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第二話 いざ、人間界へ
しおりを挟む––––––天使城。
「––––––ではケルビム、天界の方は任せましたよ」
セラフィーの目の前で頭を下げる一人の天使。
「はっ、お任せ下さいませ、セラフィー様! この第二始祖ケルビムが必ず天界をお守り致します」
一切不安の言葉を口にせず、力強く、頼もしい言葉を告げた大人の男子、ケルビム。
天界にして二番目の実力者である為、セラフィーの右腕でもある。
天界の者に対しては誠実で優しく、人一倍仲間思いでもある為、周りからは目指すべき手本となり、憧れを抱く存在でもある。
だがこの世界でも、いくら神とはいえど、誰しも一つは欠点がある。
ケルビムは責任意識が強すぎる故、それが過剰に作用してしまい『心配性』という欠点がある。
王の側近ともあれば尚更だ。
「ですが、本当にお一人で宜しいのですか? セラフィー様に何か危害が加わるような事態が起きないか不安で不安で仕方がありません」
「ケルビム、心配して下さるのはとても嬉しいですが、そのような必要はありません。それよりも、どうか私の不在の間は天界……、いえ、天魔郷の方を心配なさって下さい」
「––––––ですが」
「私はこれでも王です。どうか、私を信じて下さい」
心配で仕方がないケルビムの手を優しく包み安心の気持ちにさせるセラフィー。
ケルビムは王の言葉を信じる気持ちも大事だという事をこの場で悟り、自分の事を戒めた。
「……分かりました。どうかお気をつけて、いってらっしゃいませ」
「ありがとうございます、ケルビム」
「何かありましたら直ぐにご連絡を下さい。光の速さでセラフィー様の元に駆け寄りますので」
セラフィーに包まれていた手を、今度は逆に包み返すケルビム。
それを見たセラフィーは温かい目でお礼を告げる。
「ふふっ、ありがとうございます。––––––では、行って参ります」
踵を返し、羽を大きく広げ、天魔郷から飛び降りるセラフィー。
両手を広げ、向かってくる風を上手くコントローラーしながら人間界の地上へと降りて行く。
銀髪と洋服が後ろに勢いよく乱れるも、一向に気にしない。
それよりも、今は楽しみの気持ちで胸がいっぱいだった。
そのせいで、思わず顔がニヤけてしまう。
「さて、ルシフェルは何処にいるのでしょう」
喜びが詰まったその言葉は、風の音と共に綺麗な青空へと消えていった。
★
––––––悪魔城。
「––––––ではベルゼ、魔界の方は任せたぞ」
ルシフェルの前で頭を下げる一人の悪魔。
「はい、お任せ下さい、ルシフェル様。この第二始祖ベルゼが必ず魔界をお守り致します」
一切不安の言葉を口にせず、力強く、頼もしい言葉を告げた大人の女性、ベルゼ。
魔界にして二番目の実力者である為、ルシフェルの右腕でもある。
魔界の者に対しては誠実で優しく、人一倍仲間思いでもある為、周りからは目指すべき手本となり、憧れを抱く存在でもある。
だがこの世界でも、いくら神とはいえど、誰しも一つは欠点がある。
ベルゼは責任意識が強すぎる故、それが過剰に作用してしまい『心配性』という欠点がある。
王の側近ともあれば尚更だ。
「ですが、本当にお一人で宜しいのですか? ルシフェル様に何か危害が加わるような事態が起きないか不安で不安で仕方がありません」
「ベルゼ、心配してくれるのは嬉しいが、そのような必要はねぇ。それよりも、俺が不在の間は魔界……、いや、天魔郷の方を心配してやってくれ」
「––––––ですが」
「俺はこれでも王だ。信じろ」
心配で仕方がないベルゼの手を優しく包み安心の気持ちにさせるルシフェル。
ベルゼは王の言葉を信じる気持ちも大事だという事をこの場で悟り、自分の事を戒めた。
「……分かりました。どうかお気をつけて、いってらっしゃいませ」
「ありがとな、ベルゼ」
「何かありましたら直ぐにご連絡を下さい。闇の速さでルシフェル様の元に直ぐ駆け寄りますので」
ルシフェルに包まれていた手を、今度は逆に包み返すベルゼ。
それを見たルシフェルは温かい目でお礼を告げる。
「フッ、ありがとな。––––––じゃ、行って来るわ」
踵を返し、羽を大きく広げ、天魔郷から飛び降りるルシフェル。
