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#18 仲直り

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「………………」

「アカネっち、元気出すっすよー」

「……クーちゃんに怒られた」

「まぁ、落ち込む気持ちは分かります」


 午前中の訓練が終わり、現在は午後の選択講義の時間になっていた。

 アカネは今日のところは選択した講義は無く、自分と同じように講義が無かったレオナとウルと一緒にいた。

 ちなみにクローフィアは一年生の他のクラスに新魔導学を教えに行っており、他のメンバーはそれぞれ別の講義に顔を出しに行っている。


「それに、私にも少し責任はありますから」

「ううん、ウルちゃんは悪くないよ……」

「アカネっち、もう魔力無いって分かってたんすよね?」

「うん…… でも、頑張らなきゃって…… 限界を超えるくらいの事しないと、クーちゃんには追いつけないかなって……」

「うーん、まぁハッキリ言っちゃうと焦りすぎっすよ! アカネっちは!」

「そうですわね。 クーさんは今、私達では想像もつかないくらいの高みにいらっしゃいます。 けれど、クーさんだってそこに至るまですごく努力したんだと思いますわ。 10歳の頃から特務騎士になれるくらいの力があったという事は、その数年前くらいからきっと努力してらっしゃったんじゃないですかね?」

「うん、そうだと思う……」

「そう思うと、この歳でまともな訓練なんて、ちょっと前までした事が無かったうちらが追いつくなんて、かなりの時間がかかるっすね。 そもそも、追いつけるかもわからないっす」

「……私、向いてないのかな。 他の子達みたいな落ち着きもないし、言われた事すら守れない私なんて……」

「……見損ないましたわ、アカネさん」

「え……?」


 ウルのその言葉に、アカネは俯いていた顔を上げると、そこには呆れたような表情を見せるウルの姿があった。
 

「私、勝手ながら貴女を少しライバル視してましたの。 入試の成績だって、女子の中だと私はアカネさんの一個下で、同じ前衛騎士志望。 訓練で模擬戦してもほぼ互角…… そんな貴女が、真っ直ぐにクーさんと並べるように強くなる、と言ってメキメキと力を伸ばしている姿は、私も頑張らなくてはと思わせるのには充分でしたわ。 けれど、貴女は一度失敗したくらいでその夢を諦めてしまいますのね」

「……っ」

「私の夢は実家の辺境伯領の騎士団長になり、国境の街を、私の故郷を、家族を、私の手で守り抜く事ですわ。 私はその夢を実現させる為、今後もクーさんに教わり力をつけていきます。 諦めるのなら早く諦めて別の道を探した方がよろしいのではなくて?」

「アカネっち、ウルっちはこう言ってるっすけどいいんすか? うち的にはアカネっちが凄く頑張ってるの知ってるっすから、そんな簡単に諦めれるのかなーって思っちゃうっすけど」

「……嫌っ。 私、諦めたくないよっ! クーちゃんは、ここで初めてできた大切な友達で、私の憧れで…… 絶対強くなれるって言ってくれたの! そんなクーちゃんの見立てを私自身が覆しちゃうなんてできないっ!」

「……では、やる事は一つなのではありませんこと?」

「うんっ! 私、クーちゃんと話してくる!」


 そう言ってアカネはクローフィアがいるであろう教室へと走っていった。


「ふー、元気出たようで良かったっすねー。 にしても、素直じゃないっすね、ウルっちはー♡」

「……なんのことでしょう?」

「あんな突き放すような事を言わなくたって、心配してるって言えばいいじゃないっすかー?」

「少し腹が立ったのは事実ですわ」

「可愛いじゃないっすかー♡ そんなにアカネっちの事好きなんすね♡」

「べ、別にそんなんじゃありませんわ!」



 *



「はぁっ…… はぁっ…… クーちゃん!」

「……アカネ?」


 ちょうど新魔導学の講義が終わったらしく、教室から出てきたクローフィアに、アカネは駆け寄って声をかけた。


「私っ、クーちゃんに言いたいことがあって……」

「……ここだと人が多い。 場所移そ」

「う、うんっ」


 クローフィアとアカネは人が来ない校舎端の空き教室に入った。


「……アカネ、ごめんなさい」

「えっ……?」


 そして、二人きりになるや否や、アカネはクローフィアから謝罪の言葉を受けた。


「……確かにアカネは失敗したけど、あんなに言うこと無かった。 ……私はどこか自分の理想をアカネに押し付けてたみたい。 アカネの頑張りを評価する事もなく、ただ叱るだけで……」

「そんなっ、クーちゃんは悪くないよっ……! 私が本当にムキになって失敗したのが悪いの…… 本当にごめんなさいっ……!」


 アカネも改めてクローフィアに謝罪をした。


「それに、クーちゃんに凄く怒られたのもショックだったんだけど、それ以上にとっても悲しそうな顔させちゃったのが心苦しくて……」

「……魔力切れによる事故は割とある。 死ぬ事は流石に稀だけど、今後魔力が使えなくなったり、体や脳に障害が残る可能性は少なくない。 ……もし、アカネがそうなったら凄く嫌で、悲しくて、気づけば強い言葉を言ってしまってた……」

