悪女は黒薔薇を愛でる

バオバブの実

文字の大きさ
2 / 19

出会い

しおりを挟む
 辺りはすっかり暗くなったのにここは昼間なのかと思わすほどの煌びやかな光を放っている屋敷があった。
 デュラン邸はそこらの貴族の屋敷よりはるかに広く絢爛豪華である。
 クレマンは軽いめまいを覚えた。
「大丈夫か?強行スケジュールだったかな?」
 エンゾが心配そうに覗き込んだ。
「平気だ。そういうことじゃないんだ」
 確かに豪華だがギラギラし過ぎなのだ、クレマンはそう思いながら
「成金趣味だな」
 とだけ返した。
 エンゾはあぁそういうことかと合点がいったようで苦笑していた。

 パーティー会場はもっと派手で賑やかだった。絶えず音楽が流れて着飾った男女の話し声や笑い声が大音量であった。
「悪い、クレマン。あそこに知り合いが。ちょっと挨拶してくる」
 エンゾは行ってしまった。
 ひとり取り残されどうしたものかと考えた時、逃げるようにバルコニーへ出ていく人影を見た。
 (あれは?)
 クレマンが急ぎ追いかけるとやはり時の人、ルシファンヌであった。
 ウェディングドレスとはまた違ったブラックのドレスにブラックベールであった。ただ式の時と違ってベールは上げていた。
「…大丈夫ですか?」
 あまりの美しさに息を飲みクレマンがやっと発した言葉がなんだか間の抜けたこれだった。
「ええ、ありがとうございます。ちょっと人に酔ってしまいました」
 いつまでも聞いていたい甘い声であった。
「…申し遅れました。私はクレマン・ベルクールです。この度はおめでとうございます…ん?失礼、めでたくはないか、しかし…」
 クレマンが挨拶に困っていると
「ふふ、何だかややこしいでしょう?だから延期してと頼んだのに、ロイクは本当にせっかちで。…悲しいこともありましたが、おめでたいことには違いありませんわ」
 彼女は少し悲しげに微笑んだ。
 クレマンはまずいことを言ったようだ、間が持たないと思った時、ルシファンヌが黒薔薇を手にしている事に気がついた。
「見事な黒薔薇ですね。黒といっても深紅の薔薇が多いがこれは漆黒と言っていいほどの黒薔薇だ。艶やかで気品のある薔薇ですね」
「まあ!あなた薔薇はお好きで?」
 ルシファンヌの反応にクレマンはたじろいだ。人並みには好きだがそんなに詳しくはなかった。
「わがレジェ男爵家は薔薇の栽培を生業としてますのよ。この黒薔薇は長年かかった悲願の薔薇なのです」
 彼女は今度は心底楽しげな笑みを見せた。
 クレマンはそんな話は出なかったなとエンゾの会話を思い出していた。待てよ!全焼だと言っていた、薔薇は?
「薔薇は?どうなったのです?火事で焼けてしまっ…」
 そこまで言ってハッとした。火事は禁句だ!
 と。
「あの日、デュラン邸でも薔薇を育てようと何株か運んだのです。三分の一くらい。後は燃えてしまいました」
「そうですか…」
 しばらく沈黙が続いたその時
「こんなところで何をしている!」
 ロイク・デュランが真っ赤な顔をして立っていた。
 クレマンはこんなところにふたりきりでいたら誤解して当然だ、なんとか誤解を解かないと思いできるだけ穏やかに話した。
「奥方が具合が悪そうだったのでそちらにお連れしようとしたところです。…自己紹介が遅れました。わたくしベルクール伯爵家嫡男クレマンと申します。…この度はおめでとうございます」
「なっ、あのベルクール伯爵の御令息でしたか!これは失礼しました。お噂は予々、ご留学されていると伺いましたがお戻りでしたか」
「ええ、今日帰ったばかりです」
「そうでしたか。こちらこそご挨拶が遅れました。ロイク・デュランと申します。ベルクール伯爵とは懇意にさせてもらっています。以後お見知りおきを」
 ロイクは商売人らしくすぐ態度を軟化させ、商売用の笑顔になった。
「ルシファンヌ、大丈夫か?」
 ロイクは機嫌良く声をかけた。
「ええ、少し夜風にあたったら良くなったわ。人に酔ってしまったの」
 彼女はそう言って甘えるようにロイクの腕にしがみついた。
「ねぇロイク!クレマン・ベルクール様は素晴らしい人よ。わたくしの体調を気遣うだけでなくこの薔薇を褒めてくれたのよ。それに火事で薔薇は無事だったか聞かれたの。そんなこと今まで誰も言わなかったわ」
「ほう、薔薇に興味がお有りで?」
 ロイクが意外そうにクレマンを見た。
 クレマンは恥ずかしくなり
「いえ…この見事な薔薇が全部燃えてしまってはと思っただけです。無遠慮に火事の話など持ち出して申し訳なく思っています」
 と言って俯いた。
「…少しでも薔薇がデュラン邸に移っていてよかった。今我が家に薔薇園と温室を建てているところです」
 ロイクがため息混じりに言った。すると
「ロイク!完成したらクレマン様を招待しても良いかしら?」
 ルシファンヌが良い事を思いついたとばかり声をあげた。
「ああ、それはいい!私の先の無礼のお詫びにぜひ」
 ロイクは初めに嫉妬して怒鳴ったことを少し恥じているようだった。
 クレマンは正直ルシファンヌとは話してみたいがいくらなんでも図々しいだろうと思っていたら
「彼女の笑顔を久々に見ました。ぜひお願いします」
 と、ロイクに押されたので
「それでは薔薇を見せて頂きたく思います」
 つい了承してしまった。
「薔薇園と温室はもうすぐ完成します。そうしたらお知らせしますね」
 ルシファンヌはとびきりの笑顔を見せた。
クレマンにとって忘れられない笑顔となった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

