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第85話 王宮広場の激闘
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ヴァンは朝食を終えて、部屋に戻った。
身支度を整えてヴァンが王宮広場に行くと、魔獣たちはもちろんサレジアの騎士団員や国軍の幹部は、既に周囲の席に着いていた。
ヴァンはユリウスと少し高い位置に作られた観戦席に座った。
硬い表情のユリウスにヴァンは話しかけた。
「エルフの実力者の実力を拝見するのが楽しみだ」
「私はアンドレが無事に試合を終えてくれることだけを祈っております」
「大丈夫だ、きっといい試合になる」
励ますようにヴァンはユリウスにそう言った。
「これより、サレジア騎士団団長アンドレ・クラウスと魔王領魔獣部隊隊長ザードの試合を開始する。両名とも準備はよろしいか」
サレジア総将軍ドラグルは、左右を見て確認すると叫んだ。
「始め!」
掛け声とともにアンドレは、ザードに向かって颯のごとく突っ込んだ。
アンドレの突き出した剣先はあっという間にザードを捕らえた、と見えたが、そこにザードの姿はなかった
「身体強化を使ったか。エルフはやはり魔術を使うのだな」
その言葉に、ユリウスはハッとした顔でヴァンを見たが、ヴァンは戦う二人を見つめていた。
アンドレはすぐに背に剣を背負い、ザードの背後からの攻撃を受け止めると、素早く後ろに飛び退った。
二人は間合いを変えず、円を描くように回り始めた。
その回転は徐々に早まり、二人の姿が肉眼ではわからなくなった時、火花が散り、アンドレは受け身をとって退いた。
そして体勢を整えると、再びアンドレはザードに向かって突進した。
先ほどよりはるかに早く、弾丸の如く一瞬でザードに激突したかのように見えた。が、ザードの剣だけがそこに転がっていた。
振り返ったアンドレの真上からザードが舞い降り、気配を感じたアンドレは頭上で剣をまわしてこれを防いだ。
その剣の柄を蹴り着地をするや否や瞬時にアンドレの足元に潜り込んだザードは、拳で彼の顎を殴り上げた。
そしてそのまま跳ね上がり、まだ宙にあるアンドレに回し蹴りをお見舞いした。
これを背に受けたアンドレの体は地に叩きつけられ、見守るサレジアの幹部の前に滑って行った。
着地したザードは素早く落ちていた剣を拾い上げ、アンドレの攻撃に備えた。
「そこまで!」
アンドレはようやく膝を付いて顔を上げ、まだやれるというようにドラグルを見たが、ほとんど焦点が定まらないアンドレの目を見て、ドラグルは首を振った。
「勝者、魔王領魔獣部隊隊長ザード」
それを聞くとアンドレはそのまま倒れ、気を失った。
「あれほどの攻撃を受けながら、なおも戦おうとした気合、見事だ。エルフの戦士の意地、ヴァン・ヴェルドが確かに見届けたぞ」
立ち上がったヴァンは、アンドレの健闘を讃えて大声でそう告げて拍手をした。
それまで水を打ったように静まり返っていた広場は、ヴァンのその言葉で目が覚めたように大きな拍手と喝采であふれた。
ザードは横たわるアンドレに一礼し、ヴァンの下に来て告げた。
「閣下、申し訳ありません。一撃ではアンドレ殿を倒しきれませんでした」
これを聞くとヴァンは破顔一笑し、彼の肩に手を置いた。
「いや、よくやった。ザード、十二分な働きだ。帰ったらいいヤツを一振りやろう。それはもう使い物にはならないからな」
かろうじて剣の形を保っているだけの得物を見て、ヴァンはそう言った。
身支度を整えてヴァンが王宮広場に行くと、魔獣たちはもちろんサレジアの騎士団員や国軍の幹部は、既に周囲の席に着いていた。
ヴァンはユリウスと少し高い位置に作られた観戦席に座った。
硬い表情のユリウスにヴァンは話しかけた。
「エルフの実力者の実力を拝見するのが楽しみだ」
「私はアンドレが無事に試合を終えてくれることだけを祈っております」
「大丈夫だ、きっといい試合になる」
励ますようにヴァンはユリウスにそう言った。
「これより、サレジア騎士団団長アンドレ・クラウスと魔王領魔獣部隊隊長ザードの試合を開始する。両名とも準備はよろしいか」
サレジア総将軍ドラグルは、左右を見て確認すると叫んだ。
「始め!」
掛け声とともにアンドレは、ザードに向かって颯のごとく突っ込んだ。
アンドレの突き出した剣先はあっという間にザードを捕らえた、と見えたが、そこにザードの姿はなかった
「身体強化を使ったか。エルフはやはり魔術を使うのだな」
その言葉に、ユリウスはハッとした顔でヴァンを見たが、ヴァンは戦う二人を見つめていた。
アンドレはすぐに背に剣を背負い、ザードの背後からの攻撃を受け止めると、素早く後ろに飛び退った。
二人は間合いを変えず、円を描くように回り始めた。
その回転は徐々に早まり、二人の姿が肉眼ではわからなくなった時、火花が散り、アンドレは受け身をとって退いた。
そして体勢を整えると、再びアンドレはザードに向かって突進した。
先ほどよりはるかに早く、弾丸の如く一瞬でザードに激突したかのように見えた。が、ザードの剣だけがそこに転がっていた。
振り返ったアンドレの真上からザードが舞い降り、気配を感じたアンドレは頭上で剣をまわしてこれを防いだ。
その剣の柄を蹴り着地をするや否や瞬時にアンドレの足元に潜り込んだザードは、拳で彼の顎を殴り上げた。
そしてそのまま跳ね上がり、まだ宙にあるアンドレに回し蹴りをお見舞いした。
これを背に受けたアンドレの体は地に叩きつけられ、見守るサレジアの幹部の前に滑って行った。
着地したザードは素早く落ちていた剣を拾い上げ、アンドレの攻撃に備えた。
「そこまで!」
アンドレはようやく膝を付いて顔を上げ、まだやれるというようにドラグルを見たが、ほとんど焦点が定まらないアンドレの目を見て、ドラグルは首を振った。
「勝者、魔王領魔獣部隊隊長ザード」
それを聞くとアンドレはそのまま倒れ、気を失った。
「あれほどの攻撃を受けながら、なおも戦おうとした気合、見事だ。エルフの戦士の意地、ヴァン・ヴェルドが確かに見届けたぞ」
立ち上がったヴァンは、アンドレの健闘を讃えて大声でそう告げて拍手をした。
それまで水を打ったように静まり返っていた広場は、ヴァンのその言葉で目が覚めたように大きな拍手と喝采であふれた。
ザードは横たわるアンドレに一礼し、ヴァンの下に来て告げた。
「閣下、申し訳ありません。一撃ではアンドレ殿を倒しきれませんでした」
これを聞くとヴァンは破顔一笑し、彼の肩に手を置いた。
「いや、よくやった。ザード、十二分な働きだ。帰ったらいいヤツを一振りやろう。それはもう使い物にはならないからな」
かろうじて剣の形を保っているだけの得物を見て、ヴァンはそう言った。
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