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#17 友への怒り

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「……ただいま」

「あっ、クーちゃんおかえり!」


 サラマンダーの群れを討伐し、その後の後処理を終えたクローフィアは寮に戻ってきた。

 その頃には辺りはすっかり暗くなっており、もう就寝時間といったところだった。


「任務と聞いていましたが、どうでしたか?」

「……任務自体はすぐ終わった。 けど、後処理に時間かかった」

「ちなみにどんな任務だったんですの?」

「……サラマンダーの群れの討伐」

「えっ、サラマンダーって確かすごい強い魔物じゃなかったっけ!? それの群れって……」

「……30匹くらいいた」

「だ、大丈夫だったんですの?」

「……ん、もう1人の特務騎士と協力してすぐ終わらせた」

「30匹ものサラマンダーをすぐに……! やはり、特務騎士というのは規格外の強さを持っているのですね……」

「目標は遠いなぁ……」

「……皆んなならそのうち一体くらいなら倒せるようになる」

「頑張りますわ……!」

「……その後の後処理がとっても疲れた。 一回帰ってきたけど、また戻ってサラマンダーの解体の手伝いしたり、報酬の話とかして報告書書いたりしてたらすっかり夜」

「ご飯とかお風呂はもう済ませたの?」

「……ん、事務所で済ましてきた」

「よーし、じゃあクーちゃんここに寝て?」

「……ん? 分かった」


 アカネはベッドにクローフィアをうつ伏せで寝かせると、クローフィアの背中を指で押してマッサージし始めた。


「……んぅっ、気持ちいい」

「お母さんが疲れてる時とかよくやってあげてたんだー」

「ふふ、私もお手伝いしますね」

「私もやりますわ!」


 フィオラとセリーもクローフィアの足と腕をそれぞれ取ってむにむに揉み始める。


「……極楽。 みんなありがと」


 3人がかりで体を揉み解されるのは非常に気持ち良く、段々とクローフィアの顔は蕩けていった。


「んぅっ…… あっ……」


 そうしていると、クローフィアから気持ちよさそうな声が漏れ始めたのだが、何だかそれが非常に艶っぽく、アカネ達3人の方が何となく変な気分にさせられてしまう。
 

「く、クーちゃん?」

「んぅ……?」

「大丈夫……?」

「気持ちいい…… もっとして……?」

(な、なぜでしょう、凄く良からぬものを見てるような気がしてきちゃいます……)

(クー様なんだか色っぽいですわ……♡)


 思春期真っ只中の少女達にとって、今のクローフィアはただのエロテロリストになっていた。

 しかも、クローフィアの体は少女特有の丁度いい柔らかさがあって、揉んでいる方からしても辞めるに辞めれず、3人とも無言でクローフィアの体を揉んでいっていた。


「………………」

「クーちゃん? あれ、おーい?」

「……すぅ」

「あら、寝ちゃってますわね」


 そんな事を10分ほど続けていると、クローフィアの声が聞こえなくなり、アカネが声をかけてみたところ、すぅすぅと小さく寝息を立てて眠っていた。


「お疲れだったようですね」

「ふふ、可愛いですわ♡」

「私達もそろそろ寝よっか?」

「そうですね」


 気持ちよさそうに眠っているクローフィアを見て、3人は顔を見合わせて微笑むと、クローフィアに布団をかけて寝かせてあげた。

 その後、アカネ達もクローフィアに倣って自分のベッドに入り、眠りにつくのであった。



 *



「……今日の訓練はちょっと趣を変える」


 サラマンダー討伐依頼の日から一夜明け、今は実践訓練の時間となっていた。

 いつも通りAクラスの女子達がクローフィアの元へ集まると、クローフィアは何か考えがあるらしく、みんなに向かってそう言い放った。
 

アカネ「えっと、それはどういう事?」

「……今日は前衛組は魔法の、後衛組は近接の練習をする」

フラン「えぇっ……!? わ、私運動苦手なんだけど……」

「……本職ばりに動けとはもちろん言わない。 ただ、どちらもできるようになった方が絶対にいい。 私も最初は魔法ばかり使ってたけど、3年くらいで今のレベルにまで達した。 だから皆んなもこの学校卒業する頃にはどちらもできるようになって欲しい」

ウル「長い道のりですわね?」

「……それは当然。 強くなるのに近道なんてない。 地道にやる」

レオナ「でもうち、あんまり魔力多く無いっすよ?」

「……魔力は増やせる。 筋トレと同じで、使えば使うほど最大量は少しずつ増えていく。 とりあえず今日は自分の限界を知る為にも、魔力切れギリギリまで使ってもらう。 使ってたらこれ以上はダメって自然と分かるから、そこまで使ってみて?」

フィオラ「分かりました、やってみます」


 前衛組も新魔導学の講義はしっかり受けているので、ファイアボールの魔法くらいならもう魔術式まで覚えて使えるようになっていた。

 本職では無いので威力の調整や無詠唱はまだできないが。

 前衛組が魔法を打ち始めたのを見て、クローフィアは後衛組に向き直った。
 

セリー「私達はどうすれば良いんですの?」

「……まずは武器を決める。 杖でもいいけど剣を練習したければ教える」

ロッティ「あ、でしたら私は槍が使ってみたいですわ」

「……いいよ。 でも、どうして?」

ロッティ「私は触手ちゃんがいますから、至近距離はこの子を振り回しているだけでもかなりの攻撃手段になります。 代わりに、魔法を撃つほど遠くなく、触手ちゃんの攻撃も避けられてしまう距離の敵に届く槍がいいと思いまして」

