吸血公ヴェルド侯爵の憂鬱~魔王の生贄となった病弱王子は、魔獣たちを従えて無双する

一ノ瀬 薫

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第90話 見惚れた侯爵

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 帰る日の朝、ヴァンはユリウスの母テレジアに会った。
「大君の重責を果たしながら英明なサレジア王を育て上げた功は、サレジアの国母と称えられるべきものだ。カテリーナもさぞや誇りに思うだろう。二人で語り合える日が来ると良いな」
 そう声を掛けられたテレジアは、涙をぬぐいながらも笑顔で応えた。
「過分なお言葉を頂き、恐縮いたします。閣下のおかげで私の胸を覆っていた暗雲も晴れました。このご恩は生涯忘れることはありません。ありがとうございました」
 そう言った慎ましく可憐なテレジアの様子に、ヴァンはしばし見惚れた。

「もしよければ、そのうち我が魔王領に遊びにでも来られるとよい。何もないところだが、歓迎する。」
 そう告げられたテレジアは、ハッとしたようにヴァンを見て、わずかに頬を紅潮させた。
「私のような者でよろしければ、喜んで」
「では、いずれ正式に魔王領から招待する旨の書状を送ることにしよう。こういっては何だが、ユリウスとマルケスにはだいぶいいように使われたからな。そなたを招待できるとすれば、私への褒美としてこれ以上のものはないだろう」
 では、また会える日を楽しみしている、と言い残して去っていくヴァンを、テレジアは高鳴る胸を押さえながら見送った。

 サレジア国の一同に見送られ帰途に就いたヴァン一行は、役目を終えた気楽さもあるのか、向かう時よりのんびりとした行程で帝国までの道を進んだ。
 魔獣たちの間では、ヴァンが普段に増して機嫌が良いことが話題になっていた。
 きっと魔獣領に久しぶりに帰れるからだろうと彼らは語っていたが、そればかりではないことは、ヴァンのみぞ知ることだった。
 帝国に到着したヴァンは迎賓館に入り、旅の疲れを癒すと、翌日、皇帝アリと会談を行った。

 ヴァンはアリに、サレジアでの一部始終を語った。
 アリは自分も一行に加わっているかのような気持ちで話を聞き、一喜一憂し、話を聞き終わると名残惜しそうだった。
「閣下に赴いて頂かねば、これほどの結果はとても望めなかったでしょう。その上、サレジアに隠されていた兵器を発見されるとは、まったく神の如き業。件の兵器については、閣下のご指示通りサレジア王と話し合い、可能な限りサレジアの国益を損なわないようにいたします。今、私が思いつくのは、兵器に関わる技術ついては両国が共有する防衛戦略上の機密として扱い、エネルギーインフラの研究には帝国が経済援助を行うというようなものでどうかと」
 そう語ったアリの言葉を聞くと、ヴァンはようやく肩の荷を下ろしたように、椅子に身を任せた。

「その辺はユリウスとうまいことやってくれ。私は良い関係になれると思う。それに両国で相互に人材の派遣も行えば、色々と理解も進むだろう。エルフの基礎研究のレベルは高い。帝国は経済的な効率化が進んでいる。協力すれば互いに足りないものを補い合えるはずだ。後は母と叔母を早く会わせてあげることだ、今回の件では二人とも気苦労が絶えなかったからな」
と、カテリーナとテレジアを慮った。
 これを聞くとアリは、必ず近いうちに機会を設けるよう努めますと約束し、ヴァンに深く感謝した。
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