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第36話 パース子爵
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スバル男爵ロアンは、俺に命じられた通り、例の子爵令嬢と適当な距離で付き合っていた。
どこかで集まりがあれば踊って世間話をするという程度らしいが、ロアンは風采も良く羽振りがいいので、蛇口を閉められた件の子爵令嬢は近づいて来るに決まっている。
普通なら上位貴族を狙うのだろうが、結局は金が物をいう国だから、賭博場と娼館のオーナーであるロアンは、将来有望と言って良い。
俺からすればロアンは獲物を逃がさないための疑似餌のようなものである。
グリーンを呼んで、俺はパース子爵に面会を申し込めと言った。
王命書記官のグリーンの申し込みを子爵が断ることはない。
「前に取引って言っていましたが、どうするつもりです」
気になるのかグリーンは俺に訊ねた。
「親に罪はないから予め教えておく。余計な邪魔をさせたくないのでな」
「言うことを聞きますかね」
「聞くしかないだろう。聞かなければ爵位の剥奪どころか家族が皆殺しに遭ってもおかしくない。そこをこっちは穏便に済ましてやろうと言うんだ」
穏便にですかとグリーンは笑いながら、では、行ってきますと出て行った。
その日の夜、スバル男爵家でパーティーを開かせ、ドリーであるパース子爵の令嬢を招待させた。もちろん他の貴族やその令嬢、夫人たちもである。
俺はレッドに例の小間物屋と女たらしを連れて来ることと、組の連中にパース子爵邸を取り囲むように指示を出した。
俺は子爵邸の前に行き、門番に名乗った。
するとすんなり門を開けて俺を中に入れた。やはり、グリーンを使いに出したのが良かったのだろう。
門番に続いて扉の前に行くとドアが開き、執事らしき男が招き入れた。
「こちらへどうぞ」
階段を上がり、少し歩くと応接室のような部屋に通された俺はそこにあったソファに腰を下ろした。
間もなく姿を現したのは、ごく真面目そうな大人しい感じの紳士だった。
俺の不遜な態度にも何も言わないのが何よりの証拠だ。
もう殺してしまったが、スバルの親父に爪の垢でも煎じて飲ませないほど上品だ。
「お待たせした。チャールズ・パースだ」
「俺はマサトだ。内密な話があって来た」
俺の目の前に座ったパース子爵は、全く何も知らないらしく、俺を訝しそうに見ていた。
「なんだろうか。何か我が家の使用人が貴殿に無礼でも働いたか」
「いや、使用人は何もしていない。片棒を担いだ奴はいるが、大したことはしていない。それに多分、言うことを聞くしかなかったのだろう」
今頃、きっと屋敷を取り囲んだ組の連中に縛り上げられているだろうが。
「では、どういう用件だろうか」
見当がつかないというように、パースは顎に手をやった。
「子爵、あんたはドリーという名前に聞き覚えはあるか」
「ドリー?聞いたことは無いな。その人物が我が家の者と何か関係があるのか」
「関係では無く、ドリーがあんたの家の者なのさ」
「いったいそのドリーと名乗っていた者は何をしたのだ」
「貴族の令嬢を部下に拐させて、それをネタに恐喝した。一人や二人ではないから、それを商売にしたといっていい」
「それは確かな話なのだろうな」
パース子爵の表情が変わった。
それは俺を敵と見做すか否かの境目にある目つきだった。
どこかで集まりがあれば踊って世間話をするという程度らしいが、ロアンは風采も良く羽振りがいいので、蛇口を閉められた件の子爵令嬢は近づいて来るに決まっている。
普通なら上位貴族を狙うのだろうが、結局は金が物をいう国だから、賭博場と娼館のオーナーであるロアンは、将来有望と言って良い。
俺からすればロアンは獲物を逃がさないための疑似餌のようなものである。
グリーンを呼んで、俺はパース子爵に面会を申し込めと言った。
王命書記官のグリーンの申し込みを子爵が断ることはない。
「前に取引って言っていましたが、どうするつもりです」
気になるのかグリーンは俺に訊ねた。
「親に罪はないから予め教えておく。余計な邪魔をさせたくないのでな」
「言うことを聞きますかね」
「聞くしかないだろう。聞かなければ爵位の剥奪どころか家族が皆殺しに遭ってもおかしくない。そこをこっちは穏便に済ましてやろうと言うんだ」
穏便にですかとグリーンは笑いながら、では、行ってきますと出て行った。
その日の夜、スバル男爵家でパーティーを開かせ、ドリーであるパース子爵の令嬢を招待させた。もちろん他の貴族やその令嬢、夫人たちもである。
俺はレッドに例の小間物屋と女たらしを連れて来ることと、組の連中にパース子爵邸を取り囲むように指示を出した。
俺は子爵邸の前に行き、門番に名乗った。
するとすんなり門を開けて俺を中に入れた。やはり、グリーンを使いに出したのが良かったのだろう。
門番に続いて扉の前に行くとドアが開き、執事らしき男が招き入れた。
「こちらへどうぞ」
階段を上がり、少し歩くと応接室のような部屋に通された俺はそこにあったソファに腰を下ろした。
間もなく姿を現したのは、ごく真面目そうな大人しい感じの紳士だった。
俺の不遜な態度にも何も言わないのが何よりの証拠だ。
もう殺してしまったが、スバルの親父に爪の垢でも煎じて飲ませないほど上品だ。
「お待たせした。チャールズ・パースだ」
「俺はマサトだ。内密な話があって来た」
俺の目の前に座ったパース子爵は、全く何も知らないらしく、俺を訝しそうに見ていた。
「なんだろうか。何か我が家の使用人が貴殿に無礼でも働いたか」
「いや、使用人は何もしていない。片棒を担いだ奴はいるが、大したことはしていない。それに多分、言うことを聞くしかなかったのだろう」
今頃、きっと屋敷を取り囲んだ組の連中に縛り上げられているだろうが。
「では、どういう用件だろうか」
見当がつかないというように、パースは顎に手をやった。
「子爵、あんたはドリーという名前に聞き覚えはあるか」
「ドリー?聞いたことは無いな。その人物が我が家の者と何か関係があるのか」
「関係では無く、ドリーがあんたの家の者なのさ」
「いったいそのドリーと名乗っていた者は何をしたのだ」
「貴族の令嬢を部下に拐させて、それをネタに恐喝した。一人や二人ではないから、それを商売にしたといっていい」
「それは確かな話なのだろうな」
パース子爵の表情が変わった。
それは俺を敵と見做すか否かの境目にある目つきだった。
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