無理だ。
「あれだね、随分大きいなぁ。」
「大きいって言う問題じゃないですよ。こんなやつに戦いを挑もうだなんておかしいんじゃないですか。」
「やろうって言ったのは君だよ?」
「いやまぁそうなんですけど・・・。」
「随分と天井が高いね、なるほど入口が狭いからこの部屋からは出れないんだ。なんだかかわいそう。」
かわいそうか。
確かにこいつからしたらこの部屋より他に行く場所は無いんだよな。
もっとも本人がどう思っているかは知らないけど。
「できそうですか?」
「これだけ天井が高ければ出来るんじゃないかな。」
「目標は上三分の一ぐらいの空気を抜くことなんですけど。」
「まぁやってみるよ。」
シルフィーがブツブツと何かを良いながら指を動かすと、部屋の空気が動き出すのが分かった。
最初はソヨソヨとした感じだったがだんだんと大きな音をたてながら風が下の階へと押し出されていく。
キュプロスが不思議そうに周りを見渡すもあの高さからなら入口付近に居る俺達の姿は見えない。
「あれ?」
順調に空気が抜けていると思ったのもつかの間、なぜか背後から部屋に向って風が入り込んでくる。
おかしいな、お願いしたのは部屋の中だけなんだけど・・・。
「あ、そうか抜けば後ろから補充されるよね。すっかり忘れていたよ。」
あぁそうか。
上の空気を抜けば別の場所から空気が補充されるのか。
隔離されているわけじゃないんだから同然だな。
「入口の空気を遮断する事は出来ます?」
「うーん、同時並行は苦手だけど・・・。よいしょっと。」
部屋と通路が繋がる場所に目に見えない薄い膜が張られたのが分かった。
その途端に後ろから吹いてきた風がぴたっと止む。
どうやら成功したようだ。
しかしこの膜、一体どうなっているんだろう。
「触らないほうが良いよ、上から強い風を吹き降ろして遮断してるから指ぐらいなら簡単に切れちゃうし。」
シルフィーの助言に俺は慌てて指を引っ込める。
触る前でよかった。
そういう事は先に言ってほしいんだけどなぁ。
それからしばらく空気を抜く作業を眺めていると少しずつ変化が現れた。
まず見られたのは段々と呼吸が荒くなってソワソワし始める兆候だ。
それから明らかに呼吸が荒くなり目がキョロキョロと動き落ち着かなくなる。
そしてついに立っている事ができなくなりドスンという音と共に膝をついた。
よし、ここまでは成功だ。
「これからどうするの?」
「カムリ騎士団長を呼んで弱点を一突きにしてもらいましょう。」
「それはいいけど、消すと君も一緒に部屋に流れ込む事になるけど構わないんだよね?」
「え?」
「いやさ、上部の空気を抜くはずが気付けば部屋中の空気を抜いちゃったみたいで・・・。」
ちょっと待て。
部屋中の空気を抜いているだって?
「つまり作業を中断しても空気が中に流れ込むのは止まらない?」
「下から戻ってくる空気はあるけど、さっきみたいに後ろから吸い込まれるだろうね。」
それは困った。
それではカムリに突撃してもらう事はできない。
突撃したところでカムリも酸欠になってしまうだろう。
空気は今も排出され続けているのでサイクロプスは先程以上に苦しそうに喘いでいる。
あれか、高い山に登って酸欠になっているような感じなのか。
まてよ。
それならこのまま空気を抜いて弱らせれば良いのでは?