真実の愛は水晶の中に

立木
恋愛
学園の卒業を祝うパーティーの最中、レイシア・マレーニ侯爵令嬢は第三王子とピンク髪の女、その取り巻きたちによって断罪されようとしていた。 しかし断罪劇は思わぬ方向へ進んでいく。 ※AIイラスト使用 ※「なろう」にも重複投稿しています。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように

柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」 笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。 夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。 幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。 王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。

あなたの隣は私ではないけれど、それでも好きでいてもいいですか、レオナルド様

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢エリアーナには、三年間ずっと抱えてきた秘密がある。 婚約者であるヴァルフォード公爵・レオナルドへの、誰にも言えない恋心だ。 しかし彼の隣にいるのは、いつも幼馴染の伯爵令嬢・ソフィア。 儚げな笑顔と上目遣いで男性を虜にするあざとい彼女に、レオナルドも例外ではないようで—— 「レオ、私のこと嫌いにならないでね?」 「……そんなことにはならない」 また始まった二人の世界。

遺産は一円も渡さない 〜強欲な夫と義実家に捨てられた私、真の相続人と手を組み全てを奪い返す~ (全10話)

スカッと文庫
恋愛
「お前の価値なんて、その遺産くらいしかないんだよ」 唯一の肉親だった祖父を亡くした夜、夫の健一と義母から放たれたのは、あまりにも無慈悲な言葉だった。 四十九日も待たず、祖父が遺した1億2000万円の遺産をアテに贅沢三昧を目論む夫。だが、彼には隠し通している「裏切り」があった――。 絶望の淵に立たされた由美の前に現れたのは、亡き祖父が差し向けた若き凄腕弁護士・蓮。 「おじい様は、すべてお見通しでしたよ」 明かされる衝撃の遺言内容。そして、強欲な夫たちを地獄へ叩き落とすための「相続条件」とは? 虐げられてきた妻による、一発逆転の遺産争奪&復讐劇がいま幕を開ける!

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

処理中です...