両手を広げ、向かってくる風を上手くコントローラーしながら人間界の地上へと降りて行く。
黒髪と洋服が後ろに勢いよく乱れるも、一向に気にしない。
それよりも、今は楽しみの気持ちで胸がいっぱいだった。
そのせいで、思わず顔がニヤけてしまう。
「さて、あのバカは何処にいるんだ?」
喜びが詰まったその言葉は、風の音と共に綺麗な青空へと消えていった。
★
––––––人間界。
「ヘぇ、ここが人間達の住む世界か……」
ビルの屋上から景色を見渡すルシフェル。
レールの上でガタンゴトンと音を鳴らしながら走っている物、数々の料理や洋服を販売しているお店、そして、見慣れない人間達の数々。
その他諸々。
俺は天魔郷とまるっきり違った世界観に思わず見惚れてしまっていた。
自分の見た事のない、知らない事だらけの世界。
それが引き金となって心の底から好奇心がこみ上がり、胸が高まってしまう。
「ルシフェル~!」
遠くから聞こえてくる女の声。
その声を聞いて誰なのか直ぐに分かった。
そのせいで、俺の胸は更に高まってしまう。
「えいっ」
「うおっ!?」
セラフィーはこちらに向かってくるスピードを減速する事なく、そのまま俺の胸に突っ込んできた。
俺はなんとか胸でセラフィーの体ごと受け止める事に成功する。
「お、おまっ、あぶねーだろ!」
「えへへっ~、ルシフェルならキャッチしてくれると信じていましたから」
まるで甘えてくるペットのように頭をグリグリしながら喜びを表すセラフィーに俺は……俺は悶絶してしまう。心の中で。
(ちくしょう、なんだよこいつ! 可愛すぎだろ!)
本来なら頭を撫で撫でしてやりたい所だが、悪魔の王というプライドが働いてしまい、その行いは抑制されてしまう。
そして勿論、俺は下心がバレないように平常心を装ってしまう。
「分かったから、一旦離れろ」
「それはまたくっついて良いって事ですか?」
「バッッッ!! ちげーよ!」
言葉は拒否しているが、体がそれを許さないでいる。
「ふふっ、素直じゃないですね~」
セラフィーから漂う甘い香りが俺の平常心を掻き乱そうとしてくる。
それでも何とか欲に抗う為に、俺は全身に力を入れて耐える。
(互いに抱き寄せあっている光景を客観的に見たら、俺達は相反の種族ながら恋人に見えるのだろうか……)
そんな思いが心の中で呟かれ、俺はハッとなってしまう。
(そうだ! 監視––––––)
慌てながらキョロキョロと周囲を見渡すも、ここは人間界で監視の目がない事に気づき一安心する。
「どうかしました?」
「いや、今まで天魔郷にしか居た事ないから、つい監視の目を気にしてしまってな」
「……ルシフェルは一度も人間界に来た事なかったのですね」
「そういうお前はどうなんだ?」
「私も数回しか来た事はありません」
「……お前が良く謎の代物を持っているのって……」
「はい、人間界から持って来た者です」
セラフィーは天魔郷で争い事が起こると、いつも謎の代物を持ってくる。
最近で言えば、ピコピコハンマーと簡易ヘルメットを使った、その名も『叩いて被ってジャンケンポン』だ。
セラフィーが持ち出してくる代物は、いずれも天魔郷には存在しないものばかり。
だから争い事をしている神々達も興味津々になり、自ずと好奇心が湧き上がり始め、それを使って争い事を解決し始める。
これが天界の王セラフィーが考えた平和的解決方法なのだ。
「なるほど。そりゃあ見かけない筈だわ……」
「でも、皆さん楽しんでいる様子なので良かったです」
「––––––で? これからどうするんだよ。俺は人間界の事など全く知らねーぞ」
「聞いた話ですと、人間界では衣食住がしっかりなさっていれば生きていく上では困らないそうですよ」
「イショクジュウ? なんだ、その呪文みたいな言葉は」
セラフィーは一つ一つ説明する度に指を立てていく。
「簡単に言いますと、服があって––––––」
「ふむ」
「食料があって––––––」
「ふむふむ」
「住む場所があるという事です」
説明が終わると、ルシフェルは腕を組みながら二回頷き、理解した素振りを見せる。
「なるほど。天魔郷の生活と大して変わらないではないか」
「言ってしまえばそうですね」
「なら早速、先ずは家を探す事にしよう」
★