「あの、もっと空気を減らすことってできます?」
「それは部屋中のってことかな?」
「そうです。」
「もちろん出来るけど、何処まで減らすの?」
「そうですね、あの大きいのが動かなくなるぐらいまででしょうか。」
恐怖を感じたあの巨体も酸欠にあえぎものすごく弱弱しくなっているのが分かる。
このまま行けばいずれ見上げるほどの巨体も地に伏すことだろう。
そこまでいけばすぐに元に戻ることは無い。
空気を戻しても弱ったままだろうからそこを叩けば被害は最小限で済む。
よし、これでいこう。
それから空気を抜き続けることしばし。
とうとうキュプロスはダンジョンを揺らしながら床に倒れた。
苦しそうに喉をつかみ、目はあさっての方向を向いている。
だらしなく舌が垂れ下がっている所を見ると気を失ったのだろう。
いや、もしかしたら死んでしまったのかも。
まさかね。
「とりあえず倒れたけど・・・。さっきも言ったけど膜を失くせばすごいことになるよ?」
「わかっています。」
真空までは行かないまでもそれなりに空気の抜かれた部屋だ。
遮断している膜をなくせば、ダンジョン中の空気がそこに集ろうとしてものすごい風が吹く。
そんな事になれば全員が怪我をしてしまうことだろう。
本番を前にそんな危険なことはできない。
じゃあ、どうすれば良いのか。
「一瞬だけ穴を開ける事はで来ますか?」
「まだ何かするの?」
「これを入れようと思いまして。」
俺は腰にぶら下げてあったダマスカスの短剣を抜き、照準を合わせる。
恐らく吸い寄せられるとしたら部屋の中心部に向ってだろう。
幸い弱点の目はこちらを向いたままだし、標的が大きい分外れる可能性も少ないはずだ。
「開けて良い?」
「お願いします。」
外気を遮断する為に吹き降ろされていた風が止み、次の瞬間には身体が持っていかれるような引力を感じた。
慌てて壁にしがみつく頃には風は止んだが、奥から聞こえてきたのは何ともいえない肉を裂く鈍い音。
それと、断末魔の悲鳴だった。
一瞬にして部屋に飛び込んだ短剣は一直線に獲物の巨大な目に飛び込み、身体の中心部までを切り裂いた。
意識を失っていたようだが、突然身体を引き裂く激痛に叫び声をあげるも短剣が心臓を貫き絶命。
それでも耳を劈くような悲鳴はダンジョン中に響き渡った事だろう。
「何の音だ!」
叫び声を聞きつけてカムリ達が慌てて走ってくる。
「ねぇ、こうなるって分かって空気を抜かせたの?」
「本当は弱らせるだけだったんですけど、まぁ結果オーライという事で。」
「ふーん。ねぇ、これで暴れさせてくれるんだよね?」
「もちろんです。これはまだ前座ですから、本番は派手にお願いします。」
「まっかせといて。」
意味深な表情をしていたシルフィーだったが、また無邪気な子供の顔でニコニコと笑い出す。
なにか気に障るような事をしただろうか。
まぁ怒っていないみたいだし、目標は倒せたんだからそれで良いか。
「見ろ!ゴアキュロプスが倒れてるぞ!」
「すげぇ、イナバ様がやったのか?」
「嘘だろ、あれ一人で?いや精霊様がやったのか?」
「精霊様は足止めできないって・・・。」
「じゃあやっぱりイナバ様がやったんだろ。」
様子を見に来た冒険者が倒れているキュプロスを見て大騒ぎをしている。
そういえばこいつはゴア種なんだっけ。
空気を抜いたのはシルフィーなので俺がやったのは短剣をセットしただけ。
それで倒したといって言っていいんだろうか。
「イナバ様!」
「一体何があったんですか、それにこの壁・・・。」
「あ、触らないほうが良いですよ。触ると指が飛びます。」
「ちょっと、シルフィー何やったのよ!」
「何やったのって、彼に言われた通りにしただけだよ。」
「それでゴアキュプロスを倒すって、ちょっと貴方おかしいんじゃないの?」
いや、おかしいんじゃないのって言われても。
魔物を倒した人に向かってそんな言い方ないんじゃないですかねぇメルクリアさん。
「たまたま策が上手くはまっただけです。空気を戻すのに少し時間がかかりますので狭いですがここで小休止にしましょうか。」
「もう戻して良いの?」
「この膜はそのままであとは戻しちゃってください。」
その後空気が戻るまでに半刻程の時間を要した。
時間はかかったが怪我人なしで通り抜けられたことを考えると若干のプラスになったかもしれない。
空気が戻った部屋に入り、魔物が死んでいる事を確認する。
短剣を見つける為に解体していくと、身体の中心部分でそれは見つかった。
随分と勢いよく食い込んだものだ。
これがオリハルコンとかだったら貫通していたかもしれない。
短剣の血をぬぐい鞘に戻す。
「ゴア種までお一人で倒すなんてさすがイナバ様です。」
「私がやったわけじゃありませんよ、シルフィー様のおかげです。」
「それでもあのゴア種ですよ。一人で倒したのはギルドではイナバ様が初めてじゃないでしょうか。」
「無傷で眼球から心臓までを一突きです。並みの冒険者には出来ないでしょう。」
「バーグさんまで。」
「噂では聞いていましたが本当に凄い方ったんですね。」
やめてください。
そんな尊敬のまなざしで俺を見ないで!
