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3、ギャップ

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「すみません。準備が整いました」

 俺は無表情をすぐ笑顔に戻して言った。背後から零の視線を感じる。お客様を興味深く見ている。そんなお客様を見ると気づかれる。俺はちらっとレイの方見て目で制した。その後宰相の方を見たが気づかれていなかったようだ。
 宰相も貴族だ。一応武術は習っているだろうしそういう噂も多々聞く。気づかれなかっただけレイはすごいという事だ。だからココにも1人できたのだろう。
 ここにある情報屋は王都の中でも1番危険とされる所スラムにある。衛兵さえ迂闊には近づけない。俺はなぜこんな危ない場所で情報屋をやっているかというと貴族とか厄介なものからの依頼を避けるためだ。前は王都の外れでやっていたが貴族の傲慢な態度に嫌気がさした。
 ここなら多少危ないが面倒な依頼は受けなくて済むというくだらない理由でやっている。

「では行くぞ」

 宰相は頷きフードをかぶりなおし扉の方へ向かった。俺は宰相が扉に手をかける前に手をかけ扉を開けた。

「ありがとう」
「いえ、これも仕事のうちですから」

 宰相が完全にでると俺は扉を閉めた。閉める時隙間からレイの悲しそうな顔が見えた。本当は構いたいが構ってあげられないもどかしさを俺は感じながら堪えて閉めた。
 宰相が来た時は雨が降っていたが今はもう上がっていた。所々水溜りがありスラムに似合わず輝いていた。それを俺と宰相は避けて歩いた。俺と宰相の身長差子供と大人位あり歩幅が全く違う為少し小走りになってしまう。魔法を使えばいいのだがもし襲撃があった際どうしても二重に使ってると魔法を展開、暗唱する時間がいつもより掛かってしまう。
 店を出てしばらくすると宰相も気がついてくれたらしく俺に合わせて遅めに歩いてくれた。そういう気遣いができるのが俺は好印象だった。あと前に思った事なのだが公の場での宰相の無表情は違和感が前からあった。何か普通の自然な無表情とは違うような気がした。本職からの意見だ。
 今度機会があったら調べてみようと思う。
 今は依頼の方が重要だ。俺達はスラムをぬけ道に出る。

「宰相様、ローブをかぶっていらっしゃるということはこっそりきているのですよね。道を歩いていたらもしかしたらバレてしまうかもしれません。こちらの森を通って行きましょう。私が先導致します」

 スラムから出ると宰相は普通に道から行こうとしたから俺は内心呆れながらも表の人間だからと声をかけた。裏の人間がそんなことをしようものなら呆れてすぐに見捨てる。
 宰相はローブで顔は見えないが道を歩こうとしていた足をとめ「あぁ、そうだな」と言いながら俺の後ろをついてきた。
 それから俺達は無言のまま少しばかりか行った時森の中でも正門に行く側と裏門に行く側にはっきりと別れる所にたどり着いた。俺は答えは分かっていたが一応聞いてみた。

「宰相様入るのは裏門ですか?」
「あぁ、情報屋裏門から衛兵に手引きしてもらい入る手筈になっている」

 宰相からそれを聞いて面倒くさくなくて助かると密かに思った。たまにこういう依頼者が情報屋に丸投げすることがあり個人的に内心では悪態をついている。
 裏口は茶色の木の扉で見かけよりも頑丈にできている。なぜならこの裏門はスラムは抜けるが比較的近くにあるからだ。その為警備がかなり厳重になっており下手したら正門よりも厳しくなっている。
 こっそり入れないこともないが面倒くさい。本当に手引きしてくれてよかった。先ほどは呆れたが今だけは感謝している。

