吸血公ヴェルド侯爵の憂鬱~魔王の生贄となった病弱王子は、魔獣たちを従えて無双する

一ノ瀬 薫

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第52話 王の盾

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 翌日は、朝から件の兵器の管理と運用に関する王国の見解を、ハリスが説明することになった。
「例の兵器の名称を〈王の盾〉と名付けました。説明では〈盾〉と申し上げます」
 うむ、とヴェルド侯爵は頷いた。
「盾の目的は暫定的にゴート王国及びラナ共和国の防衛としました。ここで意見が分かれたのは、魔王領を含め、大陸防衛とするかという点です。閣下のご意見をお聞かせ願いたいのですが」
 ヴェルド侯爵はそう聞かれて苦笑した。
「実験とはいえ、もう帝国からの防衛で使ってしまったではないか」
「それはそうですが、一部の官僚から魔王領の防衛に盾が必要という解釈になると、魔王陛下に不敬になるのではないかという意見が出まして」

「なるほど。官僚らしい発想だ。しかし一方、魔王領と王国、共和国は夫々に条約を締結している。ここで魔王領を外したとあると、外から見れば何か不穏な感じを与えるだろう。ここは外に明らかする機会があった時のことを考えて〈大陸防衛〉としておいた方が無難だろう。後は条約の有無を問わず大陸内の使用は禁じると明記すべきだ。私としては、将来はそれを強化し、王国、共和国、魔王領で大陸同盟を締結したいと考えている」
「承知しました。では、その件については官僚らに検討するよう命じます。次に使用についてですが、盾の使用の決定は王国宰相の許可を要し、魔王領、ラナ共和国に報告を行うとしました」
「そこはそれでいいだろう。開発当事者は王国だ」

「報告についてはあえて使用の前後は記さないこととしました」
「王国が全責任を負うのであれば使用後に、負いたくなければ事前に報告ということか。まあ、目的が大陸防衛であって王国防衛ではないからな」
「その通りです」
「それは良いが、共和国が攻撃を受けた時にはどうするのだ」
「それはこれから申し上げるつもりでしたが、改めて共和国とは安全保障について協議を行い、王国が共和国に対して盾を供与するとしています。その際には王国軍が派遣されて共和国軍と協力して使用することになります」
「実際にはそうなってみないとわからないからな、そこは両国でよく話あってもらえばよい」

「ご理解頂き、ありがとうございます。最後は管理なのですが、ここはどうしても閣下のご意見を頂きたいところでした。盾の存在については公表しておりますので、内容はともかく情報は大陸外にも知られてしまいます。それ故、盾の所在は機密事項として、国王、宰相、軍務卿と盾の運搬に関わる一部の軍関係者のみとしました。管理場所については、王都近郊にある軍の訓練場の地下に格納庫を設け、そこで管理するということになりました」
 それを聞くとヴェルド侯爵はフフッと笑った。
「機密は漏れるのが前提と考えよ。その格納庫には偽物を置いて、本物は別に管理するとよい」
 ハリスはおおっと声を漏らした。
「では、どこに本物を隠せばよろしいでしょう。私には全く見当が付きません。ある程度の広さがないと難しく、改めて作るとなると目立ちます」
「それは愚策だな。すでに存在していてそこにあるとは思われない所が良い」
「そんな場所が王国内にあるでしょうか」
「私はあると思うぞ」
 ヴェルド侯爵はハリスにその場所を告げた。
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