「と、ともかく脅威は去りましたがまだもう1階層あります。残りの階層も恐らく先程同様魔物で溢れている事でしょう。二人の為にも急がねばなりません。」
「イナバ様がいれば怖いもの無しだ!」
「そうだよなキマイラなんて敵じゃないぜ!」
「だ、そうだけど本当はアンタ一人で倒せるんじゃないの?」
「リュカさんまでそんな事を言うんですか?」
「だって私が居なくてもシルフィーは言う事聞くみたいだし~?」
「もぅ、そんなにいじけないでよリュカ。もうしないからさぁ。」
自分の精霊が他人の命令を聞いたことにリュカさんがすねてしまった。
それを宥めるシルフィーという構図も中々面白い。
「残念だけど私のエフリーは貴方の言う事を聞かないわよ。」
「そんな、今回はたまたまお力をお借りできただけです。」
「どうだか。」
なんだかメルクリア女史まで不機嫌なんですけど!
困ったなぁ。
とか思っていると斥候に出ていた騎士団員が戻ってきた。
「カムリ様戻りました。」
「状況は。」
「は、降りてすぐは敵影確認できませんでした。ですが・・・。」
「なんだ、はっきり報告しろ。」
「先の通路には大量の魔物の死骸が転がっており、その強い力で壁に叩きつけられたような跡がいくつもありました。もしかしたら凶暴な魔物と殺しあったのかもしれません。」
「大量の死骸が・・・わかった。お前らは後列に合流しろ。」
「ハッ!」
大量の魔物が壁に叩きつけられた跡か。
何もないと良いんだけど。
「報告は聞きましたか?」
「えぇ、魔物は居ないようですね。」
「ですが気を抜けないようです。」
「気を抜かず慎重に進みましょう。」
マップは分かっていても何が起きるかわからない状況だ。
慎重に、でも迅速に。
「さぁ、行きましょう!」
「「「「応!」」」」
助けを待つ二人の為にも、俺達は先に進むしかない。
残る階層はあと一つ、これを越えればいよいよキマイラとの御対面だ。
という感じで慎重かつ迅速に、凶悪な魔物と殺しあったと想定される下層へと挑んだ俺達の目に飛び込んできたのは死体の山。
斥候の報告にあったように壁には叩き付けられた様な血の痕がいくつもあった。
「本当に死んでいるわね。」
「えぇ、ものの見事に。」
「何があったのかしら。」
「さぁ、今は何とも。」
まだ息のある魔物も死骸に押しつぶされ身動きが取れないでいた。
念のためにトドメを刺して先を急ぐも、さっきまでの緊張感はさっぱりなくなってしまった。
「皆殺しですが妙ですね、魔物なら爪痕や噛跡がありそうなものですが。」
「バーグさんもそう思いますか。」
「全て壁に叩きつけられています。それか押しつぶされている。」
「魔法でなら出来なくは無いけど、あの二人は魔法使えないんでしょ?」
「そのはずです。」
ジルさんは癒しの術は使えるが、魔術師的な魔法は使えないはずだ。
もちろんガンドさんも使えない。
「逃げ遅れた冒険者が居る可能性は?」
「それは居ないはずです。」
「となると魔法を使う敵が居ると考えるべきね。」
魔法を使う魔物も居る。
アンデット系のリッチやワイト、コボレートの中にもメイジと名のつくやつは魔法が使えるはずだ。
俺達の知らない冒険者が一人で倒して回ったなんて都合の良い可能性もなくは無いが、じゃあさっきの階層をどうやって抜けてきたんだって話しになる。
転送装置がない以上、ゴアキュプロスと対峙しなければならないわけで。
