婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香

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番外編② 兄という名の選択

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――俺は、最初から強かったわけじゃない。

レオンハルト・ヴァルシュタインは、誰もいない執務室で、書類から目を離し、ふとそう思った。



エミリアが泣かなくなったのは、いつだっただろう。

子供の頃、彼女はよく泣いた。

悔しくて、理不尽で、それでも声を上げる術を知らなくて。

「……泣くな」

そう言っていた自分を、今でも覚えている。

正しい言葉じゃなかった。

――泣く権利を、奪っていただけだ。



俺が剣を取ったのは、強くなりたかったからじゃない。

選べる側に立ちたかった。

守るか、見捨てるか。

信じるか、切るか。

その選択肢を、他人に委ねたくなかった。



婚約破棄の報せを受けた日。

「悪役令嬢だと、そう言われています」

部下の言葉を、俺は途中で遮った。

「調べろ」

それだけで、十分だった。

――妹が、罪を犯すはずがない。

それは、盲信じゃない。

理解だ。

彼女が、どれだけ不器用で、どれだけ誠実か。

俺は、知っている。



王太子を断罪したのは、私情ではない。

だが。

妹が利用されたことに、怒りがなかったと言えば、嘘になる。

「感情で動くな」

そう自分に言い聞かせ、感情ごと、剣に叩き込んだ。

――冷静な刃は、よく切れる。



溺愛だと、言われる。

笑われることも、恐れられることもある。

だが。

守ると決めた相手に、中途半端でいる方が、よほど無責任だ。

エミリアは、強い。

だからこそ、放っておけば、一人で立ってしまう。

それが、一番危うい。



俺は、彼女の人生を奪うつもりはない。

選択肢を、奪うつもりもない。

ただ。

「選べる場所」を、常に整えておくだけだ。

彼女が、どこへ行くと決めても。

いつでも戻れる場所が、あるように。



あの日。

謁見の後、彼女が言った。

「もう、大丈夫です」

その言葉を、俺は信じない。

――大丈夫な人間ほど、無理をする。

「だから、俺がいる」

ただ、それだけだ。



夕暮れの庭。

紅茶を飲む彼女の、横顔を見る。

笑っている。

それで、いい。

彼女が笑える世界を、選び続ける。

それが、兄である俺の――

溺愛の理由だ。




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