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第41話 束の間の休息
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俺はアイリスに、明日帝国に戻ることになったと告げた。
「どういうことなの。それって」
アイリスはがっかりしたように肩を落とした。
「じゃあ、これでお別れになるのね」
俺はポケットから先日マヨラムで買ったブローチを出して、アイリスに渡した。
アイリスは渡された包みを開き、ブローチを見ると嬉しそうにドレスにつけて見せた。
「ありがとう、大事にする」
「帝国にくればいい。生まれた国だろう。それに君には待つ女なんて似合わない」
俺のその言葉にアイリスはそうねえ、と小首をかしげた。
「向こうに行ったら奥さんがいたりして」
「俺は独り者だ。でも良かった。結婚していたら君を口説けないしな」
アイリスは照れて俺の腕を思い切り叩いた。
「本当に口がうまいわね」
俺は叩かれた腕をさすりながら言った。
「それはこっちのセリフだ。でも、君に騙されるならいいか」
別れることになったとしても、俺はいい女の方が良い。
「酔ってしまう前に言っておく。私はあなたが好きだわ」
アイリスは深い緑色の瞳で見つめ、俺にそう言った。
翌朝、アイリスは帝国行きの馬車に乗る俺を見送ってくれた。
「私以外、誰もいないの」
「今朝帰るのを知らせたのは、君だけだからね」
「全く最後まで私を喜ばせて、いい気なもんだわ。帝国の男ってみんなそうなの」
「ライバルを増やす気は無いから、違うと言っておく」
アイリスは背伸びをして俺にキスをした。
「ライバルたちによろしく言っておいてね」
俺はアイリスを抱き寄せた。
三日後、俺は帝都に着くとその足で侯爵家に向かった。
「ありがとう」
フィール侯爵はそう言って手を差し出した。
俺は驚きながら握り返したが、貴族が平民に握手を求めることはない。
座ってくれと言われてソファに腰を下ろすと、フィール侯爵に俺は例の書面と預かったブローチを返した。
「お願いがあるのですが」
「なんだ、報酬のことか」
「いいえ、あの指輪を記念に頂けませんか」
侯爵は意外な様子で、あんなもので良ければ構わないと答えた。
「リリアは今、どうしている」
俺はそれは訊かない訳はないなと思ったが、突っ込まれることを承知で適当に答えた。
「伝えたあと、いなくなりました。あえて探しませんでした」
「そうか」
意外にも侯爵は俺を追求することなくそう一言だけ呟いただけだった。
「ダイン公爵とのやり取りは報告書にある通りです。その書面が効いたのでしょう。リリア様とも関りは断つと確約してもらえました」
「そのことは別のルートから報告を受けた。よくやってくれた」
俺は言うべきかどうか迷ったが、言うことにした。
「リリア様はいつか帝国に戻られると思います」
侯爵はそれを聞くと、微かに口元で笑みを浮かべて言った。
「そんな日が来ると良いな」
俺は間違っていなかったことに安堵したが、訊ねてみた。
「どうして私にあんな伝言をしたのですか」
「リリアを帝国の道具にしたくなかったからだ。もし私と敵対する派閥の手に落ちればどう利用されるかわからない。この書面にしてもそう言う連中を黙らせるためのブラフみたいなものだ」
フィール侯爵は微かに笑みを浮かべると、例の書面を俺の目の前で破った。
そして、王国を望むように窓の外に目を向けた。
いつの日かリリアが侯爵家を訪れる日が来たら、姿が違っていてもフィール侯爵にはわかるだろう。
その人の右手に嵌められたあの指輪に気が付かなくても。
「どういうことなの。それって」
アイリスはがっかりしたように肩を落とした。
「じゃあ、これでお別れになるのね」
俺はポケットから先日マヨラムで買ったブローチを出して、アイリスに渡した。
アイリスは渡された包みを開き、ブローチを見ると嬉しそうにドレスにつけて見せた。
「ありがとう、大事にする」
「帝国にくればいい。生まれた国だろう。それに君には待つ女なんて似合わない」
俺のその言葉にアイリスはそうねえ、と小首をかしげた。
「向こうに行ったら奥さんがいたりして」
「俺は独り者だ。でも良かった。結婚していたら君を口説けないしな」
アイリスは照れて俺の腕を思い切り叩いた。
「本当に口がうまいわね」
俺は叩かれた腕をさすりながら言った。
「それはこっちのセリフだ。でも、君に騙されるならいいか」
別れることになったとしても、俺はいい女の方が良い。
「酔ってしまう前に言っておく。私はあなたが好きだわ」
アイリスは深い緑色の瞳で見つめ、俺にそう言った。
翌朝、アイリスは帝国行きの馬車に乗る俺を見送ってくれた。
「私以外、誰もいないの」
「今朝帰るのを知らせたのは、君だけだからね」
「全く最後まで私を喜ばせて、いい気なもんだわ。帝国の男ってみんなそうなの」
「ライバルを増やす気は無いから、違うと言っておく」
アイリスは背伸びをして俺にキスをした。
「ライバルたちによろしく言っておいてね」
俺はアイリスを抱き寄せた。
三日後、俺は帝都に着くとその足で侯爵家に向かった。
「ありがとう」
フィール侯爵はそう言って手を差し出した。
俺は驚きながら握り返したが、貴族が平民に握手を求めることはない。
座ってくれと言われてソファに腰を下ろすと、フィール侯爵に俺は例の書面と預かったブローチを返した。
「お願いがあるのですが」
「なんだ、報酬のことか」
「いいえ、あの指輪を記念に頂けませんか」
侯爵は意外な様子で、あんなもので良ければ構わないと答えた。
「リリアは今、どうしている」
俺はそれは訊かない訳はないなと思ったが、突っ込まれることを承知で適当に答えた。
「伝えたあと、いなくなりました。あえて探しませんでした」
「そうか」
意外にも侯爵は俺を追求することなくそう一言だけ呟いただけだった。
「ダイン公爵とのやり取りは報告書にある通りです。その書面が効いたのでしょう。リリア様とも関りは断つと確約してもらえました」
「そのことは別のルートから報告を受けた。よくやってくれた」
俺は言うべきかどうか迷ったが、言うことにした。
「リリア様はいつか帝国に戻られると思います」
侯爵はそれを聞くと、微かに口元で笑みを浮かべて言った。
「そんな日が来ると良いな」
俺は間違っていなかったことに安堵したが、訊ねてみた。
「どうして私にあんな伝言をしたのですか」
「リリアを帝国の道具にしたくなかったからだ。もし私と敵対する派閥の手に落ちればどう利用されるかわからない。この書面にしてもそう言う連中を黙らせるためのブラフみたいなものだ」
フィール侯爵は微かに笑みを浮かべると、例の書面を俺の目の前で破った。
そして、王国を望むように窓の外に目を向けた。
いつの日かリリアが侯爵家を訪れる日が来たら、姿が違っていてもフィール侯爵にはわかるだろう。
その人の右手に嵌められたあの指輪に気が付かなくても。
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