「……なるほど、よく考えてる。 えらい」


 そう言いながらクローフィアはロッティの頭をなでなでしていった。


ロッティ「ほわぁ……♡ あ、ありがとうございますぅ……♡」


 クローフィアのこのなでなでは、訓練や講義でいい結果を出したり、クローフィアが偉いと思った時にしてもらえるご褒美として、女子達の間で広まっているのだ。

 というのも、前の訓練の時にクローフィアがアカネについなでなでをしたら、他の者達もとても羨ましがって、ならご褒美にしてしまえばいいのではと誰かが言い出した事で皆に定着した。

 クローフィアはこれがご褒美でいいのだろうかと思わないこともないが、皆んなめちゃくちゃ喜んでくれるので、なるべく小さな成長でもこうして褒めてあげるようにしている。


「……セリーとフランはどうする?」

セリー「そうですわね…… 折角なら剣を教えていただきたいですわ!」

フラン「わ、私は杖でいいかな…… 斬るほどの力は無いから、まだ物理で殴った方が良さそう……」

「……ん、分かった。 まずは武器の構えとか握り方教える」


 クローフィアは後衛組の3人にまずは簡単な事から教え、軽く素振りをさせてみた。

 前々から考えていたロッティは、自分でも少し勉強していたようで、かなり動きが良かった。

 セリーも少し覚束なさはあるが、フィオラという1番距離の近い友が、最近剣を使っているのを見ているからか、割と筋は良さそうだった。

 そしてフランは……


「きゃんっ!」

「……フランはちょっと筋トレからかな」


 フランは訓練用のそこまで重くない杖を振ってみたが、杖の勢いに負けて見事に地面に転がってしまっていた。
 

「うう…… センスなくてごめんなさい……」

「……フラン、大丈夫。 新しい事だから出来ないのが当たり前。 今度身体強化の魔法も教えるから、筋トレと並行して頑張ろ?」

「う、うんっ…… 頑張るっ……」

「……フランはいい子」

「えっ……?」

「自信無さそうにはしてるけど、頑張ろうっていう気持ちはこの中で1番伝わってくる。 できなくても絶対に諦めようとしないところは私も見習いたい」

「そ、そんな…… 皆んな凄いから私も頑張らなきゃだし、クーちゃんはこんな鈍臭い私にもすごい丁寧に教えてくれるから、応えたくて……」

「……ん、その言葉はすごく私としては嬉しい。 一緒に頑張ろ、フラン」


 クローフィアはフランに手を貸して立たせ、激励を込めたなでなでをフランにしてあげた。


「ふにゃあ……♡ く、クーちゃん……♡」

「……そしたら、もう少し素振りと、慣れてきたら的に少し打ち込みしてみて? 本気でやると手とか痛めるから軽く形だけで」


 後衛組をある程度見たので、今度は前衛組の方へとやってきた。


「……そっちはどう? もう打てなそう?」

レオナ「うちはもう無理っす~」

フィオラ「私もです……」


 どうやらレオナはファイアボール3発で打ち止め、フィオラは5発くらいだったらしい。


アカネ「もうちょっと……」

ウル「まだいけますわ……」


 残ったアカネとウルは、現在10発目くらいでどちらが多く打てるか競争みたいになっているようだ。

 しかし、それを見たクローフィアは、血相を変えてアカネに駆け寄っていった。


「……アカネっ! だめっ!」

アカネ「あっ!」


 駆け寄ってきたクローフィアに後ろから手を掴まれた事で、アカネが作っていたファイアボールはボシュっと消えてしまった。


「……それ打ってたら魔力無くなってた。 魔力切れは危ない。 最悪の場合、死に至る事もある。 子供でも知ってる常識。 ……私は魔力切れギリギリで辞めてと言ったはず。 分かってなかった訳じゃないよね?」

アカネ「あっ、ご、ごめんなさい……」


 クローフィアは怒りを感じさせる口調でアカネの事を咎めた。

 出会ってから初めて向けられたクローフィアの自分に対する怒りに、アカネはムキになっていた事で上がっていた熱が急激に冷めていくのを感じていた。


「……自分自身の事すら分からないような人は戦場にいても足手纏いにしかならない」

アカネ「……っ。 ……はい」

「……頑張るのと無茶するのは全く違う。 無茶したところで強くなれる保証もない。 ……なにより、すごく肝が冷えた。 ちゃんと自分を大切にして……?」


 そのクローフィアの言葉を聞いて、アカネが俯いていた顔を上げると、クローフィアはすごく心配そうで悲しそうな表情を浮かべてアカネの事を見ていた。

 その表情を見てアカネは心臓が締め付けられるような感覚に襲われてしまう。


アカネ「ほ、本当にごめんなさいっ……!」

「……ん、分かってくれたならいい」

ウル「あの、クー様、私もすみません…… 競争のような雰囲気にしてしまったのは私なので……」

「……ウルは悪くない。 競争するのはむしろいい事だから。 何発くらい打てた?」

ウル「えっと、12発ほど打てました」

「……ん、かなり魔力量ある方だと思う。 それだけあるなら本格的に魔法を組み込んだ戦闘もできるだろうから、また一緒に考えよ?」

ウル「わ、分かりましたわ」

「……そしたら魔法の訓練はここまで。 今後も毎回の訓練の時間に魔法の訓練は続けるからそのつもりでいて? じゃあ、近接の訓練しよう」


 その後も全員訓練をしっかりとこなしていったが、結局最後までクローフィアとアカネがまともに言葉を交わす事は無かった。
 
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