さようならリリア~名無しの銅級冒険者は失踪した悲運の侯爵令嬢を追う。

一ノ瀬 薫

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第2話 フィール侯爵

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 うんざりするほどデカい屋敷で、俺みたいな平民は正直気後れする。
 留置場の方がまだ親しみが湧くというものだ。
 俺は深く深呼吸をして、門にいる衛兵に名を告げて紹介状を見せた。
 そこで待て、と言われてその衛兵は屋敷に向かい、もう一人の衛兵に冷たく見守られていた。
 こんなしょぼくれた男を見る視線としては間違ってはいない。
 屋敷から戻ってきた衛兵は、入れと俺に告げた。
 俺は一人寂しく屋敷に向かい、そこにいる衛兵にドアを開けてもらって中に入った。

 そこには初老の表情は穏やかだが隙のない執事がいた。
「ご案内いたします」
 俺は後について歩いて行った。
 正面の階段を上り、廊下を歩いた突き当りに来ると、ドアを開けてここでお待ちください、と通された。
 ここはどうやら応接室のようだ。と言っても俺がいつも飯を食う食堂くらいある。もちろん部屋の様子は全く違うが。
 俺は所在なく、ドアのあたりに立っているしかなかった。
 法廷で刑を言い渡される前の罪人はきっとこんな感じだろう。

 向かって左手のドアからレイモンドとそう変わらない年齢と思しき三十後半くらいの銀髪の紳士が現れた。服装は整ってはいたが、ラフなものだった。
「フィールだ。よく来てくれた」
「ご依頼ありがとうございます」
 俺は頭を下げた。
 そこに座ってくれ、とソファを勧められて座った。
 正面にフィール侯爵は腰を下ろし、俺を見た。

 なるほどこれが面接か、と俺はフィール侯爵の威圧に耐えた。
 跳ね返してもいいが、それは色々と問題を起こしかねないので吸収しておいた。
「悪かった。腕は保証すると言われたのだが」
「いいえ。銅級クラスをよこされたのでは不安でしょうから」
 俺がそういうとフィール侯爵は、ドアの方に向かって入れと言った。
 メイドがお茶と菓子を持ってやってきて置くと頭を下げて出て行った。

 フィール侯爵は一息入れてくれと前に置かれた紅茶を勧めると、俺に訊ねた。
「君はレイモンドの隠し玉というわけか。それとも何かわけがあって銅級にとどまっているのか」
「面倒ごとは苦手なので、避けているとこんなものです」
「では、今回の依頼は面倒ではないと?」
 とんでもないというように俺は首を振った。

「レイモンドさんにはいつもお世話になっているので」
「断れないわけがある、というわけか」
 食えない貴族だ。
 しかし、帝国の将軍を束ねる軍務卿らしい。
 並みの連中では束になっても相手は難しいだろう。
 それくらいの魔力を感じた。
「早速だが、依頼の詳細を話しておこう。当り前のことだが、これから話すことは口外厳禁だ」
 俺はわかりました、と答えた。 
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