「情報屋こっちだ」

 後ろにいた宰相にローブを引っ張られ木の後ろへ転がり込んだ。引っ張られてローブが脱げそうになる。
 本当にやめてほしい。

「どうs「しっ裏口に誰かいる。この時間外側には誰もいないはずだが…。」

 指した指先を見ると確かに裏口に人影が見えた。それが衛兵なのかそれとも違うのか暗くてよく見えない。

「【暗視】」

 俺は注意しながら敵に気づかれないように魔力を出し魔法を使った。これはとても高度な技術で俺もかなり修行をして手に入れた技術だ。
 この魔法は暗い所がはっきり見える魔法で今衛兵なのか違うのかはっきり分かった。一見、衛兵の格好をしているがよく見ると所々少し装飾が違う。宰相も周りを普段からよく見ているのか気が付いたようだ。
 人数は今見えているのは4人で見た感じ全員手慣れのようだ。歩き方が素人とは明らかに違う。それに靴の所が少し盛り上がっている。小さい武器を隠している可能性がある。他に隠れている可能性もあるが気配はない。だが俺一人ならまだしも今は依頼人である宰相がいる。他に隠れている可能性を捨てきらづ慎重にいくべきだな。

「【鑑定】」

 今度も同じように気づかれないように魔法を唱える。
 この魔法は人や物をその名の通り鑑定してくれる。一見万能そうだが弱点もある。当たり前だが自分よりスキルレベルが低い人かスキルを持ってない人しか見えない。あと、見えた物しか鑑定できないのだ。少しでも見えれば鑑定できるのだが今みたいな暗闇などは鑑定できない。
 暗視で見た時衛兵の格好をしていたが鑑定では職業に衛兵とは出ずに大盗賊とでた。盗賊は使える魔法によって選べるが大盗賊は悪い事をすると自然的にそうなり1週間戻らない。事故でそうなってしまったりそうならざるおえなかったという例外もあるが大体は気をつけた方が身の為だ。それも衛兵に化けているという事は例外ではなく本当の大盗賊だ。なぜなら衛兵の場合人を殺しても大盗賊にはならない。大盗賊になる条件は人を殺したり盗みやその他余程の悪事を働く事だ。衛兵はそれを利用して悪事を働くものもいる為厳しい管理下にあり1ヶ月に1回総合調査が行われる。それは厳しいものだと聞いている。だからありえない。

「宰相様、鑑定で大盗賊とでました。警戒した方がよろしいでしょう。外側にいて何か扉にしている様子もないので中には用はないようです…という事は用があるのは今外に外出して裏口を使う宰相様という可能性が高くなります。お心当たりはございますか?」

 俺は宰相にはまだ決定ではない為〔可能性〕という言葉を使ったが最後に一応遠回しに俺の予想を伝えておいた。王城の内部に情報を衛兵に化けた大盗賊にもらしたか雇った奴がいる…と。
 先程から宰相は考え込んでいた為、人物に心当たりがあるのではないかと俺は思った。案の定宰相は小さく「やっぱり」と呟いた。冷血といわれているが俺にしてみれば顔にでやすい。初対面の俺でもそうなら普段はもっと出るのかもしれない

「とりあえず中に入りましょう。」
「どうやるのだ。表門は当たり前だが使えない。裏門はあんな状態だ。倒すのか?だが、おそらく手慣れだろう」

 宰相は衛兵に化けた大盗賊を指していった。宰相は心配しているが俺はこのくらいなら余裕だ。宰相は調べてきたのではなかったのだろうか。依頼主である病弱な王子のお使いだけというのが今確信がとれた。この宰相の入れ知恵ではなく王子本人が依頼してきたということだ。
気付かれずに王城に入る方法はいくらでもあるがあの衛兵に化けている大盗賊を捕まえて情報を聞きださなければならない。それに宰相の前でそれをやってしまうと後での説明が面倒くさい。
おそらく先程宰相が頭に浮かべている者がそこら辺の裏ギルドからでも雇っているのだろう。ここら辺の有能な人材が揃っていてなおかつ貴族と交流もある裏ギルドは2つに絞れる。1つ目はリリアルというハニートラップで有名な裏ギルド、これはギルド員のほとんどが女で荒っぽい仕事は好まないからちがうだろう。そうなるともう一つ、金を積めば何でもやる自身の美徳もなく殺すことをよしとするギルドだ。
だが今はそんなことを考える時間じゃない。まずは宰相の安全を確保しなければいけない。

「宰相様はココにいて下さい。私は今から大盗賊を倒してきますので少々お待ち下さい。私の実力も見れて良い機会でしょう。」
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