吸血公ヴェルド侯爵の憂鬱~魔王の生贄となった病弱王子は、魔獣たちを従えて無双する

一ノ瀬 薫

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第28話 三国会談

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 城の中にある会議室は緊張感に包まれていた。
 侯爵からの通知によって、王国議会議長リルケと共和国外務大臣バイロンが両国の全権大使として招かれていたのである。
 リルケとバイロンは両国の外交交渉の場で何度か顔を合わせていた。二人とも口には出さないが、まさか自分が侯爵の城を訪れる日が来るとは、と思っていた。

 出された王国産の紅茶を飲みながら、リルケはバイロンに訊ねた。
「お答えできる範囲でお聞かせ願いたいのですが、バイロン殿は大統領閣下から何か特別なご指示はありましたか」
 バイロンは隠す様子もなく、リルケに答えた。
「共和国では緊急の外交的対応には大統領命令が可能です。大統領閣下からは侯爵様の意向に同意せよと指示を受けました。そして魔王領の外交に我らが異論を挟む資格は無いと厳命されました」
「そうでしょうな、王国も同様です。国王と宰相と私で委員会を開いて対応を協議しました。魔王領の外交的決定には同意するということで、議会でも全会一致で委員会の意見に賛成という結果でした」
「なるほど」
 手続きこそ違うが、これは大陸の人類の総意のようなものだな、と二人は悟った。
 そして同時に、魔王領から何かとんでもないことが要求されないことだけを祈っていた。

 侯爵が入室すると、二人はは飛び跳ねるように起立し、深く頭を下げた。
 ヴァンは二人に告げた。
「リルケ殿、バイロン殿、この度は多忙な中、遠路わざわざお越し頂き感謝する。両名とも初めてだったな、ヴァン・ヴェルド侯爵だ、よろしく頼む」
 どうぞ、気楽にしてくれ、とヴァンは自ら座り、着座を促した。
「それでは失礼いたします」
 リルケとバイロンは腰を下ろし、改めてヴァンを見た。
 二人はその若々しい美貌の青年姿のヴァンを見ると、一瞬意識を失ったようになった。ハッと同時に我に返った二人は互いに顔を見合わせた。

「どうしたかな」
「いいえ」
「ああ、この姿か。いつまでも若造のような姿らしいな。私には自分の姿はわからないので想像なのだがな。はっはっ」
 そうヴァンは言って笑った。
 リルケとバイロンは笑っていいものかどうかと複雑な表情を浮かべた。
「国王陛下も大統領閣下も息災とのことで喜ばしいことだ。さて、本題にさっそく入るが、貴殿らには今回の件の報告と共に意見を聞きたいと思っている」
 ヴァンの言葉に二人は承知いたしましたと答えたが、想定外の申し出に二人は少し動揺した。
 ヴァンはその気配を感じたが、それには構わず話を続けた。

「それと言うのも、先刻報告したようにエレン王国の難民を保護したのだが、この一行を追ってゲイル帝国兵が魔獣領海内に侵入し、砲撃を行った。もちろん、こちらは領海を侵していることに対して警告は行っている」
 ヴァンは何かないか、とリルケとバイロンを見た。
 では、とリルケは二人を代表するように訊ねた。
「その帝国兵に対して閣下はどのように対応をされたのでしょうか」
「情報を聞き出すのに三名ほどは生かして連行したが、あとはクラーケンとシャークたちに処分は任せた。おそらく魚の餌にでもなっているだろう。一人も生かして返すなと命じたのでな」
「な、なるほど、それは致し方ないかと、無用な情報が漏れてはいけませんからな」  
 そうリルケは答え、バイロンも頷いて同意したが、二人は額の汗を拭った。 
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