吸血公ヴェルド侯爵の憂鬱~魔王の生贄となった病弱王子は、魔獣たちを従えて無双する

一ノ瀬 薫

文字の大きさ
2 / 92

第2話 ワース村と諸国

しおりを挟む
 ワース村の歴史は古い。
 ゴート王国に存在するこの村は、王国建国当時、すでに存在していた。
 辺境と言ってよい地域だったが、村は王国の五分の一の広さを誇っていた。
 何故そんな広さなのかと言えば、村の西側は魔王領である魔獣の森と言われる危険地帯であり、その境界を覆っていただからだった。
 簡単に言えば、ワース村は王国にとって、魔獣を王国に入れないための砦のような地域なのである。
 王国が建てた村の西端の丘に鎮座する侯爵の城は、魔獣を防御する拠点と考えられていた。
 その城にある侯爵の私室の西側の窓からは、広大なで鬱蒼とした魔獣の森を眺めることができる。
 そして晴れた日には、その向こうに広がる海がうっすらと見えた。

 王国のあるキュラ大陸の西側の約三分の一は、魔獣領で東側には北にゴート王国があり、南にラナ共和国がある。
 ラナ共和国側の西側は侯爵領ワース村と接しており、過去に戦争があったが、今は平和だった。
 国境守備の兵はいるものの、買い物などの用事がある時は、兵士たちは国境を越えてワース村にやってくる。
 それというのも、共和国側の町が、守備兵の駐屯地から遠いからである。

 共和国は歴史的な経緯もあり、侯爵領に最大限の敬意を払っていたが、招かれない限り訪問する首脳はいなかった。
 しかし、王国同様、魔獣を遠ざけてくれる存在として重要な存在だった。
 そのため、毎年、ラナ共和国ではゴート王国を通じて侯爵に対してある申し入れをしている。
 それは対魔獣に関する保障金に関してだった。

 共和国にしてみれば、無償で魔獣から守ってもらっているのは問題ではないかという議論が、毎年起こるからだった。
 これに関しては、同様のことが毎年王国でも起こっていた。
 ワース村は王国領ではあるが、ヴェルド侯爵領は王国の他の貴族の領地と扱いが違っていたからだった。
 これはある出来事で、魔王領と王国間の条約で定められていたからである。
 なので共和国同様、王国も侯爵に申し入れを行っていた。

 侯爵にとってこの共和国の保障金と王国の申し入れは、冬を知らせる風物詩だった。
 しかし侯爵はいずれの国にも無用と返答していた。
 そうしたものを受け入れれば、義務が生じることにもなり、そうしたことは侯爵には面倒なものでしかなかったからである。
 とはいっても申し入れがあることで、侯爵領の地位と両国との関係の確認にはなるので、無用なものではなかった。
 万が一、両国が争うことになった時の自領がそれに巻き込まれないためである。

 ワース村の村長は、これらのやり取りをジュールから聞いて知っていたので、侯爵が王国や共和国から何も受け取らないことを尊敬していた。
 村民も侯爵の無欲さを貴族の鏡だと言って、自分たちの領主を誇りに思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

処理中です...