「ほ、本当にごめんねっ……! 心配させてっ……!」

「……アカネはこの先どうしたい? 私の事が嫌になったなら、私は……」

「そんな訳ないよっ!」


 アカネはクローフィアに近づき、クローフィアの両手を自分の両手で包み込むようにして握った。


「クーちゃんの事、嫌いになるなんてありえないからっ……! クーちゃんは強くて、優しくて、可愛くて、綺麗で、色んな事教えてくれて、そんなクーちゃんの事、私はすごい好きで…… 本当に私の憧れだよっ! クーちゃんこそ、私のことが嫌になってないなら、これからもまた色んな事教えてもらって、たまには一緒に遊んだりもして…… ずっとずっと、一緒にいたいの……!」


 最後の方は涙を流しながら震える声で、アカネは自分の嘘偽りのない想いをクローフィアにぶつけた。


「……アカネ、ありがとう。 アカネは私の初めてできた友達で、大切な人。 さっきまでアカネに嫌われたんじゃないかってずっと思ってて、すごい喪失感に襲われてた…… アカネが望むなら私はなんだって教えるし、いつまでも一緒にいるよ」

「く、クーちゃんぅ…… ごめんねぇ…… もうあんな事しないからぁ……」

「……ん、反省できて偉い。 私の方こそごめんね。 ……そして、これからもよろしく、アカネ」

「う、うんっ……!」


 アカネは最後は泣きじゃくりながらだが、クローフィアと仲直りをする事ができた。

 そんなアカネをクローフィアは優しくちょっと背伸びしながら抱きしめ、背中と頭を優しく撫でてあげた。

 それからアカネが落ち着くまで5分ほど、クローフィアはそのままアカネの事を撫で続けるのであった。


「……落ち着いた?」

「う、うん…… ありがとね、クーちゃん」

「……どういたしまして。 ……ところで、そこでずっと覗き見してる2人はなにしてるの?」


 クローフィアがそう教室の扉に向かって声をかけると、覗いていた人物が驚いたのか扉がガタガタっと音を立て、それから少ししてウルとレオナの2人が入ってきた。


「たはは…… バレちゃってたんすね」

「えっ、ふ、2人ともいつからそこに?」

「えっと、最初からですわ?」

「そ、そっか…… あの、2人もありがとね! 2人のおかげで私はこうしてクーちゃんと仲直りできたから」

「……そうなの?」

「うん、相談に乗ってくれたの」

「……そう。 それなら私からもありがと」


 そう言ってクローフィアはウルとレオナの頭をなでなでしていった。


「んにゃっ……♡ ま、まぁ、なにはともあれ仲直りできて良かったっすね♡」

「んんっ♡ わ、私は別に、アカネさんが不甲斐ない姿を見せてるのが気に食わなかっただけですから……♡」

「……ん、そしたら私、そろそろ他のクラスにも行かないとだから行くね?」

「あっ、分かった! 頑張ってね、クーちゃん!」

「……ん、また後でたくさん話そ?」

「うんっ!」


 クローフィアは3人に微笑みかけてから教室を後にした。


「いやー、良かったっすねアカネっち! それにあんな大胆な事言うなんてやるじゃないっすか~♡」

「ふえ?」

「アカネさん、そこまでの想いを抱いていたんですね?」

「えっと、なんの事?」

「とぼけないでいいっすよ~♡ クーっちの事、好きって言ってその後ずっと一緒にいたいって言ってたじゃないっすか~♡」

「とても熱烈な愛の告白でしたね。 しっかり抱き合っていましたし……♡」

「えっ、あっ…… いや、違うよっ!? あ、あれは友達としてって事で、そんな愛の告白ってつもりじゃ……!」

「ありゃ、そうなんすか? てっきりアカネっちはクーっちの事、恋愛対象として好きなのかなって思ったっす」

「そ、そ、そんなんじゃないよっ……! クーちゃんは確かにかっこいいし可愛いけど、同じ女の子だし……」

「別に同性同士の恋愛も禁止されている訳ではありませんわよ? ……ですが、クーさんはどう思っているんでしょう? アカネさんの事は大切な人とも、いつまでも一緒にいたいとも言ってましたけど」

「うぅ…… そんなこと言われたら、なんか意識しちゃうよぉ……」

「お? これは脈ありっすかね♡?」

「か、からかわないでレオナちゃんっ! と、とにかく私はさっきの事は友達として言っただけだからっ! はい、この話はおしまい! 2人とも、相談乗ってくれてありがと!」


 そんな風に捲し立てると、アカネは顔を真っ赤にしたままピューっと教室を出ていってしまった。


「ちょっとからかいすぎちゃったっすね♡ でも、アカネっちの気持ちもちょっと分かるっす」

「えっ、レオナさんもクーさんの事が……?」

「あぁいや、うちもクーっちの事は好きっすけど、多分アカネっちほどじゃないっすよ? でも、クーっちってすごい魅力的じゃないっすか? 可愛くて綺麗だし、強いし教えるのも上手で、何より時折見せる笑顔とか、頭撫でられた時とかすごいドキッとさせられないっすか?」

「あぁー…… まぁ、分からなくもないです。 私はクーさんが訓練してる時の真剣でキリッとしたお顔が好きですけどね」

「ウルっちって見た目によらず結構脳筋というか、訓練好きっすよね」

「褒め言葉として受け取っておきます。 私がもっと強くなりたいのは事実ですので」

「うちも負けてらんないっすね~! ウルっちも待ってるっすよ! うちがもっと双剣上手く使えるようになったら華麗に勝ってみせるっす!」

「ふふっ、楽しみにしていますわ」


 それぞれの想いを胸に今日も学校での1日は過ぎていくのだった。
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