「ほう、これなんて良いんじゃないか?」
ルシフェルが気に入ったらしい家に指を向ける。
その家は大家族が住む大きな一軒家。
二人で住むには勿体ないうえ、スペースが余分に空く事間違いなしの造り。
中を覗かなくとも、外見だけでそう予測が立てられる程。
セラフィーも両手を合わせ、気に入った様子を見せる。
「まぁ! 立派なお家ですこと。これにしましょうか」
「フッ、そうだな。では早速中に––––––」
「ああ、お客様!」
二人で中に入ろうとした時、背後から俺達に声を掛けられ、此方に駆け足で向かってくる。
呼び方からして、不動産の人である事が分かる。
「……なんだ」
「もしかして、中を拝見してみたい感じですか?」
「拝見……まぁそうだな。この家に住もうとしていた所だ」
「なるほど、そうでしたか! 私はこの物件を取り扱っている鈴木裕也と申します」
明るい笑顔で名刺を丁寧に渡された後中を見学し始める。
俺達が知らない家の特徴を丁寧に説明されながら、一つ一つ隅々まで歩き回り始める。
見学が終わり、家から出る俺達と店員。
何やら『契約』をするらしく、それを行う場所に移動するよう言われ、店員の後を付いていく。
先程の一軒家に比べ大分小さな建築物に足を踏み入れた俺達は、机を挟んで手前に二つ椅子が用意されているので、そこに腰を下ろし始める。
幅がやや狭い為か、俺とセラフィーの翼がぶつかってしまう。
「すまん」
「いえ、此方こそ」
ちょっとだけ気まずい空気が漂ってしまうが、先程の店員が俺達の前に姿を現して話を始めたので直ぐに払拭される。
「いや~、本日はお越し頂き誠にありがとうございます! あのお家を選ぶなんて、お客様とても見る目があると思いますよ!」
俺は腕を組んで偉そうな態度を向ける。
「当然だ。伊達に王の座に居座っているわけではない」
「オウ?」
「ルシフェル」
「ん?」
セラフィーは慌てながらも小声で『ここは人間界ですので、呉々も気を付けて下さい』と、耳元で囁かれる。
俺も額に手を当て、『そうだった』と反省の意を示す。
「……お二人方はコスプレの何か、ですか?」
店員から向けられた人差し指に目を向けると、それは自然と翼に目が行った。
天魔郷で住んでいた俺達にとって翼は人間界で言えば手足みたいなものなので違和感を生じる事はなかったが、どうやら人間界では翼はそういうものではない。
「ま、まぁそんなところだ」
(コスプレって何だ!?)
(コスプレって何の事でしょう?)
人間界の言葉はよく分からない。
俺達が知らない言葉を平気で発する事に顔が引きつって仕方がない。
人の姿で翼を生やしているのなんて、俺達の世界では常識でも人間界では非常識なのかもしれない。
「なるほど、コスプレイヤーの人でしたか! 見事な出来栄えですね! 本当に天使と悪魔がいるみたいですよ!」
「……フッ、ま、まぁな」
「––––––では、早速本題に移らせて頂きますね」
そういうと、店員は俺達の前に紙切れ数枚が束ねられた契約書と書かれた物を差し出してきた。
俺はそれを見て、眉間を寄せる。
「なんだ、これは?」
「はい、此方は家を買う為の契約書です」
「買う、だと? 何か代償を払えという事なのか?」
「代償と言いますか……一応、費用として前払い金をお支払う形になっておりまして」
「タダでは住めないのか?」
「そんな! タダでは住めませんよ!」
店員は声を荒げ、目玉が飛び出るかのように驚きの表情を見せる。
それに動じる事なく、俺とセラフィーはきょとんと静観していた。
「え、もしかして、本当に住めると思っていた感じですか?」
「ああ」
即答。
「……失礼ながらお聞きしますが、お金のご用意は」
「していない。ていうか、持ってない」
軽くずっこける素振りを見せた店員は差し出した契約書を手元に戻し、大きくため息をついた後残念そうに告げる。
「お客様、お金を支払えないようでしたら家に住む事など出来ませんよ」
「そうなのか!?」
「そうです! なので、このお家に希望でしたお支払い出来るだけの十分なお金をご用意下さい!」
なんでこんな常識的な事を言わないといけないんだという表情が窺える。
相手の心を読み取った俺とセラフィーは、住めないと分かった時点でこの場にいる必要はないと感じ席を外した。