それを無視してこの階層に来たとは考えられないんだよなぁ。
「魔術師が相手でもこちらには精霊師が居ます、大丈夫でしょう。」
「ちょっと、何勝手に安心してるのよ。」
「大丈夫じゃないんですか?」
「リュカさんと私が居るのよ?大丈夫に決まってるじゃない。」
「なら安心です。」
だって自分で大丈夫って言ったし。
「と、ともかく魔術師相手でも叩くのはあんた達の役目なんだからしっかり壁になってよね!」
「まだ働いていませんのでその時は頑張らせていただきます。」
「そういえばそうでしたね。」
「お役をいただけるはずが一人で倒されてしまいましたから。」
そういえばそんな事を言っていた気がする。
「騎士団長様には相応しい敵が居ますので、そちらで頑張ってください。」
まぁメインイベントはキマイラだ。
そっちで全力を出してもらおう。
奥に進むと多少の敵に遭遇したものの、先程の階層ほど大量の魔物に襲われることは無かった。
怯えて隠れているのかもしれないが、今の俺たちには好都合だ。
気付けば下層前の大部屋。
先程のようにゴア種がいる事もなく、10匹ほどのハイオーグルがたむろしているだけだった。
「上位種とはいえなんだか拍子抜けね。」
「10匹となるとかなり手ごわいはずなのですが、あのキュプロスを見た後では・・・。」
リュカさんとティナさんが何とも言えない顔で魔物を見ている。
「魔術師も居なかったわね。」
「そのようです。」
「さっきのは一体なんだったのかしら。」
「さぁ・・・。」
恐らくこうだろうなって言うのは思いつくんだけど、それを口に出せばまた大騒ぎになってしまうのであえて言うまい。
決してシルフィーが排出した風と、戻ってくる風で魔物が叩き潰されたとは言えるはずがない。
言えば最後、全く知らないところで『さすがイナバ様!』なんていわれてしまうからだ。
「どうしましょう、やれと言われればやれないこともないですが。」
「バーグさん一人で行く必要はありません、全員で行きましょう。」
「もちろん貴方も行くのよね?」
「私は先程頑張りましたので。」
「はいはい、働かない奴はそこで待ってなさい。」
そうしまーす。
「騎士団が先行して撹乱します、バーグ様は反対側からお願いできますか?」
「わかりました。」
「乱戦になったら各自自分の目の前の敵に集中してください。決して一人で戦わず三人以上で叩けば貴方達でも大丈夫です。」
騎士団はともかく中級冒険者からしたら格上の相手になる。
だがそれもタイマンで戦った時の話だ。
数は正義、複数で叩けば戦力差を覆せる。
ティナさんに鼓舞され冒険者たちの目に力がこもる。
「念のため最後尾には何人か残します、お前たちイナバ様を頼んだぞ。」
「お任せください!」
「これより殲滅戦を開始する、臆するな勝利は我らと共にある!」
「「「「我らと共に!」」」」
カムリが抜刀し剣を上に掲げると先行する騎士団員が一斉に抜刀、雄叫びと共に大部屋になだれ込んだ。
突然の襲撃に反応が遅れた手近なオーグルをカムリの剣が一閃。
心臓を一突きにされ一匹目のオーグルが絶命する。
そちらに気を取られている隙にバーグさんが反対側から別のオーグルに襲い掛かり、斧で頭をたたき割ったかとおもうと、引き抜いた勢いで近くにいたもう一匹の首に斧が食い込んでいた。
まさに嵐のような勢いだ。
