悪女は黒薔薇を愛でる

バオバブの実

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衝撃的なニュース

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 数週間後
 エンゾはクレマンの屋敷を訪ねた。
「おい、聞いたか⁈」
「何だ?朝っぱらから…」
 クレマンはまだ眠い目をこすりながらエントランスに降りてきた。
「…昼近いぞ、それよりこれ」
 エンゾは持っていた新聞を手渡した。
「ロイクが死んだ」
「⁈」
 新聞によると3日ほど前の事らしい。ロイクの死は不審死として王都騎士団が調査に当たった。デュラン銀行頭取のロイクは平民だが街の名士だ、このような急死は見過ごせないのであろう。
「事の初めは真夜中の夫人の悲鳴。執事とメイドが駆けつけたところ、寝室にて全裸で仰向けで倒れているロイクを発見。夫人も全裸で呆然としてベッドの上に座っていた。聞くと突然苦しみ出し倒れてしまったとの事。胸を掻きむしった形跡があり持病の心臓の発作であろうと思われる。しかし死の直前ロイクとふたりきりだということで夫人のルシファンヌが取り調べを受けた」
 ここまで読んでクレマンは
「これって…」
「そう、心臓発作ということだが、要は“腹上死”ってやつよ」
 エンゾの『腹上死』という言葉を聞いてクレマンは少し嫌な気分になった。
「まあ、若い子を嫁にもらってはりきり過ぎたということかな。男のロマンだ、うん」
 エンゾは腕組みをしなからわかったようなことを言った。そして
「あの女には死が付き纏う。おまえ、もう会いに行ったりするなよ」
 厳しい口調でこう言った。
 その言葉にクレマンはどきっとした。あれから何回か会いに行っていたからだ。
「まさかとは思うがその死んだ日に会ってたりしないだろうな?」
 会っている。その時もらった薔薇がそこに飾られている。
「はあー何考えているんだ?不倫か?」
 エンゾはため息混じりに聞いた。
「…いや、一線は超えてない」
 クレマンは首を振った。
「もう病死で方がついたから当局から調べられることはないと思うが…とにかく関わり合いを持つな!」
 エンゾは最後は怒鳴っていた。
 クレマンはエンゾの言っていることはわかるがさっきから怒りすぎだと思っていた。
 どうも様子がおかしい。
「…おまえの目を覚まさせるためにも調べた事を話すよ」
 エンゾは神妙な顔をして話し始めた。



 まずシャルルの話をする前にルシファンヌ自身の話をしなければならない。
 ルシファンヌは街のはずれの小さな孤児院で育った。5才の時レジェ男爵が引き取ったんだ。父親はシャルル・レジェだが、母親は街の平民の娘。生まれた時は見向きもしなかったそうだ。母親は産後の肥立が悪く亡くなってしまった。その時レジェ男爵は引き取る気もなかったので孤児院に送られた。
 ところが何年経ってもレジェ夫妻にこどもができない。夫人は遠縁の男の子を養子に迎えようとしたが、男爵が自分の血を分けた子どもがいいと思ったのだろう。ルシファンヌを引き取り、成長したのち婿養子を取ろうという話になった。
 夫人は最後まで反対したそうだ。
 当然夫人とルシファンヌとの仲は最悪、父親である男爵ももとより愛情なんてない。
 ただ薔薇の知識を詰め込む毎日だった。


 さあ、ここで“庭師シャルル”の登場だ。
 といっても庭師はその父親でシャルルは見習いにすぎないが…
 薔薇の世話にと雇った父子だがシャルルは子どもだったにも関わらず品種改良の才能があった。それでレジェ男爵とルシファンヌ、シャルルは品種改良の実験でよくいっしょだったというわけだ。
 ルシファンヌとシャルルは同じ歳、恋仲だとしてもおかしくない。



 …ここまで聞いてやはりクレマンはシャルルに嫉妬を覚えた。
「だから…調べなくていいと言ったのに。嫌な気しかないよ、エンゾ」
「待て!話はここからだ!シャルルの急死前後からレジェ男爵とルシファンヌの言い争いが絶えなかった。薔薇の改良もなぜか失敗ばかり。次第に困窮していった。そして今年身を売られるようにしてルシファンヌはロイクと結婚した。彼女にとって男爵は恨みこそあれ愛情なんてこれっぽっちもない。クレマン、俺はあの火事はルシファンヌの放火なんじゃないかと思っている」
 エンゾはそう言い切るとため息を吐いた。
 クレマンは思いもよらない言葉に
「何を馬鹿な!」
 と叫ぶのが精いっぱいだった。
「…確証はないさ。だけど調べれば調べるほど怪しい。ルシファンヌは怖い女だ。おまえの手には負えないさ。だから関わるな」
 エンゾは最後にこれだけ言うと部屋をあとにした。

 残されたクレマンは混乱していた。
 ある意味新聞以上の衝撃を受けた。
 そんなはずない!ルシファンヌは哀れな女なんだ!
 惚れ込んでいるクレマンにはエンゾの忠告は逆効果だった。
 ルシファンヌに直接聞こう!クレマンの思いは一挙に会うことに傾いた。
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