『また、お越しくださいませ』と丁寧に腰を折りながら二人を見送る店員。
店員は何かに気づき、ハッとなる。
「あの二人、お金がないのにどうやって生活しているんだ?」
★
あれから俺達は数件程住まい探しに不動産に出向いたが、どこも受け入れて貰えなかった。
やはり、お金が足りない事が原因であった。
「なぁ、セラフィー」
「なんでしょう?」
店員の言っていたお金がなんなのか疑問を持ったルシフェルは、度々人間界に足を運んでいたセラフィーなら何か知っていると思い質問する事にした。
「お金って持っているか?」
「持ってないです」
「じゃあ、お金ってなんだ?」
「知らないです」
「……お金を見た事は」
「ないです」
「…………」
子供のように淡白で素直に回答してくれるのは良いんだが、回答から何も得られない事に何だか拍子抜けになってしまう。
「どうやら、人間界ではお金がないと十分な生活を送れない仕様になっているらしいな」
「お金、ですか」
「ああ、セラフィーの言っていたイショクジュウとやらも、全てお金が関わっているに違いない」
「そんな、今の私達にお金なんてものはありませんよ」
「フッ、俺に任せろ」
自信満々な顔で何か思いついたルシフェル。
希望の光が見えたように感じたセラフィーは顔の表情が明るくなる。
「おいお前、金をよこせ」
ルシフェルは通り掛かった若い大人の男性の胸ぐらを掴み、お金を貰おうとしていた。
「ちょっと、ルシフェルー!?」
顔を青ざめるセラフィー。
ルシフェルがとったその行動は恐喝そのもので、天使としてその行いを見過ごすわけにはいかず慌てて止めに入る。
「あん? なんだよ?」
「なんだよ、じゃありません。今直ぐその手を離してください」
「……ったく、もうすぐ金という物を手に入れられそうだったのによぉ」
まさに人を不幸にするような悪魔らしき行動をとったルシフェル。
客観的に見れば誰が見てもそう見えるものの、ルシフェルは悪気があってそのような行動をとったわけではない事をセラフィーは感じ取れていた。
だから、セラフィーもそれ以上申し出ない。
ルシフェルは仕方が無く、胸ぐらを掴んでいた手をパッと離すと、掴まれていた若い男性の大人は尻もちをついて落ちてしまう。
『イテッ』っと声を発し、それを心配して駆け寄ったセラフィーは目線を合わせ、怪我がないかを確認した。
「申し訳ございません。お怪我はありませんでしたか?」
心配そうに相手の目を見つめるセラフィーは、本当に天使らしく優しい気遣いのある行動であった。
だが、その善良ある行動によってセラフィーに危機が訪れてしまう。
「きゃっ!」
「セラフィー!」
ルシフェルが胸ぐらを掴んでいた若い大人の男性は素早くセラフィーの首を抑え、胸ポケットから銃を取り出し、発泡口をセラフィーの頭に当て始めたのである。
顔は真っ赤にしており、息はフーフーと乱しているその姿からは相当怒りに満ち溢れている事が分かる。
ルシフフェルにされた事が相当頭に来ているようだ。
「来るなッ! 来たら撃つぞ!」
距離にして僅か2メートル程で、不意をついて銃を奪い返す事は出来るかもしれない。
––––––が、銃が頭に付けられ、引き金が直ぐに引けるよう指を添えている為、下手な動きは出来ない。
「フッ、人間如きが神に立ちはだかるとは」
「あぁ? お前も人間だろうが!」
「お前らみたいな下等生物と一緒にするな」
「ハッ、その偽物の翼なんか着けて神様気取りか! んなもんいるわけねーだろ、バーカッ!」
「……」
「神様なんてな、誰かが勝手に作り出した所詮架空の者なんだよ! そんなのが存在していたらな、今頃世界は平和になっているわボケッ!」
「……」
「……」
「黙ってねーでなんか言ったらどうなんだ! この偽物野郎! ––––––ん?」
ゴゴゴゴゴッと大きな地震のように揺れ始める地盤。
「な、なんだ! 地震か!?」
すると、地面を突き破って大きな鎖が現れ、男性の体に絡み付き高く縛り上げられる。
予測不能な展開に不意を突かれた男性は呆気なく身を拘束され、思わず銃を落としてしまう。
「な、なんだよこれ!?」
ルシフェルは自身に付いている漆黒の翼を使って男性の前まで飛び上がる。
冷酷で怒りに満ち、鋭く紅い眼差しを零距離で見つめ合う。