隠密が得意なのに得物が斧って凶悪すぎませんかね。
乱戦になっても臆することなく戦えるってずるい。
「お、俺達も行くぞ!」
「「「お、おう!」」」
乱戦になった大部屋に冒険者がなだれ込んでいく。
一匹、また一匹とオーグルが沈み気づけば残り三匹ほど。
圧勝だなと気を抜いたその時だった。
「しまった、それは!」
カムリの慌てた声が聞こえたと思ったら突然甲高い笛の音が大部屋中に響き渡った。
大部屋だけではない、その音はすぐにこの階層の隅々にまで響いた事だろう。
カムリの剣が笛を吹いていたオーグルに襲い掛かり音は止まった。
「今のはなんでしょうか。」
「おそらくオーグルが連絡に使う笛だったと思いますが・・・。」
「連絡に?」
護衛役の騎士団員の説明を聞きながら安全圏でのんびり見物としゃれこんでいたその時だった。
「て、敵襲!背後からオーグルが!」
後ろから騎士団員の慌てた声が聞こえ振り向いたその先には、真っ赤な顔で襲い来るオーグルの群れが見えた。
その数10以上。
そうか、あの笛は仲間に救援を求めるためだったのか。
「下がれ、いや下がるな!」
「どうするんだよ!」
「イナバ様は部屋の中に!」
乱戦の続く部屋に突き飛ばされたかと思うと、殿を務めていた騎士団員から怒号が聞こえてきた。
「ガァアアアア!」
「くそ、押し留まれ!」
「無理言うな!何匹いると思ってるんだ!」
この階層に来たときは敵が少ないと思っていた。
だけど違ったんだ、奴らは隠れていただけでいなかったわけじゃない。
おそらくキュプロスの断末魔やその前の大風におびえてダンジョンの隅の方で身を隠していたんだろう。
だから道中で出会う事があまりなかったんだ。
ここにきて殲滅せずに来たのがあだになったか。
前門のオーグルに後門のオーグルって、全部オーグルだよ!
「慌てないで通路を使えば数を凌げます!囲みつつ順に大部屋に引き入れなさい!」
突然の出来事に対応しきれず押し込まれそうになる騎士団員を後ろから押し返す小さな影が一つ。
ティナさんだった。
「ここは私達が!イナバ様は次の階層へ!」
「ですが!」
「この程度の魔物に臆する冒険者ではありません!それに騎士団の皆さんもいますから。」
ここに俺がいたところで何も出来る事はない。
むしろ乱戦になった時に邪魔になるだけか。
「これで最後よ!」
大部屋の奥では最後の一匹が片付いたようだ。
となると対処するべきはなだれ込んでくる入り口のみ。
「死なないでください。」
「そうだ、キマイラの素材は買取対象ですから忘れずに持って帰ってきてくださいね!」
「兄貴を頼みます!」
「姐さんによろしく伝えてください!」
ティナさんの応援に向かう冒険者に背中を押されながら俺はカムリ達の側へ急ぐ。
「行きましょう!」
「でも後ろは!」
「ティナさんたちがひきつけてくれています、彼らを信じるしかありません。」
カムリとしても部下を置いていくのは心苦しいだろう。
「生半可な鍛え方はしていません、彼らなら大丈夫でしょう。」
とか思ったらそうでもなかった。
心配だろうけどそれ以上に部下を、いや仲間を信頼している。
畜生こういう所でもかっこいいな。
「行くわよ!」
「はい!」
乱戦続く戦いの音を背中で聞きながら俺達は目的の階層へとなだれ込んだ。
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