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第2話:なぜか婚約者扱い
「——やはりな。隠していたか」
王子のその一言で、すべてが決定してしまった気がした。
「違いますってば!!」
私の必死の否定など、誰一人まともに聞いていない。
むしろ周囲はざわめきを強めていく。
「やっぱり関係があったのね……」
「堂々とあんなふうに寄り添って……」
「婚約者かしら……?」
違う違う違う違う。
何その飛躍!?!?
「違いますから! 幼なじみです! ただの!!」
声を張り上げる。
……が。
「ただの、だと?」
王子がゆっくりと口角を上げた。
あ、これダメなやつだ。
「人前であれほど密着しておいて、ただの関係とはな。随分と都合の良い言い訳だ」
いや密着っていうか、これはいつもの距離感で——
「そうだな……」
ぽつりと、隣から声が落ちた。
嫌な予感しかしない。
「確かに、“ただの”ではないな」
ねえちょっと待って。
なんでそこで同意するのアレクシス!?
「アレク!? 何言って——」
抗議しようと顔を向けた、その瞬間。
ぐい、と。
さらに引き寄せられた。
距離、ゼロどころかマイナスなんですけど!?
「ちょ、近いって!!」
「黙ってろ」
耳元で低く囁かれる。
その声が妙に落ち着いていて、逆に怖い。
「……こいつは」
アレクシスが、王子をまっすぐ見据える。
「俺の隣にいる人間だ」
いや、それはさっきも聞いたけど!!
なんでそんな言い方するの!?
「ほう……」
王子の目が、面白そうに細められる。
完全に“そういう関係”だと認識された顔だ。
やめて、その顔やめて。
「つまり認めるのだな?」
「何をですか!?」
思わず叫ぶ私をよそに、王子は勝手に話を進めていく。
「この女が、お前の——」
一拍の間。
周囲の期待が膨れ上がるのが、肌でわかる。
やめて、言わないで、それ違うから!!
「婚約者であると」
——言った。
終わった。
私の人生、終わった。
「違います!!!!!!」
本日二度目の絶叫。
でも遅い。遅すぎる。
ざわめきはもう、確信に変わっていた。
「やっぱり……!」
「隠してたのね……!」
「公爵家同士だもの、あり得るわ……!」
あり得ないですけど!?!?
「違いますってば!! なんでそうなるんですか!!」
「見苦しいぞ」
ぴしゃり、と王子が言い放つ。
「事実を隠そうとするほど、疑いは深まる」
いやだからその“事実”が存在しないんだってば!!
頭を抱えたい衝動に駆られる。
けれど、その余裕すらない。
「さらに言えば——」
王子は、にやりと笑った。
「お前は先ほどの断罪劇を“楽しんでいた”な?」
ぎくり。
それは、事実。
完全に事実。
「つまり、セシリアの悪行を知りながら黙認していた可能性がある」
いやいやいやいや飛躍がすごい!!
「見てただけです!! ほんとに!!」
「共犯者は皆そう言う」
だからそれテンプレすぎるでしょ!!
心の中で全力ツッコミを入れていると、
「……くだらん」
ぽつりと、アレクシスが呟いた。
空気が、すっと冷える。
「こいつは何も知らない」
低い声。
さっきまでとは違う、少しだけ温度のない響き。
「証拠もないまま巻き込むな」
おお、まともなこと言ってる!
今度こそ助かる——
「証拠ならある」
王子が即座に返す。
はやい。
強い。
めんどくさい。
「先ほどの密着ぶり。それ自体が関係性を示している」
いやだからそれ証拠じゃない!!
「それに——」
王子は視線をこちらに向ける。
逃げ場がない。
「婚約関係にあるならば、当然、利害も一致する」
勝手に前提を確定させるな!!
「よって」
びしり、と再び指を突きつけられる。
「お前も、セシリアと同罪とみなす」
……。
…………。
え、ちょっと待って。
なんでそうなるの???
思考が追いつかない。
いや、追いつきたくない。
「本日をもって——」
王子が高らかに宣言しようとした、その瞬間。
「待ちなさい」
凛とした声が、空気を切り裂いた。
ざわめきが止まる。
視線が、一斉にその人物へと向く。
断罪されていたはずの令嬢——
セシリア・フォン・ルーベルトが、ゆっくりと顔を上げていた。
涙の痕が残るその表情は。
先ほどまでとはまるで違っていた。
「その方は、無関係ですわ」
静かで、けれど強い声。
「巻き込むのはおやめください」
え。
ええ???
なんで助けてくれるのこの人!?
完全に予想外の援護に、私は目をぱちぱちさせる。
一方で王子は、不快そうに眉をひそめた。
「まだ言うか、セシリア。往生際が悪い」
「往生際が悪いのはどちらかしら?」
ぴたり、と。
空気が張り詰める。
え、なにこの流れ。
なんか……さっきまでと雰囲気違くない?
「——証拠なら、わたくしも持っておりますわ」
その一言で。
場の空気が、完全に塗り替わった。
そして私はようやく気づく。
これ、ただの断罪劇じゃない。
——逆転劇が、始まる。
……いやその前に。
私、どうなるの???
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