「お前、神はいないって……そう言ったよな?」
「ヒィィッ!!」
「今から見せてやるよ。神という存在をなぁ……」
脅しのような低い声で告げると、地盤が次々と大きく深く崩れ始める。
範囲はみるみるとルシフェルを中心に広がっていき、ある程度まで広がっていくと地の深くから水しぶきならぬ、マグマしぶきが発生した。
「マ、マグマ!? あつッ!」
マグマに直接触れた訳ではないのに皮膚が焼けるような熱さを感じた男性は、これは夢ではない事を思い知らされ絶望に浸る。
熱から逃げようと足をバタバタとさせるが、鎖で縛られている為逃げる事など不可能。––––––いや、もはや逃げ場はない。
落ちればマグマの海に一直線であるこの状況に、男性の運命は決まったのも同然なのだ。
「お、お願いしますっ! 命だけはっ……命だけはぁッッ!」
いつの間にか鼻水を垂らしながら号泣している男性。
それを見たルシフェルは、無慈悲にも顔色一つ変える事なく続ける。
「これからお前を、ゆっくりとあの海へ降ろしていく」
マグマの方に指を指しながら、これから男性の身に何が起こりうるのかを告げるルシフエル。
「や、やめてくださいッッ!! それだけはッッッ!!」
「今更おせぇんだよ。お前は俺達『神』を侮辱し、何よりも『セラフィー』に手を出した」
「あ、あれ……? そういや、女は––––––」
「……」
「……ハハ、い、いいのか!? お前のせいであの女マグマの被害にあっているもしれないぞ!?」
「うっせぇな、自分の心配でもしてろ」
そういうと、男性を吊るしていた鎖が極ゆっくりとマグマの海に向かって下がっていく。
「やめてくれぇぇぇッッッ!! ––––––そうだ、金だろ⁉︎ いくら欲しいんだ⁉︎」
「……」
「十万か⁉︎ 百万⁉︎ いくらでも金は出すから許してくれェェェェッッッ!!」
「悪いな、俺は一度殺すと決めたら殺す主義なんだ」
下ろされていく鎖がマグマに近づけば近づく程、男性の悲鳴は比例して大きくなっていく。
それでも一切救済の処置を施すこと無く、ルシフェルは男性がマグマに焼き溶かされていく姿を上からゴミを見るような目で見下ろし続ける。
やがて男性は足先から徐々に焼き溶かれ、上半身に突入した時には悲鳴が鳴り止んでいた。
目には流していた涙は残っておるものの、最後は白目になりポカーンと開いた口は塞がらない残酷な姿で、頭を焼き溶かされていった。
––––––。
––––––。
––––––。
「––––––」
「……」
「一体、何が……?」
俺とセラフィーは目の前で仰向けに倒れている男性に目を向ける。
白目を向いたまま泡を吹き、気を失って微動だにしない男性をセラフィーはおどおどしながらも心配そうに見つめる。
「俺の技だ」
「え?」
「––––––『悪夢』。俺と目を見つめ合った者を対象に、一瞬で地獄を擬似体験させる技だ」
「……恐ろしい技ですね。––––––でもまさか、ルシフェルが人間を相手にそこまでするとは思いませんでしたよ」
「色々と腹が立ったのでな」
「そんなに神を侮辱された事が気に食わなかったのですか?」
「まぁ、それもあるが……」
「他にも何か?」
「……別に、何もねぇよ」
何故かそっぽを向いてしまうルシフェル。
セラフィーは一度考えた後自分の中で勝手に答えを結論づけ、その答えを知った途端に頬が薄らと火照り、自然と柔らかい笑顔の表情になってしまう。
その幸せをルシフェルに分け与えるかのように、勢いよく飛びついて抱きしめてきた。
「こ、こらっ、離せ! 恥ずかしいだろ!」
「いやで~す、離しませ~ん」
ギュウッとやや強めに抱きしめてくるセラフィーを表面上は嫌がる素振りを見せるも、体が嬉しがっている事には気づいているルシフェル。
それでも必死に気づいていない自分を演じ続け、顔をひきつけながら嫌そうな雰囲気を醸し出す。
(ほ~らみろ、だから言いたくなかったんだ。こんなに天使とベトベトくっついていたら悪魔の王としての名が廃るだろうに……)
––––––それでも、セラフィーを無事守れた事、こうして一緒にいる時間は嫌いではない事は、何故か素直に認めてしまうルシフェルであった。
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